穏やかは程々に
⭐︎⭐︎⭐︎ 【絶命刀】 オール・フォルタム
〜小舟を漕ぎ出してから十分〜
「意外と特に何かがあるわけでもないんだねー。この分なら余裕じゃね?」
代わり映えのしない景色もたまにはいい。潮風が体を通り過ぎてくる感覚が妙に馴染めないけど。まぁ、死霊ってそもそも感覚がほぼない様なもんだから大丈夫だけどね。
〜小舟を漕ぎ出してから三十分〜
「あー……こんな穏やか景色、できればメリー君にも見せてあげたかったな……」
小舟による海渡りは順調だ。何の障壁も妨害もなく、ただのんびりと船を漕ぐ。こんなに青い光景を見るのはそう多くはないだろう。目に焼き付けておかなくては。
〜小舟を漕ぎ出してから一時間〜
「うーん……ちょっと眠くなってきた……」
ふぁあ。少しばかり欠伸が出る。もうこんなに長く青色眺めることなんてないんじゃないのかな?一向に何か別のものが出てくるわけでもないし……これは困った。そろそろ飽きてきてしまったかも。
〜小舟を漕ぎ出してから二時間〜
「…………………」
やばい。想像以上にやばいかも。いや、かもじゃない。絶対にやばい。何分たった?時間感覚狂うんだけど?飽きたとかの次元じゃないぞ。何もないってこんなに?
「や、ばし……」
〜小舟を漕ぎ出してから……〜
「ーーーーーー」
私、今、どんな状況?なんか、すげー、顔、してそう……
「おぉう……」
あ、ばばば……これもう、無理……。持久力、じゃない……!これ、ただの拷問……!!
「う、ぅ……いつまでこんなことさせるつもりじゃー……アトラクション、違う…!試練、でもない!!」
拷問を!アトラクションと!!言うなーーーー!!!!!
「……?」
心の中でゼーゼー言いながら似非ゆるキャラ詐欺師の罵詈雑言を吐いていたら、何か様子が変わったことを肌が感じた。
「ん……?いやでも、相変わらず青色一色だ、し……!?」
それに気づいた瞬間、私は漕いでいた小舟のオールを投げ捨て跳躍。即座に下にショットガンを浴びせる。
『ーー!?』
「不意打ちとは卑怯じゃないか?!散々精神削っておいてこれか!?もうちょっと労われよ!限度があるだろう、限度が!!いくら試練だの何だの言っても、もう少し安全マージンというものをなぁあああ!!?」
下から襲い掛かろうとしていたサメさんを銃殺しつつどっかでワインでも傾けてるだろう象さんを罵っていたら、その言葉がトリガーかなんなのか、途中から更に大量のサメさんが一斉に襲いかかってきた。
「こぉれはまずい……!?海上戦は足場がないと哺乳類は勝てないの!!死霊だから私は哺乳類じゃないですねどうでもいいわ!!」
小舟は小さい。それに、耐久性にリソースを振ったとしても、所詮は小舟。こんなにサメさんに集られては速攻で崩れてしまう儚い足場なのだ。つまり……
「水中戦に体を変えろと!そうおっしゃるんですね!?これ私じゃなかったらどう対応してるのさ!!持久戦要素は、どこ行ったぁああ!!」
これならさっきの方がまだマシだよ!!
⬜︎
「あー……やっぱこっちの方がまだマシかも」
サメさんを相手にしながらも、私の視線は彼らには向けられていない。なぜかって?もっと大事なものが向こうに、それもそう遠くないところに存在するからさ。
「ふ、ふふふ……!!バカめ、大方水中での不自由な行動による、見えるのに届かないゴール、というのを演出したかったんだろうが……私には関係ないね!!ゴールまで一直線に行けるなら、この状況ならギミックなんてないも同然だ!」
ふははは!策士策に溺れるとはこのことだね!
遠くに見えるのは小さな島……いや、遠くから見てるからそう見えるだけだね。とにかく、重要なのは島という明確なゴールが見えているということで、普通ならそれもサメたちと水中というディスアドバンテージで到達できないかもしれないそれも、私ならば関係ない。
「私の能力を把握してないから何だよっばーーーーーーーーーか!!!」
現在の私は人魚スタイルである。ぶち壊された小舟はもう私の体とは判定されていないから、小舟を吸収して私のHPを回復させることはできないけれど、だとしても私はHPなんかすぐ回復できる。なんせ『HP自動回復』持ちだしね。
まぁそういうことで私の調子は最高潮……ではないけれど、とにかくここから調子が悪いとかで島まで辿り着けないなんてことはないのだ。
「水中戦だって何のそのー!」
シュバババっとサメさんを切り刻んで、銃でサメの鼻面……ロレンチーニ器官?だったか何だか知らないけれど、とにかく重要だろうその器官を削り飛ばす。
結構距離も近づいてきた。緑豊かな島だねー。恐らくジャングルとかじゃないのかな?ふっふっふー。どれくらいかは知らないけれど、これでステージ進行間違いなしだなー。この程度で終わるとは思ってないけれど、裏技っぽそうだし結構進むんじゃない?
「ふんふふーん」
サメさんは脅威に足り得ない。だからこうして鼻歌歌いながら(なお水中)進行していた……のだけれども。
「いつまで経っても着かない……!?」
島は着実に近づいている。さっきよりずっと鮮明に島の形が把握できるし、何だか生物らしきものがいるのも見える。でも、なんだか違和感を感じる。気持ち悪いと言うか……なんだこれ?
とにかく、近づいているはずなのにつけない……。どうして何だろう。やっぱりこうなることもあのゆるキャラ(笑)は織り込んでいたのだろうか。それはとても腹立たしい。あんな顔してすごい頭いいじゃんか……。
苛立っているからだろうか?さっきから目に映るモノ全てが気味悪くて仕方がない。鳥肌が立っている気分だ。たってないけど。海水も、私を襲ってくるサメ共も、もうそこまで遠くはないはずの島も、空気も、空も、何もかも……!!
「……うぐっ、足を、掴む、なっ!噛むなこらっ!がぶっ!?ごぼごぼごぼ……?!!」
やばい。サメさんに足引っ張られて海中の深い方のところまで引っ張られている。さっきまでは時々海上に顔出して呼吸(一応しなくても大丈夫)をしていたけれど、それももうこんな深いところまで来てしまったらできるはずもない。
「〜〜〜〜!!」
別にしなくても大丈夫なのに、何故だか呼吸ができないと焦りが生じてしまう。これはまずい動きだ。非常に良くない。
「っ、ぐぶっ、がぶーー」
目に水が入る。生理的なものだとわかっているのに目を閉じることを止められない。そして、目を閉じるなんて隙を作るだけの行動をすれば、当然相手に攻撃される。
「っちぃ!」
口から泡が出る。別にまずくもなんともないけど、なんか焦りが生じてしまう。
「ー……ーー」
こいつら!どこまで連れてくつもりだよ!?光がどんどん遠くなっていく。体が……重い。水圧がどんどん強まって……!?これ、身動きが、できな、い!
「…………」
あ、これ無理だ。ここまでの深度に踏み込めば、圧が強すぎて私もう動けないな……。結局島にもつけずしまい。というか、そもそも島がゴール地点だったかなんて証明できないし。やっぱりただのフェイクなのかなぁ……。
ーー……ー
う、ん……?おっかしいな。こんな深海に光なんて差し込むはずないのに……あれか?天から召使いが来たとか?あれ?私がいくなら地獄かな?ここ深海だし。
はー……というかこのサメさんたちもよーやるなー。こんな深海にまで私を咥えたまんま泳げるなんて。というか、普通なら私みたいな人間(ぽい奴)はこの領域ならもう爆散しているんだけどなぁ……それくらいサメさん方わかってないのかな?
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うん!?なんかめっちゃ耳元で囁かれた気がする!?なんですかこんな深海で!?いくら私がとても心の広い聖人の如き慈悲を持っていたとしても流石にここまでの幻覚が聞こえるとなると末期と判断するしかーー
ていうかさっきからチラチラ光がめんどいんじゃ!!周りがこんなに暗いからすごーく目にいたい!水が入るから大体閉じたままだけどそれでも辛い!
「……?」
あれ?光が眩しくなーー
『ハロー』
ダァァアアア!?目の前に文字がーーー?!
「ごぷっ、ちょ、み、水がぼがぼがぼーー!?」
◆ 海底都市アトラクション・セカンド
「今度はなんですかもう……」
目の前に広がるのは全部青一色の街、そして空。太陽も月も何もないただの青の空。
そして……
「えーと……これも試練の一環、なんですよね?どう見ても魚の住人、さん?」
何かがおかしい。絶対に何かがおかしい。えぇ、とても綺麗な街並みですよ。青だけの色っていうのも違和感があるけど、建造物から察せられるお店とかの配置とか、ある一点を除けば街並みはそこそこにいいと言える。えぇ、ある一点を除いて。
「あの、なんで魚のコスチュームしてるんですか?ゆるキャラ象……いや、魚さん?」
なんでこのゆるキャラ(笑)は今度は魚に変化しているんだ……?あれか?リージョンフォームとかそういうアレか?いや違うだろそもそもの形が全然合ってないわどこの地域探してもこんな違い出る同種はおらんわ。
『第一試練完遂完了。おめでとう、地獄のブートキャンプ第一試練は合格である。RE値、進行度、共に良好である。故に、ここに第二試練開始を告げる。来訪者はこれよりこの海底都市アトラクションを探索し、都市内に一つのみ存在している白鯨の鍵を入手し、対応する海底都市中央の象の像に存在する鍵穴から次の場所へと移動されたし。制限時間は無しである。それでは、健闘を祈る』
そしてこの都市において違和感の象徴たるゆるキャラ象は言いたいことだけメモに書いてそれを私が確認したのちさっさと消え去った。なんなんあいつ……象の像とか駄洒落じゃねーんだから……。いや、別に笑ってないからね?
「いや……しかし困ったな……さっきまでサメさんと戦闘してただけで急に別のことをやれと言われても……というかブートキャンプ3段階もあったんだね……本当に地獄じゃん、1段階だけでももうへとへとなんだけど」
周りを見渡せば本当に静かな街並みだ。ファンタジーにありがちな中世の街並みである。木製の家もレンガの家とかもあってとてもいいと思う。
「全部青色じゃなかったらだけど」
というか中世の建物って大体何製の家が多いんだろう……やばい。授業聞いてなかったしそもそももう私大学生だし……いや、まだ学生だし知ってるべきなのか。ぐぬぬ……
まぁ仕方ない。知らないことは置いておいて。
「白鯨の鍵、ねー……一丁前に厨二病みたいなネーミングセンスをしやがって……なんで白鯨なのかしらねー……」
青色ばかりで気が滅入りそうになる。こう考えると日本の灰色の街並みはあれで配慮されてたんだなぁ……まぁ面白味も消えてたんだけど。
「おっと話題修正っと」
とにかく、鍵を探せというのならばやらないことには始まらない。まだまだ象さんとかが言ってたことや、街に関して突っ込みたいことはあるけど最重要なのはやはり鍵のありかだ。
「普通に考えればこれは鍵があるだろう場所を考えるところから始めるべきなんだろうけど……持久力を試されてるんだよね?知能指数とかじゃなくて。じゃあそれで正しいのかなあ」
あの鬼畜似非ゆるキャラのことだ。この広い都市の中でもなんの変哲もない一軒家に理由もなくポツンとその鍵が置かれている可能性だって十分にある。ただ、あるとするならば……。
「今は第二段階。第一段階とはまた別の意味での持久力とかが試されてる気がするのよねー……ちょっとさっきまでの場合の持久力を考えてみようか」
まず、さっきまでは大まかにサメさんとの戦闘と海をひたすら移動することだけの段階だった。これは個人的にはどの持久力なのか少し自信がある。
「恐らく最初の段階は単純作業の持続という意味での持久力。ケアレスミスを如何に少なくできるかとか、パフォーマンスの維持を見ていたと思うのよね」
島自体は途中から見えていた。だから、終わりの見えないものを続けるときの忍耐とかそういう意味での持久力ではないはずだ。近い気がするけど、今回のは恐らく今行った方のが正しい気がする。というよりは……。
「第二段階のこれがその忍耐力を試してる気がするんだよね……」
さっきまでのが比較的物理的持久力というならば、今度は精神的持久力というわけだ。これならわかりやすい。なんせこの広い都市でたった一つの鍵を見つけるという課題。普通に考えていつ終わりが来るかなんて予想できるはずもない。
そうして見えない終わりに対する不安を煽って、どれだけ課題を続けられるか。そういうところを今回は見られているのではないだろうか。
「というか……今更だけど、試されてるってなんだか癪ね。後でぶん殴ってみようかしら」
ま、見られてる側面はとにかく理解した。そして課題がそれならこの鋼のメンタルを持つ私に敗北はなーーし!どこからでもかかってこいやーー!
「というわけでまずは重要そうな施設からだね。探索は。中央の像に対応している鍵なんて大抵なんかしら重要アイテムに決まってる。そんなところに仕込むくらいなんだから、普通は都市でも一番大事な施設に隠してたりするんじゃなーい?」
クックック。持久力なんて見なくとも、そもそも頭脳プレイですぐに終わってちゃうかもねぇ!!
⬜︎
「ない……ない……なぜー」
この海底都市は中央の館を中心として、放射状に家や商店が広がっている。外壁などの装飾の具合から言って、中心に近い建物ほど豪華で、重要な施設である可能性が高い。
白鯨の鍵という、まぁ入手目標とされているそれは一つしかない。そんな重要アイテムは絶対特殊な場所にあるという目論見で中心の施設から優先して探して行ったのだけれど……
「見つからない……草の根かき分けても見つけてやる……ぐぬぬ」
まず、中心の館は青一色なのを除けば生活感のある如何にも富豪のお屋敷といったものだ。私のファンタジー知識によれば、こういう時は領主の館というのが当てはまりそうだね。
海上での戦闘と同じく、やっぱり違和感を覚えたのが気がかりだったけど、わからないものを追求しても何も出ないからとりあえず放っておいた。
とにかく、絶対何かありそうだと思って館の扉を開いた。
「……」
開かなかったので蹴破って中に入った。
中に入ってわかったのは、人が全くいないにしては非常に綺麗な内装だった。誰もいないから順調に探索できたのだけれど、成果はゼロ。部屋は特に違和感はなかったけれど、強いて言えば書斎などの重要なはずの部屋がなかったことが気に掛かったね。
まぁ何も成果はなかったから、とにかく次々と他の施設をあたった。
成果ゼロだった。
「うぐぐががが……私の思考を理解した上で嘲笑われてる気がする……」
中心の重要そうな施設は当たった。けれど、だからといってこれでもう探す価値はなくなるということはない。私が探したのはあくまで表面的なもの。それに私は探し物あんま得意じゃないし。
「とりあえずここら辺の施設は保留だね。何か手掛かりが見つかるまでは来ないでも大丈夫かな。となると……次はどこを探さないとかな」
やっぱり与えられた情報をもっと吟味しないといけないんだろうか。といっても、言われているのは白鯨の鍵を探し出せということだけ。
「白鯨、ねー……ちゃんと考えないといけないというなら、そこじゃないかな……」
正直、あのゆるキャラが書いた指示の中には少し気になることもある。RE値とか何って言いたいし。けど、それはきっと今からやることには関係ないのだろう。少なくとも、鍵探しには関わらないはずだ。
「だから考えるべきは鍵に関する情報……白鯨が示す意味と、鍵穴……中央の像とやらをみたりしてみるかな。あぁ、海底都市っていうのも意味はあるのかも。鯨だし」
仕方ない。まずは都市の中央に向かうとして、その間になんか白鯨に関して地球で記述とかなかったか思い出すとしよう。
「足元コンクリート?みたいなのは歩きやすいからいいよね……現代日本が如何に人間の足に優しい道路してたかわかるわ」
白鯨……まぁ、まずわかるのは鯨ってこと。鯨は哺乳類の中では最大の大きさなんだっけ?あれ、別だったかな?まぁいいや。とにかく、海底都市なんて海に関連してる都市なら、鯨とだって多少は関連ありそうでしょ。
そうだね……白い、っていうのも個人的には気になる。日本では白っていうのは幸運の象徴とかにされたりもある。白蛇とかそうじゃなかった?え?違う?私の知識はそんなにガバガバか……。
「バカじゃないもーん……あ、待って。白鯨の鍵っていうなら白鯨が持ってんじゃゃない?あーでも、それなら精神的な忍耐とか関係ない……わけでもないか。進捗遅くして白鯨自体見つけられないようにすればいいんだし……うーん」
というか、今回のって忍耐が必要なんじゃないの?知識が必要だなんて聞いてないですよ???いや、忍耐が必要とも聞いてないんですけど。
「あーー!!不親切ーー!!ゆるキャラならお口もゆるくしておいてよーー!!ヒントくらいスルッと出してよねーー!??」
吠えても虚しいだけ……なんだろう、心の中のゆるキャラがさらに嘲笑ってる気がする。腹立ったので脳内私がエルボーの刑に処しておいた。くっ、起き上がるな!!ニヤニヤするな!魚だと目が死んでて怖い!!
「あ、着いた。これが像……本当に象じゃん。絶対ゆるキャラになってると思ったのに」
最低だ。ゆるキャラとして、人々の期待(一人分)を裏切るなんてあり得ない。幻滅しました。だから鍵ちょうだい。
ふむふむ……どうやら随分と精巧な像らしい。透き通るような青い色をしているのにギラギラしていると言う感想を持つあたり、ちょっと自分の感性を疑いそうになるが、私は絶対の存在なので疑わない。私はアブソリュートなのだ。
この像の何処かに鍵があるらしいけど……ここまであからさまだと逆に疑わしいな??
「これ見よがしに象の鼻を持ち上げて、しかもよく見ると鍵穴っぽい。え、これ隠す気ないよね?セキュリティとかどうなってるの?像に鍵穴設置したのって、普通ばれちゃいけないからとかそういう理由じゃないの?堂々すぎて逆にびっくりなんだけど」
あー……うん。でもよくわかった。鍵穴がこんな形してるってことは、そういうことでしょう。
「これ、鍵はオブジェに偽装されてるな?」




