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煉獄

◆ 万消火山






その日は、雨だった。最近、雨が多いこの季節の例に漏れず、火山でもザザ降りとまではいかずとも。それなりの勢いで火山地帯全体を灰色が覆っている。



雨音が響く中で、生命がほとんど消え去ったこの地はかすかな息の跡すら残さない。まだ残っているはずの足跡さえ雨により消えて仕舞えば、基本的に生命と出会うことの少ないこの地はまさに、死んでいると言っても過言ではなくなる。



『………行く、か』



その日は、雨だった。高い湿度で辺りはむせ返り、けれどそんな日なのにここには堂々と歩く生命がいる。



「うふっふー、さっさとボコってこんなくっだらない神とやらのゲーム、終わらせてあげるわ⭐︎」



『………そっすね』



『……ヴェイガー。私が言ったことは覚えている?』



『うむ……』



まだ午前中の火山地帯に、爛々と輝く目がある。各々違う感情による眼差しの光であれど、目的は同じだ。



目指すは火口。朱雀の拠点であり……箱庭の進む先を決める重要な一面である戦いは、()()()()暗い雰囲気で始まった。







⭐︎⭐︎⭐︎ 【絶命刀】 オール・フォルタム






『技能『護照・虚伝鯱』:幻を見せる海のギャングが与えた加護の証。幻覚と隠匿への耐性を獲得する。また、INT、STRへの微補正をかける。これはただの受け皿として与えられたもの。そのために嘘の鯱はこの加護を与え、ぞじてきっとその本懐を為すだろう。彼が見た未来の景色は遠くない』



『技能『空回る戯言』:幻を見せる海のギャングが持つ力の一端。本家と比べれば非常に小さな効力ではあるが、嘘を創る。から回るのは、きっと本当に作るべき嘘が、この程度の出力の技能では作れないからであろう』




……誰目線の解説?これ。



率直に思ったのはまずそれだ。けど、元々私の特典である『解析』と、特に『知識』に関してはそこまで詳しいことは分かってないし、そういうものだと思うことにした。思考停止は良くないけど、今はそれより先に考えることがある。



「何かもらっちゃったんだけどよかったのかな……よくわからないけど、これ貰ったからシャチさん消えちゃったんじゃないの?貰えるなら貰いたいけど……流石に命削ってまでくださいなんていうつもりないし……」



多少なりとも好感情をシャチさんに抱いていただけに、ちょっと悶々とする。そりゃあ、やってることは完全にボスだけど、なんか言葉の節々から悪い人には見えないオーラが見え隠れするんだよね……面倒見いいとことか。



「うん、でももういなくなっちゃったしね。ここで時間を使うわけにもいかない。形見だと思って大事に使おう」



今の所戦闘にどう織り交ぜればいいかは全く想像ついていないけど。あれか?影分身の術とかができるのか?でも出力低いって言ってたし……うーん。



「まっ、いっか!」



考えても出ないものは出ないのさー♩まぁ、現実逃避ともいうけど、いつまでもそればっかり見すぎてると心が疲弊しちゃうからね。なるたけモチベもパフォーマンスも最高潮にしておきたいのは別に問題ではないはず。



「んー、でも、どっちにしてもまだ別のロケーションは見つけてないんだよね……それっぽい場所ないかな……ないか」



現実逃避をするのはいいけど、どちらにしても今は探索をすること以外にやることはない。『気配感知』は当然の如く無反応。レーダーみたいなイメージをしてもらえればわかるはずだけど、そのレーダーになーんにも映らないんだもん。



和の趣がある通路っていうのはこっちの箱庭では見たことがない。だから、新鮮ということもあって色々な場所を探るのにもモチベーションは高いし、今の所そこは心配していない。



「けど、いくら探してもイベントが起きる場所が条件を満たさないと、とかじゃ絶対見つからないからね……」



私の懸念は、何か条件を達成しないといけないのか、という点だ。いや、シャチさんは確かに特に条件とかは満たしていないけど、あの人はなんか例外みたいだし、とにかく推論を立てるにしても情報が足りない。



「だから結局探索をしようという結論に戻る……と。無限地獄かな?箱庭って元から地獄か」



ギシギシと通路に音を立ててあてもなくうろうろと城内を探索する。正直に言って、最低限の情報もなくただ放浪するだけってのは非常に好ましくない状況だ。



碌に日本城内の構造について詳しいわけでもないし、本当に困った。私がわかるのはこの城内がやけに綺麗ということだけだよ。まぁ、仮にも王城なんだから綺麗で当然なんだけどさ。まぁ往生ってのは……推、測?



「あ、れ?綺麗……だよね。うん、綺麗だ。それがどうしたんだろう?なんだ、何が……」



心に何かがつっかかる。何だろう?何を見落としている?感覚からして、少なくともさっきのこと。さっき?視界になにかが入った?いや、ずっと通路だった、はず。確信はできない。くっ、失敗したか!?



ギィと通路が音を鳴らす。足を止めずに考えを巡らせる。綺麗な床はーーあ。



「そういうことか!!」



私のバカっ!こんな単純なことにも気づけないなんて!!いや、思考誘導でもされていた?わからないけど、この考えが正しいかまずは確認しなくちゃ。



「綺麗な床……軋む床。軋むのは、劣化の証拠。なら、何で床は綺麗なまま?」



これは早速、『護照』を使う時が来たかもしれないね?あ、御加護はパッシブ系か。しまったしまった……はぁ、幻覚を、看破するっ!!



「ーーっおぉー。できたできた。なるほど、幻覚がなされていたのはそういうためね?」



目を凝らすかの様に力を込めれば、先程までは何の違和感もなく受け入れていた綺麗な通路が、一転して退廃したお城の通路に様変わりしていた。そして、今私が歩いている通路の突き当たりに存在するものも。



「なーるほど。さっきから風が妙に吹いているなーって思ったら、そういうこと。劣化した隠し扉なんかじゃぁ、そりゃあ簡単に見つけられちゃうか。いや、これは私も『護照』がなかったらどうしようもなかったかもしれない」



シャチさんがバランスがーとか言ってた気がするけど、多分それはこういうことなんだろうな……もしかしたら解くのにもギミックがあったのかもしれない。だとしたらごめん。こんなシナリオにそこまで手を凝ったのが悪いんです。



「灰色の隠し扉……一見すると壁にしか見えないけど、実は扉だよ、と。……なんか、やけに近代的なのは何で?時代違くない?エレベーターなんであんの?」



何はともあれギミックを解除できてご満悦だった私の顔は、けれど次の瞬間には微妙そうな顔へとさらに変貌する。理由は簡単。壁に同化しているのはそうなのだが、日本城でエレベーターとかいうミスマッチ確定演出のやつが目の前に完璧なミスマッチ状態でご降臨なされたからだ。んどういうことォ?



「ふぅ……たまに自分で言ってて意味わからないことってあるよね」



うん、つまり私は変じゃない。人間、誰しもこういう道を辿るのさ……あ、私死霊か。だめじゃん、この時点で変じゃん私。



「あー……でも、エレベーターだし、やっぱり上か下に着くことになるんだろうなぁ……状況が把握できない中でいきなり扉を開いて奇襲攻撃とか受けたらポックリ死んじゃうよ?私。即死無効持ってるけどあれ詐欺だし」



即死無効は詐欺。これはっきり広めてかないとだから。運営……運営?まぁともかく、スキル管理所みたいな所で働いている人の耳に届くまで私はお気持ち表明をやめない。



「うん、まだまだお気持ち表明したいし、ここで日和っている場合じゃないよねー。では、いざ出陣、と」



出陣とか言いながらエレベーターのボタンをポチっと押す死霊。これ戦国時代の将軍とかが同じ行動してたらシュールで面白いと思うんだ。あ、はい、関係ない話っすね、すんません。



「ふーん。中は綺麗なんかー。うわっ、予想通りボタン一個しかない。えぇ……なに、666階って。厨二病患者かよ。あ、ダメだ。そんなこと言ったら一瞬で消し炭にされそう。この先は絶対シャチさんと同格のやつがいるからなー」



意外と掃除がされているエレベーター内部に入り、唯一存在する666階のボタンを押す。閉めるボタンとかもなかったけど、ボタンを押したら豪速で扉が閉まったので意味がないんだろうなと察した。安全基準無視してますよねこれ?



「おーはやーい」



もはや落下するのと大差ない速度でエレベーターが降りていく。安全基準法はどこだ。というか、666階って上じゃないんだ……じゃあ私がさっきまでいたお城何階なの?天界とか?あ、今の上手くない?「かい」をかけてみました。



「くだらないことってやっぱり時間を無駄にするんだなって」



そんないらないことを考えずに、もっと必要なこと考えてたら、もう開くだろう扉を前にもう少し緊張せずにいられたのかな、とちょっと項垂れる。そんな暇ないけどさ。



「扉はァ、蹴破るものォ!!」



エレベーター制作者さん、ごめんなさい。貴方が作ったエレベーターはもう使用不可になりました。でも、元々あんなやべー速度のエレベーター、使うやつなんていないと思います。



「!!」



扉が開く前に外に飛び出し、ショットガンを突き出した私の前にはーー



『?』



「(・・?)」



夜のオアシスで水浴びする象さんと、夜を照らすキャンプファイヤーがありました。





何なのこれぇ……??






⬜︎







『ーー』



「あ、はい、ありがとうございます」



エレベーターを蹴破った先、666階は地獄の数字の階のはずなのに、そこにはキャンプ地がありました。バカなの?おい製作者。お前はバカなのか??地獄の意味知ってる?不毛の大地とそこかしこで燃えてる炎がノルマなんだよ?



「……あ、うっす。じゃあ、お水も貰いますね」



こんなことを考えられているのはなぜか?どうしてそんな余裕があるのか?見ればわかる。



「マシュマロ美味しいなー……」



『ーー(照れ)』



なんかさっきまでオアシスで水浴びしてたゾウさんがマシュマロとか水とか恵んでくれてるからである。



「どうして私はキャンプファイヤーしながらマシュマロ食べて美味しいお水を飲んでるんだ……??」



やばい、なんか今の快楽に負けそう。シャチさんと同格の相手を倒さねば、と意気込んで来たのに、ここに着いたら恐らくターゲットの象さんはキャンプファイヤーしてるし、私はお菓子もらえるしで目的見失いそうなんだけど。



何このファンシーな場所は?もしかしてそういう類の試練ですか?象さん照れない。場合によっては倒さないとなんだから。



「あー……えっと、ここで試練が受けられるー、とか、なんか、そういう感じのことって、ない、っすかね……?」



しどろもどろになったけど何とか言い切ると、象さんは不思議そうな顔をする。今更だけど何でそんなゆるキャラみたいな顔してるの?めっちゃ表情の変化わかりやすいんだけど。



『ーー!』



けれど、少しの間不思議っぽい感じの顔をしてた象さんは、何かに気づいたのかポンと手を打ち(衝撃波が撒き散らされた)、手を打つために二足歩行になったその状態を維持しながらオアシスの方に歩いていく。もう何でもありだよここ……。



『ー!ー!』



そして、何かを見つけた……というよりは、埋めていたものを掘り出した感じの仕草で象さんはスケッチブックを取り出す。え、今度は何?うんうん、スケッチブックを開いて、私に見せるように紙の部分を開、いて……?



あれ?文字があるね。しかも日本語。




『(此処、666の夜では、アトラクション「地獄のブートキャンプ」を開催中である。どの様な来訪者であっても対応可能かつ、確実に成果を得られるという自負を持って送る最高のアトラクションである。アトラクション完遂の暁にはおまけで『創天の城』天守閣への入場条件の一つである「証」を贈呈する)』



「……うそぉ」



アトラクションってなんですか?「地獄の」ってつくアトラクションなんてある?いや、あるかもだけどこんなに不穏なのは初めてなんだけど?



いやいやいや。ブートキャンプってあれでしょ?軍部の訓練に使われるキャンプとは名ばかりの全く楽しくない訓練の一つだよね?何でそんなのを嬉々とした様子で開示してるの?え、もしかして天然さん?どこが天然だよただの鬼畜じゃない。



「しかも今のでこのアトラクション()をクリアしないといけないことがわかった……ゴミぃ……」



どこが最高だ。確実な成果ってそれ成果は楽しみを与えることじゃなくて苦しめることでしょ?おい、ゆるキャラ象。嬉しそうな顔をするな。ゆるキャラは人を苦しめて喜んだりしないよ?



『(準備ができたのならば開始の旨を伝えよ。「地獄のブートキャンプ」では持久力の測定を行う。集中力が削がれた中、気色の悪い怪物に喰われながら。あらゆる状況下でのパフォーマンスの持続こそがアトラクション完遂への最短の道である)』



『(開始すれば、来訪者は異なる空間へと移送される。基本的には全くこの空間との差異はない空間であるがゆえに、普段通りの行動を心がけることを推奨する。ただ一つ、法則として来訪者の生命力がゼロになることだけはない様に、ルールを改変してある)』



『(一度アトラクションが始まれば、完遂までは異空間からの帰還は不可能である。留意されたし)』



『(説明は以上である。準備が出来次第、合図されたし)』



一気にパラパラと紙を捲りながら口ではなく文字での説明を行うゆるキャラ象さん。可愛い見た目してるくせに説明文がめっちゃ堅物そうなのが気になるけど、これって無視した方がいいの?



説明が完全に終わり、念の為なのか知らないけど、わざわざ私に説明文の紙を渡してしっかりとアトラクションの内容を頭に叩きこんだ私は、どうするべきかを与えられた猶予で考える。



「……考えることなんて、ないか……持久力、だもんね?シャチさんのと似てそうだけど、持久力って言うんだから違うんでしょう。死霊の私には相性いいね。よし、やると決めたら早くやろう。準備いいよ!」



私が試練云々を言わなかったら、象さんもまだマシュマロとかくれたのだろう。ゆるキャラ見たいな可愛い姿をしているけど、何考えてるか読めない象さんのことだ、彼自身から動くことはなかったはず。




でも、どっちにしろやる時は来るのだ。束の間の休息で緊張をほぐれさせちゃ、今まで研いで来た鋭さが無くなってしまう。そう言うわけで、きっと私は間違えてない。そう思うことで、多少は自分を奮い立たせられるから。



『(アトラクション「地獄のブートキャンプ」を、開始する。来訪者が楽しみ、そして成長を実感することを祈っている)』



「少なくとも楽しむことはないんじゃないかなー?」




軽口を叩いて、私の視界はシャチさんの時と同様、暗転した。













「おーおー。海かぁ。さざなみ一つない綺麗な海だね……いつか観光で来たいものだよ」



視界を開けば群青の地平。ここからどうするのかな?と思ったら、すぐに指示が来た。あれで結構面倒見がいいのかな?いや、マシュマロくれたし面倒見はいいでしょう。マシュマロをくれる人はいい人だ(確信)。



『プログラム起動。ブートキャンプを開始します。第一試練、「海上踏破」。どの様な手段を用いても構いません。海を隔てた先へと到達してください』



え……つまり、この何もない海を渡れと?これ……持久力の測定になりますか……?いくら死ななくても、普通に溺れたりとかするだろうし、めっちゃ辛いじゃん……体の前に心がもたないでしょう。



「いや、もしかして……そっちも含んでる?シャチさんは心を見るって言ってたけど、他の人たちはテストをする、って言ってたし。見ないだけで心のテストはするってことなのかな……?」



うーんわからない。見るのと、テストするのとの違いがそもそもよくわかってないし。強いて言うなら、シャチさんは心の強度、象さんは心身の持久力ってことになるのかな?流石にそれぞれで完全に独立してるわけじゃなくて、一部測定範囲が重なったりしてるのかも。



「あ、やっべ。あんま考え込んでる訳にもいかないよね。それじゃあ、とりあえずは一番楽そうな方法でやってみようか」



と言うわけで肉体変成起動。作り給うは小さな小舟。こんな小さな船で大丈夫か?大丈夫だ、問題ない。



「いや、どっかで聞いたことあるセリフだけど、それとは違って根拠はちゃんとあるよ。だからフラグじゃないです」



まず、普通の人間なら気にするべきいくつかの危険は、私にとって危険たり得ない。まぁ、軽く説明するならばだ。



まず、私は飢えとは無縁の死霊。さらに、疲れとかもない、いや正確には無視できるから長時間ずっと船を漕ぐことができる。



それに、私は精神が人だから、地球での死霊とかでよくある精神攻撃無効はできないけど、体は確かに死霊のものだ。今まではそんなに気づいていなかったけど、此処最近の行動により、体である死霊が多少私の精神に影響して、無効とはいかないまでも、ある程度は素で耐性があると言うことがわかっている。



「ま、要は器は中身に多少影響を与えられるってことだね。銀の皿が何かそれっぽい例の一つになってた気がする。知らんけど」



とにかく、今の私ならこんな少ないリソースを耐久値に全振りしただけの小舟でも何とか乗り越えられるはず。やって見せるさ。地味でも。



「……不安だなぁ」



私、変わり映えしない景色見ると動きたくなるんだよね……。

(裏):多動症?

( ):違います。オールはそんな子じゃありません。

(裏):どんな立場だよお前は

( ):……神?

(裏)何だこいつ

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