あばばばば
⭐︎⭐︎⭐︎ 【絶命刀】 オール
「あーー……生きてるって素晴らしーなー」
瓦礫から這い上がり、いつかあの鯱ぶちのめすと意気込んだはいいものの、次に移す行動は未だ私は移せていなかった。
「だってシャチ怖いもんなぁ……」
いや、でもぶちのめすとは思ったものの、普通に倒すことはできないんだろうな、とは思う。だって圧倒的に攻撃範囲が違うし、シャチのくせに空泳いでいたし、上からあんな範囲の攻撃ばら撒かれ続けていれば、普通に負けるし。
「でも、だからって言って手をこまねいているわけんもいかないわけで……ようやく動きに移せるわけよ」
『M゛』
メリーくんとは、まぁ、一応は城という本丸へ攻め込む前だから色々と話を聞いた。なんだかんだで、記憶とかの関連のこと全然聞いてなかったしね。本当は、記憶を得てから逐一聞くはずだったんだけど、余計なことを聞く前に一先ず今できることをしておこうかなーて思ってたらいつの間にかここまで来てしまった。
「さて、色々と聞いたからには、ますます引けなくなったわけで。メリーくんのできることはちゃんと頭に入れてあるし、記憶に関しても整理はできた。……ただ、問題なのは城に入った後に、メリーくんがどうなるかだけど」
前にメリーくんが気絶した時に映された画像は、やっぱり私の頭からは離れなかった。冷静にならないといけないのもあって、先に塔を優先していたんだけど、やっぱり時間を置いてもいい案は浮かばなかった。
「もしメリーくんが囚われることになったのなら……まぁ、やることは変わらないけどね。そもそもメリーくんが離れるようになる真似はするつもりないけど」
メリーくんがこくんと頷く。まぁ任せときなさいよ。目の前で消えるとかでもない限り、そうそう遅れは取りませんわ。
「さて、それじゃあそろそろ行こうか。ここからが踏ん張り所だよ。城に……本丸に突入だ」
◆
「あー……生きてるって素晴らしーなー」
死んだ目と淀んだ声でさっき言ったことと同じ様なことを口にする。気分は最悪。まさか本当に目の前で消えることになるとは。メリーくんが生きているとわかるだけでもまだマシというものだ。
「はぁ……まぁ、予想通りだよ。パターンAで行こう。そんなものないわ、ばか」
ここは、城の内部。メリーくんは入って10歩で急に消えた。念の為に私の前で常に視界に入る様にしながら探索を試みていたんだけど、そんなのお構いなしに消えたよ。これが起こり得ると知らずにこの状況に放り込まれたら暫くは呆然としていただろうな。
通路は基本的に和風。昔、親と城に観光で行った時と同じ様なものだね。木製の通路が、足を踏むとギシギシと鳴る。
「ひとまずは探索……するしかないかな。天守閣目指して行こうか」
画像ではメリー君は天守閣にいた。素直にいかせてもらえるとは端から思っていないけれど、とりあえず何をするべきか考えるのも含めて、目標はそうしよう。
「階段でもないんだよ……」
さっきからずっと木の通路を歩いてばかり。和風の城だから、隠し通路とかでもあるかな、と壁を叩いてみたり、何気なくぶら下がってる縄を引っ張ってみたりしたけど何も起きなかった。
「所詮は素人、地道に探すしかないかぁ……」
仕方ないとは思う。でも、この状況は私の得意分野だ。正確には、私の体が。
私は死霊だ。変わり映えのない作業を延々とこなすことはこの体になってから多少はマシになった。疲労に関してはもう感じもしない。まぁ、精神的なものは別だけど。
とにかく、長期戦は私にとって有利ってことだよね。それじゃあなんか見つかるまでなるべく意識を削いで、省エネで行おう。
⬜︎
「……なぁんだ、これ?」
目の前に広がるのは大きな赤い門。これまでとは一線を画すその風景には、自然と持っている刀に力が籠る。十中八九、ボス部屋か、階段だ。個人的にはボスがいる方が高いと思っている。だって、そんな純粋に思ってたら大体騙されるからね。
「開けようかな……?やめておこうか?いや……」
個人的にはすごく悩む。何でかっていうと、ボスを思い浮かべた時に、この空間で最もそれに相応しい奴が、四体いたのだ。
そいつは、なぜか示し合わせたように城へと向かっていって、そのまま行方知れずとなった。
「……………やっぱりそうかぁ」
迷いつつも、それでも片手を扉に当てて、『気配感知』で中の気配を探る。中にどういう奴がいるかはすぐにわかった。だって、そいつは明らかに気配を隠していない。まるで、ここにいますよって大声で叫んでいるかの様に。
あぁ、これはもう確実だろうな。ここには、あの明らかに格上な奴らのうち一体がいる。どう考えても今の私では叶わない敵だ。
「普通なら避けて行こうかな、なんて思うんだけど……何かシナリオ進行に必要そうな気がするし、何より中にいる奴が、何か斜めのもの……そう、たとえば階段に腰掛けてるような態勢なのが気になる……」
あぁ……やだなぁ。行きたくない。でもなぁ。絶対必要なんだって。階段じゃん。あるじゃん。行かないとじゃん……。
「ふぅ……銃、使えるかなぁ……威力が、最近足りなくなってきたし……」
本当ならここで門を開けて速銃撃っていうのがやりたかったんだけど……無理、だよね……。だって、最近威力固定の銃だと無理が出てきた気がするし。
ショットガンとか、ちょっと形を変えて威力の高いものを使うことで先延ばしにはしているけれど、結局のところ、威力が私個人の膂力が関係ない銃は強くなるにつれ、扱う頻度が少なくなる。
称号を手に入れてからまだそんなに日付は経っていないけど、どうにかしないといけないよね……『魂の技術』による能力付与とかでも限度があるし、そもそもあれ運だし、コスト重いし。
「ま、早急にそれは考えるとして。SR……スナイパーライフルかな」
ふっふっふ。ぶっちゃけそんな中の種類詳しくないからどの種類のスナイパーライフルが一番威力高いかわからないけど、とりあえず記憶にあるものを模る。
「できた……やっぱり、戦闘中だとちょっと初めてのものは作るべきじゃないか。これは時間かかりすぎだね」
銃を構え、気配がある方向の……恐らくは頭部があると思しき場所に銃口を向けて……いざ、突入!
『ーーやぁや』
ドパンッ
ん?今なんかこいつ言ったかな?目の前に広がる広間と、その中央に座する巨大なシャチ。どっかでみたことあるっていうかこの前人様の拠点どころか全部壊滅させた犯罪者だ。この空間で法律なんか適応されないけど。器物損壊どころじゃねーだろ。賠償金よこせ。それか安全。
「ふぅ……なんとかこいつどかして、後ろの階段引っ張らなく、ちゃ?」
『あ゛ぁ?いきなり何してくれてんだテメェ。格の違いがわかんねぇのか、あ゛?』
「わ、喋った」
『んだテメェ!?俺が喋れねー低脳共と同じだっつってんのか、お?』
「あ、いや違うよ、うん?」
やばい。適当に言ったけど、地雷踏んじゃった?ていうか何なのこいつ?前回会った時は問答無用で爆撃してきたし、今回はいきなりガンつけてくるし。でも、なんか、思ったよりはこう、理知的?こんなチンピラっぽい人に言うのは違う気がするけど。
『……ったく。俺だから許してやるが、テメー、他の奴らの前でそれやってみろ、テメーが欲しいだろう天守閣への切符はその時点でパァ、だ』
「……む」
他の奴ら、って言うのは、やっぱり鷲とか、他の塔に封じられていた奴らのことだろうか?何で仮称チンピラは許してくれるのに他の奴らはダメなんだろう?まさか、このチンピラ、優しい部類……?
『おい、テメー今俺の悪口考えただろ』
「そんなまさか、滅相もない」
フンと鼻息を鳴らし、シャチ顔で呆れた雰囲気を漂わせるシャチ。前回の時の無言爆撃とは大きな違いだ。一体何が彼をそこまで駆り立てさせたのか。あ、普通に聞けばいいじゃん。
『それで、本題だがーー』
「シャチさんなんでこの前はいきなり爆撃したの?他の人たちはしなかったよ?」
『話の腰折んなボケェ!』
怒られた。すみません。というかギャングじゃん。まぁ、シャチって海のギャングらしいし、らしいと言えばらしいのかな?
『あー、ったく。そりゃあ、あれだ。あん街は腹が立った。俺の故郷にわざわざ似せた雰囲気作ってた癖に、肝心の良さがちっとも足りちゃいねェ。ありゃ駄作だ。だからぶち壊した、そんだけだ。本題戻るぞ』
ふむふむと相槌を打ちながらも、ちょいと顔を盗み見。うん、何考えてるか全くわからん。そもそも蛇顔と虎顔がわかるだけ私すごいわ。魚顔なんて流石に何考えてるかわからない。あれ、シャチって哺乳類だっけ?それはイルカの方かな?わかんないや。
でも、とりあえずシャチさんは他の3人とは違うと考えておこう。同僚なんだし、シャチさんだけ爆撃したのなら、何か違いがあるはず。
『っはぁ。んで、テメーは上ェ行きてェんだろ?俺が偽物っつー自覚がなけりゃこんなこと言うつもりなんかつゆほども思わなかったんだが……俺が出す条件を突破してみろ。そしたら上に行くための証を出してやる』
偽物、ねぇ。そうだね。メリーくんの記憶を見ている私はもうシャチさん達がどう言った存在だったのかもう知ってる。そんな彼らが、ここにいる。ふむふむ。まぁ、確かに偽物だ。
本物なら、自分の守るべき場所に留まらないはずがない。彼らはこの都市が模倣した元の街の主人、そいつに対しては本当の忠臣だったからね……。
『……一分だ。心意気を見せてみろ。俺が行う攻撃、いや。俺の作った悪意に、一分耐えてみせろ。嘘はねェぞ』
それはまた……随分と。気前がいい。どう考えても裏があると言うことを除けば、とても嬉しいことだね。あとついでに、片手間に都市を壊滅させたシャチさんの悪意とやらが普通にいや。見たくもないな。
「……りょーかい。どっちにしろやるしかないし。どこでやるの?」
『そりゃここだ。いいか?俺は他の芯がねェあいつらとは違ェ。だから、俺はお前の心を見る。だが、他の奴らは十中八九テメーをテストする。当然だわな、偽物だろうが、無くしちゃいけねェ心を無くしちまったんだからな。見るんじゃない。テストするんだ。よく覚えておけよ?』
「ふむ、深いことをおっしゃる。ちゃんと覚えておくよ」
『そうか。それじゃあ……始めるぞ?』
問いに対する返答はない。けれど、代わりに私はにっこりと微笑んでみせた。すまないね、今日の私はいつものストッパーがいないから獰猛なんだ。
◆
「なるほど、悪意とは、そう言うことね」
目の前に広がる光景を見た上で、私はせせら笑う。
私は、どこかの場所の、部屋の前にいた。さっきまでシャチさんといたはずの部屋とはまた違う、何とも良い難いコンクリート張りの部屋。そんな部屋にいる私の体には、どこかから滲み出した黒いヘドロの様なものが全身を覆い、まるで首から下を覆った棺の様にも見える。つまり、私は立っていながら、何もすることができない。
それどころか常に全身を何かが這いずる様な嫌な感触すらする。困ったものだ、この手のものは直接精神に来るからあまり好めないんだが。
「ふふふふ……悪意とは言ったもの。精神に来るね、これは……親しいものの惨殺現場を見せて、心を折らせようという魂胆かな?」
別に私は薄情じゃないし、普通に親しいものが傷つく様なんて見たくない。だからこれなんだろうね。だから親のの、友人の、私が親愛を持つ存在の死体の山を見せつける。より酷い形で。あぁ、これはこれは……心に押し寄せるのは、悲嘆ではなく、憤怒。
「わかっていても。現実に起きたことではないとわかっていても、効くだろうからわざわざこうした。成る程なるほど。……この程度で折れるはずがないでしょう。舐めてんの?」
体を這いずる何かに吐き捨てる。まぁ、わかってがいたけど全然反応しない。なら、待てば良い。私の心を、この程度で粉砕することができると思うなよ?
「……ん?あれ、もう終わり?」
とりあえず、覚悟を持って、これから始まるだろう地獄に身構えたと言うのに、何故か自分の身を覆っていた黒い棺桶が体から引いていく。
「ふむふむ……体はちゃんと動く。どう言うつもりなのかな?」
疑問をポツリと呟き、しかしそれへの返答はなく。代わりでもいうかの様に私から離れた黒いヘドロが私の眼前で形を為していく。
「おやおやぁ?ふむふむ、今度は今世での友人と。確かに、私に精神物理共にダメージを与えるなら良い選択、なのかな?わからないけど……」
ーー私の前に立つならボコる。
挑戦的な笑みを浮かべれば、ヘドロの蛇が牙を剥く。うんうん、泥だからか毛皮のもふもふ度が台無しだねぇ?そんなんじゃあ……
「私がそもそも躊躇わないんだって」
こちらへ向かって行動を開始しようとしても遅い。蛇……ベフェマを模ったであろうそれは、残念ながら、致命的な弱点がある。
簡単なことだ、忍者が衆目の前に目を晒すのはアウトでしょって話。暗殺者は寝込みを襲うから強いんであって、直接での正面戦闘での強さはまた別の話だ。
「だから、最近威力控えめになってきてるピストルでもワンパンなわけだよ、わかりゅ???」
噛んでないです。わざとです。それはともかく、一撃で頭がドパンッした蛇がそのまま形をさらに変える。今度は……はぁ。
「あのさぁ、ただ私の記憶にあるやつを持ってきても無理に決まってんじゃん。知らないやつじゃないと私の隙は作れないよー?」
現れたのは火竜。どっかで見たことあると思ったら普通に私が青の龍宮で倒した竜だった。何でそこは青龍にしないの?まぁ、いい。
銃は効くけどさっきよりは威力が乗らない。仕方ないから刀依存だね。はい、鱗をスパンと切って、竜さんの腕をパージして、身動き取れなくなったところで介錯っ。
『ーーー』
「ふぅ……何というか、想定通りのものばっかだね。自分との戦い的な、そういうやつでしょ、これ?よゆーよゆーですわ」
うーん。この調子だと問題はなさそうかな?おろ?ヘドロが完全に消えちゃった。代わりに黒い……魚、じゃ、なくて……
「いや、シャチさんじゃん」
『おゥ』
何でここに、と思う間もなく、どこともしれない空間が崩壊する。瞬きの間に元の場所に戻ってきたところで、シャチさんが合否判定をしてくれた。
『んまァ、合格でいいだろ。そもそも一分経ったからテメーを呼んだわけだしな。しっかし、驚いたな。本当ならもっと長いはずだったんだが』
「……ん?一分きっかりなんでしょ?早いも遅いもないのでは?」
ちょっとよくわからない発言がでたので、質問をしてみればシャチさんは口を開けて……あれ?これ笑ってんの?
『あァ、そうだな。一分は一分だ。だが、俺の言った一分は、さっきまでテメーがいたあの空間では一定じゃないんだよ』
「というと?」
『あの場所はなァ、精神が安定してるほどに早く、精神が不安定なほどに遅く時間が進む。まァ、この試験のためだけに用意された、おあつらえ向きの部屋ってわけだ。因みに、俺が作った』
「……最近は世界構築とかの話が多くて嫌になるなぁ。なんなの?青龍とか、白虎とか、青の龍宮とか……異空間好きすぎじゃない?ルールが世界ごとに変わりすぎてていやなんだけど」
『………はァ。その青龍ってやつは、あれだな。俺をぶち殺しやがったトカゲだな。腹ァ立つが、負けた以上こっちからどうこういうつもりはねェ。が、あんま口には出さんで欲しいな。イライラする』
「ごめんなさい⭐︎」
『あ゛?……はァ、最近はため息が多いな。しかし、一応訂正してやる。俺の力は世界を作るだとか、そんな高尚なものじゃあねえ。そもそも、こん都市の守護者なんだ。もっと妖っぽいもんだよ、俺の力は』
「ふうん。まぁ話を戻してさ、じゃあ私のテストは早めに終わったってことでいいの?」
『そん通りだな。俺が見たかったのは、テメーの心の強度だ。何に揺らいで、どこが硬いのか。要は甘い心ってもんだが、何も俺はそれが悪いこととは言ってねェ。こいつは意外と重要でな。これがあると、生涯に意味を見出せる』
「……」
『んだが、そいつは知ってるだろうが、伸ばした手に重しを乗せる行動だ。色んな大切が乗っかって重くなった手じゃ掴めるもんも掴めねェ。もしテメーがそう言ったもんに弱いってんなら、少なくとも今は証を出すわけにはいかないってェことだ』
「ふぅん。じゃあ私はそういう大切とかは持ってない、薄っぺらい人間ってこと?」
別に何とも思ってはいないけど、私がそんな何もない人間だと思われるのは嫌だなー。何となく、シャチさんがそうは思ってないのはわかるけど、わざと聞いて見てしまった。
『違うな。テメーは案外と色々持っている。一つのことに全振りしてそれ以外を蔑ろにする様な奴じゃァねェ。俺が言いたいのは、テメーは持ってはいるが、その上で自分を貫く行動をするってことだ。なんだよ、イィ心意気、持ってんじゃねーか』
「それは……ありがとう、ございます?」
『おゥ。つーわけで、俺からの課題は終いだ。さっさと次のとこいって、天守閣への切符を作ることだぁな』
「あ、はーい。それじゃーもう行きますねー」
どうやらこれで課題は終わりらしい。案外と上手くいったものだ。死を覚悟したけれど、精神系統なら苛立ちこそすれ、何とかなる。この分なら……とか思いながら次の場所へ向かうべく門を開こうとすると、後ろから声をかけられた。
『…………そうだ、な。おい、テメー。ちょっと待て』
「はい?」
『俺はテメーに関しちゃ詳しくねーが。シナリオってんは一応聞かされちゃあいる。だから、な。……偽物っつー元々いない様な存在だ、好きにやらせてもらうことにした』
そう言いながらシャチさんは階段のそばからこちらへと近づいてくる。すわっ、戦闘か、とも思えば、どうやら違うらしい。首を傾げていると、そのままヒレを頭に乗せられた。
『どうせこれで俺の役目は終わりだ。……無駄に持て余しちまったこの力も、まだまだ生きてるやつに使う方が有意義ってもんだ。なぁ?』
そう言いながら、ヒレから私の頭に光が伝わってくる。これは……なんだ?
『『空回る戯言』……俺がかつては持っていた力の、搾りかすみてーなもんだ。けど、今のテメーにゃちょうど良いだろう。まぁ、なんだ。分かっている茨の道を、それでも必死に進むテメーを応援してる、一介の魔物の後押しとでも思ってくれや』
ひんやりとした触感が頭に伝わる。けど、ぞのヒレの冷たさとは別の、エネルギー的な光に灯る温かさがやけに優しいシャチさんの心情を理解させてくれた。
シャチさんは、どうということもない、普通の存在だ。もっと楽な道を選べるはずなのに、わざわざ遠回りしている頑張り屋さんが微笑ましくて、力を貸した。心情としてはそんなところなのだろうか?
「……いや、誰が頑張り屋さんだ」
私はいつも楽な道を通ってますー。別に遠回りとかしてるバカじゃないもんねーだ!
……あざます。
『シナリオ通りなら、俺がこうすることには大きな意味が籠る。きっと、戦力的にも大きく予想より跳ね上がることになるんだろうな……だが、それで良い。どうせ俺はこれでお役御免だ。後で消えるのと今消えるの、大差はないさ』
「シャチさん消えちゃうの?」
『おうよ。そりゃ、俺だってこの空間にいるわけだからな、本来ならあり得ないバグキャラみたいなもんだ。強さがバグってんじゃなくて、存在がバグってるってことだがな』
口を大きく開けながら、シャチさんは光に包まれた。黒いシャチさんにまとわりつく光が、その黒の色素を次々と消して、何もなかったことにするかの様にシャチさんを終わらせようとする。
『俺は優しいが、こんなのをしてくれるのは俺だけだ。他の奴らは十中八九、ただテメーをぶちのめしに来るだけだ。覚悟しとけよ』
それをわかっているかの様に微笑みながら(当人比)、遺言を重ねるシャチさん。それなら、きっとシャチさんとのお別れは軽い感じで終わらせた方がいいだろう。短い付き合いだけど、なんだかんだで悪い人ではなかったしね。
「……ありがとう、って言った方がいい?」
『ったりめーだろうが』
大口を開けて笑うシャチさんは、そうして呆気なく消えてしまった。後には、ポツンと聳える巨大階段と、元の道に繋がる門。
「あんまり長居しちゃダメだね。よし、次行こう次!」
ちょっぴり寂しかったのは、内緒である。




