いつの世界も
⭐︎⭐︎⭐︎ 【絶命刀】 オール・フォルタム
「なに……それ」
画面に広がる天守閣は非常に趣があって美しいものだった。観光名所にいつか一般人として訪れたいほどだった……の、だけれども。その中心に鎮座しているものが全てそう言うのを掻っ攫っていってしまった。
「なんで……メリーくんが、いるのかな?」
仄暗い光を放つ小さな雪色の体毛をもった小さな虎が眠っていた。それも、どこかの白虎がこの空間で閉じ込められていたような緑の培養液に包まれて。
和風の内装とは決定的なまでの違和感を覚えさせる近代的な装置に入ったままのメリーくんは眠っていた。今、目の前で私が抱いているメリー君と全く姿形は同じで、違いは彼が放つ光の光量が少々暗くなっていると言うことくらい。
それも、メリー君がねているときは勝手にその光は小さくなるので、恐らく休眠状態に入っていると言うことなのだろう。だとしても……全くもって意味がわからない。
「……っ」
知らず知らずのうちにメリーくんを抱く手の力が強まるのも気にせず、画面の視界の主はそのままゆっくりと中央のメリーくんの元に向かっていく。
どうして画面の向こうにメリー君がいるのかわからない。そもそもこの画面は何を表しているのかわからない。何よりも、どうしてメリー君が寝ているといきなりこんな画面が現れてくるのか本当にわからない。
「謎が多すぎる……とりあえず何が起こったかだけでも覚えとかないと……」
周りにはやはりまだ気配はない。とりあえず画面に集中はできそうだ。画面の主は、今メリーくんを収めている機械に触れて……あ?
画面にノイズが走る。機械の奥に影が見える。何かがこちらを見ている。画面の主ではない、その向こうの私を見ている。これは、これはーー!?
「ぐ、ぅうぅううう!?」
頭が痛い!?はぁ?!オカルトじゃんこれっ!!画面越しにダメージ与えるとかどういうスキルよ!?っく、消せ消せ消せ!!
「うぐぐ……どうやって消せるのこれ!?」
消えない!そもそもメリー君が恐らく発動者なのにその当の本人が眠ったままだからどうしようもないんじゃないのこれ!?どうするのよこれっ!やばっ……このままだと失神しかねない……!?こんなとこで眠れば、待ってるのは、死……!?
「……っはぁ!はぁ!……なんか消えたっ……!?」
危うく意識が朦朧としかけた時に、画面は急に消失した。呼吸は必要ないのは理性ではわかっていても、やっぱり荒い呼吸が出てしまう。まじでなんだったんだ……。
「うぅ……後でメリーくん問い詰めよ」
でもなぁ……この様子はまじで眠ってるし、このタイミングでもし敵意があったとしてもこんな形で攻撃する意味がない。やるならもっと私が意識落としてる時とかにすればいい話だ。
だから敵意はなくて、あるとしたら不慮の事故なんだけど……暴走するようなことあるのか?こんな急に?いやぁ……そもそもそんな暴走するような機能ある?メリーくんに。
「いや……そういえば、追加されてるっぽい機能みたいなのがあったね」
メリーくんの直感。私はあの時一種の未来予知みたいなものかと思ったけれど、案外その予想は間違ってなかったのかもしれない。
「まずあの画面はメリーくんがやったものとして確定でいいかな?他の存在がやったにしては妙に敵意がない……わけでもないにせよ、私を殺したいなら間接的だし、恐らく攻撃ではない」
あるとするならば記憶の欠片を一定数集めたことによるシナリオ進行。それによる影響かな?いや、ないか。それにしては影響が現れるまで時間がかかりすぎだ。もう記憶の欠片を得てからそこそこ時間は経ってるでしょう。
「うん、やっぱあの画面はメリー君のものという可能性が一番有力だね。となるとメリー君は寝ているから自動で発動する能力というこちになるけど……」
どれもありそうであり得ない。メリー君の言語機能は意思を伝えるという面でイメージを伝えた画面と似ている部分はあるけれど、決して視覚情報にして相手に情報を与えることはできない。
メリーくんの攻撃機構、電撃は一番この中じゃゃありえないから考えるのは最後。多分違うと思う。
サーチ機能は……何かをメリー君が無意識に探した時に、その結果が反映されたのならなくはなさそうだけど、そもそもあれは記憶の欠片しか探せないはずだ。メリー君自身を探す機能なんて当然ないはずなのだ。
「となると……やっぱり直感機能がメリー君にあるとして、それが発動してるって考えるべきだよね……」
正直、そんな機能があったとしても、明らかに本来のそれとは違った形でその機能は発動している。だから、それだってあんまり理由にはならない可能性も高いんだけど……一番あり得るんだから、そう考えるしかないでしょう、ひとまずは。
「そうすると……もし直感機能が原因なら、あれは未来ってことなのかな?」
いまだにあの画面が発動した背景も、内容も謎だらけだ。けど、推測だらけでも、あり得なくはない推測で建てられたその可能性は、辛酸の味を想起させるものだ。
「これがメリー君の未来ならメリー君は何らかの理由で城に囚われ、誰かがその身柄を得ようとする……。もし、これが私の未来ならその誰かが私ということかな?」
背筋が少し寒くなる。やれやれ、死霊になっても、大部分の身体機能が死んでいるはずなのに随分と人間らしい感想が出る。
「でも、それだって所詮は推測に重ねた推測……ない確率の方が高いんだし、気にしないようにしよう、そうしよう」
嫌な想像は身を竦ませる。そんなふうになってパフォーマンスが落ちるのならばそもそも考えない方がマシというものでしょう。そういうわけで首を振ってとりあえずのことを考える。
「さて……ま、アクシデントがあったけど、やること変わらないわな」
とりあえず帰宅帰宅……と。
⬜︎
「よくおやすみですね……」
いいことだよ。都市のホテルまで帰ったのだが、それでもまだメリーくんはねている。それだけ疲れたということなんだろうね。今回は流石に無理をさせ続けたかもしれない。次からは気をつけよう。私と同じペースでやるのは良くないみたいだね。
「……お風呂は、まぁやめとこうか。そもそもなんでここ湯水が出るのかいまだわかってないし、あんま多用するべきじゃないね」
帰ったらお風呂入れてあげるとは言ったけど、だからと言ってこんな状態で入れても誰も嬉しくないでしょう。そういうわけで今日はもうお休みだ。私も軽い予定を立てたら寝るとしよう。寝れる体じゃないけどね。
「明日からは……、あぁ塔の攻略に戻るべきだよね。はぁ……甘味食べたい。メリーくんもコミュニケーションあんま取らないし、ちょっとストレスが溜まってるのかな?」
自分のことをケアするのも大事なことの一つだ。人間仕事ばっかで生きていけるわけじゃないからね。まぁ、私は放っておくと無限にダラダラするから休むことを意識的にする必要はないんだけど……今回は流石に気を休める要素が少なすぎたのかもしれない。
「ま、明日は一日休もうか。メリーくんのためにも、私のためにも」
二つ目の塔は明後日からだね。そうしようそうしよう。そう思うと少しは気が楽になった。
◆ ラプラス総統演算領域 深度7 静謐の教会
「おっけーおけー、順調だね。セラスの方はこの感じなら最低条件にまではいけるね。こっちは目を離しても大丈夫かな……」
少しばかり隈が目立つ顔で、けれどどこか肩の荷物が降りたかのような口調でレヴィティが呟いた。彼女は最近仕事が多くて疲れているのかそのまま上体を倒して座っていた長椅子に体を完全に預ける姿勢になる。
「いやはや!お仕事お見事!何とか期限以内に間に合ってよかったねノロマくん!束の間の休暇に浸りたまえよ弱虫ちくん!!」
「……うっせー器用馬鹿。アタシはテメーほど器用じゃねーんだよ。代わりにあんたより強いけどな」
「ふぅははははは!!これは耳が痛い!しかし戦いというのは如何様にもできるのだよ!直接戦闘にのみ目を向けた君の視野はこの上なく狭いというものだね!!」
「……ちっ」
そしてそんな疲労困憊といった様子のレヴィティに声をかけるのは器用バカと呼ばれた紳士っぽい人物。毒舌の極みとも言えるその言動にさえ目を瞑ればとても優しげなおじさまといったところだろう。
「それで?この強欲罪公にどれだけ進捗があるかを報告してもらいたいところだね!そろそろ終わるかと思って居座った甲斐があったというものだよ!ふぅははは!」
「……そのうざい笑い声やめてくんないかなぁ。徹夜明けだよこっちは?労われや。ちっ、なまじ観察眼があるのが腹立つね……わかったわかった。教えるからちょっと待って」
「おやおやぁ?あの嫉妬深いことで有名なレヴィティ殿が他人を褒めるとは、明日は世界終焉でも起きるのかな!?」
「……(うっせーー)」
レヴィティは非常に不本意ながらも、権限で言えば自分よりも上であり、尚且つ今回の【原彩】撃滅戦は目の前のこの男が色々な分野のものたちを仲介して達成できる、謂わば最高責任者とすら言えるその者への報告義務はあるとわかっているからこそ報告の作成を始める。大体これは二分程度で終わる。
余談だが、世界終焉、ビッグクランチとも呼ばれるそれはこの数多の世界が存在する多次元宇宙でも両手で数える程度しか起きていない珍事である。いや、珍事などという言葉で片付けられるほど軽くもない。
ビッグクランチ。それは世界の黎明の対とも言える世界の終わり。世界が急速に収束し、その世界丸ごと消滅させるというものだ。ビッグクランチは大抵怒る前に予兆を見せこそすれ、実際にいつ始まるかはわからない危険な代物でもある。
そんな代物を容易く冗談に使える二人は、やはり腐ってもこの数多ある世界でも最高峰のものたちと言えるのだろう。
「……はい。できたよ。デバイスに送ったからさっさと見て」
「デバイスとは趣のない言葉だなぁ?ラプラス様が作ったのだから、もっと敬意を込めたりしないのかい?キャラ崩壊起こすぞ?」
「なんなんお前。キャラ崩壊とか気にしてねーし……」
「顔に出てるよ?ふぅははは!」
「!? っ〜〜〜!!」
冗談を交えつつも流石はレヴィティが褒めるだけあって、強欲罪公の報告進捗書の読破速度は凄まじいものだ。軽く三十ページほどはあったそれを、いとも容易く一分程度で読破してしまった。
「ほー!もう箱庭計画は第三フェーズまで進んでいるんだね?!素晴らしい素晴らしい!!この分だと想定内ではあるが、幾分か早めに終わるものとなるだろうな!はっはっは!……ところで」
箱庭のフェーズ進行、残存している四神、生存者。それらを見て嬉しそうに呟く強欲罪公は、しかし一転して真顔でレヴィティを凝視する。
「……なにさ」
「この……精霊?種類的には精霊だが、物理的な肉を持っているこの生存者。どうやら想定されていない場所に潜り込まれているが……これ、エラーじゃないのかな?」
その言葉に、レヴィティはとんでもなく長いため息をつく。何を隠そうたった今までの一番の彼女の悩みは間違って白虎が現世に戻ってこなかという心配だったからだ。何とか成功の目処は立って安心したが、彼の地には人質がいる。それらと接触すれば、メモリーは即座に死亡するだろうと容易に想像できたからだ。
「それはね……抹消したくてもできないのさ。だって、今その死霊を消せば白虎は現世に舞い戻ってくる。シナリオ続行が不可能になるからね。けど、逆にシナリオを進行させてある程度のフェーズにまで移せば白虎はもう戻ってこない。箱庭に混乱が吹き荒れることもなくなるのさ」
「……そもそもそのシナリオとは何かな?そんなの聞いたことないんだが?」
そりゃあそうでしょう。あれはルシエルの独断だからね。本当ならあそこは誰も来れないはずだからそんなシナリオつくのも許可したんだけど……まぁ、見事に裏目に出たってわけ」
「……想定外も多いものだな。それはまぁ、疲れもするかな?」
レヴィティがため息をつき、その理由には多少なりとも共感できてしまった強欲罪公が苦笑する。これは確かに大変そうだと彼も思ったからである。
「それじゃあ、その白虎と死霊はどうするのかな?着地点を聞きたいんだが」
「それは……まぁ、シナリオできるならクリアしてもらうつもり。それが一番私らにとっても都合いいから。そこはわかるでしょ?」
「ふむ……確かに?それでは、もしその死霊が道半ばで潰えたとしたならどうするのかな?白虎が解放されちゃうよ?」
「ならないさ。白虎はメモリーが完全体となった状態で触れられなければ解放されない。もし、シナリオが崩壊すれば別だけど、それは死霊が創天の城にたどり着く前に死ねばの話だし、その状況になる確率はもう限りなく狭まってる」
「あぁー……書かれているね!創天の城は四つの塔攻略が解放条件だけど、死霊……くんでいいのかな?死霊くんはもう一つの塔を攻略して次の攻略にも王手がかかっているらしいじゃないか」
「死霊ちゃんね。デリカシー足りてねーぞ。とにかくそいつはもう塔の攻略はほぼ完遂できる。余程のエラーがなければ問題ないはずよ」
「ふむふむ……んで?」
「いっちいち腹立つなぁ〜……!!ん゛んっ、そうすると、死霊と、そのお供であるメモリーは確実に創天の城に突入する。そこに入ればもう大丈夫。報告書にも書かれてる通り、城のギミックは一度嵌れば死霊がなんとかしない限りメモリー単体では動けなくなる。そうすれば白虎とも会うことはなくなってどっちにせよ目的は達成できるってことだ」
「話長いね!次からはもう少し簡潔にまとめてみよう!語彙力少ないぞ!?」
「っ!!!ぁあぁぁああ(小声)!!」
「聞こえてるよ!沸点低い系女子よ!!」
「………………………………」
一瞬レヴィティが握り拳を作ったが、知ってかしらずか強欲罪公は呑気にそのまま会話を続ける。流石にレヴィティもそこまで冷静さは失っていなかったのか、長く息を吐いた後にまた座り直した。
「そうだねぇ……ま、そんくらいかな!?箱庭計画がいつぐらいに終わるかは大雑把な暫定の目標ができたし、十分だ!イレギュラーはミーの預かり知るところではないので、何とかするんだぞ!?この処理能力弱者さんめ!」
言いたいことだけ言って、強欲罪公はデジャブを感じさせる動きで去っていった。妙に風が教会ないで感じるのは、それだけ彼が騒がしくて、その反動によるものだろう。
「……は、ら、た、つ」
しかし、当の本人は全くそういう感傷とかには目がいっていなかったらしい。プルプル震えながら静謐であるはずの教会で声にならぬ怒号を発していた。
因みに、静謐の教会という名前は伊達ではない。ここではどれだけ騒ごうと一定以上の音はかき消されるのだ。音系の攻撃には最高の防衛場所である。故に、レヴィティも威圧込み怒号も誰かに効果をなすことはなく消えていった。
◆⬜︎ 白に濡れた夢と天
「ふわぁあああ……」
眠すぎ。そんな感想しか出てこない呑気な自分に苦笑しながらも起床。あっ、今韻踏んでなかった!?すげー、私ってば無意識に韻踏めるんだ。ラッパーの才能あるかな?
『………』
「やぁメリーくん。ご加減いかが?」
『(こくり)』
うんうん、いい感じだ。頷いてくれているということは少なくとも怒ってはいないということ。なぜか私は睨まれてるような気もするのだけれど、今回ばかりは何もしてないので見て見ぬふりをする。触らぬ神に祟りなしよ。
『………ネェ』
「はいなんでしょかー!?」
速攻で触れることになった。祟りじゃー……。
『……………昨日、ナニカ……………………アッタ?』
「え?」
一呼吸おく。この問いは予想できていた。つまり、完璧な回答を私は行えるということーーっ!!
「チョット、ナニイッテルカ、ワカンナイ」
0点の回答でした。ゴミかな?私の演者技能はゴミかな?塵芥だよ。繋げる予定だった言葉全部ぶっ飛んでったわ。
「あぁー……まぁ、正確には、メリー君由来かはわからないけど、あったよ」
『! 聞ク』
ちょっと食い気味なメリーくんをどうどうと収め、昨日の事態を軽くまとめてお話しする。アドリブ弱者の私でも考えればできるんだよぉ!すみません。考えても大根演者だったので無理でした。
『……………Mea』
「どう?」
一通り話して、メリーくんに予想を伺う。元々聞く予定だったのだ。緊張はしているけど、覚悟はできているからかそこまでではない。
『……多分、ソレハ……未来予知』
「!!」
ほうほう……昨日私がした予想と結構あってるな。ということは?
「メリーくんってじゃあ、ソレに類するものは持ってるの?通常機能としてさ」
『ウン』
ビンゴ。じゃあやっぱりこの前の直感っていうか、遺跡から逃げたほうがいいっていうやつも多分能力の一つだったんだな。こういう時でもないと語ってくれないから引き出せる時に引き出してやるぜ、うへへへへ。
『実ハ………昨日ノ、旅デ、能力が二ツ増エタ』
………ほぁあ?




