なんだお前は
⭐︎⭐︎⭐︎ 【剋牙】 ヴェイガー
『これが……平和か』
『数日後には朱雀と決戦するのに呑気』
『うぉう?!』
はいこんにちは、今日は高確率で死亡することが確定している朱雀戦、その前最後の訓練です。本当は連携確認する予定だったんだけどね……もう無理だと言うことが判明しました、はい。
だからベフェマとはそれも含めた上での作戦を立てているし、今の訓練もただの戦力把握とトリオ……いや、正確にはハンターとアプトンがどのパターンでどんな行動をするかの補助……もう実質介護のそれをやっていた。
『それに……これ平和?少なくとも、私には……ハンターがなぜか物理攻撃が効かないはずの炎の塊を殴ってる図にしか見えない』
『……身に、降りかかって、ないなら無問題、なんですよ』
相変わらずちょっとぎこちないが、最初よりはこれでも十分マシな会話と言えるだろう。前回の突発的フォシュ遭遇事案(適当)からは精々で数日だが、その時の認識の変化が原因か、今では随分と恐怖も薄れている気がする。
『ふーん……』
訂正、やっぱ無言の時間は怖い。
『あ、えー……支援とか、しなくて、いいので?丁度、あちらは佳境の、ように見え、ますが?』
『……大丈夫。今までの経験からして、確かに今回の敵は強そうだけれどギリギリ競り勝てるはず』
アプトンは何故かじっとしたまま何もしてないので、実質ハンターと炎の塊の一騎打ちみたいになってるのだが、ぱっと見ではハンターが劣勢のように見える。
どうしてかは知らないが、エネルギーの塊である今回の敵は、通常の物理攻撃は効かないはずなのだが、ハンターは当然のように拳で炎の塊をぶん殴っている。どう言う拳だよそれ。
とにかく、そんな拳でもどうやら熱自体はちゃんと伝わっているらしい。攻撃の原理については知らないが、どうやら敵の特性、まぁ全身の炎による自動攻撃は十分ハンターに効いているらしい。まぁ今回の炎って自動で範囲攻撃だし、いくらハンターが小さくても関係ないと言うことなのだろうな。
「うぉおおぉオラァ!!キューティ⭐︎アッパー!お天道様でも眺めてなァ!!」
『……なぁん、でいちいち、攻撃、の際、にキューティキューティ、連呼し、てるんですかね……』
そんなわけで普通に考えればもう助力をするべきタイミングなのだが、一向にアプトンは愚か、フォシュも攻撃も、支援もするそぶりを見せない。
……まぁ、フォシュに関しては多分予測で大丈夫って言う結果が出てるんだろうな。今までのーとか言ってたし、地頭は知らないが、戦闘での状況把握に関してなら俺が見た中でもトップなんじゃないか?こんな達観して冷静な見方をするってことはそれなりのメリットがあるってものか。
『…………知らない?ハンターの特典、あれだよ』
『え゛』
ゆったりしていた思考が凍りついた気がした。いや、あんな切替とか言う次元じゃない二重人格みたいな苛烈な性格してるハンターが、キューティキューティ言ってる理由がそれなの?と思うのもあるけど……。
今来るかぁ……もっと早く聞いておけばよかった。もしフォシュがハンターとかアプトンの情報をもっと詳しく知っているなら、折角話せるようになったんだから尻込みしないで早く聞いておけばよかったな。
『え、と。どん、な意味がある、ので?』
『別に大したものじゃない。ただ殴れるものを拡張するだけ。本人曰く、最強のアタシに通用しない力も、魅力もないらしい』
これはまた……傲慢というべきか、純粋というべきか。ここでは傲慢だろうな。ありゃどう考えても十代後半は言ってるはずだ。それも最低だから成人してる可能性だってある。
そこまで我を通せるということは、それだけの才能があるということで……実際、今も炎の塊との戦いで何故かハンターがまた優勢を取り戻している。
『具体的には?』
『耐性貫通。物理攻撃が効かない体をどうやら『物理無効』と判定して貫通してるらしい。随分と都合的な解釈』
あぁ……それは納得だな。オールから聞き及んではいる。ステータスの存在は実際あるし、それを管理しているシステムがあることを補強する事実として、ステータスを表示する仮想画面と同じようなものは他の部分でもいくつか確認されている。
例えば……青龍が倒されたときや、白虎が消えた時に流れたアナウンスとかは、仮想画面として目の前に現れていた……多分。あとはそうだな。進化の時とかは仮想画面が出ていたし、オールのステータスに確認の仕方も仮想画面を開いてのものだったな。
とにかく、ステータス画面を俺は実際に視認したことはないが、オールから聞いている話では耐性スキルとかはあるようだし、システム的にも普通に適応内なんだろうな。
『……あ、そういえば、名前は?』
『スキルの名前のこと?『キューティ⭐︎マーシャル』』だけど』
『!?』
な………なん、ちゅう名前、だ!?嘘だろ……?まさか、キューティキューティ言ってるのは、そういう、こと!?な、キャラ崩壊……でも、ないか。あいつすっごいキャルンキャルンしてる時とおんどれぁ!してる時でキャラ違うしな。
『ち、ちなーー』
『アプトンは大丈夫。『魔力流入』とかいう普通のスキル。周囲から魔力を自動で吸収するらしい。魔法が使えるのもそのおかげ』
『……他の、人た、ちは魔力、持ってないで、すよ、ね?』
こくりとフォシュが頷く。ここにきてようやく底が見えたな。いやまあ、戦力の明確な測定がこんなに遅くなったのは単純に俺がビビリだったからだが、どちらにせよもう既にどのような能力を持っているかの大まかな調査は終わっていたので勘弁してほしい。
まぁ、特典だけはそうと言われるまでわからなかったから、これで完全に把握が完了したということだ。特典は能力の出力が高いからな。警戒しないといけないのだ。
『……アプトンは多分この箱庭唯一の高い知性を持った魔法使い。ハンターは防御を無効化する戦闘狂。これだけ聞いても、勝てるつもり?朱雀との乱戦があっても、彼らは強い。曲がりなりにも、実力でここまで生き残ってる』
相変わらず心を読んだかのようなタイミングで的確な問いを投げかけてくるな。此方に協力的だからよかったが、未だ敵対したままだったら、おそらく筒抜けになっていたな、此方の作戦やら何やらは。
まぁ、その時は実力でどうにかするが……と。
『舐めな、いでもらいたい。此方、も、彼ら以上に、実力で生き残ってきたものだ。ボス格一つも倒せていない身に、俺は殺せない』
心の中でベフェマはもっとだがな、と付け加えていると、ふととあることに気づく。
……あれ?俺、青龍と白虎の討伐に関わってること、言ったっけ?
『あ』
『……意外』
ば、ばれたぁ……まぁ、バレてもこの人はそんな言いふらしたりとかはしないいうのは知っているけどさ……もっと然るべき時に言うべきだったよ。明言はしてないけど、そうだと言ってるようなもんだし、失言だった。
『大丈夫……』
ほら、実際察していってくれるから助かる。
『もし情報が漏れてもヴェイガーは何とかできる』
『!?……そっちかぁ……』
『?』
信用……。
まぁいいや。うん、フォシュが言う通りそん時はそん時なのだよ。知ったやつ全員コロコロすれば良いのです。あ、流石にフォシュは堪忍な。
『でも驚いた……ヴェイガーたちがそんな強いとは』
『たはは……そ、そのー、フォシュさんの方は、特典、何なので?』
『私の?』
フォシュさんが首を傾げる。なんだ?お前は情報出すのは当たり前だが、私が出さなきゃいけない理由がどこにある?的なことでも考えてるのか?案外まともそうだけどまだまだ信用できないからな?
そっと体に力を入れておくと、なんてこともないかのようにフォシュが呟いた。
『私の『威力減衰』は……まぁ、弱くするスキル』
同時に、俺の体が脱力する。これは……まじかよ。少なくとも俺には普通に効くと言うことがわかってしまった。これ万が一敵対した時どうしようもないぞ……?いやいやいや、敵対とか考えちゃダメ。ある程度仲良くしよう条約(意訳)締結したんだから。
『……因みに、このスキルは対象から一定距離内にいる時間に比例して効果の大きさと、時間は長くなる』
あっ、そういうことー。そっかそっかーあははー。
よし、ベフェマをさっさと見つけて作戦練り直そう。さっさと情報丸投げしよう、そうしよう。急遽作戦変更を余儀なくされるほどの情報でアッパーされたんだ。この苦しみをやつにも味わ……共有しないとな。うん、報連相大事!!
『あ、じゃあ、ちょうど、あちらも、戦闘が終わ、ったみたい、ですの、で。今日は、ここらで……』
『……ふむ。確かに。それじゃあ次は朱雀戦で。多分私たちのうち誰かしらは死ぬだろうけど……死なないように覚悟決めておく』
これは……俺に言ったのか?それとも自分に言ったのか?まぁ、とりあえずそれとなく頷いておこう。
『……もし、ベフェマさんが間違って、誤射をして私たちを殺しても……覚悟はできている。と言っておいて。今から会いに行くんでしょ?』
ぎくりとした内心を表に出さないように努める。どうやら、本当に読心能力でもあるのかと言うくらいには才能があるな。
『……きっと、フォシュさん、に、誤射なんか、で、きませんよ。怖いですからね』
茶化しつつも軽く本音を混ぜておく。ベフェマは別にフォシュを怖がってないだろうが、俺は怖がってるからな。そして、怖いからだけではないが、俺がフォシュへの誤射はやめてくださいと土下座して頼んだ(大嘘)ために、これは間違いではないのだ。フッ、完璧。
『……色々、便宜を図ってくれてありがとう』
『………つえぇ(鳴き声)』
強ぇ……(絶句)。普通に読み切られてたんだが?強すぎでは?……俺も心理学とか習おうかな。教材がないか。
颯爽とさっていったフォシュを見届けて、フォシュさんの想定通りの動きで俺はベフェマの合流を開始する。本当は今日は合流する予定はないのだが……緊急時用に合流する時のためにあらかじめ合図が用意されているのだ。
その合図に必要な道具を得るために、ひとまず拠点に戻る。洞窟だらけのこの火山地帯は、だからこそその道具を隠すにはちょうど良いのだ。
『……あったあった』
道具を求めて十二分。拠点にとんぼ返りしてきた俺の目の前には、ちょっと表面がツルツルしてる石ころがあった。
これの名前は鈴鳴り小石。簡単に言えば地面に打ちつけることで広範囲に鈴の音色を響かせる石だ。
これは、オールが見つけてきてくれて名前も教えてもらったのだが、随分と希少であまり見かけたことがない。そもそも小さいと言うのもあるが、見た目は普通の小石だから見分けるのが難しいのだ。
オールもこれは森でポツンと空き地に一つだけ転がっていた奴を、たまたま『解析』……当時は『分析』か。それを使って内容をのぞいたら初めてそれが有用な効果を持つ奴であると気付いたらしいし。
本当は、これは白虎の準備期間に使うはずだったのだが、あの時はまぁ……あんまり波乱というか…〜嵐の前の静けさみたいな感じで特に異常が起こらなかったから……使う機会がなかったと言うわけなのだ。
『その音色が今衆目に……!!』
別に周りに人どころか生物がいる気配なんてしないが、とりあえずテンションが上がっているのでそのまま適当なことを言いながらガツーンと小石を地面に叩きつける。
『……お?』
瞬間、耳を抜けるような感覚がして……それに反応するまもなく、鈴の音色が、あたりに響いた。
大きくもない、小さくもない。戦場で打てば周りの音にすぐにでもかき消されてしまいそうな、そんなか細い音。なのに、どうしてかその音を聞き漏らすことができなかった。
例え……そこがめちゃくちゃな音を奏でるダンスホールみたいなところだったとしても、そこにこの音は場違いな綺麗な音として、その場にいる皆を虜にしたことだろう。
『……はっ!?』
や、やばい……一瞬、意識が飛んでいた。なんて石だ。恐ろしい子!!いや、まぁ、うん。とりあえず、合流しに行こうか。音が聞こえた際に移動する場所はここからそう離れてはいない。すぐに向かって、この音がただの勘違いではないとベフェマに証明した方がいいだろう。
⭐︎⭐︎⭐︎ 【絶命刀】 オール・フォルタム
「……ん?」
ふと、耳元を鈴の音が通り抜けたような気がした。でも、周りにそんなものは転がってないし、ただの空耳だろうか?
「……いや、でも、うーん。まぁ、今はいいか。敵ならきてもぶっ飛ばすだけだし」
考えすぎ。頭によぎるその言葉で今の現象を一蹴しているようなら私は今生きていない。微かでも違和感に耳を研ぎ澄ますから私はまだ生きながらえているのだ。……それはそうと。
「おーいメリーくーん。まだ終わりじゃないよー。記憶の欠片二十五個集めたってまだ終わりじゃないの。遠足は帰るまでって知ってるー?」
今は、メリーくんのほうだろう。流石にこの行軍は疲れたのか、記憶の欠片をノルマ数ゲットした瞬間にヘナヘナと座り込んでしまった。気持ちはわかるし、何なら私も今すぐそうやって五体投地したいところだけど、残念ながらそうはいかない。
「やーることやってからだよ、休むのは!ほれ、立つ立つ!帰ったらまたお風呂入れてあげるから!!」
ここは敵地だ。周りには何がいるかわからないそんな場所で、このようなのほほんとした会話をしていること自体本来はダメなのだが……しゃーない。流石にそこまでとやかく言うつもりはない。
「ほれっ!行くよ!このままだと私は君をぬいぐるみ代わりにして抱きしめながら帰宅することになるよ?」
ぶっちゃけ私はそれでもいい、というか、それがいいのだが、それだけは我慢ならないらしい。プライド高い系小虎であるメリーくんは、何とか立ち上がって形だけの威厳ある表情をしていた。半分寝てるので威厳ゼロである。
『……M、Meaaa』
「ふらふらじゃん。ダメだこりゃ、連れて帰らなきゃ」
なるべくメリー君の意見は尊重したいところだが、流石の私でもこの歩く速度で元の都市まで帰るためにどれくらいかかるか、想像もしたくない。
と言うわけで、容赦なくメリー君を持ち上げてさっさと走り出す。無論、腕を変える必要がある刀も銃も、解除済みである。本来敵地でそんなの自殺行為なんだけど、今いる遺跡から都市まではさほど遠くないはずなので問題ない。
『……M』
メリーくんが弱々しく腕を持ち上げ、メリーくんを抱えている腕をポカと叩く。何度も叩くと思いきや、一度やったっきりでそのあとは眠ってしまった。まぁ、睡眠がいらない生物でも、パフォーマンスを最高に維持するにはいつかは睡眠が必要になるからね……。
『……Zzz』
「もう少し、もう少しだからねー」
森をさっさと抜けて、都市近くの証拠である石畳の世界にやってくる。うんうん、都市の象徴とも言えるあの城の影もうっすらと遠目に見えるようになってきた。
やっぱ徒歩時間は少ないに越したことはないね。そう思ってると……メリーくんが微かに身じろぎして、大きな変化が目の前に訪れた。
「これは……」
思わず急停止してしまう。けれど、それは多少の疲労を無視してでも見るべきものだと判断したが故のこと。私にはわかる。これはまず間違いなく見ておくべきだと。
「これは……城の、内部?」
目の前に仮装画面が現れる。それは、どこか和風な趣を感じさせるどこかの通路。写っている通路には、いくつか窓があって、その外には微かではあるが近未来的な建物が写っている。
恐らくは、位置的にもシナリオ的にもあの城のことだ。そして、恐らくはこのシナリオにおいて最終決戦場となり得る場所であるそこは、情報が不足していてブラックボックス状態だった。少しでもわかることがあるなら知っておきたい。
「……この通路は、多分天守閣か、その一個二個あたり下の場所だね。窓からの景色が間違いなくとても小さい」
棒たちしているけれど、イベントシーンかつ。重要なフラグを立てるであろう映像なので待ってほしい。ここで何かを知っていれば、きっとそれは、城での行動で間違いなくベターを選ぶための一助となる。
「通路を進んで……?階段か。天守閣へ向かうための道標?うっそ、どこの通路からどう動いているのか覚えていないんだけど……」
画面の視点の持ち主であろう誰かは、ゆっくりとした歩調で階段を登っていく。視点の高さからみて、恐らくは二足歩行のものだろう。人間いませんか?
適当なことを考えている間に視点が階段の頂上についた。そこには……。




