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嵐の前の静けさ

◆ 万消火山 南西部







その日は、雨だった。轟々と大量の雨粒が耳を貫き、地面によって蒸発した大量の水蒸気によって高湿度がその区域では発生していた。



『……』



そんな一角に位置する小さな洞窟で、もはや癒えることのない傷を何個も鱗に残した竜が。のっそりと体を起こす。竜は残してあった食料を口にすると、洞窟から出て軽く伸びをする。










ーーそして、そのまま洞窟をブレスで破壊した。



『……順調なのね』







⭐︎⭐︎⭐︎ 【剋牙】 ヴェイガー








つ、疲れた……。



「うぅ……きつい。あいつら頭おかしいよ……」



思い出すのは今日の夕方まで続いた地獄の連携トレーニング。連携とは名ばかりの独断専行の権化ハンターに、何考えてるかわかんねーし指示を上手く聞いてくれない不審者アプトン。そして……。



『有能なんだ、有能なんだけど……怖い……』



すっごく有能だけど、すっごく悪意に満ちてるフォシュさん。いや、あれは悪意じゃないな。純粋な信頼だ。何をどうしたのかわからないが、俺は彼女からの信頼を得てしまったらしい。ならなんでこんな苦労してんの……?あ、やばい。思い出したらイライラしてきた。



「ふ……ふふふ……!!」



どうしてなんだっ!!なんでどいつもこいつも頭が逝ってるんだ!!沸いてんのか!?おかしいだろっ!!何が「これくらいできると思った」だぁあああああ!!俺の身体能力は言うほど高くねぇええよぉおおおお!!!



大体なんなん!?連携って言ってるじゃんっっ!?!なんでまず突撃すんの!?突撃するやつをフォローするのは連携じゃないっ!!そりゃただの補助なんだよぉっ!!



アプトンもだ!おかしい!俺はもっと安定性欲しいのになんでお前もバフくれないの!?初対面の時あれくれたじゃん!エアクッションってやつ!めっちゃ助かるの!あると動きやすいの!なんでお前もフォシュも辛い時に限って無反応なんだぁぁぁあああああ!!



「はぁーっ……はぁーっ」



落ち着け、落ち着くんだ俺。いくらフォシュが俺への攻撃ばっかり防御してくれないどころか促していても、怒るのはまだ早い。アプトンは戦闘中の要求ガン無視だしハンターはそもそも連携ガン無視だし……。



「これ、連携無理では?」



言ってから慌ててブンブンと首を振り頭からその考えを消す。だめだ、その考えに至ってはいけない。



「……はぁ。明後日もトレーニングあるんだよなぁ……それを終わらせたら、いよいよ本番、か……」



思い出すだけでも身震いする。武者震い?普通に恐怖による震えだよ。あの時は鎧袖一触でぶっ飛ばされたからなぁ。トラウマとはいえ、俺もある程度はあの時より強くなって、恐怖に対する耐性もできた。



最近はどっかのトリオのせいで別の意味で恐怖耐性がついているが、些細な問題だろう。感謝はしない。むしろ恨んでやる。



「そろそろ、ベフェマと落ち合う頃か。近くに待機しているから遅れることはないだろうが……念の為早めにいっておこう」



のそりと緩慢な動きで体を起こす。外では珍しいことに雨が降っている。本番の日ができれば雨天であって欲しいんだが……まぁ、いいか。



「雨なのは僥倖だな。回復ができる」



ここら辺は洞窟が多い。いや、この火山自体が洞窟が多いのだが、ここら一帯は特にそれが顕著だ。だから熱から逃れる場所も多いわけで……体力の消耗はなるべく抑えてきたが、そろそろ限界も近づいてきた頃だ。火山地帯だとやっぱり体力調整が難しいな。



「うん、いいな。俺は雨男だったし……眩しい晴天よりはマシだ」



ザザ降りだな。バケツをひっくり返したような、とまではいかずとも、結構な量の雨だ。火山地帯に雨とかあんまり詳しくないが大丈夫なんだろうか?爆発とか起きたりしない?え?馬鹿の発想?悪かったな俺は馬鹿だよ!!



「さて……ベフェマとはあっちだでの合流だったか」



別に急いでいるわけでもないので歩きながら思案をする。軽い勢いでベフェマには頼んでしまったが、やはりこの辺りに限らず、火山全体をみていると、工作の達成は難しいかもしれない。竜だったから多少は効率がいいかとも思うが……。



「まぁ、100%は求めていないし、そもそもない可能性だってあるわけだし」



言っていて思うが、それはないだろうなと思う。白虎もそうだったが、四体のボスにはそれぞれ特徴があって、それに相応しい切り札もある。白虎の場合は霧創領域だったが……今考えてみるとあれは少し違うかもしれないな。あいつは光という明確な特性があったし……。



「そして、朱雀は……」



皆まで言わなくてもわかる。そして、シンプルだからこそ強いというのは往往にしてあるわけだな。正直、シンプルな能力なら万能性に富んでいるからもっと器用貧乏であって欲しいんだが……高望みしすぎですか、そうですか。



「ははは……俺は格下の雑魚ってか、コラ」



そうですね、一人で虚空に向かって話してる俺は痛い奴ですね。いいだろ別に、孤独ってのは辛いんだぞ。



『……何言ってんの、なーの?』



「うぉう!?!」



びびびびっくりしたぁ?!



『びびびびっくりしたぁ?!』



『別に会ったからって念話に切り替える必要なんて……まぁいいなーの』



ごめんなさい。俺は怖がりのチキンなんです。あー。唐揚げ食べたいな。俺の国はあんま人気じゃなかったけど、あれもなんか日本の食べ物だったかな?俺の口が好きなのってそこのなんだよなぁ……もしかして俺、生まれる国間違えた?



『下らそうなこと考えてる顔なーの……オールさんに似ていくのやめろなーの』



『いや、あいつ、はない』



すごい奴だと思ってるし、俺より明確に格上だってことも理解してる。けど、あのトロール大好きマイペースガチャ狂いはちょっと……言ってて思ったけど酷いなおい。



『はぁ……進捗を伝えるーの。目標は六割型達成。竜の体は存外便利なのね』



『……びっく、りだな。思っ、たより、進みが、早い』



正直、四割言ってればいい方だと思ってたんだが……というかどういう基準で割合決めてんだ?いや、とりあえずは信用しよう。決して基準が全くわからなかったから丸投げしたとかじゃない。



『この分だと余裕で朱雀戦は間に合うのね。ぶっちゃけハンター?とかいう奴らと共闘はしたくないから、戦うなら後ろからハンターごとだけど、どうするーの?』



それは困るなぁ……それで殺し切れるならいいんだけど、って、仮にも元人間社会出身なんだし、よくないと思うんだよなぁこういう物騒な思考。



『……別に否定するわけじゃないけど、この世界で物騒な思考ができない奴は生き残れないと思うのよ?特にあいつら絶対敵対するし、こっちから先手打つーの』



『それ、も、そうだ、な……』



ど正論だな。俺も善人ぶって他人の死を厭って代わりに死ぬつもりは毛頭ない。元々切り捨てるつもりで動いてたんだ。もうそれでもいいかもしれないな。振り切れちゃえ。あぁ、でもそうだ。



『できれ、ばフォシュ、は、殺さ、ない、でやっ、てくれ』



『……誰なーの?』



まじか……まぁ、嫌いな奴らのことなんて覚えてたくなんてないもんか。仕方ないわな。



『顔面、がバーニング、し、てる、なんちゃって、火、属性ネズミ、だ』



『……思い出したけど、そのワードパワーワードすぎないなーの?属性が……』



ベフェマが苦笑気味だけどちょっと笑ってる。珍しいな。え?爬虫類顔をどうやって判別してんのか?……勘?



『なんで首を傾げてるーの?』



『わからない〜の』



『!? まっ、真似するなーの!!しかも流暢だし!できるならずっとそうしろなーのっ!!』



おぉ、なんか感情表現豊かだな。思ったよりは堅物じゃないみたい。



『そ、ん、な、こ、と、よ、り!!結局どうするーの!?もう後ろからパイルバンカー開けるくらいの勢いで開幕ブレスしていいーの!?』



『……開幕はだめだ。ある程度、戦力、修正、を、してからだ、な』



『じゃあ、それが終わったらブレス叩き込んでいいーのね?あのにっくき顔にぶちかましできるのね?』



なんでそんな恨みかってんだよハンター……あれぇ?おかしいな。こいつとハンターあってる期間ほぼないはずなのにここまで陽気に脱害宣言されてるぞ?これ一周回って仲がいい……(迷走)?



『……いい。が、フォシュ、は、外せ。その、後は、乱戦に、なるだろ、うが……でき、れば、トリオが、弱まった。ところからが、乱戦に持ち、こみたい。楽だし、使い潰す』



『わぉー。結構鬼畜なーのね。オールさんなら爆笑してるーの』



お前の中でオールは一体なんなんだ……魔王か?魔王なのか?そして俺は鬼畜ではない。



『と言っても……なんでフォシュを外すーの?理由でもあるなーの?』



『……なん、となく、だな』



「ふーん」と興味なさげにベフェマが呟く。悪いが理由は言えないな。だって理由言うとフォシュが後で怖い感じで迫ってきそうなんだよ……普通に考えてここでの会話を聞いているはずもないのだが、妙に怖いからな……。



『まぁいいーの。トリオの処遇はそれでいいから、そろそろ朱雀本体の戦力も知っておきたいーの。前聞いた気もしたけど、詳しいのは聞いてなかったはずなのね』



『……ふむ。俺もほ、とんど、知らないが……あいつ、の攻撃は、基本、全部即死級、だ。だから、直撃、はダメだ。死ぬ。が、少なく、とも一つは追尾、攻撃を、持ってる。後、は範囲攻撃、一つ。ただ、どれも、全て派手だ。予兆、がわかる分、回避しやすい、だろうな』



『げぇ……言うてそんな情報持ってないなのね……でもまぁ、派手だって言うならそれは明確な欠点なのね。それを基に対策をするとなればーー』



『まぁ、こうする手もーー』



話してて思ったが、やはりベフェマもオールも俺より頭がいい。しかもオールはまだしもベフェマは結構な頭の回りようだ。正直、気を遣われている気すらするし、少しそこが歯痒い。



『ーーじゃぁ、そう言うことでいいなのね?』



『あぁ、そうだ、な』



時間としてはそこまで経ってはいないだろう。けど、なかなか有意義に作戦は立てられたように思える。まぁ実際どうなるか知らないし、そもそも俺はオールみたいに綿密なのは立てられないからその場のアドリブありきのものだ。



だが流石にそれだけだと回らないだろうから色々とベフェマには頭を捻ってもらった。うん、高IQがいると助かるな。丸投げってやっぱ最高。



『それじゃあ、わたしは工作続けるから、本番は頑張るのね』



『一応、お前も、働く、こと、になる、だろ、うが、な?』



『お前言うななーのー』



軽い感じでベフェマは去っていった。のしのしと普段とは全然違う体重なので音がすごい。こうしてみるとやっぱりベフェマの能力も異質だなぁと思う。本人曰く使いづらくて叶わないとのことだが。



「……帰るか」



ふぅと息をついて緊張を解させる。自然と肉声が出てきた。まぁ今の俺に肉要素ないんだが。



「……これからどうするかな」



今の所予定は明後日までは何もない。だからと言って何もしないなんてあり得ないわけで。けれど今の所進化も称号進化も目処は立ってないわけで。当てもなくレベル上げでもするかと漫然と考えている時……。



『……何してるの?』



『……(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)』



今日はどうやら厄日のようだ。ちょっと遠くのところから声をかけてきたさっきぶりのフォシュに、俺はもはや泣きそうだった。







⬜︎







『……ふーん。じゃあさっきまで、ベフェマ?さんと話してたんだ。道理で見かけないわけ』



『あ、えと、そう、っすね。こう、裏で、色々と、助けてもらう、感じの』



『……頑張ってるね』



『あはは………』



ここは地獄か?いや、風景的には地獄でもあってそうだが、今ここで言う地獄というのは精神的なものだ。即ち……。



会話がっ、続かないっ……!!



どうする?ここでじゃあ帰りますねーって言っても流石に直ぐに帰るのは感じ悪いよな?怖いんだって!なんか顔面バーニングしてるからじゃない無の感情が、すごく怖いの!もっと人間味出して!話しづらいのォ!!



『…………別に私との会話がしづらいっていうのは察してる』



『!?』



そうして上っ面だけ取り繕った中身のない会話をしていると、唐突にぶち込まれた爆弾発言。思わず変な声出そうになった。というか出かけた。え、嘘でしょ?じゃあ俺ができれば帰りたいなーって思ってるの分かった上で会話してたの?



……この人、もしや人が感情抜きで動けると思ってる?



『……すごく嫌そうなのは分かるけど、貴方達には興味が沸いた。ので、色々と知りたかった。悪いとは思うけど、最終的には皆んな自分の方を優先するでしょう?』



あぁ、そう言えばこの人、達観してるんだった。それも達観とかいう域を超えるほどに。それなら分かった上でのこの行動か。



けど、うーん。間違ってはいない、いないけど……やっぱり、俯瞰的に物事を見るっていうのも度を超すと良くないのかもしれないなぁ。視点が違いすぎるっていうのはどこか異質で、同じ元人間とは思えないほどだ。



それでもなぁ……確かに怖い。怖いけど……それだけじゃないんだよな、この人は。怖いんだけど、なんだかほっとけないというか。



『……それが本当のことでも、言われると快くないと思うというのも分かる。けど、どうしても皆んなに合わせることはできないし……何より、もう疲れたから。ごめんね、気を遣えなくて』



『………いえいえ』



別に俺もまだ感情の整理つけられたわけじゃないが、なんとなく。合ってるかどうかわからないし、フォシュを定義するとしてこの言葉は正しくないのかもしれないが……



ーーあぁ、この人は、迷ってるだけの一人間なんだなぁ。



率直に言えば、そう思った。どこまでも純粋で、どこまでも濁っている。そんな目をしている目の前の顔面バーニングネズミには相応しくない表現なのかもしれないが、俺からすればそんな評価に落ち着いた。



理由も、きっかけも知らないしわからないが……直感に従うことにした。どうせ俺頭良くないし。



『いいん、じゃないで、すか?合わ、せなくても。わかりすぎ、ることは、悪いことじゃ、ないでしょう。そりゃ、他の人、と、話は合わないか、もしれないですが、そういう、人とは、ビジネスライクに付き合えば、いいじゃないですか。理解して、くれる人と、仲良く、すれば、いいだ、けの話、でしょう』



じーっとこっちを見てくる目がやけに痛い。ごめんなさい。俺頭良くないから上手いこと言えないんですよ。そりゃフォシュは分かりきってることを何を今更的な感じで思ってるのかもしれないけど俺はちゃんと考えた上での考えをですねーー



『……成程、一理ある。じゃあ、私は貴方と仲良くする』



『??????』



あれ?俺の耳が急に誤情報取り込み始めたかな?もしかして水による耳の部位模倣に欠陥が出たか?耳とかそう言えば水を含む場所があったし壊れてもおかしくはーー



『貴方は、十分私を理解している。貴方は、私が物事を分かりすぎていると言った。それは非常に的を得ている言葉。貴方は、私のように俯瞰的に物事を見たりしないのかもしれない。達観した見方もしないのかもしれない。けど、私の性質を少しでも理解して、それを肯定している。貴方の理論に基づくなら私は貴方と友好関係を築くべき』





言い出しっぺの法則というものがある。提案したやつが最初にその提案を試してみろ的な、そういうやつだ。さて、ここでいうその法則はどのように当てはまるだろうか?



うんうん、そうだね。俺が理解者になるんだね、フォシュの。













                      /(^o^)\











⬜︎







あれから十数分後。やけに機嫌良く(当人比)帰って行ったフォシュを見届け、拠点に帰ってきた俺は早くも寝床(ただの布)にダイブした。布の下は普通に地面だったので痛かった。



「………こりゃ本格的にフォシュは害せないなぁ」



脳裏には今もふんふん面白い面白いと頷きながら当然のように理解者になるよな?(圧)的なことを無言で迫ってきたフォシュの姿が今も過っている。くっ……!やはり先を見通す高IQには敵わないというのかっ……!



「いや単純に俺が自爆しただけか」



ぬぁあああああ!!!なまじ勝手に自分がやらかしたことだから誰に怒りをぶつけることもできないっ!!



いえね?そりゃ確かに迷子の人みたいだなぁとは思った。怖い怖い言いながらもなんとなくフォシュを気にかけていた理由もわかったし、ある程度は力になるべきかなとは今も思ってる。



『でも、怖いという思いも消えてないんですよ……!!』



そう、そうなのだ。確かにある程度の関わりは持とうと思っていたが、これは想定外なのだ。友人になるのを拒否とかしようというわけじゃない。



実際、残りのトリオと違って、ちょっと特殊なだけでフォシュは一般的には関わってもマイナスどころかプラスな要因になりうるいい人なのだろう。



だが、特殊性はそのままなのだ。せめてもう少し時間をかけて、フォシュをもうちょっと理解した上で、怖くないと思えるようになった上で、友人レベルの関係値に達することになるのかなぁと漠然と考えていた俺からすれば今回のこれは性急すぎる。



「まぁ考えても仕方ないことか……ちょっと早くなっただけだし」



再三言うが、別に俺はフォシュとの友人関係を拒んでいるわけではない。ちょっと時期が早くてびっくりしただけなのである。



「……はぁ。しゃーない。こうなりゃ作戦にも影響与えるだろうし、早いうちに変更をしておくか。ベフェマにももう一度連絡を取らないといけないな。あいつ今どこいるかなぁー……」



やるしかない。俺は知り合い程度の印象悪い奴らなら切り捨てられるが、友人レベルの人間まで切り捨てられるほど冷徹じゃないんでね。



洞窟から見える外の景色は、どうやら雨が上がっているらしかった。

( ):友情パート?

(裏):口下手虎と、察しの良すぎる火鼠……あれ?

( ):これ、案外相性いい……!?

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