毒りんご
( ):投稿遅れてしまいッッ、申し訳ございませんでしたァァァァァアア!!
(裏):え、うるさ……。
⭐︎⭐︎⭐︎ 【絶命刀】 オール・フォルタム
実を言うと、『果実散弾』と言うスキルについて、私は結構上手く使うことができたりする。それも最初から。
『果実散弾』は果実を生み出してそれを射出するスキルだ。いろいろな効果をその果実に付与できると言う点は私が持っていなかった効果だけれど、果実を、正確には己の体の一部を変形させている私からすれば、このスキルは使い勝手が似ていて、扱いやすかったのである。
「最近色々果実とかに関して調べてたのも功をなしたよ、ほんと。白虎に食わせられないかなーって思って色々と試行錯誤した結果が今になって活きてくるとはね」
何が起こってるかわからない様子の幾何学円さんを見ながら私は距離を取る。まぁ、本来なら距離を取っても認識されて光線連打されるだけなんだけど、この二つの霧を発生させた今なら違う。なんせ私が見つけた特製のりんご二つだからね。
こんなんでも私は青の龍宮にいた一ヶ月を除けばずっとあの気色悪い森に留まっていた。それだけの時間があれば、いくら白虎だの猩々だのと死闘を繰り広げてても日常的に探索しているうちに思わぬ収穫があったりする。
「このスイトリンゴとキリンゴもそのうちの一つだったってわけさ」
吸い取りんご、霧りんご。ダサすぎるネーミングセンスで名付けられたそのりんごたちは、今でも私の脳内に強くこびりついている。だってこいつら名前の割に超有能なんだもん。
「微量ながらも魔力を恒常的に吸収し続ける霧を発生させるりんご、視界を妨害させる霧を発生させるりんご。えぇ、白虎相手には通用しなかったよ。試すまでもなくわかった。なんせこのりんご、魔力を吸い取るとは言え体内に存在する魔力とか物理的に遮られてる魔力は効果範囲外だからね」
確かに効果は強い。けれど、白虎相手には相性が悪かった。白虎は素早く動いて即座に範囲外に逃げられるし、そもそも普段は魔力を体外に放出することが滅多にない。私が生み出したりんごも森で見つけたものを模倣して生み出しているからもちろん特性は受け継いでいて、今生み出したこのりんごでも、同様に白虎には効かないだろう。
「でもね、思ったんだよ。煙幕も、吸魔効果も白虎には通用しなかった。けど、君相手なら?魔力で体を構成している君なら、どうなんだろうか?ってね」
霧が空間全体を覆っていく。同時に、それまでこちらを明確に認識していたはずの幾何学円さんが急に私を見失ったかのようにキョロキョロと体全体を傾け出す。
「やっぱりか……幾何学円さんは魔力で体を構築している。なら、外敵などの確認も魔力を用いて判断しているんだと思ったけど……想像通りだね。もし、これで物理での観測手段があってもそれはこのキリンゴで対策済み」
光が一瞬煌めき、すぐに霧に溶けたかのように小さくなって消えていく。当然だ。光だって魔力を用いて発生させている。大元の魔力を吸い取って仕舞えばそれは意味を成し得ない。
スイトリンゴの本質は、魔術師殺しだ。今回みたいな体まで魔力でできている相手には本当に強いけど、普通は魔術やら魔法やらを使っても余程の魔力を込めないと発動すらできないこの霧は厄介どころの話じゃない。
「白虎の時の相性が悪すぎたのなら……今回のりんごは相性が良すぎたね」
悲鳴を上げるかのように濃い霧の中でも幾何学円がその身を明滅させる。私もいつ全力でのヤケクソ攻撃が来るかはわからないから迂闊には近づけない。近づいてステータスを見たいところだけど、今回ばかりはリスクが高いからね。リターンもなまじ大きそうなのが悩むところだ。
そのまま臨戦体勢で待つこと一分。程なくして明滅、本人的には痙攣していたのだろうそれすら消えて、花瓶が落ちて割れたような音と共に、幾何学円があっさりと崩壊した。
『条件を満たしました。レベル74へ上昇しました。』
「……ふぅ」
後ろにいるメリー君をみて安全を確認。『果実散弾』のスキルを経験値に再度還元してスキル消去。同時に、大元のスキルが消えた影響で霧も薄れていく。
「なんとかなった、ね……うわぁ。ボロボロになっちゃった。最初見た時はすごく綺麗そうな壁だったのに、残念だなぁ」
レベルが上がったってことは自動迎撃システムとかそう言うのじゃなくて、ちゃんとした魔物の一種だったってことか。ここってもしかして霊体系の魔物が多いのかな?天使とかもそれ系っぽいし。肉体はあるけど。
できれば観光もしていきたったんだけど、どっかの幾何学円さんがばかすか光線打ちまくったからなぁ。だめかぁ。
「仕方ないから帰ろうか。なんとかなってよかったけど、経験値一回増やさないとだから、次の塔までは少しかかるね……ん?」
一瞬、視界の隅で何かが揺らいだ気がした。即座に銃口を向けるが、何もそこにはない。ボロボロになった外壁と、奥に傷一つない扉があるだけ。……そう言えば扉は調べてなかったね。
今のことも警戒しないとだし、正直気が乗らないけど、やるかぁ。
「……メリーくん。いざとなったら即座にエレベーター乗るんだよ?私も駆けつけるから気にせずとにかくボタンポチるんだよ。いいね?」
『Q゛』
メリー君が逃げられるよう私の背後に彼をおく。そうしてそろりそろりと扉に近づく。そっとドアノブに手をかけ……一気に体重をかけて蹴破る、蹴破……破れないな。
「えぇ……もしかして鍵とか必要?それならそっちも探さーー!??」
轟音が響く。咄嗟に腕を肥大化させて盾にする。衝撃が体を走る。飛ぶ?!と、ばない!!踏ん張れ!落ちる!ここ端だから、しかも壁開いてるから落ちる!!
「っぐぅ……!?」
パラパラと上から降ってくる瓦礫を跳ね除け、なんとか降りかかるもの全てからメリーくんを守り切る。
「敵!?連戦はきついかなぁって……あれ?」
腕を元に戻し、そーっと奥の方を伺う。瓦礫に埋もれ、けれど扉の周りだけは異様なほどに何も落ちてきていないそこには、すごく力を込めたのにびくともしなかった扉が開いていた。
「あれは……」
キラキラと輝くあの光の結晶っぽいやつは……あぁ、記憶の欠片か。
「メリーkun!!!」
言われずとも駆け出したメリー君が結晶を取り込んだ姿を目視すると同時に、塔が一際大きく揺れる。やっぱりかっ!!
「崩壊する!早く降りるよ!この際エレベーターとか使ってる暇ないから!」
『Meaow!』
肩に乗ったメリーくんの体勢を気にする暇もない。すぐ目の前に瓦礫が落ちてきたのを確認し、それから上を見て舌打ちをかます。
「こういう時の悪い勘ってほんっとよく当たるなぁ!?嘘でしょこの短期間でこんなすぐ崩壊して溜まるかァッ!おかしいっっ!!どう考えてもこのレベルの建築の耐震構造としておかしいぞぉおおおおお!??」
わぁあ落ちてくるの早過ぎっ、空いてる壁は……あそこ!ちっ、瓦礫が、んのっ、邪魔ァ!
「私の筋力を舐めるなよ……!違法改造(違法じゃない)したこのムキムキの腕にどかせない瓦礫などうわぁあああ!?」
ちょっ、もうほぼ天井は崩壊してるようなもんじゃん!なんでまだ落ちてくんの!?悪意感じるんだけど!これもう必然だろっ!嫌な必然だなぁああ!!ーーえ?
瓦礫をどかしつつ、なんとか壁際まで来て脱出も間際という時、イライラしながら上から降ってきた瓦礫を弾き飛ばしていた私は見た。いや、見てしまった。
『Keeee』
うんうん、鷲だね。でっかいね。なんかどう考えても適正レベル以上のボスと出会った感じ?うん、偶然じゃないね。明らかに上に飛び去ってる感じだね。それも位置的にこの塔からだね。
「もしかしてまだボスいたぁああ!?」
おいっ、落として上げての後にもう一回落とすのは違うじゃん!!嘘でしょ結局2戦目あんの?!
「……あ」
腕が強張り、覚悟を決めようとした時、悠々と上空へと一直線へ向かっていた鷲がふとこちらを見た気がした。
「ッッッ!?!?」
止まりかけた足を叱咤して迷わず塔の外に身を踊らせる。明らかに冗談を考えている場合ではない。あの気配はどう考えても青龍や白虎並み……いや、或いはを考えるほどに強大な気配だった。
「……余裕だねぇ。腹立つわー」
幸いにも、なんて思ってしまう自分に腹が立つ。そこそこ死闘は経験してきてるけど、それでもまだ絶対に叶わないなんて存在が白虎達以外に見つかるとはねぇ……。
「っ……これは……意外と高かったんだね」
背中から翼を生やす。早さ重視だから少々不恰好だけど、滑空程度はできるでしょう。これで着地に問題はない。問題といえば……。
「マジかぁ……あの鷲城行きやがったよ……」
後ろに目を向けると、鷲が悠々と城の方向に向かっていって、そのまま衝撃と共に城の結界をぶち破って中に入っていくところだった。常識外の力だねほんと。あれ利用して城の中入れないかなぁ……。
「あぁ、もう修復されちゃった」
早いなぁ。城の中行ったってことはいつか戦わないとなんだろうけど、なるべくなら嫌だなぁ。
「いや、今はこっちの方だね」
滑空しつつも、拠点としていたホテルの屋上にまで戻ってくる。いや、屋上はダメか。ロビーから普通にいこう。
「………はぁあぁぁあ。つっかれたぁーー」
着地して、ホテルのロビーに入って人心地ついたところでようやく緊張の糸が切れる。魂が抜けるような長いため息には流石にメリーくんも見かねたらしい。ポンポンと肩を叩いて労ってくれる。肩車してるような状態だからこそできる特権だね。
「今日はもう休もうか……後で記憶見せてもらうからね」
『M゛』
⭐︎⭐︎⭐︎ 【剋牙】 ヴェイガー
『……はぁ』
「オラァ!!あっははは!どいつもこいつも雑魚ばっかだなぁおい!?」
「ゴ、ォー……ーー」
キャラ変わりすぎでは?
率直な感想はそれだった。速度偏重のハンターに、天空甲羅という空飛ぶ亀も、流石に小回りでまでは彼女を圧倒できなかったらしい。今も元気に回転しながら宙をかっ飛んでいったが、それでハンターを撒けるようならあんなに傷は負ってないだろうな。
『いや、正確には、ハンターたち、か』
直線運動だけなら天空甲羅の速度は凄まじい。ハンターでさえも引き離して真っ直ぐに飛んでいったっさきには、しかし顔面バーニングしてるネズミことフォシュがいた。
『ーー『威力減衰』』
途端、天空甲羅の速度が急激に落ち、回転が足りなくなったからか、あっさりと天空甲羅は墜落してしまった。
「トレぇなぁ!?サンドバックかテメエはよぉ!!」
トロイんじゃなくてハンターが早いんだよ。客観視足りてねえだろ。これで性格が良かったらなぁ……。
「ハァイ止め!キューティ⭐︎チョップ!!」
「……え!?え!?こっちやるんすか!?魔法はちょっと、わぁあ?!!チッ、我儘野郎が……!」
後半については聞かなかったことにしてやろう。民度悪過ぎでしょこのグループ。もうやだ帰りたい。でも有能なんだよ……ほんとなんなのこいつら。慎みって知ってる???
「あっははは!あー……やればできるじゃん⭐︎魔法使いだからって後ろでふんぞり帰ってんじゃねーぞ⭐︎」
「っ……あ、あはは。できればさきに言って欲しかったなぁ、なんて?」
「はぁ?気ぃ使ってそっちに手柄譲ってやったんだぞ?あ?感謝しろよ。文句あんのかァ???」
「ぅ、い、いえ……」
チンピラだ。もうこいつチンピラだよ。これでこいつが俺より格上だったら陰で泣いてるところだぞ。ストレスデカすぎるって。
『……今からでもベフェマと交代したい』
『ーーーそれは、このグループの居心地が悪いと?』
「!?」
小さく後ろから呟かれた声に、跳ねそうになる肩を最小限に抑えながらゆっくりと振り返る。フォシュさんだからまだマシ!ほら笑顔!え、笑顔!!笑いはみんなを救ってくれる!!その笑顔は引き攣ってるんだよなぁ。
『あ、あー、えーっと、ですね……』
『……バラすつもりはない。やっぱりそうなるか、って思っただけ』
『あー。彼ら、が、好きなら、悪いのだ、が……なぜ、グループに、留まって、いる、ので?お世辞、にも、民度、が良い、とは、いえなさそう、ですが』
『……別に。流され続けたらこうなってた。私からすれば、なんでみんな必死なのかわからないから』
じっとフォシュの燃え続ける目を見る。物理的に熱を持った目をしてる割にその目の奥は随分と冷たい。いや、冷たくもない。温度がないのだ。近くで見ないとわからないほどうまく隠されている。
『生きたい、と、思わな、いので?』
『……わからない。必死に行動することは美徳とも言えるとは知ってる。けど、共感できない。私からすれば、どうせみんな死ぬとしか思えないから』
『ふむ……俺が、生き残れる、と、思ってな、いと?』
『そうじゃない……何を成そうが、誰を殺そうが、いつかは終わりがくるって……そう言ってる。生き残れても、いつかは、終わりが来る。寿命だろうが、なんだろうが』
チラリと騒いでるハンターと、それを宥めすかしているアプトンの方を見る。いまだにさっき投げられたことを気にしているようだ。近くに横たわっている天空甲羅の死骸はそのままにされている。
『あいつら、にも、終わり、が来る、と……そう、思ってる、から、付き合って、られる、ので?』
『……』
『彼らは、強い。きっと、留ま、れば、終わり、と、やら、が、長引く、だけ、だと、思い、ますが?』
ほぅ、とフォシュが息を吐いた気がした。それはやるせ無いような、諦めているような、疲れているような、そんな息。
『……妖精の傲慢も、蜥蜴の陰謀も、すぐに終わるよ。わかるの。こんな性格だから』
『分析能力が、高いので?』
『……違う。そんな頭の出来は良くない。見ればわかるでしょ?私は、もう終わってる。とっくの昔に、壊れてる』
その目は、どこまでもフラットだった。楽しくも無いだろうことを話しているのにも関わらず、全く変動がない。達観という言葉で表せるのだろうか?何を経験すれば、明らかにイレギュラーの連続であるこの箱庭の空間でその凪のような感情を貫ける?
『……』
気になったけれど、聞かない。恐らく、彼女は敵にはならないだろう。けれど、だからと言って味方でもない。教えてもらおうとすると、何か不吉なものに巻き込まれる気がするのだ。
『随分、と、俯瞰的に、見ているようで。そん、な、大人びた、貴女、が、口を、す、べらせない、こと、を、祈って、ます』
代わりに。あぁ、そういえばと付け足して、通じるとは思ってもいない提案を出してみる。
『朱雀、戦が終わっ、たら、俺、らと、組みます、か?案外、合う、かもですよ?』
炎に縁取られた双眸が俺を貫く。何も考えていないようで、深いことを考えていそうな目。およそ常人がするとは思えない無機質な目から必死に逃げないよう目を合わせ続ける。
『……やめとく。面白いことを思いついた。私は最期まで彼らと組む』
『……そう、ですか』
怖ぇ……。正直にいえば、今すぐ喚き散らかしながら全力でどっかに走り去りたい。でも、なんというか、プライドとは違うかもしれないけど、フォシュの前で隙を見せると良くない気がしたから無表情を貫くことにした。
というか面白いことってなんだ?あれか?俺たちを火炙りにするとかか?怖過ぎだろ。俺にはフォシュの考えはわからないから、推測するしかないが、こういうサラッと異常なことを言う奴らは大抵関わっちゃいけない人種だ。
けど同時に有能でもあるのだから困りものなんだがな。勿体無い人材多過ぎだろほんと。無駄をもっと減らせよ。
『……それに、君らとは合わないさ』
どうかなぁ?うちにもいるぞ、オールとか言う異常者が。ベフェマは過去はちょっと普通じゃないけど常識人だし。あぁ、でもそうか。異常じゃなけりゃ英雄とかだって生まれないもんな……世知辛い、いやほんと。
『そろそろ、戻って、おき、ましょうか。彼方、も、落着、したみ、たいですし』
最期まで付き合うつもりだ、かぁ。フォシュの後ろ姿を見ながら少しばかり意味のないことを考える。あの確信したような態度に言動。歳を取ってるわけでもなさそうなのに随分と老獪な雰囲気を感じた。
『どうして、最期をそんな明確に予測できるんだ……?』
普通はもうすぐ死にますと通告されたら焦るし、なんとか死から逃れられないか方法を探るものだろう。それを……。達観していたって、そうなるのか?
『違う、違うな。今考えるべきは、連携して朱雀を倒すこと。別のことを考えているようじゃ勝てるもんも勝てない。っし、次の獲物行くか!』
フォシュたちがこちらを待っている。まだまだ学ぶことはありそうだ。俺は一歩を踏み出した。うげっ、天空甲羅のせいでめっちゃ地面熱い……。




