ログイン・ヒーロー⑨
どうしてこうなったのか、姫導ヒロはそんな事を考えていた。
勇心トモキと購買に向かおうとする中で菱倉マナトの言葉に何も言えなくなっていたはずが気がつけば姫乃ユリナに連れられエントランスホールの一角に集まる少女たちのグループに参加させられようとしていた。
何故なのか?
何故なのだ?
いつものように仲のいい勇心トモキや菱倉マナトと昼休みを過ごすと思っていた彼の思考の中は疑問しか無かった……
「姫導くん、ここに座ってね」
どこかのクラスに割り振られた掃除当番の誰かがおそらく掃除しているだろう綺麗なエントランスホールの一角というか片隅に集まっていた4人の少女と愛姫エレナはご丁寧に持参してきただろうレジャーシートを敷いた上で座ってそれぞれ持ってきた昼食を広げており、姫乃ユリナは姫導ヒロの気持ちなどお構い無しに座る場所を伝えて彼に座るよう促す。
座ってと簡単に言われても男子高校生の友情の上で生活をしてきた彼の心情として大人しく素直に座れるほどの余裕など無く、少女たちの視線が自分に向けられるという気まずさに負けた事でようやく観念した彼は座るよう指示された場所に正座してしまう。
「姫導くん、楽にしていいんだよ?」
「えっ、あっ……はい」
彼が何故正座したのかよく分かっていない姫乃ユリナは彼に楽にするように伝え、楽にしていいと伝えられるもこの状況を理解し受け入れられていない彼はぎこちない返事をすると少しの時間差とともに胡座をかく座り方に直すが、楽にしていいとは言われたものの状況が状況なだけにどうしていいのか分からず緊張から沈黙してしまう。
そんな彼を見兼ねてか姫乃ユリナは彼の隣に座るとこの場を仕切ろうとし、まずはと姫導ヒロの事を皆に紹介しようとした。
「えっと、皆に話してたんだけどこの人は姫導ヒロくん……昨日アマネが話してくれた噂の事で少し縁が出来た人です」
「あっ、えっと、姫導ヒロ……です」
「……」
「……」
姫導ヒロの事を簡潔に皆に紹介する姫乃ユリナ。彼女の説明は昨日のあの不可解な出来事について触れずに話そうとした上で別にどこも間違ってはいない内容であり、それをすぐ理解した姫導ヒロも彼女の説明の内容に触れずに改めて名乗りそれを挨拶としようとした。
……のだが、2人の言葉を聞き終えた少女たちは何故か反応を見せず、少女たちの無反応を前にした姫導ヒロと姫乃ユリナは何かおかしかったのだろうかと少しずつ不安を感じ始めてしまう。
不安を感じ始めてしまう2人だったが、そんな2人の不安を察知したような絶妙なタイミングで1人の少女が姫乃ユリナのした彼の紹介について恐る恐る指摘した。
「ユリナ……姫導くんは同じクラスだから私たち知ってるよ?」
「あっ、そっか……」
「うん、どっちかというと多分私たちが姫導くんに自己紹介しなきゃダメだと思うから逆だとおもう」
「そうだよね……姫導くん、ごめんね。紹介し直すね」
「えっ、あっ……なんか、すいません」
「姫導くんは気にしないで大丈夫だよ!?それより……だよね。順番に紹介するね。えっと、じゃあ……最初は今指摘してくれた子から。この子は桃園リオナ、オシャレな人です」
「えぇ、そんな紹介されるの……?まぁ、よろしくね、姫導くん」
「あっ、はい。よろしくお願いします」
先程彼と共に彼女の抱いていた不安を拭うような一言伝えてくれた肩までの長さの茶色の髪の少女が最初に紹介される。紹介の仕方に少しの不満があるらしいが少女……桃園リオナはそれを吐露しつつも彼に挨拶し、姫導ヒロも緊張のせいか言葉が固くなりながらも挨拶を返した。
姫導ヒロが紫倉ランの挨拶に緊張しながら言葉を返すと姫乃ユリナは間髪入れずに次の少女の紹介を始めてしまう。
「で、姫導くん。こっちの子が姫音リナ、その隣の子が姫凪マリナ、さらにその隣の子が麗月レイラって言うの。3人とも優しい子だから姫導くんもすぐ仲良くなれると思うよ」
「ユリナ?私たちの紹介雑過ぎない?」
「私たち、まとめられて……」
「ユリナ、それはひどいわよ?」
「仕方ないでしょ!?だって全員の事細かく説明するの時間かかるんだし……」
急に手抜き感が否めなくなった姫乃ユリナによる3人連続紹介についてその対象とされた3人は各々小さな不満を口にするも彼女は仕方ないと言って3人をどうにか納得させようとする。
少しの雑さがあったとはいえ姫導ヒロは彼女の紹介した3人を名前とともに認識し記憶しようとした。
3人連続紹介で最初に紹介されたのは姫音リナ、彼女は腰まではあるだろう長い赤髪の少女で彼と対面する位置に座っていた。その隣に座る少女の名が姫凪マリナ、紫色の長い髪の大人しそうな雰囲気の少女だった。そして、姫音リナの隣に座り、彼からすると自分の隣に座っていることにもなる少女が麗月レイラと紹介された少女だ。腰まではあろう深紅と表すべきだろう濃い赤い髪、左側にだけお団子をつくるような髪型をしたモデルのような雰囲気を感じさせる……という風に彼は姫乃ユリナが紹介してくれた少女たちの情報を読み取っていた。
4人の少女の紹介が姫乃ユリナによって行われ、紹介された4人の事を姫導ヒロはひとまず記憶しこれからの学校生活における交流に活かそうとポジティブな思考を働かせようとする……が、やはり状況が状況なせいで落ち着いて受け入れ思考を働かせるなど難しかった。
こういう場合、この状況に慣れてそうな勇心トモキがいれば場を和ませるだろう。仮にそれが菱倉マナトだったとしても冷静な彼ならば自分とって違って落ち着いた様子で話を進めるのだろうと姫導ヒロは考えながら自分の不甲斐なさに落胆しようとしていた。
そんな時だった。彼は2人の親友の事を考えた直後にもう1人の親友の事を思い出すとその親友について姫乃ユリナに尋ねようとした。が、彼が尋ねようとしたそのタイミングで思わぬ介入が来て彼の求めるものの答えが示されてしまう。
「ユリナ、探してみたけど守上くんの姿が見当たらないわ」
姫導ヒロが質問しようとしたタイミングでそれの答えを示すかのようにタイミング良くこの集まりに1人の少女が参加しようと遅れてやって来る。
黒髪を頭後ろで赤い髪紐にて結っている少女、歩く姿はモデルがランウェイを歩くかのような優雅さと美しさを感じさせ、彼はそんな彼女の姿に目を奪われていた。
が、彼女の口から守上ダイキの名を口にした事を耳にして我に返ると彼女から事情を聞き出そうとした。
「あ、あのっ!!ダイキを探してたんですか?」
「あら、姫導くんはもう来てたのね。初めまして、咲宮サクラよ」
「え、あ、はい……」
(なんか、スゴいスムーズに自己紹介された)
「守上くんの事よね?ユリナとエレナが昨日の事で話すならって事で私が探しに行っていたのよ。見つからなかったから1度ここに戻ってきたのだけれど……行きそうな場所に心当たりはあるかしら?」
「えっと……トモキとマナトが購買に行ってるんですけど、もしかしたらそっちの方に行ってるかもです」
「購買の方は見に行ってないからその可能性はありそうね……ユリナがそっちの方に行くと言ってくれたから探しに行くって考えが無かったわ」
「あっ、ごめんねサクラ。でも勇心くんと菱倉くんには出会ってるから姫導くんが言う通りに守上くんが出会ってたら一緒に来るかもだね。私、2人に場所伝えたから」
「そうね、それなら探しに向かうのは悪手ね……じゃあ、ここで待たせてもらおうかしら」
遅れてきた少女……咲宮サクラは守上ダイキを探していたと伝え行きそうな場所を姫導ヒロに尋ねるが、心当たりの無い姫導ヒロは答えに少し戸惑うももしかしたらの可能性について勇心トモキと菱倉マナトの名を挙げながら語り、2人と既に出会っていた姫乃ユリナがここを伝えていると知らされたそれならばと咲宮サクラはここで待つと話すと姫導ヒロの隣に座ると咳払いをする。
咳払いをした彼女は姫導ヒロの顔を見つめるような視線を向け、そして……
「姫導くん、昨日起きた事を話してもらえないかしら?」
「え?昨日の事、ですか……?」
「隠そうとしなくていいわ。私たちは昨日の夜にユリナとエレナから少し事情を聞いてるの。信じられるかどうかで言うと半信半疑だけど……アナタがもしユリナたちと同じような内容を話してくれたとしたら疑いが晴れると思ってるのよ」
「……そう、ですか。話すのは全然、大丈夫です。でも……聞いてたらおかしな事を言ってると思いたくなるかもです」
「大丈夫よ。心配せずに話してくれると嬉しいわ」
単刀直入に昨日起きた事を話して欲しいと姫導ヒロに話す咲宮サクラ。彼女のその言葉に戸惑いながらも話さなければと考えた姫導ヒロは最悪を避けるように確認の前置きをし、咲宮サクラが大丈夫だと返すと姫導ヒロは静かに深呼吸を小さくすると昨日起きた事を自分の視点で明かそうとした。
「分かりました。じゃあ、まずは昨日オレがトモキたちと体験した事から話します」




