ログイン・ヒーロー⑩
勇心トモキと菱倉マナトは購買からここに来る途中だろう。その道中で守上ダイキと合流していれば……
2人と出会っていなければ改めて探す必要があると頭の片隅で考えてしまう姫導ヒロは咲宮サクラに促されたのもあって昨日起きた事……姫乃ユリナが聞いて話で呼ばれていたとされるワンダーワールドという名を仮の呼称とした不可解なあの場所に自分が勇心トモキたちと迷い込んだ事、迷い込んだ先で怪物に追い掛けられ逃げていた姫乃ユリナと愛姫エレナを目撃した事、そして自分は助けなければと思い助けようとした事、ワンダーワールドと呼称したワンダーワールドから元いた場所に戻った後に把握している情報の共有を行った事を全て話した。
が、姫導ヒロが語る内容には彼自身が怪物を倒した事とそれを可能とした力の事が語られず、それがあったからこそ無事に戻れたと強く感じている姫乃ユリナと愛姫エレナは彼の話に割り入る形で補足の説明を行った。
昨日起きた事の説明としては彼女たちの補足説明の終わりと共に説明完了という運びになったが、姫乃ユリナと愛姫エレナが補足説明した怪物を倒した事とその力について把握した咲宮サクラは少し考えた後に姫導ヒロに素朴な質問を向けた。
「姫導くん、その力っていうのは今使おうと思えば使えるのかしら?」
「あっ、いや……多分無理だと思います。昨日帰った後も今朝も試そうとしたんですけど、何も起きなかったんで」
「そうよね、ありがとう。もちろん、使えないかもとは思ったのだけれど念の為に確認させてもらったの。アナタのその力について考えると少し最悪な事を考えてしまったものだから」
「最悪な事、ですか?」
「えぇ、アナタのその力がもしこちらの世界でも使えるとしたら怪物は逆にこちらに来れる事に繋がるんじゃないかって少し考えたのよ」
「えっ、オレ……そんな事考えもしなかったな」
「それはアナタがユリナたちとワンダーワールドって所に迷い込んで混乱してたってのもあると思うわ。私はただアナタの話を聞いて冷静に考えられる余裕があったからその考えを持てただけだから気にしないでほしいわ」
「は、はい……というか咲宮さん、ワンダーワールドの事半信半疑にならないんですか?その、オレが言うのもアレなんですけど……咲宮さん、オレの話聞いてもすんなり受け入れてる気がするんで」
「あぁ、それは……話忘れていたのだけれど、ユリナとエレナにワンダーワールドの噂の事を話したのは私だったの」
「咲宮さんが2人に話した……その噂が本当だと確認出来たから落ち着けてる、て事?」
「言い方が気になるけど合ってるわ。それより姫導くん、敬語やめていいわよ?普通に気楽に話してくれると嬉しいわ」
「え!?あっ、はい……あっ、ごめん」
「こんな場所に男1人で緊張するのは分かるけど私たちクラスメイトなんだから気楽にいきましょ」
「はい。それで、咲宮さんは今のオレの話した内容で噂が現実だって分かったんだよね?何か感じた事とか無いかな?その……噂を話した時に口にした内容と実際に姫乃さんたちとオレらが体験した事がズレてる感じがする、みたいな」
「難しい質問ね……姫導くんの説明とユリナとエレナの話を聞いた感じだと私が話した噂の内容と差異はないように感じられたわ。ただ……強いて言うなら姫導くんが手にしたっていう怪物を倒した力っていうのが不思議ではあるわ」
「やっぱり、だよな……あの時の力、アレが何かさえ分かればいいんだけど」
「申し訳ないのだけれど、噂として聞いたのは鐘の音を聞いたらっていう内容だけなの。アナタが求めるような答えは返せそうに無いわ」
姫導ヒロの説明と姫乃ユリナ、愛姫エレナの補足説明を受けた上で感じた疑問について彼に尋ね答えをハッキリさせた咲宮サクラはワンダーワールドと呼称する不可解なあの場所の事をすんなり受け入れており、その理由が気になった姫導ヒロが尋ねた事で彼女が姫乃ユリナと愛姫エレナに噂の事を話した人物だと判明した。
そこから彼女の聞いていた噂の事、説明した内容を照らし合わせ不自然な点や違和感が無かったかを尋ねる姫導ヒロだったが、彼はそこからあの場所で怪物を倒した力が何なのかの答えに繋がるものを見つけ出そうとしていたらしいが咲宮サクラはそれを察したらしく求めるものは返せないと申し訳無さそうに言葉を返してしまう。
ここまでで昨日起きた事を共有し、噂として話された内容が事実だった事とその噂の通りになった状況の中で姫導ヒロが危機的状況を打破した事実を伝えられた。
ひとまず話にまとまりが見えたその時、購買に行っていた勇心トモキと菱倉マナトが購買で買ったものが入ってるだろうビニール袋を手に持ってこの場へ到着し合流しようとする?
2人が来た事で男1人で少女の輪の中にいる状況から脱せられると安心感を微かに抱いた姫導ヒロだったが、2人だけが到着したという状態を前にして彼は2人に守上ダイキの事を尋ねずにいられなかった。
「トモキ、マナト。ダイキを見てないか?」
「え?ダイキ?知らねぇよ?」
「オレたちは出会ってないけど、ダイキに用があったのか?」
「いや、咲宮さんがさっきまでダイキの事を探してくれてたんだ。オレたちみたいに食事の場に誘ってくれようとしていたみたいなんだけど、肝心のダイキが見つからなかったらいんだ」
「私は購買の方を探してないから2人と出会ってここに来るかもと話していたのだけれど……」
勇心トモキと菱倉マナトの両者が守上ダイキと出会っていない事を明かし、誰も彼の居場所が分からない事が判明した。
どこにいるのか、どこに行ったのか……
守上ダイキの所在について姫導ヒロたちが気に掛けているその時だった。
どこからともなく鐘の音が鳴り響いてくる……
「っ……!!」
「この音って……昨日の!!」
「鐘なんてこの学校に無いだろ!!」
「ねぇ、他の人は!?」
鐘の音が聞こえてきた、それについて姫導ヒロと勇心トモキ、菱倉マナトが慌てる中で姫乃ユリナは周囲を見て動揺する様子を見せる。
彼女の言葉に周囲を確かめようとする姫導ヒロたち。彼らが周囲に視線を向けると昼休みで誰かしら他の生徒がいるはずの校内に人の姿が無く、それどころか姫導ヒロたち以外の他の生徒がいる気配が感じられなかった。
「この音は……やっぱり……」
「どうしたヒロ!?」
「何か気づいたのか!?」
「多分、確信は無い!!けど……この鐘の音、この鐘の音は全員には聞こえるものじゃない!!多分、この鐘の音を聞いた時点でオレたちは……」
姫導ヒロが何かに気づき、彼が何かに気づいたとしてそれを聞き出そうと勇心トモキと菱倉マナトが声を掛けると同時に鐘の音が強く響き渡り、強く響き渡る鐘の音が姫導ヒロの言葉を途中で遮ると彼らは全員一瞬にして学校に居たはずが心当たりの無い場所に立たされていた。
いや、心当たりが完全に無い訳ではない。感覚的に姫導ヒロと勇心トモキ、菱倉マナトはここがどこなのか理解出来ていた。
不気味な風景、風化した建物が崩壊し瓦礫として悲惨な景色と化した光景……
一見すると完全一致とは言い難いがこの不気味な風景とこの不可解な現象、そして息の詰まるようなこの空気感を彼らは昨日経験したばかりなのだ。
「ここって……ワンダーワールド!?」
「あの鐘の音聞いたら問答無用か!?」
「多分、そうだと思う。けど、今の鐘の音……」
自身が気がついた事について改めて語ろうとする姫導ヒロ。彼が改めて語ろうとするとそれを阻むかのように崩壊した建物の瓦礫の下から怪物が現れる。
昨日、姫導ヒロが倒した怪物と同じ姿をした怪物……それが今、獲物を見つけたかのように瓦礫を押し退けながろ現れ姫導ヒロたちに襲いかかろうとする。
このままでは皆が危険に晒される。瞬間的にそう考えた姫導ヒロは菱無茶はしないという菱倉マナトとの事前の約束を忘れたかのように前に出ようとした。
咄嗟の事だった。だが、そんな彼の咄嗟の行動は親友との約束を違える結末を迎える事無く未遂に終わる。
姫導ヒロが怪物から皆を守ろうと考えた矢先、どこからともなく音が轟くと雷撃が飛来し怪物に直撃し、突然の雷撃の飛来と直撃を受けた怪物は勢いよく吹き飛ばされると姿を現すために押し退けたはずの瓦礫の中へ叩きつけられていく。
「は……?」
「雷……?」
「助かった、んだよね……?」
何が起きたのか、姫導ヒロたちが訳もわからず戸惑っていると雷撃が飛来してきた方から人が1人歩いてくる足音が聞こえる……
聞こえてくる足音、その音を発する人物が誰なのか確かめようと姫導ヒロが音の聞こえる方を向くとその視線の先には見知った顔の少年の姿があった。
「なんか音したと思って来てみたら……どういう集まり?」
「騎坂……アキト……?」
「丸腰が何人も束になって……そいつらの餌になりたかった感じ?」
雷撃が飛来してきた方から来た少年……騎坂アキトの登場に驚きと困惑を同時に抱かされる姫導ヒロ。口振りからして何かこの不可解な場所と怪物の事を知ってるのではないかと感じさせる彼の登場、果たしてこれは何を意味するのか……




