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ログイン・ヒーロー⑦


 時間は進んでもうすぐ昼時になる頃……


 

 私立姫嶺学園、それが姫導ヒロたちの通う高校の名前だ。建造されてから年数が経っていない事が見て分かるほどに校舎と校内は共に綺麗そのもの、広い敷地の中で白い校舎や体育館、広々としたテニスコートや春夏秋冬利用可能な室内プールなど学生が学び舎として利用し過ごすには十分と言える程には充実した設備のある高校だ。


 進学校という訳では無いが学校の方針として未来ある学生の学びを豊かな環境で実現させたいという考えから設備を充実させているとの事……


 そこに彼らは居た。姫導ヒロは親友の勇心トモキたちはもちろんの事、姫乃ユリナと愛姫エレナとも同じクラスだった。


 ちょうど授業中、姫導ヒロの居るクラスは数学の授業の最中らしく黒板にはいくつかの数式が問題として書き出され、教室内の生徒は科目担当の教師が見守る中で思考を働かせ問題を解いていた……が、姫導ヒロだけは少し違った。


 問題を解こうという意思はあるのかシャーペンを持ってノートに書き記そうとする手前で動きを止めており、動きを止めている姫導ヒロは手を動かそうとする様子も無く、そして周りの事など気にする様子も無くある事に対しての思考を働かせていた。


「……変だよな」

(マナトが話した通り、あの怪物を倒す力を持ってなかったら怪物に襲われて終わる。でももし、昨日のオレたちや姫乃さんと愛姫さんみたいにワンダーワールドって場所に飛ばされてる人がいたとしたら……いや、もし昨日あの場所に他の人がいたとしたらどうなるんだ?オレのあの力で怪物を倒した後にオレたちはこっちに戻れたけど、オレたちが戻ってきた場所には姫乃さんと愛姫さん以外に他の人は居なかった。あそこに……あの怪物がいたあの場所に他の人が居たとして、その人がもしこっちに戻れてなかったとしたら……その人は今どうなってるんだ?)


 数学の授業中にも関わらず昨日の件と怪物と戦った不可解な場所の事を考える姫導ヒロ。思考を続ける中で自分たち以外に誰か他の人間が居た可能性があるのでは無いか、他の人間が居た場合にその人は戻れたのかどうかなどを深く考えていた。


 彼の今考えたそれはワンダーワールドというあの不可解な場所において人知れず起きていてとおかしくない事象だ。



 今朝、菱倉マナトの話から最悪の想像としてイメージした対抗する術を持たない人間が怪物に襲われればどうなるのかという最悪の内容が頭に残る彼の中で今も怪物に襲われず無事ならばどうなっているのかという見方を変えればある意味最悪とも言える想像に続く事を思考してしまっている。


 菱倉マナトの話した内容から推察可能な最悪の想像が外れ生存しているという可能性など当然ありえる事だ。


 だが、彼の性格がそうさせているのか無意識の思考がそうさせているのか分からないが、彼は今考えたとしても手の施しようのない事に対する思考をひたすらに働かせていた。


 どれだけ思考した所で彼には何も出来ない、その残酷な真実を誰かに突きつけられない限り止まらないのか彼は……




「何?計算ミスってたの?」


 思考をひたすらに働かせる姫導ヒロのそれを邪魔して現実に引き戻すような声が彼に向けられる。


 ふと我に返った姫導ヒロが声のした方へ顔を向けると彼の前の席に座る少年が授業中にも関わらず体ごと後ろを向いてこちらを見ていた。


 前髪は片目にかかる程度、後ろは整髪剤を使っているのかテレビ番組で聞く『毛先を遊ばせている』という言葉が合いそうな髪型となっている茶髪に金色の瞳の顔立ちのいい少年。


 彼の名は騎坂アキト、前の席のクラスメイトの名前を姫導ヒロがしらないという事は無いのだが、姫導ヒロは彼の事を単にクラスメイトとして認識していた訳では無い。


「あ、えっと……騎坂アキト、だったよな?」

「何でフルネーム呼び?」

「あ、いや……確認、的な?それより、今日はちゃんと学校に来てるんだな」


 あまり話さない仲だというのは今の姫導ヒロのぎこちなさから汲み取れる。そのぎこちなさに続けて姫導ヒロが紡いだ言葉は傍から聞くと不自然に思えるものだったが、その言葉を向けられた騎坂アキトは別段気に障る事も無かったらしく彼の言葉に対する答えを返そうと話した。


「今日はとくに遅れる理由と無かったし、たまには朝から来てやってもいいかって感じで来てるだけだ」

「学生なんだから遅刻せずに来るべきだと思うけど……というより、どうしていつも遅刻するか欠席してるんだ?」


「地頭が良い分勉強しなくて済むから、とか?」

「いや……自分で言う事じゃ無いと思うけど……」


「冗談だよ。まぁ、アレだ……迷子になってる猫助けてたら遅刻もするし送り届ける先が遠けりゃサボるわなって話だ」

「そう、なのか……何か事情があるなら仕方ない、のかもな」


 姫導ヒロの言い方からして騎坂アキトは遅刻や欠席といったサボり癖があると思われる。そこを指摘でもするかのような言葉を向ける姫導ヒロに対して冗談を前置きとしてそれらしい理由を口にする騎坂アキト。


 迷子になっている猫を助けている、というのが事実なのかどうかはさておいて騎坂アキトにとって学校に来る事は二の次で他に優先すべき事があるのだろうと少し考えさせられた姫導ヒロは彼の発言に対して深く突き詰めようとは考えなかった。


 だが、この時の姫導ヒロは突き詰めるのをやめる代わりに別の事を思考し、その思考について生じた疑問をどういう訳か騎坂アキトに向け尋ねてしまう。


「あのさ、騎坂アキト。質問していいか?」

「またフルネーム呼び……アキトでいいっての」


「じゃ、じゃあアキト……いや、やっぱ騎坂にしていいか?」

「好きにしたらいいって……で、何さ?」


「その、もし……その迷子になってる猫と騎坂が訳の分からないこと場所に迷い込んだとして、そこに自分以外の人がいて危険が迫ってるとしたら……騎坂なら助けるか?」

「意味分かんない質問だな……まぁ、訳の分かんないような不可思議なとこに迷い込んだってんならまず出口を探して猫を逃がす」


「え?他にいた人の事は……

「人間、危機的状況に追い詰められても簡単には倒れねぇって信じて助けに戻る。オレならまず助ける必要のある命から助ける」


「助ける必要のある、命……」


 騎坂アキトへの質問、それは先程話し掛けられる直前まで姫導ヒロが思考していたあの不可解な場所に他の人間がいたとしたらという疑問に連なるものだった。自分では考えがまとまらない、そう直感で考えた姫導ヒロはあの場所の事も怪物の事も知るはずの無い騎坂アキトから答えを聞き出せる形で尋ね何かアイデアを引き出そうとした。


 だが、騎坂アキトの返した答えは彼の求めていたアイデアとは方向性の違うものであり、その答えを聞いた姫導ヒロは自身の求めていたものとは異なる内容の答えが返ってきた事でどう言葉を返せばいいのか分からなくなって言葉を詰まらせてしまう。


 何を返せばいいのか、姫導ヒロの思考が次にそこの最適解をみつけようと動き出そうとするが……



「授業中にお喋りとは感心しないなぁ姫導、騎坂」


 姫導ヒロと騎坂アキトの会話する光景を目にしただろう数学の担当教師が2人の所まで来て授業中の私語について注意を始めてしまう。


 授業中、どこの学校でもよくあるだろう光景の中で姫導ヒロは申し訳なさそうに教師に謝る一方で騎坂アキトは他人事のように自分の席の方へと向き直してしまう。


 あまりにも自由な彼に困惑を隠せないまま教師に注意される姫導ヒロ。

 その彼の思考はこの状況で何かを見出す。


「あぅ……」

 (何で、騎坂は不可思議なんて変わった言い方したんだ……?)



 単なる語彙力の高さから成る言葉選びの賜物なのか、それとも……


 発言した張本人の意図次第だが、姫導ヒロは間違いなく感じ取っていた。

 騎坂アキト、彼は……



 もしかしたら……


 

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