ログイン・ヒーロー③
現実からかけ離れたような異質な場所に飛ばされた先で怪物に追い詰められる2人の少女……という意味の分からない場面に遭遇しただけでも頭がおかしくなりそうで仕方がなかった。
夢ならばどれだけ安心感が強く感じられるのか、これが夢ならば……と誰もが逃避する方に思考を働かせるだろう状況に彼らは置かれていると言っても過言では無い。
それなのに、それなのに……
姫導ヒロはこの状況に対して自らの存在を適応させるかのように怪物に立ち向かい、そして怪物を倒そうとするその意志を具現化したかのように装いを変えてみせたのだった。
不思議な事が起こったなどと簡潔にまとめるのは到底不可能な状況の中で起きた事、その全てを覆す驚きを実現したと言っても過言では無い姫導ヒロのその姿に勇心トモキと守上ダイキは声を大にして驚き叫ぶ他無かった。
「えぇぇぇ!?ヒロが!?ヒロが何か変わった!?」
「か、カッコよくなったぞ!?急にヒロがカッコよくなったぞ!?」
2人が無駄に驚くのも無理は無い。先程までは制服姿で見るからに勝ち目が無いと分かる怪物に立ち向かっていた姫導ヒロのその姿は明確に変化していたのだから。
制服とは程遠い装い、黒のアンダースーツに身を包んだその上にハートのエンブレムが刻まれた赤い外装を肩部、胸部、腕部、脚部のそれぞれに纏い、そして首に白いマフラーを巻き風になびかせヒーローのような姿となっていた。
単に身に纏っているものが変わっただけでは無い。彼の茶髪の一部はメッシュが入れたかのように赤く染まっており、琥珀のような綺麗な色の瞳は赤く染まっていた。
赤いヒーロー、そう呼ぶのが正しいのでは無いかと思いたくなる姿となった姫導ヒロは勇心トモキたちの驚きを他所に2人の少女の方を見ると静かに歩み寄ってそっと手を差し伸べる。
差し伸べられた手に戸惑いながらも2人の少女は彼のその手を恐る恐る掴み、2人の少女が姫導ヒロの手を掴んだ瞬間……
彼は2人の少女と共に勇心トモキたちのもとへと目にも止まらぬ速さで移動してしまう。
「え……え!?」
「わ、私たち……何が……!?」
「嘘だろヒロ!?これ、現実なのか!?」
「おっ、おっ……オレは……夢でも見てるのだろうか……!?」
「夢なわけ……これは……」
「トモキ、ダイキ、マナト……この人たちを頼む」
「ヒロ、何言っ……
「ごめんマナト、オレが……アイツを倒してくる」
全員が戸惑い今目にしたものが現実なのかどうかの理解が追いつかなくなる中で2人の少女を勇心トモキたちに任せる旨の言葉を口にして怪物の方を見る姫導ヒロ。
彼の発言から何か嫌な予感を感じ取った菱倉マナトが聞き返そうとするも彼は単純に怪物を自分が倒すとだけ返すと1歩踏み出すと共に怪物のもとへの移動を済ませてしまう。
「ヴヴヴ……!!」
「……これが夢なら……終わらせてやる」
人間離れした速さ、勇心トモキたちが驚く中で怪物は彼のその速さに驚く以上に警戒心を強く抱いているらしく、怪物は唸り声に近い声を発すると両手の爪を立てるように身構え始める。
怪物が自分に対して明確な敵意を持って身構えるその様子を目にした姫導ヒロは静かに拳を構え、勇心トモキや守上ダイキが語っていた《夢》という点に触れるような発言をすると強い眼差しを怪物に向け、そして……
「はぁっ!!」
怪物に強い眼差しを向けると同時に怪物が反応するより先に一撃を喰らわせようと右手こ拳で殴り掛かる姫導ヒロ。
彼のその拳は先程2人の少女を勇心トモキたちのもとへ連れた際の移動速度を思い出させるような速さで放たれ怪物の顔面を強く殴り、ほんの少し前まで彼の一撃を正面から受けても微動だにしなかった怪物は後退りをしてしまうほどの衝撃に襲われ怯んでしまう。
後退りと怯んだ怪物の様子に姫導ヒロは瞬間的に今の自分の力は怪物に効果があるのだと理解すると左手の拳も合わせた連続打撃を叩き込もうと何度も殴り始める。
姫導ヒロが次から次に放つ左右の拳の打撃、姿を変える前は児戯に嫌々付き合わされる大人のような反応を見せ効果等無い事を示していた怪物はその時とは打って変わって為す術も無く何度も何度も打撃を受ける度に打撃が生じさせる衝撃に襲われる。
素早く放たれ叩き込まれる打撃、その打撃が生じさせる衝撃が怪物の体に確かなダメージを蓄積させ、姫導ヒロの連続殴打に襲われる怪物は彼の連続殴打の打撃と衝撃に抵抗することが出来なくなったのか姫導ヒロがもう一度と振り抜いた拳が叩き込まれると勢いよく殴り飛ばされ地を転がるようにしながら倒れていく。
殴り飛ばされた怪物が転がるように倒れると姫導ヒロは右手の拳を強く握りしめ、彼が拳を強く握りしめると光のような赤いエネルギーが彼の拳へ集まり始める。
「終わりだっ……怪物!!」
右手の拳に集まる赤いエネルギーを怪物に叩き込もうとするかの如く彼はそれをもも握りしめるように拳をさらに強く握りしめると地を強く蹴り、地を強く蹴った姫導ヒロは天高くへと飛び上がってみせる。
天高くへ飛び上がった姫導ヒロはかなりの高さに到達すると素早く何度も回転して勢いを生み出しながら宙を蹴って怪物の向かって急降下し、急降下による急激な加速を得た姫導ヒロは倒れる怪物のもとへと一気に迫ると右手の拳に全ての勢いを乗せるようにして打撃を叩き込む。
姫導ヒロの拳が打撃を怪物に叩き込むと周囲の大地を砕く程の強い衝撃が怪物の全身を襲い、そして……
「弾、けろ!!」
強い衝撃が怪物を襲う中で姫導ヒロが叫ぶと赤いエネルギーが火花を散らすかのような強い煌めきを瞬間的に発しながら炸裂する。炸裂した赤いエネルギーは抑え込まれていた何もかもを解き放つように怪物の全身を駆け抜けその力を喰らわせ、姫導ヒロの強い一撃を倒れながら受けた怪物はそこ一撃に耐え切れず悲痛な叫びを発すると全身に亀裂を走らせた直後に砕け散って消滅してしまう。
怪物が砕け散り消滅すると勇心トモキたちは姫導ヒロが怪物を倒したという結果に歓喜するが、その一方で姫導ヒロは怪物を倒せた安心感からか……単なる疲労なのか勢いよく膝をついてしまう。
「ヒロ!?」
「だ、大丈夫か!?」
姫導ヒロが勢いよく膝をつく姿を目にした勇心トモキと守上ダイキは彼の事が心配になって慌てて駆け寄ろうとするもその直後、姫導ヒロは元の姿に戻り、彼の纏っていた赤いアーマー等は光となってどこかに消えてしまう。
装いが元に戻るも右手の甲の光の痣と腰のバックルやカードケースは彼のもとに残っていた。
これは何なのか、勇心トモキと守上ダイキが駆け寄ってくる中で姫導ヒロが不思議に思っていると光の痣は静かに消え、光の痣が消えると腰のバックルもカードケースも最初から無かったかのように消えてしまう。
そして、それを合図にでもするかのように姫導ヒロたちは気がつけば元いた場所へと2人の少女と共に戻っていた。
下校中だった街の中、先程までいた空間から馴染みのある風景の中へ戻った姫導ヒロたちだったが、そもそも先程まで自分たちがいた空間が何だったのかという疑問が隠せなかった。
何より、何故自分たちはあの空間に立たされたのか、2人の少女は何故怪物に追われていたのか……姫導ヒロはそんな風に次々に疑問を抱いていた。
何故なのか、疑問をいくつと抱いてしまう姫導ヒロだったが、彼が疑問を抱いている傍らで勇心トモキは先程怪物に追い掛けられていた2人の少女に歩み寄ると恐る恐るだが話し掛けた。
「えっと……大丈夫、スか?」
「は、はい。大丈夫、です」
「なら良かった……かな?ヒロのおかげでお2人さんも無事だったし、怪我とか無かったなら安心だよ」
「助けたのはヒロだけどな、トモキ」
「うるさいよマナト。あっ、そうだ……少し時間ある?」
「う、うん……ある、けど……」
「なら、さっき起きた事を整理しない?これも何かの縁って事で……さ?」
「は、はい……」
勇心トモキの言葉に考える余地など無かったのか彼の意見に渋々応じるような返事をする長い黒髪の少女。勇心トモキとしては先程の件を情報として共有し、不可解な世界で出会ったという縁から親しくなろうと考えているのだろう。
だがそれも言い方1つ、それで相手にどう捉えられるか変わってしまう。
そういう所は意識してないのか勇心トモキは話がついたと言わんばかりに姫導ヒロの方を見ると親指を立てる形で伝えようとするが、それを見せられる姫導ヒロと菱倉マナトはため息をつく他なかった……
「トモキ……」
「今回ばかりはアイツのアホさに感謝かもな……とりあえず、あの2人から話聞いてさっきのが何なのかハッキリさせよう」
「うん、そうだな……あの人たちも不安だろうし」
「……そうだな。ヒロ、立てるか?」
「なら……手を貸してくれるか?」
勇心トモキのおかげで2人の少女と情報を共有する時間が出来たと捉える姫導ヒロと菱倉マナト。菱倉マナトに体調について尋ねられた姫導ヒロは手を借りたい旨を彼に伝え、菱倉マナトは軽く右手を差し伸べる。
菱倉マナトの差し伸べた右手を取ると姫導ヒロはどうにかして立ち上がり、立ち上がった姫導ヒロは彼と守上ダイキと共に勇心トモキや2人の少女と合流しようとする。
そんな彼らの様子を遠くから観察するかのように視線を向ける者が……
「最悪のゲームが開幕したな」




