ログイン・ヒーロー②
突然起きた現実とは思えない異常な光景、この世のものとは思えぬ怪物の出現と恐怖の中でそれから逃れようとする2人の少女。
非現実的な光景を目の前にして周囲が戸惑いに襲われる中で姫導ヒロはただ1人、2人の少女に迫ろうとする怪物を視界に捉え動き出していた。
最初はゆっくりと歩を進めるだけだった。だがその足は次第に速さを生み出そうと駆け出し、気がつけば彼は親友が止めようと発する声が耳に入らぬかのように怪物の方へとまっすぐ向かっていた。
「ヒロ、ストップ!!無茶だ!!」
「危険だヒロ!!戻るんだ!!」
勇心トモキと守上ダイキが声を大にして必死に彼に止まるよう促すが、2人の声が聞こえていないのか止まろうとしない。いや、もしかしたら聞こえていながら2人の少女を助けようと無視しているのかもしれない。
2人の少女を助けようという目的の為だけに走っているという事は彼が迷わずに怪物の方へ走り出した事から可能性として否定は出来ないが、彼のその行動を見せられた勇心トモキと守上ダイキはこれが無謀では無いのかという考えを抱いてしまっていた。
だからこそ彼らは止めようと声を大にして叫ぶのだが、そんな彼らの思いなど今の姫導ヒロに理解される事はなく、2人の思いの乗せられた叫びが聞き入れられるよりも先に姫導ヒロはあと少しで怪物に肉薄する距離へと到達すると右手を強く握って拳をつくる。
姫導ヒロがあと少しで肉薄する距離に到達しようとする中で彼の接近に気がついた怪物は静かに彼の方へとまず顔を向けると徐々に体をも彼の方へ向けようとする。
徐々に体の向きを彼の方に向けようとする怪物の動きを目にした姫導ヒロは気付かれたと考えただろう反応を見せるもやるしかないとして強く握った右手の拳に力を込め、自身の拳が届く距離へと到達すると同時に姫導ヒロは地を強く踏み込むと走ってきたこの勢いを乗せるように怪物に殴りかかる。
怪物の体が完全に彼の方を向く前に姫導ヒロの拳は機械化している頭部へ見事に叩き込まれると怪物を少し仰け反らせるが、機械化しているせいなのか殴られて数秒と経っていないのに当たり前のように立て直すとゆっくりと彼に迫ろうと歩を進め始める。
「っ……今のうちに逃げて!!はやく!!」
怪物の狙いが2人の少女から自分に変わった、それを理解した姫導ヒロは躓いた2人の少女にすぐに逃げるよう叫ぶと怪物が彼女たちの方へと意識を向くのを阻止するために左手でも拳を作ると何度も怪物を殴るが、彼の力では少し仰け反らせるのが限界なのか何度殴られても怪物は追い詰められる様子が無い。
それどころか彼の攻撃を連続で受けているこの状況が怪物に対して適応を促してしまったのか何度か殴られた怪物は姫導ヒロの拳を掴み止めてしまうと彼の腹部へ膝蹴りを食らわせてしまう。
「がっ……!!」
怪物の膝蹴りを受けた姫導ヒロは一瞬息が出来なくなる程の強い衝撃に襲われてしまい、そんな彼を追い詰めるかのように怪物は彼の拳を掴む止めてみせた手を離すなり素早く拳を作って彼を殴り、怪物の拳を無防備に受けてしまった姫導ヒロはその一撃に耐える事が出来ずに殴り飛ばされてしまう。
殴り飛ばされた姫導ヒロは勢いよく吹き飛ぶと近くの老朽化している建物へ叩きつけられた後に何も出来ぬまま地面に落ちて倒れてしまい、怪物は倒れる彼を完全に倒そうとゆっくりと彼の方へと進行していく。
「うっ……痛……!!っ、あの、2人は……」
地面に倒れる姫導ヒロは痛みに耐えながらどうにか起き上がるとまずは2人の少女の方を見て安否を確認した。
怪物の意識が彼に向いた事で僅かにでも彼女たちが逃げる時間は出来た。この機を逃さず逃げてくれていれば良かった……のだが、彼の考える通りに物事は進むはずがなく、恐怖の中に落とされた彼女たちは彼が怪物に殴り飛ばされたのを見てしまったからか身を寄せ合いお互いに恐怖から身を守り合うかのようにその場に留まっていた。
何故逃げなかったのか、そんな事を姫導ヒロは考えなかった。この時の彼の中で出した考えは全く異なるものだった。
「次……どうにか、して……」
《次》、《どうにかして》……これらの言葉を口にした姫導ヒロの思考の中には彼女たちが何故逃げなかったのではなく自身が逃げるための時間を確保出来ていなかったからだと認識されている。それ故に彼は痛みに耐えながら立ち上がると向かってくる怪物を迎え撃とうと拳を構えようとした。
ただ、彼のこの行動は傍から見ればあまりに無謀で危険過ぎると言う他ないものであり、彼の行動を見せられている勇心トモキたちからすれば今すぐに逃げる選択をして欲しいという心配の感情、思いを抱かざるを得なかった。
ここの彼らの心配の思いに姫導ヒロが気づけず、彼はただ怪物から少女を助けるために次に何をするべきかを思考し実行する事に全ての意識を向けていたのだ。
だが、現実とは残酷だ。
彼が実行しようとする事も実現したいと思考する事も、その全てが無意味だとでも伝えさせるかのように怪物は1歩1歩迫り続け、迫り続ける怪物のその1歩1歩を見せられる姫導ヒロの思考と精神は次第に迫り来る恐怖によって乱され始める。何より最悪なのはこの思考と精神の乱れが当の本人には恐怖によるものではなく先程受けた攻撃での痛みによるものだと錯覚されている事だ。
「はぁ……はぁ……はぁ……落ち着け……」
(体の痛みは簡単には消えない……けど、何とかしてあの2人が逃げるきっかけを作らないとダメだ。単に注意を逸らすだけじゃ……この怪物を怖いと感じた2人が確実に逃げるのは無理だ。どうにかして、どうにかして……)
「……コイツを倒さなきゃ……」
迫り来る怪物に対しての本能的な恐怖、現実性の無い空間が無意識下とはいえ彼の中で思考と精神を乱れさす中、彼の思考は意図せずして彼の口から《倒す》という言葉を発させる。
そして、その言葉を発した彼の瞳は怪物を鋭い眼差しで捉えており、彼は……
気がつけば再び走り出していた。
走り出した彼のその動きに怪物は呼応するように歩を進めるその足を早めて間合いを詰めようとするが、姫導ヒロは走る中で少し体勢を低くしながら加速して怪物が次なる1歩を踏み込むと同時にスライディングをして怪物の背後へ滑り回り込もうとした。
彼のそのスライディングが怪物は予測出来なかったらしく反応が大きく遅れ、それによって狙い通りに背後へ滑り回り込んだ姫導ヒロは体を回転させながら素早い動作で立て直すとどうじにその回転を利用した回し蹴りを怪物の膝裏に叩き込むという不意を突くやり方で見事に体勢を崩すきっかけを作り出してみせた。
この背後への回り込みを狙ったスライディングと素早い切り替えからの回し蹴りには怪物も反応出来ず体勢を崩し数秒無防備な状態を晒してしまい、この瞬間がチャンスだと考えた姫導ヒロは怪物に警戒しながら2人の少女に対して再び逃げるよう促そうとした。
「早く逃げて!!今すぐに!!」
「む、無理です!!怖くて体が!!」
「このままここにいたらコイツに殺される!!オレが何とかするから早く!!」
「で、でも……」
少女は恐怖によって逃げたくても逃げられない状態にある。それを理解出来ていない姫導ヒロはただ彼女たちにここから早く逃げるように促す言葉を口にするしか出来なかった。
だが、こうしてる間にもせっかく彼が体勢を崩させた怪物は立て直しに成功し彼の方を振り向こうとしている。
時間は無い。僅かな時間で逃げるよう促し続けても彼女たちが逃げ出すタイミングと怪物が振り向き襲いかかってくるタイミングが重なってしまったら……
そんな最悪な可能性を思考してしまった姫導ヒロは拳を強く握ると怪物を強く睨みつける。
そして……
「逃げられないなら……逃げる事が出来ないなら逃げなくてもいいようにするしか、ない」
「え?」
「逃げなくてもいいように……アイツを、あの怪物をぶっ潰す!!」
怪物をぶっ潰す、そう口にした彼の瞳は赤い光を帯び、気のせいか彼の全身は何やら強い気迫のようなものを纏い始めたように感じられた。
体勢を立て直し振り向こうとする怪物もそれを背中越しに感じ取っていたが、目の前で彼のそれを感じ取った長い黒髪の少女は彼の姿に目を奪われたかのように視線を向け続け、その少女の瞳は彼と同じように赤い光を微かに帯び始めていた。
姫導ヒロと長い黒髪の少女の瞳が赤い光を帯び始める。その直後だった。
天高くから緑色の気味の悪い空を突き抜けるように一筋の光が彼のもとへ降り落ち、降り落ちてきた一筋の光に気づいた姫導ヒロが上を見上げ視界に捉えながら右手を突き上げると降り落ちて来る一筋の光は強い煌めきを解き放ちながら彼の右手の中へ吸い込まれるように着地を決め彼に掴み握らせる。
煌めきを解き放つ光を右手で掴み取るとその手の甲には王冠の意匠の光の痣が浮かび上がり、彼の右手の甲に光の痣が浮かび上がると掴み取った光は煌めきをより強くさせながら彼を包み込んでいく。
煌めきに包まれる中で彼のもとへ白色の宝玉を支店に赤・紫・青・緑の結晶がXの文字を描くように施された少し厚みのある黒いプレート状のバックルが出現し、出現したバックルは意思を持つかのように彼の腰へと飛び込むと黒いベルト帯を発生させながら彼の腰へと装着されていく。
バックルがベルト帯と共に装着されると右腰に白いカードケースが出現する。
突如として出現したそれらはあたりにも突然過ぎて本来ならば焦りを抱くなどしてもいいものだろう。だが、姫導ヒロは違った。焦る様子も無く、驚く様子も無く……
まるで、最初から現れたバックルの事を……その存在を認知していたかのように彼は右手を右腰の白いカードケースにかざす。
彼がカードケースに右手をかざすと長い黒髪の少女の体が赤い光に微かに包まれ、赤い光はハートのマークと《A》の文字を彼女の右手の甲へと一瞬浮かび上がらせた後で彼女のもとを離れるようにその頭上で1つに集まると吸い寄せられるかのようにカードケースの中へと飛び込んでいく。
カードケースの中へと赤い光が飛び込み入った直後、姫導ヒロの右手へ光と共に1枚のカードが現れ、ハートのマークと共に《A》の文字が描かれたカードを手にした姫導ヒロはそれを怪物に見せるように構えると息を大きく吸い……
「ワンダー……アップ!!」
何を意味してのものかは分からないが彼は言葉を発すると手にしたカードを腰のバックルへとかざし、カードがバックルにかざされるとそのカードは赤い光になると煌めきと共に周囲を包み込む。
そして……
赤い光と煌めきが弾けるように消えるとその中より姫導ヒロが先程までとは全く違う装いとなって現れ怪物の前に立とうとした。
「「えぇぇぇえ!?」」
「想いを……力に……!!」
姫導ヒロの身に起きた数多の事に驚きを隠せない勇心トモキたちが驚きの声を発する中で怪物を倒そうと構える姫導ヒロ。果たして、彼の身に何が起きたのか……




