エントリー・ハート③
姫導ヒロたちが避難した建物がある場所から遠く離れた地点……
そこには倒壊した無数の建物だった瓦礫があり、その瓦礫の中で隆起させるように積まれた瓦礫の上に人間が立っていた。
黒いローブで身を隠し、ローブで隠されていない頭部が鉄仮面で覆い隠されるその人間を取り囲むようにアーミーズと騎坂アキトが呼称していたワンダーモンスターが何十体と膝をついて並んでいた。
まるで神を信奉する信者が教祖を前にして膝をつくように、ワンダーモンスターの膝をつき1人の人間を囲むその光景は一言で表すならば《不気味》でしか無かった。
そんな不気味な光景、ワンダーモンスターが1人の人間を囲んで膝をつくその場に闇と共に1人の青年が現れる。
黒い髪を後ろで束ね黒いマントを纏う黒いスーツを着用した青年、目元を隠すように紫色の仮面をつけたその青年はワンダーモンスターの横を何食わぬ顔で横切ると中心に立つ1人の人間のもとへ向かっていく。
「……何の用です?」
「進捗報告を聞きに来たぜぇ、シェル。お優しいオレが新入りのオマエの進捗報告次第で手を貸そうと立ち寄ってやったのさ」
「要らぬ心配ですよアビス。ボクの力とボクの配下のこのモンスターは順調に勢力を拡大させています」
「勢力拡大はどうでもいい。オレが聞きたいのは……騎坂アキトの始末は出来たかどうかだ」
紫色の仮面をつけた青年……アビスと呼ばれた彼はワンダーモンスターの中心に立つ1人の人間……声からして若い男と思われるその人間を《シェル》と呼び、アビスの言葉にシェルが淡々と返すとアビスは騎坂アキトの名を出して話を進めようとする。
「オマエの力の発現とアーミーズの特異化を目撃してる人間だ。オマエにとっては今後を考慮すれば始末しておくべきだと思わないか?」
「……アレが何をしようと限界がある。拡大されつつあるこちらの勢力に対して騎坂アキトは孤立している……迷い猫を助けているなどと称した人助けもいずれ限界を迎え無様に抵抗する他無くなるでしょう」
「騎坂アキトは孤立してんじゃなくて協力者が見つかってないだけだなぁ。他で暴れ回ってる《破壊者》や《狩猟者》、《ビーストテイマー》に加えてオレですら手を焼く最悪の存在がいつ加勢してもおかしくないのにそんな余裕見せてていいのかぁ?」
「それらの始末はアナタの仕事では?」
「騎坂アキトにワンダーワールドの情報を与えてるのは今挙げたやつらの誰かだ。オマエがレイヴンの配下に見定められ情報を与えられたのと同じように、あいつはオマエの力に引き寄せられる形でこのワンダーワールドに踏み入り……そして、誰かによって情報を与えられた。なら、オマエの不注意で出来たバグは早々に駆除しておかなきゃだろ?」
「……あのバグがある意味でプラスになるかもしれない」
「どんなプラスに?例えば……光の痣の持ち主が現れる、とかか?」
「っ……!?」
騎坂アキトの事を話題にして話が進行される中でアビスは彼をシェルがどうにかするべき《バグ》だと語り、一方のシェルは騎坂アキトがバグだとしても利用価値があるとして事を急く事は無いと反論してみせようとした……
が、それを読んでいたかのようにアビスは《光の痣》という単語を話に出し、その単語が出たと同時にどうして知っているんだと言わんばかりの反応をシェルが見せるとアビスは不敵な笑みを見せると共にシェルの背後へと一瞬で移動し、シェルが振り向こうとするのを後ろから首を掴む形で阻むと自身が話に出した《光の痣》について話していく。
「昨日アーミーズの襲撃した女2人を助けようとした間抜けなガキ……あのガキが単なる間抜けで終われば良かったのに、光の痣を発現させて1体倒しちまってるからなぁ。単なるまぐれだと思ってなのかさっきもここに迷い込ませて不意打ち決めようとしたのに……騎坂アキトを始末してなかったから失敗に終わったなぁ」
「……黙れ」
「おっ、反抗心剥き出しにして逆らうか?可愛いとこあんじゃねぇか」
「黙れって言ってるのが聞こえませんか……?」
「……黙って欲しかったらボスの機嫌損ねるような事はするな。オレはオマエに伝えてたろ?光の痣の発現を確認したら報告しろって。ボスは光の痣の発現者を探してる……オマエは報告義務を放棄し独断で始末しようとした。この事がボスに知られたら、オマエ終わりだぞ?」
「……なら、騎坂アキトを殺して光の痣の発現者を生け捕りにしたら汚名返上で許されますよね?」
「出来るならやってみな。無理だろうけど」
「その言葉……必ず撤回させますよ」
傍から見ても会話の流れは良くない事が一目瞭然、とくにシェルが何かしらやらかしたというのは伝わってくる。
それをこれから起こすだろう行動で巻き返すと言わんばかりのやる気をアビスへ見せたシェルはアビスの言葉を撤退させてみせると強気に返した直後に右手を天に上げ指を鳴らす。
彼が指を鳴らすとその頭上に鐘の形をしたエネルギー体が現れ、現れたそれはシェルの鳴らした指の音に呼応するように鐘の音を響き渡らせる。
鐘の音が響き渡るとシェルを囲むように膝をついていたアーミーズが立ち上がって一斉にどこかへ向けて移動を開始し、アーミーズが全数移動を開始したのを見届けるとシェルはアビスを睨むような視線を向けながら冷たく告げる。
「数の暴力、それが今の騎坂アキトを押し潰す様を見ておくといいですよ」
「おおっ、楽しそうだ。期待しておくぜ」
「では……失礼します」
アビスの崩れることの無い余裕の態度に辟易したのかシェルは一言返すなりその身を闇へ変えてその場から消えてしまう。
シェルだった闇が跡形もなくどこかへ消えてしまうと、アビスはやれやれといった感じでため息をつく。
そして……
彼は突然周囲に響くのではないかと思うほどに大きな声で可笑しく笑い始めた。
「ヒャハハハハ!!愉快、愉快!!力を得た間抜け程道化に相応しいものはねぇなぁ!!勢力拡大?画素数維持したまま拡大表示した画像みたいな質の悪い戦力で強がれるなんて可愛い通り越して愉快だ!!そんな勢力が光の痣に通用するわきゃ無い!!騎坂アキトを殺せるかって?無理無理不可能!!せいぜい……仮面の下の顔見せて驚かせるくらいしかオマエには出来ねぇんだよシェル!!」
1人になった途端誰かと話してるでもないのに、この場にいる誰かに向けて話してるでも無いのに饒舌に言葉を並べ立てるアビス。
一通り言葉を並べ一頻りに大笑いした彼は情緒不安定だと言いたくなる勢いで平静さを取り戻し静かになるとある方向を見ながら呟く……
「さて、王の証を得た勇者がどんだけその力を引き出せるかを見届けに行くか。その進捗次第では……オレも手を貸さなきゃだからなぁ」
何かを企むアビス。
何を企んでいるのか、何を狙っているのか……
そして、彼の言う光の痣を持つ人物たる少年はアビスの魔の手が迫る中で抗えるのだろうか……?




