エントリー・ハート②
「結論から言うならここは現実世界から隔絶された異世界みたいなもんだ」
「……」
「……」
「「……いや、誰でも分かるような情報は要らねぇけど!?」」
「勇心くん、菱倉くん。声量落として言わないと怪物がこっち来るわよ」
何から語られるのか、騎坂アキトが今いるこの場所……ワンダーワールドについて順を追って話すとして説明を買って出てくれた事で姫導ヒロたちは何も知らない現状を打破して未知なるこの不可解な場所の真相を突き詰められると期待を抱いていた。
……のだが、騎坂アキトが話始めとして簡潔な結論を述べるも、その内容に勇心トモキと菱倉マナトはお互いの顔を見合せた後に騎坂アキトの方を見るなり思わず声を揃えて叫ぶような勢いで指摘してしまう。
そんな2人の勢いよく発せられた言葉はその勢いを表すかのように大きなものであり、その声の大きさが怪物を呼び寄せてしまうとして咲宮サクラは2人に声量を抑えるよう注意した。
彼女に注意された勇心トモキと菱倉マナトは申し訳なさそうに頭を下げると一転して静かになってしまい、静かになった2人の姿に極端だなと感じてしまった姫導ヒロはひとまず話を進めるべきだとして騎坂アキトに尋ねた。
「その、騎坂はワンダーワールドが異世界って事くらいの把握しか出来ていないのか?それとも、それより詳しく知ってるけど今話す必要が無いと思って簡単に話してくれたのか?」
「へぇ……授業中頭悩ませてる割にこういう所では意外と頭脳派な所見せてくんのか」
「なんか言い方気になるな……でも、何か理由があるからそんな言い方をしたんだろ?」
「まぁ……その通りだな。端的に言うならある程度は知ってる……けど、その内容が今話した所で理解出来ないだろうって判断したから省いたって感じだ。正直、このワンダーワールドに飛ばされ来て実際に体感して把握した事については可能な限り話せる。けど、根本的な部分……このワンダーワールドの中枢に関係してくるような内容だとかワンダーワールドってこの世界がどんな構造の基で成り立っているかなんて細部に関する事はオレにも語れない」
「あっ、だからここは異世界だって簡単にまとめてたのか!?」
「……オレは今そう説明したはずなんだけど?」
「ごめん、そうとも知らずに言い返すような事して!!」
「えっと、勇心……だったか?気にすんな。そっちの菱倉……てのもいいよな?」
「そうだな。いや、今さっきまでの態度からしたらオレが謝るべきだ。すまなかった」
「いいよ、別に。必要な警戒心を抱いていただけって話だと認識しておけば済む話だからな」
騎坂アキトの説明が簡潔な内容だったのには理由があると考えた姫導ヒロの一言で騎坂アキトの説明の意図が明かされ、必要性のある部分だけが掻い摘んで語られたという事を理解した勇心トモキと菱倉マナトは謝罪した。
とくに菱倉マナトはワンダーワールドに飛ばされた直後に怪物から自分たちを救うように現れた騎坂アキトに対して必要と思えないような警戒を抱き距離を取っていた事も含めて謝罪するが、その警戒は必要な事だったと騎坂アキトは理解を示し不問にしてしまう。
少しの誤解、すれ違いで生じたズレが修正された。この修正が自分たちの今の状況を覆すプラスになるはずだと考えた姫導ヒロは騎坂アキトが行う説明を続けさせるための質問をした。
ただ、その質問はワンダーワールドに関するものでは無い。彼のした質問は昨日姫導ヒロが倒し、先程騎坂アキトが吹き飛ばしただろう怪物についてだった。
「騎坂、あの怪物……騎坂がワンダーモンスターって呼んでたあの怪物は何なんだ?」
「ワンダーモンスターはこのワンダーワールドに生まれる人間に害を成す怪獣みたいなもんだ。怪物って言っても獣みたいな見た目な訳じゃないってのはさっきの怪物見て予測出来てるだろうが、人型のワンダーモンスターもいる」
「そのワンダーモンスターはどうやって生まれてるんだ?」
「あー……それ聞くか。悪いが姫導、それに関してはワンダーワールドの説明を省いた部分に触れないといけないから簡単に説明する形でいいか?」
「あぁ、もちろん。騎坂の話しやすいように頼む」
「分かった。あの怪物に限らずワンダーモンスターは総じて人間の抱くマイナスの感情やネガティブな思考が発する負のエネルギーを取り込み糧にして生まれ成長している」
「騎坂くん、それってネガティブ思考とかマイナスな感情……誰かを憎んだり怒りを抱いたり悲しんだりといった感情が関係してるって事かしら?」
「概ね合ってる。そういうのから生じるエネルギーを負のエネルギーって呼ぶんだ」
ワンダーモンスターの誕生については説明を簡易的に済ませたワンダーワールドの一部分に触れるとして簡潔なもので進めるとした騎坂アキトの口からマイナスの感情とネガティブな思考が発するエネルギー……『負のエネルギー』と呼ばれるものを取り込み糧にして生まれて成長していると明かされる。
それが何なのか、騎坂アキトの説明をより詳しく分かるよう細分化させようと咲宮サクラは該当するだろうものを挙げ、騎坂アキトは彼女が挙げたものがそれにあたるとして肯定した。
彼女が例となるものを挙げた事で勇心トモキや菱倉マナトだけでなく守上ダイキや姫乃ユリナたちは『負のエネルギー』というものが何を指してのものなのかのイメージが掴みやすくなり、この場の全員がイメージをしやすくなった雰囲気を感じ取った騎坂アキトは更なる説明を再開させる。
「ワンダーモンスターに人間のような知能も知性も無いし、機械のような学習・記憶能力も無い。ワンダーモンスターは単純に怪物、怪獣としての姿を形成してその内側に生まれる際に糧にした負のエネルギーから本能的な部分を思考の1つとして取り込んでいるだけだ」
「本能的な部分?」
「言葉選びが悪かった……正しく言うと負のエネルギーを糧にする際にそのエネルギーを発したネガティブな思考やマイナスの感情から生命としての本能となるものを1つ取り込んでそれに忠実に従ってるんだ」
「今の話を騎坂くんがさっきの怪物に連れて行かれるって言ってた事で置き換えるとあの怪物は生まれる過程で何かを攫うみたいな本能で動かされてるって事になるのかしら?」
「あぁ、基本的にワンダーモンスターってのはそういうものだと思ってくれればそれでいい」
「騎坂、その……咲宮さんの質問とか騎坂の説明とかの邪魔するようで悪いんだが、そういうものだと思ってくれればいいってその言い方をするのは何か理由があるのか?」
「へぇ……そこに気づくのか。鋭いな、姫導」
「え、あ、うん」
「結論から言うとあのワンダーモンスター……アーミーズは普通じゃない。オレが兵隊と呼んだアレは無数の個体の集合体から成るワンダーモンスターでその中心には兵隊を従え統治する司令官がいる」
「普通じゃないって言い方するって事は今回のそのアーミーズってのは特別なタイプになるのか?」
「オレが把握してるワンダーモンスターの種類でいえばかなり特別だな。普通のワンダーモンスターは見た目が同じでも中身を構築するものが異なる場合がほとんどだからな。けど……アレは違う。アレは明確に中心に立つ野郎の意識が介在して同じような個体が生まれるように仕向けられてる」
「介在……?」
「どういう事だ?」
昨日姫導ヒロが倒し、先程騎坂アキトが吹き飛ばし倒れさせたワンダーモンスター……騎坂アキトが《アーミーズ》と呼んだそのワンダーモンスターは普通では無いという。
姫導ヒロたちからすればワンダーワールドにおいて普通という概念がどう作用してるのか疑問ではあるが、騎坂アキトは自身が普通では無いと語ったアーミーズの中心に立つ存在に触れるような言葉を口にする。
彼の発言、その一言が気になってしまう勇心トモキと守上ダイキ。そんな2人とは異なる反応を菱倉マナトは見せた。
何かに気づいたような表情、その表情には自らが気づいた事に対しての驚きを示すものもあるように感じられる。
「まさか……だよな騎坂?あのワンダーモンスターの中心にいるのは……人間か?」
「流石、姫導に付き従うだけの事はあるな菱倉。というか、その答えに到達する所から察するにオマエは既に人間の関与に辿り着いてたな?」
「……ここがそういう世界ならって考えはした。だけど、まさかだと思ったから質問したんだ」
「まぁ、その反応が自然なのかもな。オレは……もうその現実を見てるから驚きとか無くなってるけど」
いまいち話が繋がらない、何かに気づいた菱倉マナトと答えを知る騎坂アキトの話の中に出てくる言葉を姫導ヒロたちは上手く理解出来ていなかった。
が、菱倉マナトの発言のある部分を瞬間的に思い返した姫導ヒロはハッとした反応を見せ、同じようなタイミングで彼と同じ考えに至ったと思われる咲宮サクラが騎坂アキトに尋ねてしまう。
「もしかして……私たちをここに飛ばしたのは、現実世界の人間だと言うの……!?」




