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魔王の拾い子  作者: 明深 昊
2章『生きるために』
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1話 初めての外出

 点滴を併用しつつペーストからの食事トレーニングが続き、一ヶ月弱でようやく自室に戻ることができた。


 火属性を得意とする特性上、熱が出ると一気に高熱を出しやすい。その後も慣れない環境からか体調を崩しがちで、ラケルはほとんどルアンの部屋に泊まり込みだった。


 熱が引いた後も排泄が安定せず、容態が落ち着いて用意される少なめの食事を食べ切れるようになった頃。人間界に来てから既に三ヶ月が経ち、少しずつ夏の気配が近づいていた。


 今日はかなり体の調子が良い。城内をあてもなく散歩していると、吹き抜けの中庭を使った訓練施設の中にラケルの後ろ姿を見つけて立ち止まった。


 手合わせしている兵士達を見て、両者に厳しく指導している。いつもは優しげな様子だが、それを見てラケルが王兵の総隊長という立場であることを思い出した。


 中庭には城へ被害が出ないよう結界がはられていて、その外からぼんやりと稽古の様子を眺める。こちらに来てから一度も魔力を使っていないし、運動も散歩くらいしかしていない。思う存分体を動かせる兵士たちが少しうらやましく思えた。


 ふいにラケルがこちらを見て優しく手招きする。戸惑いながら近づくと、兵士たちがざわついた。ルアンの存在はラケルから周知されているが、普段人前に出ることは少ない。


「ルアン、おはよう。こんなところに来るなんて珍しいじゃないか。朝飯は食ったか?」


「おはようございます、トマトのスープを飲みました」


 多くの人から注目されていることに緊張して、縮こまってしまっているルアンを観察する。自分から部屋を出て散策している日は体調がいいことはこれまでのルアンの行動で把握していた。


「お前ら! 少し休憩だ」


 兵士に指示を出して、額に手を当てて熱がないことを確認。


「体調はどこも悪くない?」


「今日はかなりいいです」


 すると、わかったと微笑んで頭を撫でる。


「少し出かけるか」


「外に?」


 敷地内の庭で散歩したり日光浴をしたりすることもあるが、街には行く用事があるわけでもないため一度も出たことはない。


「うん、お前のことを紹介したい人もいるからな。ちょっと待ってろ」


 結界の外で待っていると、ラケルはその後の訓練をテキパキと指示してすぐにルアンの元へ寄ってきた。


「あの、いいんですか?」


「ああ、元々は休みみたいなもんだからな。それに訓練くらいあいつらだけでこなせる」


 身支度を整えるために一度ラケルが部屋に寄って、ルアンもミエによっていつもの質素な服ではなく外出用の服へ着替えさせられる。白のブレザーはボタンが多く、気になっていじってしまう。いつもの服も着心地のいいものだが、この服は細かい金色の装飾も凝っていて高価なもののようだった。


「ふふ、あまりやりすぎると取れちゃうよー」


 そう言われて、ぱっと手を離す。きれいな服を壊してしまう訳にはいかない。


 ミエにラケルの部屋まで送ってもらったものの、楽しんできてと立ち去ってしまった。中へ入るか否か迷っているうちに扉が開く。


「お待たせ」


 初めて会った日と同じ王兵のコート。仕事だと言っているときはあまり着ている印象はなく、動きやすさ重視の服を着ているから、このコートの役割がルアンにはいまいちよくわからなかった。


「ん? どうした」


「いえ……」


 首を横に振るルアンに、そうかと微笑む。だいぶ表情や会話も増えてきたが、こういう遠慮がちなところはなかなか変わらない。無理して踏み込むのも良くないような気がして、いつもルアンが近づいてくるところまででラケルも足を止めてしまう。もう少し慣れてくればこんなことも無くなるだろうか。


「行こうか」


 しかし、外へ出かけることへの興味はあるようだ。ラケルの言葉に、笑顔で頷いてくれた。


「はい!」

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