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魔王の拾い子  作者: 明深 昊
1章『小さなつぼみ』
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5話 魔力に頼る体

 吐いてしまったまま呆然としているルアンをうがいだけさせて急いで医務室に運び込む。


「ベリル!」


 医務室に入ってすぐ目当ての人物を呼ぶと、はーいと呑気な声が奥から返ってきた。


「やあやあ、お呼びかいラケル君。おっ」


 黒の伸ばしっぱなしの髪を後ろで無造作に束ね、シワの残る白衣に身を包んだ男。ラケルの腕の中で不安げにしているルアンを見て、興味深そうに大きな目をさらに見開いた。


「君がルアン君か〜明日の予定だったよね? どうしたの?」


「昨日から食べたもの全部吐いた」


 ラケルの簡潔な説明に、そっかぁ〜と頭をかく。


「やっぱりだね。とりあえず奥のベッドに寝かせておいて。他の子に指示出してくるから」


 寝かされたルアンにちょっと触るねと触診して脇に温度計を挟むベリルに、ルアンは落ち着かない様子で辺りを見回した。


「びっくりしたでしょ〜ペーストからのほうがいいって提案したんだけど、せっかくならおいしいもの食べさせたいって意見もまあ納得でさぁ」


 首をかしげる様子に、ベリルはあぁっと手を叩いた。


「ごめん、自己紹介がまだだった。僕はベリル。君の主治医だよ。魔力に頼り切りの君の体を戻す協力をさせてもらうね」


「よろしくお願いします……」


「うんうん、挨拶できてえらいねぇ」


 頭を撫でて脇に挟んでいた温度計を取り上げる。極度に子ども扱いされているのが気に食わないが、抵抗する気力もない。


「今、食べたご飯を栄養にするための力が全然ないから吐いちゃったのね」


 わかる? とルアンに確認し、うなずいたのを見て説明を続けた。


「でも、君は栄養を取らなきゃいけない。これも理解できるね。だから一旦は点滴で栄養を取りながら少しずつご飯を食べる練習をしよう」


「てんてき?」


「ご飯が食べられるようになれば魔力も休めて少しずつ他のことに使えるようになるからね。使えるのは火属性魔法だっけ。火属性使いなら……まあいいか」


 話しかけた言葉を飲み込み、てきぱきと点滴の用意を進めていく。ルアンに点滴を見せて、えっとねと説明してくれた。


「この中に栄養が詰まってて、ルアン君の中に入れていくからね」


「飲むの?」


「違うよ〜」


 苦笑いしてルアンの左腕の血管を確かめる。


「ここに管を繋げて少しずつ入れるの。少しちくってするよ」


 されるがままに点滴が繋げられて、ベリルはよしとうなずいた。


「痛くない? 具合はどう? まだ気持ち悪いかな」


「痛くないです。具合は、わかんない、疲れた……」

()

 その言葉にラケルがすまないと謝ってきて、間違えてしまったと別の言葉を探す。しかしうまく出てこず、ベリルがいや、とルアンの気持ちを汲み取って否定してくれた。


「確かに勉強で疲れてるのもあるだろうけど、多分あまり関係ないね。ルアン君、そのまま寝ちゃって大丈夫だよ。もしまた吐きそうとか、なにかあったら枕元の魔法陣を使ってね。部屋にあるものと一緒だから」


 素直にうなずいて目を閉じたルアンに微笑んで、ラケルに近くのイスへ促した。


「なあ、ルアンは……」


「大丈夫だよ〜。ご飯が上手に食べられなかっただけだね。吐いちゃったから気分も悪いし体力も使っちゃって疲れたって言ったんだと思う。体調が悪いことを言葉にするのは難しいだろうから」


 心底ほっとしたような息を吐いたラケルに、でもとベリルは懸念を口にする。


「思ったよりも体の状態は悪いかも。火属性魔法が使えるなら、むしろ平熱は高いはずなんだけどずいぶん体温も低いし。一旦医務室で預かるね。魔力は今、生成されるものは全部生命維持に回っているだろうから……王兵として働くのは一年後を目標にしてみようか」


「一年か」


 それを長いと見たか短いと見たかは言葉のニュアンスからはわからなかった。


「でも、本当に人間界に戻ってきてくれてよかった。あと少し遅かったら取り返しがつかなかっただろうから」


 初め、ルアンは人間界に戻ることを拒んだらしい。しかし、それを一蹴し強行されるほど切羽詰まっていたということ。


「まっ、安心して僕に任せておきなよ〜」


 楽観的に答えるベリルに、そうだなと苦笑いする。ふらふらと遊び呆けているが、医療知識と治癒魔法の腕は確か。


「そうだな。まずは健康になってもらわないと」

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