2話 自分の武器
王城の目の前には広い道が真っ直ぐに伸びていて、さまざまな店が軒を連ねて活気に溢れていた。
多くの人や馬車が行き交い、歌を歌ったり楽器を演奏したりしている人もいる。最初街を歩いたときには余裕がなく見ることができていなかったその光景にルアンは圧倒された。
「ラケルさん! こんにちは」
「あら、ラケル様」
すれ違う人々の多くはラケルを見てあいさつや会釈をしていて、ラケルも笑顔でそれに応える。その少し後ろにいるルアンにみんな不思議がっているようだったが、直接問われることはなかった。笑顔で微笑みかけられても、緊張して上手く相手の顔を見ることができない。
その様子を見て、ラケルがこちらを振り向く。
「怖いか?」
「あ……えっと……」
言葉がうまく出てこない。怖いわけではない。ただあいさつを返したくても喉につっかえてしまうし、恥ずかしくてすぐに顔を背けてしまう。
「まあお前が話すのは俺とシーシャたちくらいだからな。人見知りも無理はないか」
ひとみしり、とはなんだろう。きっと今の自分のことを言っている言葉。たくさん辞書を引いているのに、わからない言葉はまだいくらでも出てくる。よく辞書を引くルアンに、「言葉の意味を想像するのも大事だ」とラケルは言うのだが、なかなか難しい。
売っているものはルアンにとってはどれも新鮮で、色々なことに興味を持つルアンにラケルはどれも丁寧に説明した。クッキーというお菓子があること、今子どもたちの間ですごろくという遊びが流行っていること、配られている風船には空気よりも軽いものが入っていること。
今までルアンに合わせて立ち止まっていたラケルが、一つの店を指差す。
「このお店が目的地」
「武器ですか?」
「そう、お前持ってないだろう? 魔法だけでも充分なんだが、使えるに越したことはないからな」
そう言って中に入っていくラケルに続くと、大柄な男が出迎えた。褐色の筋肉質な肌に薄手の白シャツが良く似合う。
「いらっしゃい。突然来るっつうから驚いたぜ」
「ああ、こいつの剣を仕立ててほしくて」
ラケルにの後ろで隠れるように立っているルアンに、男が目を丸くする。
「なんだぁこいつは、隠し子か」
「そんなわけないだろ。色々あって王兵候補として面倒見ることになったんだ。まだ小さいし世間知らずなところはあるが、魔力は優秀。有望株だぞ」
「ふーん……王兵候補……王兵!?」
男がまじまじとルアンのことを見つめてきて、さらに縮こまってしまう。
「これは……使えるのか?」
「今は使わせてない、体力つけてもらわないと」
ラケルの言葉に何度かうなずいて、ニッと笑った。
「オーケー。詳しい話は今度聞くとして、今は注文を受け付けてやる。坊ちゃん、俺はガイアだ。よろしくな」
「よろしくお願いします……あ、えっと、ルアンです」
着いてこいと奥に案内される。店内は大小様々な武器が並べられていて、ルアンは興味津々といった様子。奥の部屋は武器を試すことのできるスペースになっていて、実際のお店よりも広いかもしれない。
「そんじゃちょっと待ってろ。サンプル持ってくるから」
そう言って、お店の方へと姿を消す。少し緊張した様子のルアンに、ラケルは微笑んだ。
「そう気張るな。言動はきついかもしれないが、いいやつだし一流の武器商人だから」
「うれしいこと言ってくれるじゃないか」
戻ってきたガイアがそう言って、ルアンの前に三振りの剣を置く。
「とは言っても、量産品は子ども用すくねぇんだ。今回はオーダーメイドだろ? この中のやつがしっくり来なくてもなるべく要望聞いてやるから」
子どもはまだ魔力も身体能力も個性に大きな差が生まれない。いわゆる「初めて」の武器はオーソドックスなものを手に取る者が多いため、種類は少なく用意されている。
「とりあえず一刀ずつ手に取ってみてくれ」
「おも……」
ずっしりとした重みに振るうことを諦めて剣先を床につけたのを見て、ガイアはふむ、と顎に手を当てる。
「刃はついてないから落としても大丈夫だ、安心しな。でも、重いか……」
「剣よりは短剣の方がいいかもしれないな。ルアンの場合接近戦はあまりしないだろうから、懐に入り込まれたときに対応できれば充分だろう」
そう言われてルアンが首をぶんぶんと横に振る。
「長いのがいい」
要望を聞いたガイアが豪快に笑い、ルアンの背中を叩く。ラケルが慌てて衝撃につんのめったルアンの手から剣を取り上げ、転ばないように肩を支えた。
「そうだよなぁ! 男なら誰でも剣に憧れを持つもんだ」
「だからって体に負担をかけるのは」
ラケルが抗議するも、ガイアはその主張を一蹴する。
「肉つけてからでもいいだろ」
「それは、まあ……じゃあ、量産品でいいから短剣も持っておけ。普通の剣を持っていないときは常に持ち歩けるようにしろ」
「どうして?」
ルアンの問いに、ラケルは優しく頭を撫でた。
「お前が魔法を使わなくとも身を守れるようにだよ」
「でも、街の外に出るのは魔法が許可されてからですよね?」
「街の中も常に安全ってわけじゃないんだ。覚えておけ」
結局言われるがままバックルと合わせて短剣を購入し、ラケルが紐の長さを合わせてブレザーの下に隠れて背中に剣がしまえるようにとめてくれた。
「すぐに抜けるか?」
「はい」
実際に剣を抜いて見せると、貸してごらんと言われて手渡す。なにか魔法陣を描いていて、興味がひかれてじっと目をこらした。
「場所がわかる魔法?」
ルアンの問いにラケルが目を見開き、ガイアが感心したようにうなる。
「ラケルの様子を見るに当たりか。すごいな」
「魔法陣を読めるのか」
「えっと、真ん中が場所を記すための魔法、外側が……それをラケルさんに届けるための魔法ですよね」
魔法陣で使われる文様は最近読み書きできるようになった文字とはまた違う。それを読むと考えたことはなく、魔法陣に使われた魔力そのものを見ている感覚。説明することは難しく、ただ自分が見た情報を伝えるとラケルはそうと優しくうなずいた。
「追跡魔法だ。ずっと一緒にいられるわけじゃないからな。なにかあったときにこの魔法を使ってもらえればすぐに駆けつけられる。バックルにも同じものを書いておくから貸して」
いぶかしげな様子に気づいたラケルが大丈夫と微笑む。
「保険だよ。危ないと思ったら使うとだけ覚えておけ」
「わかりました」




