第6話 近いの、別に嬉しくなんかないし (ツンデレ/クラス替え/顔見知りの同級生)
……あ。
……え、うそ。
また?
ちょっと待って。
ほんとに?
見間違いじゃないよね。
……いや、見間違いじゃないか。
だって、名簿にちゃんと書いてあるし。
はあ……。
よりによって、また同じクラスなんだ。
……なによ、その顔。
別に嫌そうにしてるわけじゃないし。
ただ、ちょっと驚いただけ。
去年も結構近くにいたのに、今年までこうなるとは思ってなかっただけ。
……え?
そんなに露骨にため息つかれると傷つく?
し、知らない。
そっちだって、別に嬉しそうな顔してないじゃん。
おあいこでしょ。
……まあいいけど。
それより、席、見た?
……見たんだ。
じゃあ知ってるか。
また近い。
近いっていうか、なんなら斜め前。
なんなの。
先生たち、わざとやってる?
……いや、そんなわけないか。
でも、ここまで続くとちょっと怪しいよね。
去年も何かと席近かったし、班も一緒になること多かったし。
そのたびに、なんか……いや、別に。
変な意味じゃないけど。
……なによ。
言いたいことあるならはっきり言えば?
「慣れてるから安心した」?
……は?
ちょ、ちょっと待って。
今、それ、さらっと言う?
普通そういうの、もっと考えてから言わない?
……いや、別に嫌じゃないけど!
嫌じゃないけど、そういうの急に言われると困るっていうか……。
こっちの心の準備とかあるでしょ。
……もう。
ほんと、そういうとこだよ。
はあ……。
でも、まあ。
たしかに、知ってる顔があると少し安心するのはわかる。
新しいクラスって、最初の空気がちょっと独特だし。
みんな静かに周り見てて、誰に話しかけるか探ってる感じあるし。
そういう中で、去年から知ってる相手が近くにいると、少しだけ気が楽っていうか。
……うん。
ほんの少しだけね。
ほんの少しだけ。
だから別に、近いのが嬉しいとかじゃなくて。
ただ、めんどくさくなくて済むなって思っただけ。
一から全部やり直さなくていいっていうか。
説明しなくても通じる部分があるの、楽だから。
……え?
それって十分うれしいってことじゃないか、って?
ち、違うし。
全然違うし。
言葉の意味、勝手に広げないでくれる?
……ほんと、調子狂う。
でもさ。
クラス替えって、毎年ちょっと怖いよね。
仲いい子と離れるかもしれないし。
逆にあんまり話したことない子ばっかりになるかもしれないし。
表向きは「どうなるかなー」って軽く言ってても、内心は結構そわそわしてる。
私も朝からちょっと落ち着かなかった。
まあ、見えないようにしてたけど。
見えてたら嫌だし。
……見えてなかった?
ならいい。
それでいいの。
でも、名簿見て、知ってる名前が目に入ったときは、少しだけほっとした。
その中に、あんたの名前もあった。
……あ、いや。
だからって特別どうこうじゃなくて。
ただ、去年それなりに話してた相手がいると楽だなって思っただけで。
……またそういう顔。
なに。
にやにやしないで。
……ほんと、腹立つ。
あーもう。
そうやってすぐ余裕ある顔するの、ずるい。
こっちは別に、そんなつもりで言ってないのに。
普通に事実を言ってるだけなのに、勝手に恥ずかしい感じにされると困るんだけど。
……え?
じゃあ、逆に聞くけど。
あんたはどうなの。
また同じクラスで、しかも席近いの。
別に何とも思ってないわけ?
……「ちょっと安心した」?
……。
……そ、そう。
ふうん。
まあ、そうだよね。
普通そうだよね。
知ってる人がいると少し安心するよね。
うん。
わかる。
すごく、わかる。
……だからその顔やめてってば!
別に今のは、深い意味で言ったわけじゃないから!
もう……。
ほんと、調子狂うなあ。
でも、まあ。
悪くないかもね。
こういう始まり方。
クラス替えって、全部がまっさらになる感じがするけど、実際はそうでもないんだよね。
去年の続きが少しだけ残ってて、それがちゃんと新しい場所にもつながってる。
知ってる話し方とか、知ってる間の取り方とか、そういう小さいものがあるだけで、教室の空気も少し違って見えるし。
……だから。
別に、嬉しいわけじゃないけど。
近くにいてくれると、ちょっとだけ助かる。
……ちょっとだけね。
そこ大事だから。
それに、どうせまた、あんたは何か忘れるんでしょ。
プリントなくしたり、提出日勘違いしたり、授業の場所間違えたり。
去年だってそうだったじゃん。
……え、今年は大丈夫?
ほんとに?
どうだか。
絶対そのうち「やばい、聞いてない」って顔すると思うけど。
そのときは……まあ、近い席だし。
気づいたら教えてあげなくもない。
気づいたら、ね。
……なによ。
「助かる」って、そんな素直に言われると逆に困るんだけど。
もう少しこう、普通に受け取れないの?
こっちはせっかくそれっぽく言ってるのに。
……はあ。
まあいいや。
あ、ほら。
先生来る。
ホームルーム始まるから、ちゃんと前向いて。
……でも。
今年も、よろしく。
……あ、今のは聞こえなくていい。
聞こえてても、別に返さなくていいし。
……え。
ちゃんと聞こえてた?
……そう。
……じゃあ、その。
改めて言う。
今年もよろしく。
席、近いし。
どうせまた、いろいろ関わること多いだろうし。
だったら、気まずいよりはそのほうがいいでしょ。
……うん。
その返事なら、まあ合格。
あんまりへらへらしないでよね。
新学期初日なんだから、もう少ししゃんとして。
……でも、まあ。
そのくらい普通にしてる顔のほうが、こっちも変に緊張しなくて済むか。
……な、なによ。
また変な顔してる。
別に。
ほんとに、別にだから。
ただ――
新しいクラスって、少し怖いけど。
あんたが近くにいるなら、まあ、なんとかなるかもって。
そう思っただけ。
……これ以上は言わない。
もう十分言ったし。
だから、あとはちゃんと授業受けて。
ほんとに。
近いの、別に嬉しくなんかないし。
……でも、悪くはない、かな。




