8月本編 第10話 海のあとって、髪から夏の匂いがするね (彼女系/海水浴後の帰り道/恋人)
朗読使用者への簡単な設定説明
海水浴を終え、冷房の効いた電車や車で帰る途中の恋人同士。潮の匂い、濡れた髪、少し焼けた肌に残る夏を惜しみながら、今日の思い出を大切にしたいと伝えます。
------------------------------------------------------------------------------------------------------
……疲れた?
そっか。
朝からずっと海にいたもんね。
行く前はあんなに元気だったのに、今は座ったまま動けなくなってる。
……私も同じだけど。
足、少し重いし。
髪もまだ完全に乾いてない。
ほら。
触ってみる?
……ん。
毛先だけ。
少し冷たいでしょう。
海のあとって、髪から夏の匂いがするね。
シャンプーとも違うし。
潮の匂いだけでもなくて。
日差しとか、砂浜とか、汗とか。
今日一日のいろんなものが、混ざって残ってる感じ。
……そっちも同じ。
少し近づいていい?
……。
うん。
やっぱり。
海の匂いがする。
それと、日焼け止め。
朝、ちゃんと塗ったのに、少し焼けたね。
頬も、腕も。
痛くない?
……大丈夫ならよかった。
でも帰ったら、ちゃんと冷やしてね。
面倒だからって、そのまま寝たらだめだよ。
……私がやる?
ふふ。
仕方ないなあ。
じゃあ、冷たいタオル用意してあげる。
でも、その代わり。
私の髪、乾かすの手伝って。
長いから、一人だと面倒なんだもん。
……約束ね。
……今日、楽しかった?
海、きれいだったね。
波が来るたびに逃げたり。
砂に足を取られて転びそうになったり。
写真を撮ったら、私の髪が全部顔にかかってたり。
格好いい思い出は、あんまりないけど。
でも。
そういう失敗まで含めて、楽しかった。
……写真、消さないでね。
変な顔でも。
今日の私だから。
きれいな海だけ残っていても、そこに私たちがいなかったら、少し寂しいでしょう。
……だから。
疲れて眠くなっても。
今日のこと、少しだけ覚えていて。
濡れた髪のこと。
冷たい電車の中で、肩をくっつけて帰ったこと。
私が、あなたから夏の匂いがするって言ったこと。
……あ。
肩、借りてもいい?
少しだけ。
眠らないよ。
たぶん。
……でも、もし寝たら。
降りる駅で起こしてね。
それから。
来年もまた海に行こう。
今日より少し上手に写真を撮って。
今日より少し長く一緒にいて。
また帰り道に、同じ匂いがするねって話そう。
……約束。
今日の夏が終わっても。
あなたと過ごしたことまで、消えてしまわないように。




