8月本編 第8話 スイカの種、そっちまで飛んじゃった (天然系/縁側でスイカ/仲のいい同級生)
朗読使用者への簡単な設定説明
この台本は、女性VTuberが「明るく素直で、少しだけ抜けたところのある天然系の同級生」として読むシチュエーションボイスです。
舞台は八月の午後。相手の家、または田舎の親戚宅の縁側で、二人はよく冷えたスイカを食べています。彼女は種飛ばしを始めますが、狙いを大きく外し、相手の服に種を飛ばしてしまいます。
前半はゆるく明るい夏の日常を中心にし、中盤から「何もしないまま一緒にいられる時間」への愛着をにじませてください。風鈴、蝉の声、冷えたスイカ、指先についた果汁、夕立前の湿った風など、五感を丁寧に表現すると魅力が増します。
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……冷たっ。
ちょっと待って。
このスイカ、思ってたより冷えてる。
持っただけで指が痛くなるくらい。
……大げさ?
本当だって。
触ってみて。
ほら、ここ。
皮のところ。
……ね?
冷たいでしょう。
冷蔵庫の奥にずっと入ってたのかな。
おばさん、朝から冷やしてくれてたんだって。
私たちが食べるかもしれないからって。
……私たちが、だよ。
なんかいいね。
食べるって決めてなかったのに。
来るかどうかも、ちゃんと約束してなかったのに。
たぶん来るだろうって思われてて。
それで、ちゃんと二人分より多めに切ってある。
……多すぎる?
たしかに。
お皿に六切れある。
一人三切れ。
……無理かな。
でも、夏のスイカって、食べ始めると意外といけるよ。
水分みたいなものだし。
……それは言いすぎ?
うん。
お腹いっぱいにはなるね。
じゃあ、残ったらあとで食べよう。
夕方とか。
夕立が来て少し涼しくなったころに、また食べるのもよさそう。
……ほら。
早く座って。
縁側、日陰になってるから、ここなら少し涼しいよ。
……熱くない?
大丈夫?
畳のほうがいい?
……ここでいい?
じゃあ、隣。
……あ。
そんなに端に座ったら落ちるよ。
もうちょっとこっちに来たら?
……私が広く使いすぎ?
そんなことないよ。
ほら、ちゃんと二人分ある。
……ね。
これくらい。
……近い?
そうかな。
縁側って、もともとそんなに広くないし。
肩が少し触れるくらい、普通じゃない?
……普通だよ。
たぶん。
……あ。
今、蝉がすごい。
一匹だけ急に近くで鳴き始めた。
木のどこにいるんだろう。
……見つからないね。
蝉って、あんなに大きい声なのに、探すと意外と見えない。
絶対この辺にいるのに。
……あっ。
違う。
あれは葉っぱ。
……笑った?
だって、遠くから見たら似てたんだもん。
茶色かったし。
……もう。
いいから、スイカ食べよう。
溶けるものじゃないけど、ぬるくなったらもったいない。
はい。
どれにする?
大きいやつ?
……やっぱり。
最初からそれ取ると思った。
あんた、こういうとき遠慮しないよね。
……私に譲る?
今さら?
もう持ってるじゃん。
しかも、一口食べたあとで譲られても困る。
……気にしない?
私は少し気にする。
……少しだけ。
でも、自分のあるからいいよ。
私はこれ。
端のほうが皮が薄くて食べやすそう。
……いただきます。
……ん。
甘い。
すごく甘い。
真ん中のところ、当たりだね。
……そっちは?
おいしい?
……その顔なら、おいしいんだ。
言葉よりわかりやすい。
食べ物がおいしいとき、ちょっと目が細くなるよね。
……前から?
うん。
学校でパン食べてるときもそう。
好きなものだと、少しだけ顔がやわらかくなる。
……見てるのかって?
見てるというか、目に入るの。
近くにいるから。
……いや。
毎日ずっと見てるわけじゃないよ。
そんなことしたら、さすがに怖いでしょう。
でも、たまに。
あ。
今日これ好きなんだな、とか。
今ちょっと疲れてるな、とか。
ぼんやりしてるな、とか。
わかることがある。
……顔に出やすいから。
あんた。
……私も?
私は出てないよ。
……出てる?
どんなとき?
……好きなもの食べると、すぐ笑う?
それは普通じゃない?
おいしかったら笑うでしょ。
……あんたといるときも、よく笑う?
……。
それも。
普通じゃない?
楽しかったら笑うし。
あんた、変なこと言うから。
……変なこと言ってない?
言ってるよ。
さっきも、スイカは飲み物だとか。
……私が言った?
あ。
そうだった。
ごめん。
じゃあ、あんたは変なことを言うというより、私が変なこと言ったときちゃんと拾って笑う人。
……それ、褒めてる?
たぶん。
私、自分で変なこと言っても、誰にも反応されないとちょっと寂しいから。
あんたは笑ってくれるから、話しやすい。
……呆れてるだけ?
それでもいいよ。
無視されるより。
……ねえ。
種、どうしてる?
お皿の端に出してる?
……ちゃんとしてる。
私は。
……どうしよう。
口の中に三つくらいある。
……出せばいい?
それはそうなんだけど。
なんか、子どものころみたいに飛ばしたくならない?
……ならない?
本当に?
スイカの種を見たら、一回くらい遠くまで飛ばしたくなるでしょう。
……行儀が悪い?
縁側の外ならいいよ。
庭だし。
あとで芽が出るかもしれない。
……出ない?
種だけ飛ばしても育たないのかな。
でも、もし育ったら面白いね。
来年ここにスイカができて。
あのとき飛ばした種だって言えたら。
……無理かな。
でも、やってみようよ。
一回だけ。
どっちが遠くまで飛ばせるか。
……子どもみたい?
夏休みなんだから、少しくらいいいでしょ。
誰も見てないし。
……おばさんが見てたら?
そのときは、あんたが始めたって言う。
……私が言い出した?
そうだっけ。
暑さで記憶が曖昧になった。
……ふふ。
じゃあ。
線、決めよう。
この縁側の端から。
庭の石まで届いたら勝ち。
……遠い?
大丈夫。
たぶんいける。
……無理そうな顔してる。
ねえ、試しにやってみて。
あんたから。
……やり方?
普通に、ぷって。
……もうちょっと格好いい説明はないのか?
ないよ。
種飛ばしに格好よさを求めないで。
……ほら。
一個選んで。
大きいやつ。
……準備できた?
じゃあ、どうぞ。
……。
……あ。
全然飛んでない。
縁側のすぐ下。
……ふふっ。
ごめん。
でも、あんなに真剣な顔したのに。
結果が近すぎる。
……笑いすぎ?
だって。
今のはずるいよ。
……私もやれ?
いいよ。
見てて。
私は意外と上手いから。
子どものころ、よくやってたし。
……いくよ。
……。
……ぷっ。
……あっ。
……え。
ちょっと待って。
どこ行った?
庭じゃない。
……。
あ。
……そっち。
……ごめん。
動かないで。
スイカの種、そっちまで飛んじゃった。
……肩。
服についてる。
……笑わないでよ。
なんで真横に飛ぶの。
おかしい。
私は前を向いてたのに。
……下手?
違う。
風。
今、横から風が吹いたから。
……そんなに強い風じゃなかった?
細かいことはいいの。
ほら。
取るから。
動かないで。
……ん。
……取れない。
ちょっと布に張りついてる。
果汁もついてるからかな。
……もう少し近くに。
……そう。
……。
……取れた。
はい。
……ごめん。
服、少し濡れたかも。
ハンカチで拭く?
……大丈夫?
でも、赤くなったら嫌だよ。
貸して。
……ほら。
ちょっとだけ。
……ん。
……。
……なに。
そんなにじっと見ないで。
服を拭いてるだけでしょう。
……顔が近い?
だって、汚れてるところ見ないと拭けないし。
……あ。
今、笑ってる。
私が失敗したから楽しんでるでしょう。
……かわいかった?
……。
なにが。
種を飛ばして、人の服を汚したところが?
それをかわいいと思う感覚、少し変じゃない?
……慌ててたところ?
……もう。
そういうこと、急に言わないで。
拭きにくくなる。
……はい。
たぶん取れた。
跡も残ってない。
……よかった。
……でも。
近くで見ると、この服、少し柔らかそうだね。
……触っていい?
あ。
今触ってた。
ごめん。
拭いてたから、つい。
……嫌じゃない?
ならよかった。
……ねえ。
今の、誰かに見られてたら。
ちょっと誤解されそうだね。
縁側で二人で座って。
私があんたの肩を拭いて。
距離も近くて。
……なにを誤解されるのかって?
……それは。
その。
仲がいいんだな、とか。
……実際、仲いい?
うん。
そうだけど。
でも、たまに。
周りの人が思ってる「仲いい」と、私が思ってる「仲いい」が、少し違う気がする。
……どう違うか?
うまく言えない。
友達として仲がいい、で間違ってないのに。
それだけって言われると、少し足りない気がする。
でも。
じゃあ何なのって聞かれると、ちゃんとした名前はまだない。
……そういう感じ。
……わかる?
……少し?
そっか。
じゃあ、あんたも同じようなこと考えたことあるのかな。
……今は聞かない。
聞いたら、スイカの味がわからなくなりそうだから。
……ふふ。
もう一切れ食べよう。
まだ残ってる。
さっきの勝負は。
……私の負け?
そうだね。
距離だけ見たら、あんたの種より遠くまで飛んだ。
横方向だけど。
……つまり私の勝ち?
違う。
人に当てたら失格。
私の負け。
……罰ゲーム?
そんなルールなかったでしょう。
後から増やさないで。
……じゃあ、残りの大きいスイカを譲る?
それくらいならいいよ。
はい。
一番大きいやつ。
……嬉しそう。
本当に食べ物に正直。
……でも。
私も少しもらっていい?
端っこだけ。
……自分のあるだろ?
あるけど。
そっちのほうが甘そう。
……一口?
うん。
……え。
そのまま?
……いや。
別にいいけど。
……いいけど、少し待って。
今、どこから食べた?
……真ん中?
じゃあ、反対側から。
……気にしすぎ?
普通は気にするよ。
……友達なら平気?
友達でも気にする人は気にする。
私は。
……少し気にする。
でも。
嫌という意味じゃない。
だから、変な顔しないで。
……じゃあ。
一口。
……ん。
……甘い。
やっぱり、そっちのほうが甘い。
ずるい。
大きいだけじゃなくて、甘いところまで取った。
……譲ってくれた?
今は一口もらっただけ。
残りはあんたの。
……でも。
同じスイカを二人で食べるの、ちょっと変な感じ。
さっきまで普通に話してたのに。
一口もらっただけで、急に距離が近くなったみたいに感じる。
……気のせい?
そうだね。
気のせいかも。
縁側が狭いから。
暑いから。
夏だから。
八月って、なんでも夏のせいにできるね。
顔が赤いのも。
手がべたべたするのも。
少し落ち着かないのも。
全部、暑いから。
……あんたは赤くないね。
ずるい。
……私だけ?
……ちょっと赤い?
本当に?
……じゃあ。
同じだ。
……ふふ。
なにが同じなのか、よくわからないけど。
でも、少し安心した。
……あ。
風鈴。
鳴った。
さっきまで全然風なかったのに。
少し湿った風だね。
雨、来るかな。
空の向こう、ちょっと暗い。
夏の夕立って、急に来るよね。
まだ明るいのに、風だけ先に冷たくなって。
木の葉が裏返って。
蝉の声が少し止まって。
それから、大きい雨粒が一つ二つ落ちてくる。
……好き?
私は好き。
家の中にいるときだけ。
外で降られるのは嫌だけど。
縁側から眺める夕立は、少し特別。
暑かった庭が、一気に濡れて。
土の匂いがして。
屋根に雨が当たる音が大きくなって。
何も話さなくても、雨を見てるだけで時間が過ぎる。
……今日、降るかな。
降ったら。
もう少しここにいようよ。
帰れないから、じゃなくて。
雨が止むまで。
……雨が降らなかったら?
それは。
……スイカが残ってるから。
夕方のぶん。
それを食べるまでいて。
……さっき、残ったらあとで食べるって言ったでしょう。
言ったよね?
だから、それまでは帰れない。
……言い訳が雑?
いいの。
あんたが帰らなければ。
……。
今日さ。
本当は、何かするつもりだった?
……特にない?
私も。
最初は、スイカ食べたら帰ろうと思ってた。
でも。
こうして座ってたら。
何もない時間って、意外と終わってほしくないね。
遊びに行くわけでもなくて。
映画を見るわけでもなくて。
特別な話をするわけでもない。
ただ、スイカを食べて。
種を飛ばして失敗して。
蝉がうるさいって言って。
夕立が来るか空を見る。
……こういうの。
たぶん、あとから一番思い出す気がする。
海へ行った日とか。
花火を見た日とか。
そういう大きな思い出も残るけど。
夏の記憶って。
冷たいスイカの皮とか。
縁側の木が少し熱かったこととか。
あんたの服に種を飛ばしたこととか。
そういう、どうでもいいところのほうが、急に思い出したりする。
……だから。
今日のこと、覚えててね。
……種を飛ばされたこと?
それだけじゃなくて。
私と一緒にスイカ食べたこと。
……あと。
同じ一切れを食べたこと。
……それは別に覚えなくても。
いや。
……やっぱり少し覚えてて。
でも、誰にも言わないで。
種を飛ばしたことも。
……それは言っていい?
だめ。
全部秘密。
今日の縁側のことは、二人だけ。
……秘密にするほどのことじゃない?
そうかもしれないけど。
秘密って決めると、少し特別になるでしょう。
同じ出来事でも。
誰にも言わないって約束したら、二人だけのものになる。
……ずるい?
何が?
普通の日を勝手に特別にするのが?
いいじゃん。
何もない夏休みの午後くらい。
私たちが特別だったって決めても。
……ねえ。
もう一回、種飛ばしする?
……嫌?
今度は人のいない方向へやるから。
絶対。
……信用できない?
ひどい。
一回失敗しただけなのに。
……じゃあ。
二人とも、お皿に出す?
それが安全か。
でも、少しつまらないね。
……あ。
雨。
今、手に当たった。
一粒。
……そっちも?
来るね。
ほら。
庭の葉っぱに、跡がついてる。
……スイカ、家の中に入れる?
まだ大丈夫。
屋根あるし。
もう少し見てよう。
……ほら。
また一粒。
……あ。
急に増えた。
すごい。
地面の色が、点々と変わっていく。
……ねえ。
もう少し、こっちに寄って。
風が横から吹いて、雨入ってくる。
……そう。
肩、当たってるけど。
今日はもういい。
さっき私が種を飛ばしたから。
そのお詫び。
……意味わからない?
私も、あまりわからない。
でも。
今は、これくらい近いほうが暖かい。
雨の風、ちょっと冷たいから。
……夏なのにね。
さっきまで暑くて仕方なかったのに。
一度雨が降り始めると、急に誰かの体温が近く感じる。
……あんた、暖かい。
……私も?
そう。
じゃあ。
お互いさま。
……雨、強くなってきた。
蝉の声、聞こえなくなったね。
代わりに、屋根の音。
……いい音。
少し眠くなる。
……このまま、ぼんやりしててもいい?
話さなくても。
隣にいてくれれば。
……うん。
ありがとう。
スイカの種、そっちまで飛んじゃったけど。
……それで、少し近くなれたなら。
失敗も、そんなに悪くなかったかも。
……今のは忘れて。
……やっぱり。
今日の秘密に追加して。




