8月本編 第7話 夏休みの図書室で、また会えましたね (清楚先輩/夏休みの図書室/図書室で会う先輩)
朗読使用者への簡単な設定説明
この台本は、女性VTuberが「普段は落ち着いていて上品ですが、好きな後輩を前にすると少し不器用になる清楚な先輩」として読むシチュエーションボイスです。
舞台は八月の午前中、夏休み期間中の学校図書室。宿題や読書のために訪れた先輩が、誰もいないと思っていた場所で相手と再会します。
学校が休みである以上、もうしばらく会えないと思っていた先輩は、偶然を装いながらも再会を心から喜びます。しかし、偶然に頼っているだけでは次に会える保証がないため、最後には勇気を出して「次は約束として会いませんか」と提案します。
冷房の低い音、紙とインクの匂い、窓の外から聞こえる蝉の声、机越しの静かな距離感を意識してください。前半は清楚で穏やかに、中盤から少しずつ寂しさと照れをにじませる読み方が合います。
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……あ。
……おはようございます。
驚きました。
誰かいるとは思っていましたけれど、まさかあなたがいるとは思わなくて。
……いえ。
別に、あなたが図書室にいることがおかしいと言いたいわけではありません。
ただ。
夏休み中ですから。
教室で会うこともありませんし、部活動が同じというわけでもありませんから。
しばらく顔を見る機会はないものだと思っていました。
……ですから。
少し、驚いただけです。
……嬉しそうに見える?
……そうですか。
たぶん、涼しい場所へ入ったからでしょう。
外、とても暑かったので。
ここへ来るまで歩いただけで、顔が少し赤くなっているのかもしれません。
……先輩、今ごまかしましたよね?
……。
朝から、ずいぶん鋭いですね。
夏休みに入って、少しのんびりした顔になっているかと思ったのに。
こういうところは、学校があるときと変わらないんですね。
……はい。
少しだけ、ごまかしました。
あなたに会えて。
嬉しかったです。
これで満足ですか?
……そんなに笑わなくてもいいでしょう。
私だって、たまには素直なことを言います。
毎日言えるわけではありませんけれど。
……でも。
本当に偶然ですね。
あなたは、いつからここに?
……開館してすぐ?
そんなに早く。
夏休みなのに、きちんと起きて来たんですね。
……失礼?
ごめんなさい。
でも、終業式の日に「夏休み中は午前という概念を捨てる」と言っていた気がしたので。
……言っていない?
似たようなことは言っていました。
「目覚まし時計とは九月まで絶交する」とか。
……ふふ。
覚えていますよ。
あなた、変なことを言うときだけ妙に真剣な顔をするので、記憶に残るんです。
それなのに、今日はこんな早い時間から図書室にいる。
宿題ですか?
……読書感想文。
なるほど。
では、夏休みの前半で終わらせるつもりなんですね。
感心です。
……八月の終わりに苦しみたくない?
それは賢明な判断だと思います。
私も、小学生のころは何度か失敗しましたから。
……意外ですか?
私だって、昔から何でも計画的だったわけではありません。
一度、八月三十日の夜まで自由研究が終わらなくて。
母に手伝ってもらいながら、半分泣いてまとめたことがあります。
……何を研究したのか?
朝顔です。
でも、途中で観察を忘れてしまって。
何日かぶん、記憶と想像で書きました。
……いけませんね。
今なら、絶対にそんなことはしませんけれど。
……たぶん。
……ふふ。
そんなに驚かないでください。
清楚な先輩にも、誤魔化した朝顔の観察記録くらいあります。
誰にでも、他人にはあまり見せたくない過去の一つや二つあるものです。
……あなたにも?
では、あとで聞かせてください。
私ばかり恥ずかしい話をしたのでは、不公平ですから。
……逃げないでくださいね。
ところで。
その本に決めたんですか?
……まだ迷っている?
少し見せてもらってもいいですか?
……ありがとうございます。
……ああ。
これは、少し難しいかもしれませんね。
物語としては面白いですけれど、感想を書くとなると、何を中心にするか迷いそうです。
主人公の成長でもいいですし。
家族との関係でもいい。
最後の選択について考えるのもいい。
……ただ。
読み終わるまでに時間がかかりそうですね。
……今から変えたほうがいい?
それは、私が決めることではありません。
あなたが読みたいと思うなら、これでいいと思います。
読書感想文のためだけに本を選ぶと、読むことそのものが苦しくなってしまいますから。
……でも。
途中で困ったら、相談してください。
文章の答えを教えることはできませんけれど。
どう感じたのかを整理するくらいなら、一緒にできます。
……本当です。
先輩だから、というだけではありません。
あなたが本について話すとき。
普段より少し考えながら言葉を選ぶでしょう。
私は、それを聞くのが嫌いではないんです。
……嫌いではない、だけ?
また、そこを拾うんですね。
……好きです。
あなたが、何かを一生懸命考えて話しているところ。
これでよろしいですか?
……。
そんなに満足そうな顔をされると、言わなければよかったと思いそうになります。
……嘘です。
少しくらいは、嬉しそうにしてもらえたほうがいい。
勇気を出した甲斐がありますから。
……では。
私は、向こうの机を使いますね。
あなたの邪魔にならないように。
……隣でいい?
……いいんですか?
いえ。
私は構いません。
むしろ、その。
一人で読むよりは、少し安心します。
でも、読書感想文をやるなら、私が隣にいると話しかけてしまうかもしれませんよ。
……先輩は静かでしょう?
普段は、そうですね。
図書室では静かにしますし。
でも、今日は。
夏休みの図書室で、思いがけずあなたに会ってしまったので。
少し話したい気持ちがあります。
……少し?
……かなり。
今日は、正直に言う日みたいですね。
朝から何度も、見抜かれてしまうので。
……では。
隣、失礼します。
……この席。
夏休み前にも、使ったことがありますね。
覚えていますか?
期末試験の前。
あなたが参考書を開いたまま、十分くらい同じページを見ていた日。
……寝ていませんでした?
起きてた?
でも、目がほとんど動いていませんでしたよ。
私が声をかけたら、急に「なるほど」と言いましたし。
何がなるほどだったのか、今でも少し気になっています。
……ふふ。
懐かしいですね。
ほんの数週間前のことなのに。
学校が休みになると、ずいぶん昔のことみたいに感じます。
廊下も静かで。
教室には誰もいなくて。
制服を着ていないだけで、同じ学校なのに別の場所みたいです。
……あなたも私服ですね。
似合っています。
……そんなに驚くことですか?
服を褒めただけです。
……先輩も似合ってる?
ありがとうございます。
少し迷ったんです。
学校へ来るだけですし、誰に会う予定もありませんでしたから。
あまり考えなくていいと思っていたんですけれど。
家を出る前になって、もし知っている人に会ったらどうしようと思って。
結局、何度か着替えました。
……何度?
三回くらいです。
……笑いましたね。
仕方ないでしょう。
制服なら、何も考えなくていいのに。
私服だと、普段とは違う自分を見られるようで、少し落ち着かないんです。
……あなたに会うと思っていた?
……。
会えるとは思っていませんでした。
でも。
会えたらいいな、とは少し思いました。
……。
また、そんな顔をする。
私が恥ずかしいことを言うたび、嬉しそうにするのはやめてください。
……嬉しいから?
そうですか。
では、少しくらいは許します。
でも、見つめすぎないでください。
本を読めなくなります。
……ほら。
窓の外。
蝉、すごいですね。
図書室の中は静かなのに、窓の向こうだけ夏が騒いでいるみたい。
冷房の音と。
ページをめくる音と。
遠くの蝉の声。
こういう時間、私は好きです。
何も起きていないのに、ちゃんと記憶に残りそうで。
……あなたは?
静かな場所、苦手ではないですか?
……一人だと退屈だけど、誰かがいるなら平気?
……そうですか。
私も、少し似ています。
一人で静かな場所にいるのは嫌いではありません。
でも。
好きな人が近くにいる静けさと。
一人きりの静けさは、全然違います。
……。
今、私は。
「好きな人」と言いましたか?
……言いましたね。
……忘れてください。
……無理?
そうでしょうね。
あなたは、こういうことだけ妙に記憶がいいですから。
……では。
少し訂正します。
親しい人。
会えたら嬉しい人。
一緒にいると、静かな時間まで少し特別になる人。
……それなら、もっとわかりやすい?
……もう。
訂正した意味がありませんね。
……でも。
今日は、言葉を引っ込めるのをやめます。
どうせ、顔に出ているのでしょう?
……少し?
少しなら、まだ助かります。
……かなり?
やっぱり。
それなら、もう仕方ありません。
私は。
夏休みに入ってから、あなたに会えなくて、少し寂しかったです。
まだ長い休みの、ほんの最初なのに。
学校がある日は、毎日会えることを当たり前だと思っていました。
朝、廊下ですれ違って。
昼休みに姿を見かけて。
放課後、図書室へ来れば、たまに隣の席にいる。
必ず話すわけではなくても。
今日はいるんだな、と確認できる。
それだけで、安心していたんだと思います。
でも、夏休みになった途端。
あなたが今日はどこにいるのか。
何をしているのか。
誰と会っているのか。
何もわからなくなった。
……別に。
全部知りたいわけではありません。
あなたには、あなたの時間がありますから。
ただ。
今まで見えていた人が、急に見えなくなると。
思っていたより、落ち着かなかったんです。
……連絡すればよかった?
そうですね。
私も、何度か思いました。
「宿題は進んでいますか」とか。
「暑いですが、体調は大丈夫ですか」とか。
先輩らしい理由なら、いくらでも作れたはずなのに。
文章を打って。
読み返して。
でも、用事もないのに連絡したら、迷惑かもしれないと思って消しました。
……何回くらい?
……三回。
……それ以上かもしれません。
毎日ではありませんよ。
本当に。
……そんなに疑わないでください。
でも、昨日も少し迷いました。
明日、図書室へ行く予定です、と送ろうかと思って。
もし暇なら来ませんか、と。
……送ればよかった?
……そうですか。
来てくれたんですね。
……では、少し後悔します。
昨日、勇気を出していれば。
偶然ではなく。
今日ここで会うことを、昨日から楽しみにできたのに。
……でも。
偶然だったからこそ、こんなに嬉しかったのかもしれません。
扉を開けて。
いつもの席にあなたがいて。
自分でも驚くくらい、安心したんです。
……ここにいた。
ちゃんと会えた。
それだけで。
今日、図書室へ来てよかったと思いました。
……ねえ。
一つ、提案してもいいですか?
今日のことを。
偶然だけで終わらせたくありません。
……あ。
大げさな意味ではないです。
たぶん。
……たぶん、は余計でしたね。
来週も。
同じ曜日の、同じくらいの時間に。
ここへ来ませんか?
あなたは読書感想文を進めて。
私は課題をやります。
ずっと話さなくてもいいんです。
お互いに本を読んで。
わからないことがあれば少し相談して。
休憩になったら、飲み物でも買いに行く。
……どうでしょう。
……来てくれる?
本当に?
……ありがとうございます。
では。
次は偶然ではなく、約束ですね。
……嬉しそう?
はい。
今度はごまかしません。
嬉しいです。
偶然会えるのも素敵ですけれど。
約束なら、会える日まで楽しみにできますから。
朝、何を着ていこうか迷うことにも、ちゃんと理由ができます。
……また三回着替える?
それは、わかりません。
でも。
あなたが褒めてくれるなら、少しくらい迷ってもいいかもしれません。
……今日も似合ってる?
……ありがとうございます。
今度は、ちゃんと受け取ります。
……ねえ。
勉強、始めましょうか。
さすがに、ここへ来てから話しすぎました。
図書室の先生に注意される前に、静かにします。
……でも。
一つだけ。
読書感想文で困ったら。
遠慮なく、私のノートを軽く叩いてください。
声を出しにくければ、それでわかりますから。
……はい。
私も。
少し話したくなったら、あなたの机を軽く叩くかもしれません。
……勉強の邪魔?
ならない程度にします。
でも、少しくらいは許してください。
せっかく夏休みの図書室で、また会えたんですから。
……。
……ねえ。
本当に、不思議ですね。
学校があるときは。
会うのが当たり前すぎて、今日もいた、くらいにしか思わなかったのに。
会えない時間が少し続いただけで。
こうして隣にいることが、とても貴重に思える。
ページをめくる音まで。
椅子を引く音まで。
あなたが時々、小さく息をつく音まで。
全部、聞こえることが嬉しい。
……今のは。
少し気持ちが悪いですか?
……全然?
よかった。
でも、あまり安心させると、私、もっと素直になりますよ。
……それでもいい?
……。
あなたは、ときどき本当にずるいですね。
そんなふうに言われたら。
私は、夏休みの残りも。
もっとあなたに会いたくなってしまう。
……でも。
それでも、いいのかもしれません。
会いたいと思うことを、ずっと隠しているより。
一度くらい、自分から約束するほうが。
たぶん、ずっと健全です。
……はい。
では、来週。
同じ曜日。
同じ時間。
この席で。
もし私のほうが先に来ていたら、隣を空けておきます。
あなたが先なら。
今日みたいに、窓際の席を取っておいてください。
……忘れないで。
夏休みの図書室で。
偶然会えた清楚な先輩が。
次は偶然ではなく、あなたに会いたいと言ったこと。
……。
少し言い方が大胆でしたね。
でも、訂正しません。
今日は、そういう日ですから。
……では。
今度こそ、静かに本を読みましょう。
でも。
隣にいることだけは、忘れないでくださいね。




