8月本編 第6話 べ、別に二人で花火したかったわけじゃないし (ツンデレ/手持ち花火/同級生)
朗読使用者への簡単な設定説明
この台本は、女性VTuberが「素直になれないものの、相手と二人きりになる時間を密かに楽しみにしていたツンデレの同級生」として読むシチュエーションボイスです。
舞台は八月の夜。友人たちと手持ち花火を楽しんでいましたが、一人、また一人と帰ってしまい、最後に残ったのは相手と彼女の二人だけ。花火はまだ少し残っており、彼女は「捨てるのがもったいないから」と言い訳しながら、二人で続きを始めます。
前半は照れ隠しの軽口を多めにし、中盤では線香花火を見つめる静かな時間を通して、夏の終わりと曖昧な関係への寂しさをにじませてください。火を近づける距離、煙の匂い、指先を照らす光、夜の湿った空気を意識すると、健全ながら艶のある台本になります。
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……あれ。
もう行っちゃった?
……本当に?
全員?
ちょっと待って。
さっきまであんなに騒いでたのに、帰るときだけ早くない?
片づけくらい手伝っていけばいいのに。
ほら、見て。
花火の袋も。
空になったバケツも。
使い終わったろうそくも、ほとんどそのまま。
こういうときだけ「じゃあ、あとは若い二人で」みたいな顔して帰るの、ずるいと思う。
……若い二人って。
同い年だけど。
そういう意味じゃなくて。
……なに笑ってるの。
今、絶対わざと変な受け取り方したでしょう。
違うから。
あの子たちが、勝手に妙な空気を作って帰っただけ。
私たちは普通に、残ったものを片づける。
それだけ。
……。
なに、その顔。
まさか、あんたまで帰るつもり?
……いや、帰ってもいいけど。
別に。
私は一人でも片づけられるし。
バケツの水を捨てて、ゴミをまとめて、火が残ってないか確認して。
それくらい、誰に手伝ってもらわなくてもできる。
……でも。
花火、まだ残ってる。
ほら。
袋の奥。
誰かが買ってきた細いやつと、線香花火。
……どうするって?
捨てるのは、もったいないでしょ。
火をつけてない花火をそのまま捨てるなんて、縁起が悪そうだし。
……そんな縁起、聞いたことない?
私もないけど。
今、作った。
でも、もったいないのは本当。
だから。
その。
少しだけ、やっていかない?
……べ、別に二人で花火したかったわけじゃないし。
残ってるから。
仕方なく。
最後まで使い切ってから帰ったほうが、片づけとして自然だから。
……なに。
言い訳が長い?
うるさい。
やるの、やらないの?
……やる?
そう。
なら、早く準備して。
夜だからって、いつまでもここにいられるわけじゃないんだから。
……ろうそく、まだ使えるかな。
火、消えてるね。
ライターは?
……持ってる?
貸して。
……あ。
風。
ちょっと待って。
そのままだと火が消える。
手で囲って。
……そうじゃなくて。
もう少しこっち。
私も手を出すから。
……近い?
火を守るんだから仕方ないでしょ。
風の中でライターをつけるには、これくらい近づかないと。
別に、顔を近づけたいわけじゃ。
……あ。
ついた。
ろうそく、早く。
……うん。
これで大丈夫かな。
……熱くなかった?
指。
火、近かったでしょ。
……平気?
ならいいけど。
火傷したら、せっかくの思い出が全部「花火で火傷した夜」になるから。
……思い出って。
今のは、普通に。
夏の出来事として記憶に残るって意味。
二人の特別な思い出とか、そういう話じゃない。
いちいち言葉尻を拾わないで。
……ほら。
先に一本選んで。
どれがいい?
……これ?
細いね。
色が変わるやつかな。
私は、こっち。
たぶん同じ種類。
……同時につける?
いいけど。
火のところ、詰めすぎないでね。
……わかってる?
本当に?
さっき、みんなでやってたときも、あんた結構危なかったよ。
火をつけた花火を持ったまま振り向くし。
誰かに呼ばれたら、そのままそっちへ手を向けるし。
見てるこっちが怖かった。
……そんなに見てたのかって?
見てたというか。
目に入っただけ。
あんた、動きが大きいから。
嫌でも目立つの。
……はい。
つけるよ。
せーの。
……あ。
きれい。
赤から、緑。
次は青かな。
……ねえ。
そんなに振り回さないで。
火花が散る。
……子どもじゃない?
そう言いながら、今すごく楽しそうだけど。
……ふふ。
でも、まあ。
こういうのって、年齢関係ないのかもね。
花火に火がついた瞬間は、みんな少しだけ子どもっぽくなる。
さっきまでスマートフォンばかり見てた人も。
普段はあまり騒がない人も。
火花が出たら、ちゃんと「きれい」って言う。
……あんたも。
花火見てるときの顔、昔と変わらない。
……昔?
覚えてるよ。
小学生のころ、近所で花火したじゃん。
あんた、一本の花火をなるべく長持ちさせようとして、腕を全然動かさなかった。
真剣な顔で、じっと見て。
それで火が消えたら、すごく残念そうにして。
……覚えてない?
私、覚えてる。
あのころから、花火好きだったよね。
派手な打ち上げ花火も好きだけど。
自分の手の中で光るやつのほうが好きって言ってた。
……よく覚えてる?
まあ。
幼馴染ほど昔から一緒だったわけじゃないけど。
同じ町で、同じ学校で。
なんだかんだ、長いでしょう。
……だから。
それくらいは覚えてる。
あんたが忘れてるようなことも。
……でも。
私が覚えてることを、あんたは全然覚えてないときがあるから、たまに腹が立つ。
……ごめん?
急に素直に謝らないでよ。
怒りにくくなるから。
別に、本気で責めてるわけじゃない。
人によって、覚えてるものは違うし。
私だって、あんたが覚えてることを忘れてるかもしれない。
……たとえば?
……え。
私が昔、花火を怖がってた?
いつ?
……低学年のころ?
火花が足に飛んでくるのが怖くて、ずっとあんたの後ろにいた?
……嘘。
そんなことしてない。
……してた?
本当に?
……誰にも言わないで。
絶対。
そんなの知られたら、今まで私が偉そうに花火の注意してたの、全部恥ずかしくなるじゃん。
……でも。
あんた、覚えてたんだ。
……。
そっか。
……なに。
嬉しそうって。
嬉しくは。
……少しだけ。
私ばっかり昔のことを覚えてるわけじゃないんだって思ったから。
……あ。
花火、終わる。
バケツに入れて。
……そう。
ちゃんと水につけて。
次は?
……これにする?
同じの、もう一本ずつあるね。
……また一緒に?
好きだね、同時につけるの。
……別に嫌じゃないけど。
じゃあ、今度は私が火をつける。
持って。
……近づけて。
もう少し。
……そう。
動かさないでね。
……っ。
あ。
火、ついた。
……もう一本。
……。
ねえ。
さっきから、顔近くない?
……花火をつけるため?
それはわかってるけど。
火がついたあとも、そのままなのは何。
……私が動かないから?
それは。
……今動くと危ないと思っただけ。
火花が出てるし。
急に離れたら、あんたの服に当たるかもしれないでしょ。
だから、仕方なく。
……。
ちょっと。
そんなにこっち見ないで。
花火を見なさい。
せっかく色が変わってるのに。
……私の顔も光ってる?
それは、花火の近くにいるからでしょ。
当たり前。
……赤い?
光の色。
絶対、光の色だから。
暑いし。
さっきから煙もあるし。
夜なのに湿気もすごいし。
だから、顔が赤く見えるだけ。
……もう。
なんで二人きりになった途端、そういうことばっかり言うの。
さっきみんながいたときは、全然こっち見てなかったくせに。
……見てた?
嘘。
私が浴衣じゃないから?
……関係ない?
じゃあ、なんで。
……話しかける隙がなかった?
……。
そう。
ふうん。
みんながいるときも、少しは話したかったんだ。
……私と。
……それなら、そう言えばよかったじゃん。
私だって。
……。
いや。
なんでもない。
……聞こえた?
聞こえてないでしょ。
ならいい。
……もう終わった。
バケツ。
……うん。
これで残り、線香花火だけ。
……どうする?
線香花火って、なんか最後にやる感じするよね。
花火の袋にも順番なんて書いてないのに。
派手なものを全部やったあとで。
みんな静かになって。
最後にしゃがんで、小さい火を見つめる。
……さっき、みんなが帰る前にやっておけばよかったかな。
……でも。
大勢でやると、誰かがすぐ落としたとか、誰のが一番長いとか、勝負になるでしょう。
それはそれで楽しいけど。
……今日は、静かにやってみたい。
……二人で。
……なに。
今度は言い訳しないのかって?
一回くらい、しなくてもいいでしょ。
もう十分したし。
……座る?
地面、少し湿ってる。
この新聞紙、敷こうか。
……はい。
そっち持って。
……よし。
じゃあ、ここ。
……近い?
新聞紙が小さいんだから仕方ない。
嫌なら、あんたが端に座れば。
……嫌じゃない?
そう。
なら、黙って座って。
……線香花火、どっちにする?
長いほう?
短いほう?
……わからない?
私も。
見た目じゃ、どっちが長持ちするかわからないよね。
……じゃあ、適当に。
はい。
……火、つけるよ。
まず、あんたから。
先端を、ろうそくに近づけて。
……まだ。
もう少し待って。
……うん。
火が丸くなった。
ゆっくり離して。
……そう。
次、私。
……。
ついた。
……きれい。
最初は、小さい玉みたいなのに。
だんだん火花が増えて。
ぱちぱちって。
……さっきまでの花火より、ずっと小さいのに。
こっちのほうが、見てると息を止めたくなる。
落としたくないからかな。
少しでも手を動かしたら、終わってしまいそうで。
……あんたの、結構大きくなったね。
私のも、負けてない。
……勝負する?
……やめとこうか。
勝ち負けを気にすると、落ちたとき悔しくなる。
今日は、どっちも長く続けばいい。
……。
ねえ。
線香花火って。
なんでこんなに、終わるところばかり気になるんだろう。
火がついた瞬間から。
きれいだなって思いながら、いつ落ちるんだろうって考える。
まだ大丈夫。
もう少し。
あと少しだけ。
……夏休みに似てる。
始まったときは、時間なんてたくさんあると思ってるのに。
八月になると。
お盆が来て。
夜になるのが少し早くなって。
残り何日だろうって考え始める。
……まだ、そんなに終わりは近くないけど。
でも。
夏って、花火と同じで、気づいたときには終わりかけてる気がする。
……なに。
私らしくない?
そうかも。
普段なら、こんなこと言わない。
たぶん、二人しかいないから。
それと。
線香花火が、余計なことを考えさせるから。
……ねえ。
今日、みんなが帰るとき。
私、少しだけほっとした。
……失礼?
わかってる。
せっかく一緒に遊んでたのに、帰ってほしかったみたいで。
でも、そうじゃなくて。
楽しかったよ。
みんなで騒いで。
写真撮って。
誰が一番変な花火を選ぶか笑って。
それは本当に楽しかった。
……でも。
最後に少しくらい。
あんたと二人で話せたらいいなって、思ってた。
だから、花火が残ってるのを見つけたとき。
……ちょっと嬉しかった。
これがあるなら、まだ帰らなくていいって思った。
……。
なに、その顔。
言ったことを後悔させないで。
今、私なりにかなり正直に話してるんだから。
……嬉しい?
……そっか。
なら。
いいけど。
……あ。
私の、少し弱くなってきた。
……そっちは?
まだ大丈夫そう。
手、動かさないでね。
……。
私。
この夏、あんたとあんまり話せてない気がする。
会ってはいるけど。
みんなと一緒だったり。
連絡も用事があるときだけだったり。
七月のころは、夏休みになったら時間がいっぱいあると思ってた。
そのうち話せる。
そのうち出かけられる。
まだ先は長いって。
でも、そう思ってるだけだと、何もないまま過ぎるんだね。
……だから。
今日も本当は、少し期待してた。
みんなで花火をするって聞いて。
あんたも来るって知って。
何を話そうかなって。
でも実際に会ったら、人が多くて。
あんたはあっち行ったり、こっち行ったりして。
全然、二人で話す隙なくて。
……勝手に少し機嫌悪くなってた。
気づかなかったでしょう。
……気づいてた?
嘘。
……途中から返事が短かった?
そこまで見てたの。
……じゃあ、声かけてよ。
……怖かった?
私が?
そんなに機嫌悪そうだった?
……まあ。
ちょっと悪かったけど。
でも、あんたが声かけてきたら、たぶん普通に話した。
……たぶん。
最初だけ、少し冷たくしたかもしれないけど。
それを越えたら普通に。
……面倒くさい?
うん。
知ってる。
自分から話しかければいいのに。
話しかけてもらえないと拗ねる。
みんなと話してるだけなのに。
自分だけ見てもらえない気がして腹が立つ。
……でも。
理屈で止められるなら、最初から拗ねない。
あんたが楽しそうなのは嫌じゃない。
友達と話すのも普通。
それでも。
私のところにも来てほしいって思う。
……そういうの。
面倒でも、少しくらいわかってよ。
……次からは声をかける?
本当に?
……約束。
でも、私が不機嫌そうでも、逃げないでね。
たぶん半分くらいは、あんたに気づいてほしくて不機嫌になってるから。
……残りの半分?
普通に腹が立ってる。
そこはちゃんと謝って。
……ふふ。
あ。
落ちそう。
私の。
……待って。
まだ。
……。
……あ。
落ちた。
……終わっちゃった。
そっちは?
……まだ残ってる。
長いね。
……勝った?
勝負しないって言ったでしょう。
……でも。
ちょっと悔しい。
私も、もう少し続いてほしかった。
……新しいの、つける?
残り一本ずつある?
……あるね。
じゃあ、もう一回。
……今度は、同時に落ちたらいいね。
……どうして?
別に。
片方だけ先に終わると、取り残されたみたいで嫌だから。
……花火の話だよ。
今は。
……はい。
火、つける。
今度は私から。
……そう。
次、あんた。
……近いって。
だから、顔。
……もう。
火を見て。
私じゃなくて。
……でも。
少しくらいなら、見てもいい。
さっき全然見てくれなかったぶん。
……そんなに見なくていい。
加減を知らないの?
……ふふ。
本当に。
あんたって、私が言ったことを真面目にやろうとして、だいたい少しやりすぎるよね。
でも。
今は、悪くない。
……。
火、きれい。
さっきより静かだね。
みんなの声がなくなったからかな。
遠くで車の音がして。
虫が鳴いて。
ろうそくの火が風で揺れてる。
煙の匂いも、服に残りそう。
明日になって、髪とか鞄から少し花火の匂いがしたら。
今日のことを思い出すのかな。
……あんたも?
……そっか。
じゃあ。
忘れないで。
みんなで花火したこともだけど。
最後に二人で残ったこと。
私が、花火を捨てるのはもったいないって言ったこと。
本当は、それだけじゃなかったこと。
……どこまで本当だったのかって?
……。
花火が残っててよかった、は本当。
二人きりになれて少し嬉しかった、も本当。
あんたともう少し話したかった、も本当。
……これで十分でしょ。
それ以上は。
線香花火が落ちる前には言えない。
……落ちたあとなら?
……ずるい。
そういう聞き方。
……でも。
落ちたあとも、今日は言わない。
まだ夏は終わってないから。
言う機会は、たぶんまたある。
……次も会えるよね。
……会える?
本当に?
……じゃあ。
次は、花火が残ってなくても。
少しくらい二人で話して。
言い訳がなくても、一緒にいられるように。
……あ。
今の、告白みたい?
違う。
まだ違う。
たぶん。
……笑わないで。
私だって、自分が何を言ってるのか途中からわからなくなってるんだから。
……あ。
そっち、火花が小さくなってきた。
私のも。
今度は、同じくらい。
……動かさないで。
このまま。
……。
もう少し。
あと少しだけ。
……。
……あ。
同時。
ほとんど。
……ふふ。
よかった。
なにがって。
同じときに終わったから。
片方だけ残らなくて。
……ねえ。
片づけようか。
バケツの水、全部かけて。
燃え残りも確認して。
ゴミも持って帰らないと。
……手伝う?
うん。
ありがとう。
……それから。
帰り道。
少し遠回りしてもいい?
……花火の煙を落とすため。
夜風に当たったほうが、服の匂いも少し消えるでしょう。
……また言い訳?
そう。
悪い?
私は、言い訳がないと素直に誘えないの。
だから、しばらくは付き合って。
そのうち。
言い訳しなくても、一緒にいたいって言えるようになるかもしれないから。
……今のは。
……忘れなくていい。
でも、返事はまだしないで。
私が恥ずかしくて帰れなくなる。
ほら。
片づけるよ。
べ、別に二人で花火したかったわけじゃないし。
……でも。
二人でできて、よかった。




