8月本編 第4話 夏バテした日は、私に甘やかされてなさい (お姉さん系/夏バテの夜/少し年上の親しい女性)
朗読使用者への簡単な設定説明
この台本は、女性VTuberが「落ち着いていて面倒見のよい、少し年上のお姉さん」として読むシチュエーションボイスです。
舞台は八月の夜。相手は暑さと疲れで食欲も気力も落ちていますが、「大丈夫」と言い張って休もうとしません。彼女は冷たい果物や飲み物を用意し、少し強引に世話を焼きます。
ただ優しいだけではなく、心配しているからこそ小言が出る、人間らしい面倒さを大切にしてください。前半は軽く呆れながら、中盤では弱った相手を静かに包み込み、最後は「元気になったら返してもらう」という少し大人っぽい甘さで締めます。
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……やっぱり。
そうだと思った。
声を聞いた瞬間に、なんとなくわかったよ。
今日は元気なふりをするのが、いつもより下手。
……大丈夫?
その答えは信用しない。
だってあなた、体調が悪いときほど「大丈夫」って早く言うでしょう。
こっちに考える時間を与えないように、先回りして終わらせようとする。
でも残念。
今日は、それでは逃がしません。
……今、何してたの?
仕事?
それとも、まだ何か片づけようとしてた?
……やっぱり。
もうやめなさい。
続きは明日。
……明日も忙しい?
うん。
知ってる。
でも今日ここで無理をしたら、明日はもっと動けなくなるでしょう。
一時間頑張って、明日一日だめになるくらいなら。
今日は一時間早く休んで、明日少しだけ動けたほうがいい。
それくらい、あなたにもわかるよね。
……わかってるけど、やめられない?
そういうところが面倒なの。
頭ではわかってる。
でも、自分だけは例外だと思ってる。
水分を取れって言われても、あとで。
休めって言われても、これが終わったら。
眠れって言われても、もう少しだけ。
そうして、限界まで自分を使う。
……ねえ。
自分のこと、便利な道具みたいに扱わないの。
壊れたら困るでしょう。
私が。
……あ。
今のは、あなたが困るより先に、私が困るって意味。
だって、心配するのは私なんだから。
……何か食べた?
……その間。
なに、その間。
食べてない人の沈黙だったね、今の。
正直に言いなさい。
……お昼に少し?
夜は?
……いらなかった?
食欲がなかったの間違いでしょう。
もう。
夏バテした人って、どうしてみんな同じ言い方するのかな。
「食べたくない」じゃなくて「いらない」。
「しんどい」じゃなくて「少し疲れた」。
「休みたい」じゃなくて「もうちょっとやれる」。
言葉だけ小さくしても、体のしんどさは小さくならないのに。
……冷蔵庫、見てきて。
電話を置かなくていいから。
持ったままでいいよ。
ちゃんと立てる?
……ゆっくり。
急に立つと、ふらっとするかもしれないから。
……大丈夫?
今の大丈夫は、さっきより信用できる。
でも、壁には手をついて。
……そう。
冷蔵庫、開けて。
なにがある?
……麦茶。
ゼリー。
それから?
……果物?
なに。
……桃?
いいじゃない。
食べられそう?
……剥くのが面倒?
ふふ。
そこまで正直なら、今日は合格。
でもね。
さっき私が置いていった容器、奥に入ってない?
透明の、小さいやつ。
……あった?
開けてみて。
……そう。
切ってあるでしょう。
桃。
少しだけ冷やしておいたの。
たぶん、今日あたり食欲が落ちてるんじゃないかと思って。
……なんでわかったって?
八月のあなたは、毎年だいたい同じだから。
暑い日が続くと食欲が落ちる。
でも、自分では大したことないと思って放っておく。
そのうち顔色が悪くなって、ようやく「少し疲れたかも」って言う。
もう何回見たと思ってるの。
……だから、先に用意した。
食べられなかったら無理にとは言わない。
でも、一切れだけ食べてみて。
小さいのでいいから。
……フォークも入ってるでしょう?
……あった?
よし。
じゃあ、座って。
立ったまま食べない。
テーブルでも、ベッドの端でもいいけど。
ちゃんと腰を下ろして。
……そう。
じゃあ、一口。
……どう?
冷たい?
甘い?
……おいしい?
よかった。
その声なら、もう一切れくらいいけそう。
……無理に食べさせるな?
無理にはしてないよ。
あなたが食べられそうな顔をしたから勧めてるだけ。
本当に嫌ならやめていい。
でも、たぶん今のあなたは。
食べたくないんじゃなくて、食べるまでが面倒なんだと思う。
冷蔵庫を開ける。
何を食べるか考える。
切る。
お皿に出す。
その手順全部が重たい。
だから、そこを私が減らしてあげたの。
……ずるい?
なにが?
食べられる状態にしておいたら、断りにくい?
うん。
少しだけ、そうかも。
だって、あなたは放っておくと何もしないから。
たまには、逃げ道を少なくする人が必要なの。
……嫌だった?
……嫌じゃない?
ならいい。
はい。
もう一切れ。
……ふふ。
今度は自分から食べた。
えらいね。
……子ども扱いするなって?
今日はする。
夏バテしてる日は、少し子ども扱いされるくらいでちょうどいいの。
自分で何でもできる顔をして。
本当は、飲み物を取りに行くのも面倒で。
食べるものを選ぶのもしんどくて。
でも誰かに頼るのは負けたみたいで嫌。
そんな顔してる人には、こっちが勝手に世話を焼く。
……迷惑?
……じゃないなら、素直に甘やかされてなさい。
今日くらい。
……ねえ。
冷房、ついてる?
……ついてるけど寒くない?
冷えすぎると、それはそれで体が疲れるよ。
設定温度、見て。
……低い。
少し上げて。
暑いからって一気に冷やすと、あとでだるくなるでしょう。
それから、直接風が当たらないようにして。
……面倒?
うん。
知ってる。
体調管理って、元気なときでも面倒なのに。
しんどいときはもっと面倒。
だから今日は、私の言うとおりにするだけでいい。
考えなくていいから。
温度を上げる。
水分を飲む。
少し食べる。
シャワーは無理なら短く。
それから寝る。
ね。
簡単でしょう。
……シャワーまで指示するのかって?
するよ。
あなた、汗かいたまま寝ると気持ち悪くて眠れないって言うくせに。
しんどいと面倒になって、そのまま寝ようとするから。
本当に無理なら、顔と首だけ拭けばいい。
冷たいタオルある?
……ない?
洗面所に行けそう?
……少し休んでから?
うん。
それでいい。
今すぐ全部やらなくていいよ。
桃、あと一切れ食べて。
麦茶を少し飲んで。
それから五分休んで。
……ねえ。
今、少し楽になった?
……ほんの少し?
うん。
そのくらいで十分。
体調って、ドラマみたいに急に元気になるものじゃないから。
一口食べた。
少し水を飲んだ。
横になった。
そういう小さいことを重ねて、気づいたら少し戻ってる。
だから、今すぐ元気になろうとしなくていい。
……あなたは、元気になることまで急ぎすぎるね。
体調悪いって認めた瞬間から、早く治さなきゃって焦る。
でも、焦ったところで体は急に動かない。
むしろ、治るために使う力まで焦りで消耗する。
……今日は、ゆっくりでいいよ。
八月の暑さに負けた日が一日くらいあっても、あなたの価値は減らない。
何も進まなかった日があっても。
予定どおりにできなかった日があっても。
誰かに甘やかされる夜があっても。
別にいいの。
……本当に。
ねえ。
少し目を閉じてみて。
電話は切らなくていいから。
桃の容器、ちゃんと閉じた?
残りは明日でもいいよ。
……うん。
麦茶、手の届くところに置いて。
こぼさないようにね。
……できた?
じゃあ、横になって。
枕、高すぎない?
……そのくらいなら大丈夫かな。
布団は、薄いものだけでいいよ。
冷房が効いてくると、あとから少し寒くなるかもしれないから。
お腹だけは冷やさないように。
……よし。
ちゃんとできたね。
……ふふ。
今日は本当に素直。
いつもなら、もっと「大丈夫」「いらない」「まだ寝ない」って抵抗するのに。
……抵抗する元気もない?
それは少し心配だな。
でも、今は休む方向に素直なら、そのままでいい。
……ねえ。
そんなに申し訳なさそうな声、出さないで。
桃まで用意させたとか。
電話につき合わせてるとか。
そういうこと、気にしてるでしょう。
……当たり?
あなた、わかりやすいから。
でもね。
私が嫌なら、ここまでしない。
自分でやりたくてやってるの。
心配だから。
放っておけないから。
あなたが少し楽になった声を聞くと、私も安心するから。
つまり、半分は私のため。
だから、借りだと思わなくていいよ。
……でも。
どうしても借りだと思うなら。
元気になったら返してもらう。
……なにを?
そうね。
まず、私が疲れてる日に飲み物を持ってきてもらう。
それから、暑くない日に少し散歩に付き合ってもらう。
あと。
私が寂しい夜に、今日みたいに電話を切らずにいてもらう。
……多い?
だって利子つきだもの。
私、桃を切って、冷やして、容器に入れて置いていったんだよ。
それくらい取ってもいいでしょう。
……ふふ。
冗談。
全部じゃなくていい。
でも、一つくらいは返してね。
元気になったあなたと、何かしたい。
今日は弱ってる顔しか見られなかったから。
次は、ちゃんと笑ってるところ見せて。
……うん。
約束。
だから今日は、治すことだけ考えて。
というか、もう考えなくていい。
私が順番を決めたから。
あとは寝るだけ。
……まだシャワーがある?
そうだった。
でも、今すぐ立たなくていいよ。
少し休んで、動けそうなら。
無理なら今日は体を拭くだけ。
完璧にしようとしない。
できるほうを選ぶ。
……ねえ。
外、まだ蝉の声する?
……少し?
こっちも。
夜なのに、遠くでまだ鳴いてる。
昼間の熱が、町に残ってるみたいだね。
八月の夜って、暗くなってもすぐには涼しくならない。
建物も道路も、ずっと昼の暑さを抱えてて。
人の体も同じなのかもしれない。
昼間に頑張ったぶん、夜になってから疲れが出る。
……だから今、しんどいんだよ。
怠けたからじゃない。
弱いからでもない。
一日ぶんの暑さと疲れが、今になって体から出てきただけ。
それを、ちゃんと休ませてあげよう。
……うん。
目、閉じてていいよ。
返事も、だんだん短くしていい。
私が勝手に話してるから。
……今日ね。
桃を切りながら、少し考えてた。
もしあなたが「余計なことしなくていい」って言ったら、どうしようかなって。
たぶん、私は少し怒ったと思う。
心配して用意したのに、って。
でも、それを言ったらあなたも気を遣うでしょう。
だから、怒らないようにしようって思ってた。
……実際は、ちゃんと食べてくれたから。
今、かなり機嫌がいい。
……ふふ。
人の機嫌なんて、案外単純だね。
心配した相手が、一口食べて。
少し声がやわらかくなった。
それだけで、安心する。
……あなたも、誰かに世話を焼かれたとき。
悪いな、じゃなくて。
相手を安心させてあげた、くらいに思っておけばいいよ。
甘やかされるのだって、たまには人助けになるんだから。
……また変な理屈?
いいの。
今日は私の言うことが正しい日。
だって、あなたは夏バテしてるから。
……はい。
反論禁止。
夏バテした日は、私に甘やかされてなさい。
元気なときのあなたは、自分で好きにすればいい。
頑張ってもいいし。
無理しない範囲で夜更かししてもいいし。
私の小言を適当に聞き流してもいい。
でも、弱ってる日はだめ。
そういう日は、一人で全部決めようとしない。
私を頼る。
……約束できる?
……うん。
よろしい。
じゃあ、今日はもう合格。
桃も食べた。
麦茶も飲んだ。
横になった。
私に大丈夫じゃないって、ちゃんとばれた。
十分。
……ふふ。
最後のは、できたことに入らない?
入るよ。
平気なふりを見破らせてくれたんだから。
……おやすみ。
まだ完全に眠らなくてもいい。
目を閉じて、体の力を抜くだけでいいから。
電話は、もう少しつないでおく。
あなたの返事がなくなったら、眠ったんだと思って静かに切るね。
……大丈夫。
今日は、何も返さなくていい。
元気になったら、利子つきで返してもらうから。
飲み物と。
散歩と。
寂しい夜の電話。
……それから、笑った顔。
忘れないでね。
おやすみ。
今夜くらいは、ちゃんと甘やかされていなさい。




