8月本編 第3話 夏休みって、昔はもっと長かったよね (幼馴染/夕方の駄菓子屋帰り/長年一緒の相手)
朗読使用者への簡単な設定説明
この台本は、女性VTuberが「昔から相手と夏休みを過ごしてきた幼馴染」として読むシチュエーションボイスです。
舞台は八月の夕方。二人は子どものころによく通った駄菓子屋から、アイスやラムネを持って帰る途中です。何気ない昔話から、彼女は「昔は夏休みがずっと続くと思っていたのに、今は終わりが近づくのが怖い」と本音をこぼします。
前半は遠慮のない幼馴染らしい軽口を中心にし、中盤から少しずつ寂しさを混ぜてください。「好き」とは言い切れないものの、相手と過ごす時間が減ることへの焦りが伝わる読み方が合います。蝉の声、溶けかけたアイス、夕暮れの道路、駄菓子屋の古い匂いを意識してください。
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……ちょっと待って。
歩くの速い。
……暑いから早く帰りたい?
それは私も同じだけど、そんなに急いだらアイス食べにくいでしょ。
ほら。
もうちょっとゆっくり歩いて。
……あ。
また垂れた。
だから言ったじゃん。
このアイス、買った瞬間から時間との戦いだって。
八月の夕方を甘く見たらだめなんだよ。
日が傾いても、まだ全然暑いんだから。
……はい。
ティッシュ。
一枚で足りる?
……二枚?
使いすぎ。
昔だったら、手で拭いてそのまま服で拭いてたくせに。
……してたよ。
覚えてないの?
小学生のころ、アイスが手に垂れて。
私がティッシュあげようとしたら、あんた、Tシャツの裾で普通に拭いたじゃん。
それで家に帰って、おばさんに怒られてた。
……違う?
違わない。
私、横にいたもん。
しかもそのあと、私のせいにしようとした。
「こいつが急いで食べろって言ったから」って。
……最低でしょ。
子どものころのあんた、今よりずっと責任転嫁が雑だった。
……今は少し上手くなった?
褒めてない。
全然褒めてないから。
……ふふ。
でも、懐かしいね。
あの駄菓子屋、まだ残ってると思わなかった。
看板、前より色あせてたけど。
引き戸も少し開けにくくなってたし。
中の扇風機も、昔からずっと同じ音してた。
がたがた、がたがたって。
あれ、本当に涼しいのかな。
音だけ聞くと、すごく頑張ってる感じするけど。
店の中、普通に暑かったよね。
……でも、匂いは同じだった。
少し甘くて。
紙と木と、古い冷蔵庫みたいな匂いが混ざってて。
あの店に入ると、一瞬だけ小学生に戻ったみたいになる。
……あんたも思った?
そっか。
よかった。
私だけだったら、ちょっと恥ずかしいから。
……昔、よく行ったよね。
夏休みになると、ほとんど毎日。
午前中はどっちかの家で宿題して。
……いや、宿題するふりして。
実際は、問題集を開いたまま漫画読んだり。
鉛筆で消しゴム飛ばしたり。
麦茶ばっかり飲んだり。
お昼食べたら、暑いから外に出ないって言ってたのに。
三時くらいになると急に暇になって。
それで、駄菓子屋行こうって。
……だいたい言い出すの、あんただったよね。
私?
私も言ってた?
……そうだっけ。
まあ、どっちでもいいけど。
毎日のように同じ道歩いて。
百円とか二百円とか握って。
何を買うか真剣に悩んで。
今思うと、すごいよね。
十円のお菓子を一つ増やすかどうかで、あんなに悩めたんだから。
……あんたは計算苦手だったし。
残り三十円なのに、四十円のお菓子持ってレジ行こうとしてた。
……一回だけ?
もっとあった。
店のおばちゃんが、「足りないよ」って笑ってた。
私が十円貸したこともある。
……返してもらってない気がする。
今返す?
十円だけ?
利子つけて。
十年以上たってるんだから。
……百円?
安い?
じゃあ、今日買ったラムネ一本でいいよ。
……え。
本当にくれるの?
……いや。
冗談だったんだけど。
でも、くれるならもらう。
……ふふ。
ありがと。
じゃあ、今からこのラムネは、十年前に貸した十円の返済ということで。
……ずいぶん得した?
私が?
そうかもね。
でも、いいじゃん。
幼馴染の借りなんて、時効にならないんだから。
……なに、その顔。
怖い?
安心して。
お金の話だけじゃないから。
……もっと怖い?
失礼だなあ。
でも、本当に。
昔してもらったことって、意外と覚えてるよ。
転んだとき手を引っぱってくれたとか。
祭りで迷子になりかけたとき、服の袖つかんでてくれたとか。
宿題わからなくて泣いたとき、一緒に怒られてくれたとか。
……最後のは、あんたも宿題してなかっただけだけど。
でも、覚えてる。
子どものころのことって、どうでもいい部分ほど残ってるよね。
大きな旅行とか、特別なイベントより。
縁側でスイカ食べたとか。
駄菓子屋の帰りに夕立に降られたとか。
蝉の抜け殻を集めて、家に持って帰ろうとして止められたとか。
……あれは本当にやめてほしかった。
箱いっぱいに詰めてたよね。
怖いとかじゃなくて。
いや、ちょっと怖かったけど。
あんたが宝物みたいに見せてくるから、嫌って言えなかったんだよ。
……私、昔からあんたに甘いな。
……今も?
……どうだろ。
今は、昔ほどではないんじゃない?
たぶん。
……なに。
その疑ってる顔。
そんなに甘くないでしょ、今は。
文句も言うし。
予定も断るし。
嫌なときは嫌って言うし。
……結局付き合う?
それは。
まあ。
最後には、ね。
……そう考えると、あんまり変わってないかも。
嫌って言いながら、一緒に駄菓子屋来てるし。
夏休みなのに、わざわざ夕方に呼び出されて。
暑い中、昔の道歩いて。
アイス溶かしながら帰ってる。
……でも、嫌じゃないよ。
むしろ。
来てよかった。
あの店がまだ残ってることもわかったし。
昔と同じラムネも買えたし。
あんたと、昔の話もできた。
……ねえ。
夏休みって、昔はもっと長かったよね。
……そう思わない?
今だって日数はそんなに変わらないはずなのに。
小学生のころは、夏が永遠に続くみたいだった。
朝起きても夏休み。
昼寝して起きても夏休み。
一日遊んでも、まだ明日があって。
カレンダーを見ても、八月の終わりなんてずっと遠くにあった。
……でも今は。
気づいたら、もう何日も過ぎてる。
八月に入ったと思ったら。
花火が終わって。
お盆が来て。
夏休みの残り日数が、少しずつ気になり始める。
……まだ始まったばかりだって?
そうだけど。
でもさ。
始まったばかりって思って油断してると、急に終わるじゃん。
夏って、いつもそう。
始まるときは、これから何でもできるような顔するくせに。
終わるときは、こっちの都合なんて聞かないで、急に夕方の風を涼しくする。
蝉の声も、少し変わって。
気づいたら、夜が早くなって。
……なんか、ずるいよね。
……私、変なこと言ってる?
……そう。
ならいい。
今日、駄菓子屋に行ったからかな。
昔の夏休みを思い出したら。
今の夏休みが、思っていたより短いことに気づいた。
昔はさ。
明日もあんたがいるって、普通に思ってた。
今日遊んで。
明日も会って。
明後日もたぶん会う。
約束しなくても、どっちかが家に来て。
「いる?」って声かけて。
……それで済んだ。
今は、そうじゃないね。
会うなら連絡しなきゃいけないし。
予定を聞かなきゃいけないし。
誰とどこに行くのか、こっちは知らないままだし。
……別に。
全部教えてほしいって言ってるわけじゃないよ。
そんなの、面倒だし。
私だって全部報告するつもりないし。
でも。
昔より、あんたの夏休みの中で、私の知らない時間が増えたなって思っただけ。
……。
なに。
黙らないでよ。
別に責めてるんじゃないから。
本当に。
ただ、ちょっとだけ。
寂しいのかも。
……あ。
言っちゃった。
今のは、夕方のせい。
夕方って、人をちょっと弱くするから。
昼間みたいに明るくないし。
夜みたいに諦めもつかないし。
今日が終わりかけてるのに、まだ帰りたくないみたいな気持ちになる。
……今の空も、そう。
見て。
オレンジ色。
電線まで黒く見えて。
遠くの家の窓に、少しずつ明かりがついて。
蝉の声も、昼間より遠くなった。
……この時間、昔から好きだった。
でも、昔は寂しいなんて思わなかったな。
帰っても、また明日会えると思ってたから。
今は。
……明日、会う?
……。
ほら。
すぐ答えられないでしょ。
予定あるかもしれないし。
私にも予定あるかもしれない。
だから、昔みたいに「また明日」が当たり前じゃない。
……それが、少し寂しい。
でも、こんなこと言ったら重いかなって思って。
今まで言わなかった。
幼馴染なんだから、会えなくても平気な顔しなきゃいけない気がしたし。
恋人でもないのに、予定を聞くのは変かなとか。
会いたいって言いすぎたら、面倒かなとか。
……考えるんだよ。
私だって。
昔は、そんなこと考えなかったのに。
会いたかったら家に行って。
いなかったら帰って。
次の日また行けばよかった。
今は、一回断られたら、ちょっと気にする。
忙しいだけかな。
私と会いたくないのかな。
ほかの誰かとは会うのかな。
……面倒でしょ。
自分でもそう思う。
でも、人間って大きくなるほど、自由になるんじゃなくて。
変に考えることが増えて、不自由になるのかもね。
……あんたは、考えない?
……少しは?
本当に?
……たとえば?
……。
私が、ほかの人と夏祭り行ったら嫌?
……ふふ。
今、ちょっと返事遅かった。
嫌なんだ。
……いや。
嬉しそうな顔はしてない。
してないってば。
でも、まあ。
少し安心した。
私だけじゃないんだ。
会えない時間のこと、少しは気にするんだね。
……なら。
今年の夏休み。
昔みたいに毎日は無理でも。
もう少し会わない?
今日みたいに、駄菓子屋行くだけでもいいし。
夕方に散歩するだけでもいいし。
どっちかの家で、扇風機の前でだらだらするだけでもいい。
何か特別な予定じゃなくていい。
むしろ、特別じゃないほうがいいかも。
海とか。
祭りとか。
花火とか。
そういうのも行きたいけど。
でも、私が覚えてるのって、結局。
アイスが溶けたとか。
ラムネのビー玉が取れなかったとか。
あんたが変なことで笑ったとか。
そういう、どうでもいい時間だから。
……今年も、それがほしい。
夏休みが終わったあとに。
今年の夏も、ちゃんとあんたがいたって思えるくらいには。
……あ。
今の、かなり恥ずかしい。
聞かなかったことに。
……無理?
そう。
最近、あんた聞かなかったことにしてくれなくなったね。
昔はすぐ忘れたのに。
……大事なことは忘れない?
……そういうこと、急に言うのずるい。
こっちは軽口で逃げようとしてるのに。
そんな返しされたら、逃げにくくなるじゃん。
……でも。
忘れないなら、いい。
今日のことも覚えてて。
昔の駄菓子屋に行ったこと。
十円の借りをラムネで返してもらったこと。
アイスを垂らして、私にティッシュをもらったこと。
それから。
夏休みが昔より短く感じるって、私が言ったこと。
……だから。
残りが少なくなってから慌てるんじゃなくて。
今のうちに、次の予定決めよう。
……うん。
今。
あとで連絡するだと、どっちかが面倒になって、そのままになるから。
来週。
どこか空いてる?
……水曜日?
私、空いてる。
……何する?
なんでもいい。
あ。
じゃあ、昔みたいに朝から宿題しようよ。
午前中はちゃんと宿題して。
お昼食べて。
午後になったらアイス買いに行く。
……同じすぎる?
いいじゃん。
昔と同じことを、今の私たちでやってみたい。
昔と同じになるのか。
やっぱり少し違うのか。
確かめたい。
……どっちだと思う?
私は。
たぶん、違うと思う。
宿題してても。
隣にいることを、昔より意識する気がするし。
アイスを食べても。
手が触れたとか、そういうくだらないことで、昔より変に黙る気がする。
……今だってそう。
さっき、ラムネ渡してくれたとき。
少し指、触れたでしょ。
……気づいてた?
……そっか。
じゃあ、本当に昔とは違うんだ。
……でも。
違っても、一緒にいられるなら。
私は、そんなに嫌じゃない。
……ううん。
かなり好きかも。
……今のは。
夏休みの過ごし方の話。
あんたといることが好きって意味じゃ。
……。
いや。
それも、たぶん少し入ってるけど。
……あー、もう。
夕方、危険。
七夕も危険だったけど、八月の夕方も危険。
本音が勝手に出る。
……笑わないでよ。
笑ってるじゃん。
……でも、まあ。
あんたが笑ってるならいいか。
昔から、その笑い方は変わらないね。
人がちょっと恥ずかしいこと言ったとき。
からかうほどじゃないけど、嬉しそうに笑うやつ。
……覚えてる。
私、意外といろいろ覚えてるんだから。
だから、これからのことも覚える。
今年の八月のこと。
昔と同じ駄菓子屋に行ったけど。
昔とは少し違う気持ちで帰ったこと。
夏休みが短いって思ったけど。
次に会う約束ができたら、少しだけ長くなった気がしたこと。
……ねえ。
来週、本当に来てよ。
寝坊したとか。
暑いから出たくないとか。
そういうの、なしね。
……家に行って起こす?
……行ってもいいけど。
本当に行ったら、おばさんに全部言われるよ。
「あの子、朝から来てくれたよ」って。
それで、あんたが変ににやにやする。
……嫌。
だから、ちゃんと自分で起きて。
それから、私の家に来て。
昔みたいに。
……でも。
玄関で「いる?」って叫ぶのはやめてね。
近所に聞こえるから。
連絡して。
今の私たちは、昔より少し面倒で。
でも、そのぶん少し丁寧に約束できるんだから。
……うん。
じゃあ、決まり。
来週の水曜日。
宿題と、麦茶と、アイス。
あと。
私。
……なに。
最後だけおまけみたい?
違うよ。
むしろ、一番忘れたらだめ。
……ふふ。
冗談。
半分だけ。
……あ。
もう分かれ道。
早いね。
駄菓子屋から、もっと遠かった気がするのに。
道が短くなったのかな。
……私たちの足が速くなった?
そうかも。
大きくなったぶん、同じ道を早く歩けるようになった。
でも。
早く着くからって、早く別れたいわけじゃないんだよね。
……。
だから。
少しだけ、ここで話してから帰らない?
アイスはもうないけど。
ラムネも飲み終わったけど。
夕焼けが消えるまで。
……うん。
ありがとう。
夏休みって、昔はもっと長かったよね。
でも、今の夏休みだって。
こうしてちゃんと立ち止まれば、少しくらい長くできるのかもしれない。
……だから。
あと少しだけ、隣にいて。
今日が終わるの、もうちょっとあとでいいから。




