8月本編 第2話 お兄ちゃん、宿題より先に麦茶飲んで (妹系/夏休みの昼下がり/家族同然に近い女の子)
朗読使用者への簡単な設定説明
この台本は、女性VTuberが「妹のように距離が近く、世話焼きで少し甘えん坊な女の子」として読むシチュエーションボイスです。
舞台は八月の昼下がり。相手は暑い部屋で夏休みの宿題に集中していますが、水分補給も休憩も忘れがち。彼女は麦茶と冷たいタオルを持ってきて世話を焼きますが、本音では宿題ばかり見ず、自分のことも少し見てほしいと思っています。
前半は小言を交えた明るい世話焼き。中盤から「邪魔をしたくないけれど、構ってほしい」という面倒くさい可愛さをにじませてください。氷の音、扇風機、汗ばんだ前髪、夏の畳の匂いなど、生活感のある夏を意識すると自然です。
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……お兄ちゃん。
ねえ、お兄ちゃんってば。
……聞こえてる?
さっきから三回呼んでるんだけど。
返事くらいしてよ。
……はいはい、じゃないの。
絶対ちゃんと聞いてなかったでしょ。
その顔、今ようやく私が部屋にいることに気づいた人の顔だもん。
もう。
宿題に集中するのはいいけど、集中しすぎ。
見て。
これ。
麦茶。
氷、ちゃんと入れてきたから。
……いらない?
だめ。
いる、いらないじゃなくて、飲むの。
さっきからずっと机に向かってるのに、一回も水分取ってないでしょ。
……取った?
いつ?
……一時間前?
それは「さっき」とは言わないからね。
八月の昼間を甘く見ないでよ。
部屋の中でも暑いし。
扇風機回してるだけじゃ、気づかないうちに汗かくんだから。
ほら。
コップ持って。
……はい。
ちゃんと飲んで。
一口だけじゃなくて、もう少し。
……そう。
いい子。
……あ。
今、ちょっと嫌そうな顔した。
妹みたいな相手に「いい子」って言われるの、納得いかない?
でも、ちゃんと言うこと聞いたんだから、いい子でしょ。
年上かどうかは関係ありません。
言うことを聞いた人は、いい子です。
……ふふ。
なにその顔。
反論したいけど、麦茶がおいしいから何も言えない顔?
……やっぱり。
暑かったんじゃん。
なのに、平気なふりして。
お兄ちゃんって、そういうところあるよね。
ちょっと疲れてても「平気」。
喉が渇いてても「あとで」。
お腹空いてても「これ終わってから」。
そうやって全部後回しにして、限界になってから急にぐったりする。
……前にもあったでしょ。
七月の暑い日に、帰ってきた瞬間、玄関で半分溶けてたやつ。
あのときだって、私がアイスと水を用意してなかったら、たぶんそのまま床と一体化してた。
……大げさじゃないよ。
本当に、顔が人間じゃなくなってたもん。
……ふふ。
でも、今日はまだ人間。
宿題に夢中になりすぎて、ちょっと周りが見えなくなってるだけ。
はい。
これも。
……冷たいタオル。
首に当てて。
……自分でやる?
いいから。
じっとして。
……ん。
どう?
冷たいでしょ。
……ふふ。
今、ちょっと気持ちよさそうな声出た。
さっきまで「いらない」って言ってた人は誰でしょう。
……もう一回言う?
言わなくても、顔見ればわかります。
ほら、前髪も少し汗で張りついてる。
宿題してるだけなのに、そんなに真剣にならなくても。
……真剣にやらないと終わらない?
それは、ため込んだからじゃないの?
……あ。
目をそらした。
図星だ。
何日分ためたの?
……三日?
ほんとに?
お兄ちゃん、ちょっとこっち見て。
……五日?
まだ増える?
……一週間。
はあ。
やっぱり。
夏休みの最初に言ったよね。
毎日少しずつやれば、八月の終わりに泣かなくて済むって。
そしたらお兄ちゃん、何て言った?
「未来の俺は、今の俺より賢いから大丈夫」
……そう。
あれ、どういう理屈だったの?
未来のお兄ちゃん、今ここで宿題に追われてるけど。
むしろ、過去のお兄ちゃんより困ってるように見えるよ。
……未来の自分を信用しすぎた?
そうだね。
未来のお兄ちゃん、かなり迷惑そう。
……ふふ。
でも、ちゃんとやってるだけ偉いよ。
逃げないで机に向かってるし。
ただし。
休憩しないのは偉くない。
水分を取らないのも偉くない。
私が話しかけても全然返事しないのは、もっと偉くない。
……そこが一番?
……まあ。
少し。
だって、私さっきから暇なんだもん。
宿題してるお兄ちゃんの邪魔をしたら悪いと思って、静かにしてたんだよ。
最初は本読んでた。
でも、暑くて内容が頭に入らなくて。
次にスマートフォン見てた。
でも、見たいものもなくなって。
それでお兄ちゃんの様子見たら、ずっと同じ姿勢で机に向かってるし。
たまに頭をかいたり。
消しゴムを落としたり。
わからない問題を見て、すごく嫌そうな顔したり。
……見てたよ。
だって暇だったから。
……観察されるの嫌?
じゃあ、たまにはこっち見てよ。
そうしたら、ずっと見なくて済むから。
……。
今みたいに。
ちゃんと顔を上げて。
私がいるって、たまには思い出して。
……なに。
そんなふうに言われると、宿題より私を優先しろって言ってるみたい?
……少しくらいは、そうかも。
でも、全部じゃないよ。
宿題はちゃんとやってほしいし。
八月の最後に泣きつかれても困るし。
私だって手伝えるものには限界があるから。
ただ。
一時間に一回くらいは休憩して。
麦茶飲んで。
それで、私と少し話して。
それくらい、いいでしょ。
……休憩に付き合わせたいだけ?
そうとも言う。
でもさ。
お兄ちゃん、一人で休憩したら、たぶん机に突っ伏して五分で寝るじゃん。
それで二時間後に起きて、余計焦る。
だったら私と話したほうが健康的。
……ほんとだよ。
私、ちゃんと起こせるし。
寝そうになったら、耳元で蝉の鳴き真似する。
……嫌?
じゃあ寝ないで。
簡単でしょ。
……ふふ。
やっと笑った。
さっきまで、問題集を親の敵みたいな顔で見てたから。
少し休んだほうがいいよ。
頭が熱くなってるときに考えても、余計わからなくなるし。
……その問題、何?
数学?
見せて。
……ああ。
私、これはわからない。
……なに、その残念そうな顔。
妹分が何でも解決してくれると思わないでよ。
私にだって、できることとできないことがあります。
麦茶を持ってくる。
タオルを冷やす。
消しゴムを拾う。
お兄ちゃんがだめになりそうなとき、小言を言う。
そのくらい。
……でも。
問題が解けないとき、一緒に悩むくらいならできるよ。
答えは出せなくても。
「難しいね」って言う相手が隣にいるだけで、ちょっとましなこともあるでしょ。
……ない?
あるよ。
少なくとも私はある。
一人で困ってると、自分だけができない気がするけど。
誰かと一緒に「これ難しくない?」って言えたら、問題のほうが悪い気がしてくる。
……責任転嫁?
いいの。
休憩中くらい。
全部自分のせいにしてたら疲れるもん。
この問題は難しすぎる。
夏は暑すぎる。
宿題は多すぎる。
蝉はうるさすぎる。
今日はそういうことにしよう。
……ふふ。
ほら。
ちょっと顔が楽になった。
ねえ。
畳に座る?
机の椅子、ずっと座ってたら腰痛くなるでしょ。
こっち、扇風機の風も来るよ。
……五分だけ?
うん。
五分でいい。
でも、お兄ちゃんの五分は信用してないから、私が時間見る。
……さっきと立場が逆?
違うよ。
お兄ちゃんの「あと五分」は二十分になるけど、私の五分はちゃんと五分。
……たぶん。
……はい。
そこ座って。
冷たいタオル、もう一回首に当てる?
……自分でできる?
じゃあ、どうぞ。
……あ。
ちょっと待って。
タオル、裏返したほうが冷たいよ。
貸して。
……ん。
はい。
どう?
……気持ちいい?
よかった。
お兄ちゃんの髪、汗で少し湿ってるね。
……触るな?
ごめん。
でも、気になったから。
前髪、いつもより少し柔らかい。
……そういうこと言うな?
なんで。
別に変な意味じゃないよ。
暑そうだから見ただけ。
……でも。
ちょっとだけ、夏っぽいなって思った。
冷房じゃなくて扇風機で。
氷の入った麦茶があって。
机には開きっぱなしの問題集。
畳の上に座って。
お兄ちゃんの髪が少し汗で濡れてて。
外では蝉が、ずっと同じ声で鳴いてる。
こういうの。
あとになったら、たぶん夏休みの記憶になるんだろうなって。
……宿題に追われた記憶?
それだけじゃないよ。
私が麦茶を持ってきたこととか。
お兄ちゃんが最初はいらないって言ったくせに、結局おかわりしたこととか。
私が邪魔しないように我慢してたのに、最後は構ってほしいって言ったこととか。
……あ。
今のは忘れて。
……無理?
じゃあ、少しだけ覚えてていい。
でも、からかわないで。
私だってね。
宿題を頑張ってるお兄ちゃんの邪魔をしたいわけじゃないの。
ちゃんと終わってほしい。
あとで困ってほしくない。
だから静かにしてようと思う。
でも。
同じ部屋にいるのに、ずっと問題集しか見てくれないと、ちょっとだけ面白くない。
私のほうが先にここにいたのに、とか。
麦茶を持ってきたのも私なのに、とか。
問題集はお礼も言わないくせに、お兄ちゃんの時間を全部取るんだな、とか。
……何それって顔しないでよ。
自分でも変なのはわかってる。
問題集に嫉妬する人、あんまりいないと思う。
でも、仕方ないじゃん。
人間って、理屈だけで寂しくならないわけじゃないもん。
邪魔したくない。
でも、少し見てほしい。
頑張ってほしい。
でも、私の相手もしてほしい。
そういう、両方あるの。
……面倒?
うん。
知ってる。
でも、お兄ちゃんには少しくらい面倒でもいいでしょ。
今までだって、さんざん私の面倒見てきたんだから。
……なに。
そこは否定しないんだ。
まあ、たしかに。
小さいころ、宿題が嫌で泣いてた私の隣に座ってくれたの、お兄ちゃんだったもんね。
私が「わかんない」って言うたびに、同じ説明を何回もして。
途中でちょっとイライラしてたけど。
……してたよ。
声に出さなかっただけで、顔が「もう無理」って言ってた。
でも、最後までいてくれた。
だから、今日は私の番。
数学は教えられないけど。
麦茶とタオルと小言なら、いくらでも出せる。
……小言はいらない?
それは無理。
セットだから。
……ふふ。
五分、もうすぐ終わるよ。
どう?
少しは休めた?
……うん。
じゃあ、机に戻る前に、もう一杯飲む?
……おかわり?
はい。
最初から飲むと思ってた。
氷、少し溶けたけど、まだ冷たいよ。
……ねえ。
これ終わったら、何か一緒にしようよ。
大げさなことじゃなくていい。
夕方になったらコンビニまで歩くとか。
スイカがあったら一緒に食べるとか。
縁側で風に当たるとか。
それくらい。
……宿題が終わったら?
全部じゃなくていいよ。
今日決めた分が終わったら。
ご褒美。
……私がご褒美みたいに言うな?
そこまでは言ってない。
でも、私と過ごす時間がご褒美でも、別に困らないけど。
……っ。
今のは、ちょっと調子に乗った。
忘れて。
……もう。
今日は忘れてほしいことばっかり。
でも、お兄ちゃんが宿題しか見ないから、変なことまで言うことになるんだよ。
責任取って、今日の分ちゃんと終わらせて。
それから、少し私に付き合って。
……約束?
うん。
約束。
じゃあ、机に戻ろう。
私も隣で本読む。
今度は、本当に静かにしてる。
……たぶん。
でも、一時間たったらまた麦茶持ってくるから。
嫌そうな顔しても持ってくる。
水分補給は大事だから。
それと。
たまに、こっち見て。
何も言わなくていいから。
目が合ったら、それで私は少し満足する。
……少しだけね。
本当は話してほしいけど。
そこまで言ったら、また面倒って思われるから。
……もう思ってる?
ひどい。
でも、いいよ。
お兄ちゃんにとって面倒でも、ちゃんと隣にいるから。
はい。
麦茶、もう一口。
それから宿題。
順番、間違えないでね。
宿題より先に麦茶。
宿題の途中で休憩。
宿題が終わったら私。
……最後、大事だから。
忘れないで。




