8月本編 第1話 夏休みなのに、ちゃんと起きられたんですね (清純派/夏休みの朝/同級生)
朗読使用者への簡単な設定説明
この台本は、女性VTuberが「穏やかで少し奥手な清純派の同級生」として読むシチュエーションボイスです。
舞台は八月の早朝。ラジオ体操や図書館へ向かう途中、夏休み中は会えないと思っていた相手と偶然出会います。彼女は早起きできた相手をからかいながらも、久しぶりに顔を見られたことを素直に喜びます。
朝露の匂い、まだ強くない日差し、遠くから聞こえる蝉の声など、昼間とは違う静かな夏を意識してください。前半は軽く驚きながら、中盤から「会えなくて寂しかった」という気持ちを少しずつにじませます。
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……あれ?
……やっぱり。
おはようございます。
こんなところで会うなんて、珍しいですね。
……いえ。
あなたに会ったことが珍しいという意味ではなくて、こんな時間にあなたが外を歩いていることのほうです。
ふふ。
夏休みなのに、ちゃんと起きられたんですね。
……あ。
今、少し失礼だと思いました?
でも、仕方ないでしょう。
終業式の日に、あなた自身が言っていたんですよ。
「夏休みは目覚まし時計という文明から解放される」って。
ずいぶん壮大なことを言うから、てっきり毎日お昼近くまで眠るつもりなのかと思っていました。
……違うんですか?
今日は偶然?
なるほど。
まだ体が学校の時間を覚えていて、いつもの時間に目が覚めてしまった、と。
それなら、今日だけかもしれませんね。
あと数日もしたら、朝と昼の境目が曖昧になっていそうです。
……ふふ。
冗談です。
半分くらいは。
でも、本当に意外でした。
私、この道を歩いているとき、知っている人に会うとは思っていなかったので。
学校がある日は、同じ制服の人がたくさん歩いているのに。
夏休みになると、急に町が広くなる気がしますよね。
いつもなら誰かがいる交差点にも、人がいない。
自転車置き場も静かで。
道の端には朝露が残っていて。
同じ町なのに、少しだけ知らない場所みたいです。
……だから、あなたを見つけたとき。
最初は、よく似た人かと思いました。
こんな朝早くに本人がいるはずがないって。
……そこまで言われると傷つく?
ごめんなさい。
でも、ちゃんと起きられたことは褒めていますよ。
本当に。
えらいです。
……その顔は、子ども扱いするなって思っている顔ですね。
では、言い直します。
夏休み中にもかかわらず、早朝から身支度を整え、外出している姿勢は大変立派だと思います。
……余計に変?
そうですか。
普通に褒めるのって、難しいですね。
……私は、ですか?
私は図書館へ行くところです。
夏休みの間、午前中だけ自習室が使えるので。
昼になると暑いでしょう?
だから、朝のうちに少し勉強して、暑くなる前に帰ろうかなと思って。
……宿題です。
全部ではありませんけど。
できるものから少しずつ終わらせておこうと思って。
あなたは?
……散歩?
本当に?
……ああ。
家にいても暑いから、涼しいうちにコンビニまで行こうと思ったんですね。
散歩というより、買い出しでは?
……飲み物とアイス。
朝からアイスですか?
……でも、少しわかります。
八月の朝って、早い時間でも空気の奥に暑さが残っていますよね。
今はまだ風があるけれど、日が高くなったら、道も建物も全部熱くなってしまいそうで。
ほら。
もう蝉が鳴き始めています。
朝なのに、あの子たちは元気ですね。
……うるさい?
たしかに、近くで鳴かれると少し大きいです。
でも、夏休みに入ったばかりの蝉の声は、私は嫌いではありません。
これから夏が始まるんだなって思えるので。
八月になった時点で、もうかなり夏ですけど。
それでも、朝の蝉は「今日は何をするの?」って聞いてくるみたいで。
……何もしない日もありますけどね。
私だって、毎日きちんと過ごしているわけではありません。
昨日は、お昼を食べたあと少しだけ横になるつもりが、気づいたら夕方でした。
……意外ですか?
私も昼寝くらいします。
それに、夏休みなんですから。
少しくらい、時間を無駄にしてもいいと思います。
……ただ。
起きたとき、部屋が夕方の色になっていると、少し寂しくなりますね。
何もしていないのに、一日が終わりかけているようで。
子どものころは、夏休みって永遠に続くように感じていたのに。
今は一日が短くて、八月もきっと、気づいたら終わってしまうんだろうなって。
……朝から、少し暗い話をしてしまいました。
ごめんなさい。
でも、あなたに会えたので。
今日は昨日より、ちゃんと始まった気がします。
……え?
どういう意味か、ですか?
そのままの意味です。
知っている人と会って。
おはようって言って。
少し話した。
それだけで、今日という日にちゃんと入口ができたような気がするんです。
夏休みは自由ですけど、自由すぎると、一日がどこから始まったのかわからなくなることがあるでしょう?
学校がある日は、起きて、着替えて、家を出て。
教室で誰かに会って、そこから一日が動き始める。
でも、夏休みはそういう区切りがないから。
朝起きて、何となくスマートフォンを見て。
冷房の効いた部屋で過ごしているうちに、いつの間にか昼になってしまう。
……だから。
今朝あなたに会えて、少し嬉しかったんです。
……少し、です。
とても、ではなくて。
……その笑い方、信じていませんね。
では、もう少し正直に言います。
かなり嬉しかったです。
学校が休みになってから、会っていなかったでしょう?
まだ数日しか経っていないのに、教室で毎日顔を合わせていた人が急にいなくなると、思っていたより変な感じがして。
……いなくなったわけではないですよね。
わかっています。
ただ、会わなくなっただけ。
でも、その「会わないだけ」が、少し寂しかったんです。
連絡をするほどの用事はなくて。
かといって、何もないのに話しかける勇気もなくて。
今何をしているのかな、と考えて。
でも、お昼まで眠っているかもしれないし、友達と出かけているかもしれないし。
邪魔をしたら嫌だなと思ったら、結局何も送れませんでした。
……あなたからも、来ませんでしたし。
あ。
責めているわけではありません。
本当に。
私だって送っていないので、お互いさまです。
ただ、少しくらい送ってくれてもよかったのに、と考えなかったわけではありません。
……面倒ですね、私。
連絡したいのに自分からはできなくて。
でも、相手から来なければ少し寂しい。
こうして口にすると、ずいぶん都合がいいです。
……でも。
人の気持ちって、たぶんそういうものですよね。
いつも理屈に合うわけではなくて。
自分でも面倒だと思いながら、それでも期待してしまう。
……あなたは、少しも寂しくありませんでしたか?
……少しは?
本当に?
……そうですか。
それなら、よかった。
いえ。
よかったと言うのも変ですけど。
私だけではなかったんだと思ったら、安心しました。
……夏休み中も、時々会えたらいいですね。
毎日とは言いません。
毎日だと、夏休みなのに学校と変わらなくなってしまいますし。
でも、今日みたいに朝の道で会ったり。
図書館でたまたま同じ机を使ったり。
暑い日にコンビニでアイスを買ったり。
そういう、小さな予定が何度かあったら嬉しいです。
……偶然に頼りすぎ?
そうですね。
こんな広い町ではありませんけど、何度も偶然会うのは難しいかもしれません。
では。
次は、約束にしますか?
……あ。
そんなに驚かないでください。
今のは、別に特別な意味では。
……なくはないですけど。
でも、大げさなものではありません。
たとえば、来週の同じ曜日。
また朝のうちに図書館へ行こうと思っているので。
あなたも起きられたら、一緒に行きませんか?
図書館で宿題をして。
帰りにコンビニへ寄って。
アイスでも買う。
……どうでしょう。
……起きられたら?
そこは、ちゃんと起きてください。
せっかく私が勇気を出して誘っているのに、目覚まし時計に負けられたら、少し腹が立ちます。
……少しでは済まないかも。
たぶん、その日は一日中、機嫌が悪くなります。
でも、理由は言いません。
あなたが自分で気づくまで。
……ふふ。
それは面倒だと思いました?
思ったでしょう。
顔に出ています。
でも、仕方ありません。
私だって、待ち合わせを楽しみにしていたのに来てもらえなかったら、普通に傷つきますから。
清純派だからって、いつも穏やかに笑っているとは限らないんですよ。
……なに、その顔。
少し意外でしたか?
私にも、怒るときくらいあります。
拗ねるときも。
寂しくなるときも。
会いたいのに会いたいと言えなくて、勝手に少し落ち込むことだってあります。
……今日会えなかったら、たぶんまた何も送れなかったと思います。
そして夜になってから、今日も話せなかったな、と考えて。
明日こそ何か送ろうと思いながら眠って。
次の日になったら、また理由を探して送れなくなる。
……そういうことを、何日も続けたかもしれません。
だから。
今朝、偶然会えてよかったです。
偶然のおかげで、次の約束までできました。
……ちゃんと来てくださいね。
来週。
同じ時間に、この道で。
私、少し早めに来ていると思います。
……待つのが嫌だからではありません。
あなたより遅れて、待たせるほうが嫌なので。
でも、あまり遅いと帰ります。
……帰らないかもしれませんけど。
たぶん、少し怒りながら待っています。
……そんなことを先に言ったら、待たせてみたくなる?
だめです。
絶対だめ。
そういう実験をする人は嫌いです。
……本当に。
待っている人の時間って、待たせる側が思うより長いんですから。
五分でも。
十分でも。
特に、会えるのを楽しみにしている相手を待つ時間は。
……あ。
今のは、少し言いすぎました。
でも、もういいです。
今日は朝から、わりと正直に話してしまったので。
一つくらい増えても同じでしょう。
……コンビニ、もうすぐですね。
あなたは何を買うんですか?
……麦茶と、アイス。
さっき聞きました。
アイスは何味ですか?
……まだ決めていない?
では、私も一緒に選んでもいいですか?
図書館へ行く前にアイスを食べるのは、少し行儀が悪い気もしますけど。
でも、もう暑くなってきましたし。
今日くらいはいいですよね。
……半分ずつ違う味にする?
それ、いいですね。
あ。
でも、分けるなら、先に言っておきます。
私、少し大きいほうを選ぶかもしれません。
……冗談です。
たぶん。
ふふ。
朝から誰かとアイスを選ぶなんて、夏休みらしいですね。
学校のある日なら、遅刻しないかばかり考えて、こんなふうに寄り道はできませんから。
……夏休みなのに、ちゃんと起きられてよかったですね。
あなたも。
私も。
今日、ちゃんと起きて外に出たから。
こうして会えました。
……ねえ。
夏休みの間、あと何回会えるでしょうね。
数えるほどしか会えないのは、少し嫌です。
でも、数えきれないほど会おうとすると、たぶん恥ずかしくなるので。
ほどほどに。
でも、忘れないくらいには。
……そうしましょう。
では、まず今日の一回目。
八月の朝。
蝉が鳴いていて。
まだ道が少し涼しくて。
あなたが珍しく早起きをして。
私が、とても嬉しかった日。
……「とても」って言ってしまいました。
さっきは「かなり」までにしておいたのに。
まあ、いいです。
夏休みなので。
普段より少しだけ素直になっても、先生に注意されることはありませんから。
……ほら。
コンビニに入りましょう。
早くしないと、外がもっと暑くなってしまいます。
それから、一緒に図書館へ行って。
少し宿題をして。
帰る前に、来週の待ち合わせをもう一度確認しましょう。
……逃げないでくださいね。
夏休みにちゃんと起きられたあなたなら、きっと来週も大丈夫です。
たぶん。
……少し心配ですけど。
それでも、待っています。




