7月本編 第2話 お兄ちゃん、アイス溶けちゃうよ (妹系/暑い日の帰宅後/家族同然に近い女の子)
朗読使用者への簡単な設定説明
この台本は、女性VTuberが「妹分のように距離が近い女の子」として読むシチュエーションボイスです。
舞台は7月の暑い午後。相手がぐったりして帰ってきたところへ、彼女が冷房の効いた部屋でアイスを用意して待っています。
ただ可愛いだけではなく、暑さで少し機嫌が悪くなったり、心配しすぎて小言が出たり、甘えたいのに素直に甘えられなかったりする“人間臭い妹系”です。
声は明るく、少し早口で、でも相手を心配するところだけ柔らかく。アイスの冷たさ、汗ばんだ前髪、冷房の風、夏の午後のだるさを大切にしてください。
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……あ。
帰ってきた。
おかえり、お兄ちゃん。
……って、ちょっと待って。
なにその顔。
溶けかけのアイスみたいな顔してる。
いや、例えじゃなくて本当に。
暑さに負けた人の顔してる。
……大丈夫?
大丈夫じゃないよね、その返事。
「だいじょーぶ」って、全然大丈夫じゃない人の言い方だったもん。
ほら、靴ちゃんと脱いで。
鞄、そこに置いていいから。
あ、床に投げない。
中に何入ってるかわかんないでしょ。
教科書とか、プリントとか、あとなんか変なレシートとか。
……レシート入ってない?
ほんとかなあ。
お兄ちゃんの鞄、たまに小さいゴミ箱みたいになってるから信用できない。
……怒ってないよ。
ちょっと呆れてるだけ。
はい、こっち来て。
冷房つけてあるから。
……どう?
涼しいでしょ。
ふふん。
私、えらいでしょ。
お兄ちゃんが帰ってくる時間、だいたいこのくらいかなって思って、少し前から冷房つけておいたの。
……電気代?
今それ言う?
暑さで魂半分抜けてる人が、急に生活感あること言わないでよ。
大丈夫。
ちゃんと設定温度は高めにしてるし、扇風機も回してるから。
ほら、風こっち来てるでしょ。
……あー、だめ。
扇風機の前で「あ゛ー」ってやるのは禁止。
……もうやってるし。
小学生?
いや、ちょっと面白いけど。
声、変。
……ふふ。
やめて。
笑っちゃう。
もう。
暑さでへろへろになって帰ってきたくせに、そういうところだけ元気なんだから。
……はい。
これ。
アイス。
お兄ちゃんの好きなやつ。
……なに、その顔。
嬉しいなら嬉しいって言いなよ。
「おお……」じゃなくて。
アイスを前にした古代人みたいな声出さないで。
……はいはい。
袋、開けてあげる。
手、汗でちょっと滑ってるでしょ。
無理に開けようとして中身飛ばしたら嫌だし。
……ほら。
早く食べて。
お兄ちゃん、アイス溶けちゃうよ。
……そう。
ちゃんと座って。
あー、もう。
そんなにぐったり背もたれに沈まない。
液体になるつもり?
……暑かったんだね。
外、そんなに?
……うわ。
それは無理。
七月って、急に本気出してくるよね。
昨日までまだ梅雨の残りみたいな顔してたのに、今日になったら急に「はい夏です」って。
空も青すぎるし、日差しも強いし、アスファルトも熱そうだし。
蝉も鳴き始めたし。
あれ、ずるいよね。
蝉が鳴いてるだけで、体感温度ちょっと上がる気がする。
音だけで暑い。
……ん?
アイス、おいしい?
……そっか。
よかった。
買ってきておいて正解だった。
本当はね、二個買ったんだよ。
お兄ちゃんの分と、私の分。
でも、帰ってくるの遅かったら、先に食べちゃおうかなって思ってた。
……食べてないよ。
ちゃんと待ってたよ。
……えらい?
でしょ。
もっと褒めていいよ。
……雑。
「えらいえらい」って、何それ。
棒読みすぎる。
妹分に対する感謝が足りない。
こっちは暑い中、コンビニまで行って。
アイスが溶けないように、ちょっと早歩きして。
帰ってきて冷凍庫に入れて。
お兄ちゃんが帰ってくる前に部屋を涼しくして。
それで待ってたんだよ?
……うん。
だから、もう一回。
ちゃんと。
……。
……ふふ。
よろしい。
今のはちょっと嬉しかった。
……あ、顔見ないで。
今、たぶんにやけた。
暑さのせいじゃないやつ。
……違うし。
別に照れてないし。
お兄ちゃんが珍しく素直に褒めるから、ちょっとびっくりしただけ。
……はいはい。
アイス食べて。
また溶けてる。
ほら、端っこ。
垂れそう。
……あー、もう。
ティッシュ。
はい。
だから言ったじゃん。
暑い日はアイスの速度が命なんだよ。
ぼんやりしてるとすぐ負ける。
……お兄ちゃん、今日ずっと負けてるね。
暑さにも負けてるし。
アイスにも負けかけてるし。
私の小言にも負けてる。
……なに、その目。
「うるさいなあ」って思った?
思ったでしょ。
いいよ、思っても。
私も自分でちょっとうるさいなって思ってるもん。
でもさ。
心配なんだから仕方ないじゃん。
こんな暑い日に、汗だくで帰ってきて。
顔色もちょっと悪くて。
水分取ったのって聞いたら、たぶん「ちょっと」って言うでしょ。
……ほら。
やっぱり。
ちょっとって何?
ちょっとじゃ足りないの。
はい、お水。
冷たすぎないやつ。
一気に飲むとお腹びっくりするから、ゆっくり。
……そう。
いい子。
……あ。
今のは私が悪い。
つい言っちゃった。
でも、いい子だったから。
……なに。
妹に言われるのは変?
別にいいじゃん。
私だって、たまにはお兄ちゃんのこと甘やかしたいんだよ。
いつもはさ。
なんだかんだお兄ちゃんが先に動いてくれたり、重い荷物持ってくれたり、虫が出たとき退治してくれたりするでしょ。
……虫の話すると元気なくなるのやめて。
でも、そういうのあるから。
今日は私が世話する番。
暑さでだめになってるお兄ちゃんを、冷房の効いた部屋に回収して。
水飲ませて、アイス食べさせて、ちょっと文句言って。
……それで、少し元気にする。
それが今日の私の任務。
……任務って言うと大げさ?
いいの。
夏は戦いだから。
外は灼熱。
敵は日差しと湿気と蝉の声。
味方は冷房、扇風機、麦茶、アイス。
そして私。
……なに笑ってるの。
けっこう本気で言ってるんだけど。
……でも、笑った。
帰ってきたときより、顔ましになったね。
よかった。
……うん。
やっぱり、こっちの顔のほうがいい。
ぐったりしてるお兄ちゃんも、まあ、ちょっと面白いけど。
でも、元気ないのは嫌。
なんか、部屋まで暑くなる。
……え?
私が寂しそうな顔してた?
……してない。
してないってば。
……ちょっとだけ。
だって、帰ってきた瞬間に全然しゃべらなかったから。
「ただいま」も小さかったし。
私が話しかけても、返事がふにゃってしてたし。
暑さのせいだってわかってるけど。
それでも、ちょっとだけ寂しかった。
……何それって顔しないでよ。
私だって、いつも元気なわけじゃないんだから。
お兄ちゃんが帰ってきたら、今日はアイス出して、ちょっと話して。
七月って暑いねとか、蝉うるさいねとか、そういうどうでもいい話をしようって思ってたの。
なのに、帰ってきたお兄ちゃんが半分溶けてたら、心配が先に来るじゃん。
……だから、小言が増えた。
そういうこと。
私の小言は、だいたい心配の形をしたやつです。
……名言みたいに言うな?
いいじゃん。
今の、ちょっと台本っぽかったでしょ。
……あ。
台本じゃなくて本音だけど。
……ねえ。
アイス、もう少しでなくなるね。
私の、半分食べる?
……いいの。
私はさっき味見したし。
……味見?
うん。
ちょっとだけ。
……怒らないでよ。
ちゃんと一口だけだもん。
お兄ちゃんのじゃなくて、私のやつ。
でも、やっぱり一緒に食べるほうがおいしいかなって思って。
待ってた。
……だから、半分あげる。
はい。
……あーん?
……しないし。
なに言ってるの。
暑さでおかしくなった?
……でも、そんな期待した顔するなら。
……やっぱりしない。
自分で食べて。
……もう。
そんな残念そうにしないでよ。
こっちまで変な気持ちになるじゃん。
……はい。
スプーン。
これでいいでしょ。
……近い?
だって、アイス渡してるんだから近くなるでしょ。
いちいち反応しない。
……でも。
冷たいね。
スプーン持ってるお兄ちゃんの指、さっきより冷えてる。
最初、帰ってきたときは手の甲まで熱かったのに。
今は少し落ち着いた。
よかった。
……うん。
本当に。
私、暑いのは苦手だけど。
こうやって、お兄ちゃんが涼しい部屋で少しずつ人間に戻っていくのを見るのは、ちょっと好き。
……人間に戻るって言い方、ひどい?
だって、帰ってきたときは本当に溶けかけだったもん。
今はちゃんと、お兄ちゃん。
……私の知ってる、お兄ちゃん。
……あ。
今のは、なんか恥ずかしいから忘れて。
……忘れない?
じゃあ、いい。
忘れなくてもいいけど、からかわないで。
……ねえ。
今日はもう、外に出ないでね。
用事があるなら、夕方になってから。
できれば、私も一緒に行く。
……なんでって?
暑いから。
倒れたら困るから。
あと、私が暇だから。
……最後が本音?
全部本音。
心配も本音。
暇なのも本音。
一緒にいたいのも、まあ……本音。
……今、聞き返さない。
そこは流して。
流さないと、私が暑さとは別の理由でだめになる。
……ふふ。
でも、よかった。
今日は、アイス買って待ってて正解だった。
お兄ちゃんが帰ってきて。
暑い暑いって顔して。
私が小言言って。
冷房の部屋でアイス食べて。
そういう、なんでもない夏の午後。
なんでもないけど、たぶんあとで思い出すやつ。
七月って、そういう小さい記憶が増える季節なのかもね。
蝉の声とか。
冷房の匂いとか。
アイスの棒が少しべたつく感じとか。
お兄ちゃんの前髪が汗でちょっと張りついてたこととか。
……あ、見てたのバレた。
だって、気になるでしょ。
暑そうだったし。
……変な意味じゃない。
心配の意味。
……たぶん。
……もう、にやにやしないで。
はい、残りのアイス早く食べて。
本当に溶けるよ。
七月のアイスと、妹分の機嫌は、放っておくとすぐ扱いにくくなるんだから。
……うん。
そういうこと。
だから今日は、ちゃんと涼んで。
ちゃんと水飲んで。
ちゃんと私の相手して。
……最後が一番大事?
……まあ、そうかも。
だって、待ってたんだから。
お兄ちゃんが帰ってくるの。
アイスが溶けないように。
部屋が涼しくなるように。
それで、おかえりって言えるように。
……だから。
おかえり、お兄ちゃん。
今日も暑い中、ちゃんと帰ってきてえらい。
……ふふ。
今度は私が、ちゃんと褒めてあげた。




