7月 第1話 七夕の短冊、見せてくれないんですか? (清純派/七夕の放課後/同級生)
朗読使用者への簡単な設定説明
この台本は、女性VTuberが「清純派で、少し奥手な同級生」として読むシチュエーションボイスです。
舞台は7月、七夕飾りが置かれた放課後の教室前、または昇降口近く。相手の短冊に何が書いてあるのか気になってしまう女の子の話です。
彼女自身の願い事は「好きな人と、もう少し近くなれますように」。けれど、まだそれを正直に見せる勇気はありません。
声はやわらかく、少し照れながら。夏の始まりの湿った空気、笹の葉が揺れる音、短冊に触れる指先の近さを意識して読んでください。
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……あ。
そこにいたんですね。
すみません。
探していた、というほどではないんですけど。
でも、さっき教室にいなかったので、もう帰ってしまったのかなって思って。
……七夕飾り、見ていたんですか?
ふふ。
意外です。
いえ、悪い意味じゃなくて。
こういう行事、あなたはさらっと通り過ぎてしまう人だと思っていたので。
……あ。
ちゃんと短冊、持ってる。
書くんですか?
……まだ迷ってる?
そうですよね。
願い事って、いざ書こうとすると少し難しいです。
「成績が上がりますように」とか。
「夏休みが楽しくなりますように」とか。
そういう普通の願いなら、すぐ書けるはずなのに。
でも、短冊を前にすると、なぜか少しだけ本音を試されているみたいな気がしませんか?
……ふふ。
わかります?
よかった。
私だけかと思っていました。
七夕って、なんだか不思議ですよね。
星にお願いする日なのに、空が曇っていても、雨が降っていても、みんな願い事を書くでしょう?
星が見えなくても、願い事は書く。
届くかどうかもわからないのに、それでも小さな紙に文字を書く。
……そういうところ、少し好きです。
見えないものを信じる日、みたいで。
……あ。
風。
笹の葉、揺れましたね。
短冊の音、聞こえました?
かさかさって。
紙が揺れる音なのに、なんだか少し涼しく感じます。
外はこんなに暑いのに。
廊下も、放課後の空気がこもっていて、少し息苦しいくらいなのに。
笹の葉が揺れるだけで、ほんの少し夏の夜みたいになる。
……七月になったんですね。
ついこの間まで、雨の話ばかりしていた気がするのに。
気づいたら七夕で、もうすぐ夏休みで。
季節だけ、私たちより少し先に進んでいるみたいです。
……ねえ。
短冊、何色にするんですか?
私は……この水色にしました。
夏の空みたいで、きれいだったので。
……え?
何を書いたのか、ですか?
……それは。
秘密です。
……あ、そんな顔しないでください。
先に聞いたのは私じゃないかって?
たしかに、そうですね。
でも、私の願い事は……ちょっと、見せるには恥ずかしいので。
……あなたは?
見せてくれないんですか?
……まだ書いてないから?
じゃあ、書いたら見せてくれますか?
……考えておく?
ふふ。
それ、だいたい見せてくれないときの言い方です。
でも、いいです。
無理に見せてとは言いません。
願い事って、誰にも見せないから本当のことが書ける気もしますし。
……でも、少しだけ気になります。
あなたが何を願うのか。
勉強のことかな。
部活のことかな。
家族のこと。
夏休みのこと。
それとも、もっと別のこと。
……好きな人のこと、とか。
……あ。
今のは、少し踏み込みすぎましたね。
ごめんなさい。
七夕だからでしょうか。
願い事の話をしていると、普段なら聞けないことまで聞きたくなってしまいます。
……あなたに好きな人がいるのか、とか。
もし願い事を書くなら、その人のことを書くのかな、とか。
そういうこと。
……私、変ですね。
自分では秘密にしているのに、あなたの願い事だけ知りたがるなんて。
少しずるいです。
……でも。
気になるんです。
あなたの短冊に、誰の名前があるのか。
誰かと近くなりたいって書くのか。
夏休みも会えますようにって書くのか。
それとも、そういうことは全然書かないのか。
……もし、知らない誰かの名前が書いてあったら。
たぶん私、少しだけ笑うのが下手になります。
……あ。
ごめんなさい。
今のは、聞かなかったことにしてください。
いえ。
全部じゃなくて。
少しだけ。
……難しいですね。
なかったことにしたい言葉ほど、本当だったりします。
……私の短冊。
見たいですか?
……。
だめです。
今は、まだ。
だって、もし見られたら。
たぶん、今日から普通に話せなくなってしまうから。
……そんなに大げさなことは書いていません。
名前も、書いていません。
……でも。
名前を書きそうにはなりました。
……っ。
あ、あの。
今のは、その……。
いえ。
もう言ってしまったので、ごまかしても遅いですね。
短冊に願い事を書くとき、最初は普通に書こうと思ったんです。
「夏休みが楽しくなりますように」とか。
「テストがうまくいきますように」とか。
そういう、見られても困らない願いにしようって。
でも、ペンを持ったら、手が止まってしまって。
本当の願いは、別にあるんだなって思いました。
……好きな人と、もう少し近くなれますように。
そう書きました。
……声に出すと、やっぱり恥ずかしいですね。
顔が熱いです。
七月のせいにしてもいいですか?
……ふふ。
だめですか。
でも、本当に暑いです。
廊下の空気も、少し湿っているし。
窓の外では蝉が鳴き始めていて。
放課後なのに、まだ一日が終わりきっていないみたいで。
こういう空気の中で、そんな願い事を書いてしまったから。
余計に、胸の奥まで熱くなったのかもしれません。
……ねえ。
あなたは、そういう願い事をしたことがありますか?
誰かと、もう少し近くなりたいって。
今まで通り話せるだけでも嬉しいのに。
それだけじゃ、少し物足りなくなってしまうような。
隣にいるだけで安心するのに。
もっと隣にいたくなるような。
……そういう気持ち。
……ありますか?
……。
……答えにくいですよね。
ごめんなさい。
でも、もしあるなら。
その願いは、短冊に書かなくてもいいと思います。
心の中にあるだけでも、たぶんちゃんと願い事です。
……私は、書いてしまいましたけど。
見せられないのに。
隠すくらいなら、書かなければよかったのに。
でも、書いたら少しだけ、気持ちが形になった気がしたんです。
小さな水色の紙に、たった一行。
それだけなのに、今まで胸の中でふわふわしていたものが、ちゃんとここにあるってわかるような気がして。
……だから、やっぱり七夕って不思議です。
叶うかどうかより先に、願いに気づかせてくれる日なのかもしれません。
……あ。
あなた、書けました?
……早いですね。
何を書いたんですか?
……見せない?
やっぱり。
ふふ。
いいです。
私も見せていませんから、お互いさまです。
じゃあ、一緒に結びましょうか。
……はい。
このあたり、まだ空いています。
笹の枝、少し高いですね。
私、届くかな。
……あ。
ありがとうございます。
少し、持っていてくれるんですか?
助かります。
……近いですね。
いえ、あの。
枝を持ってもらっているから、近いだけです。
わかっています。
でも、短冊を結ぶときって、指先が少し震えますね。
願い事を、ちゃんと落とさないように。
ほどけないように。
でも、強く結びすぎて紙を傷めないように。
……恋と少し似ていますね。
……今のは、忘れてください。
忘れてほしいことばかり言っていますね、私。
……できました。
水色の短冊。
ちゃんと結べました。
あなたのも、隣に結ぶんですか?
……はい。
どうぞ。
……。
隣、なんですね。
偶然ですか?
……偶然、ですか。
そういうことにしておきます。
でも、少し嬉しいです。
願い事の中身は見えなくても。
短冊が隣にあるだけで、なんだか少し近くにいられた気がします。
……本当に、単純ですね。
私。
こんなことで嬉しくなるなんて。
でも、いいんです。
今日は七夕だから。
星が見えなくても。
願いが届くかどうかわからなくても。
短冊が隣同士で揺れているだけで、少しだけ勇気が出ます。
……ねえ。
もし、願い事が叶ったら。
そのときは、あなたに言ってもいいですか?
私が、水色の短冊に何を書いたのか。
……はい。
そのときには、ちゃんと。
今よりもう少し、近くなれていたら。
ちゃんと、あなたに見せます。
……だから。
あなたも、もし願い事が叶ったら。
短冊に何を書いたのか、教えてください。
約束です。
……ふふ。
指切りまではしません。
さすがに、少し子どもっぽいので。
でも、覚えていてください。
七月の放課後。
笹の葉が揺れていて。
水色の短冊と、あなたの短冊が隣にあって。
私が少しだけ、恥ずかしいことを言った日。
……私も、覚えておきます。
たぶん、夏休みが始まっても。
七夕が終わっても。
この短冊が片づけられても。
今日のことは、少し長く覚えていると思います。
……じゃあ、そろそろ帰りましょうか。
外、まだ明るいですね。
七月の夕方って、いつまでも終わらないみたいです。
……あの。
帰り道、途中まで一緒でもいいですか?
願い事の中身は、まだ言えませんけど。
その願いに、少しだけ近づく練習なら。
今日から始めても、いいかなって思ったので。
……はい。
ありがとうございます。
では、行きましょう。
短冊、風で揺れていますね。
……私の願い事。
少しだけ、あなたの方を向いて揺れている気がします。
……なんて。
今のは、七夕のせいです。




