6月本編 第5話 濡れたまま行くつもり? 少し待てば (クール系先輩/雨宿り/先輩と後輩)
朗読使用者への簡単な設定説明
この台本は、女性VTuberが「口数は少ないけれど、面倒見のいいクール系先輩」として読むシチュエーションボイスです。
舞台は6月、放課後の校舎出口。急な雨で後輩が濡れたまま帰ろうとしているところを、先輩が引き止めます。
恋愛感情を強く出しすぎず、そっけない言葉の奥に心配と優しさがにじむ形です。
声は落ち着いて、淡々と。ただし「心配している台詞」だけ少し柔らかくすると、クールさと甘さが両立します。
-----------------------------------------------------------------------
……待って。
そのまま行くつもり?
……見ればわかる。
傘、持ってないでしょう。
鞄の上に手を置いて、雨が弱くなるタイミングを見計らってる顔をしてるけど。
その雨、たぶんすぐには弱くならないよ。
六月の雨は、そういうところがある。
最初は細かく降っているだけなのに、気づいたら本降りになって。
止みそうに見えても、しぶとく続く。
……だから、走って帰るのはおすすめしない。
制服も濡れるし、靴も濡れる。
鞄の中身も危ない。
それに、濡れたまま帰って風邪でも引かれたら、後輩の管理不行き届きみたいで気分が悪い。
……なに、その顔。
心配してるわけじゃない。
……いや。
してないとは言ってない。
ただ、合理的に考えて、今出るべきではないって話。
……ほら。
また雨脚が強くなった。
ね。
少し待てば。
こっちに来て。
昇降口の端、風が入りにくいから。
……そこだと、雨が吹き込む。
もっと内側。
……そう。
床、滑るから気をつけて。
さっき一年生がそこで派手に滑りかけてた。
笑いごとじゃない。
濡れた床は、見た目より危ない。
……うん。
ちゃんと止まったならいい。
で、タオルは?
……持ってない?
そう。
予想通り。
はい。
……貸す。
別に、いらない顔をしなくていい。
前髪、濡れてる。
肩も少し。
そのままだと冷える。
……いいから使って。
返すのは洗ってからでいい。
というか、洗って返して。
そのまま返されたら困る。
……ふふ。
なに。
少し笑った?
私、そんなに変なこと言った?
……先輩らしい?
それ、褒めてるのかどうかわからないね。
まあ、いいけど。
……ちゃんと拭いて。
前髪だけじゃなくて、首元も。
雨の日って、そこが濡れるとあとで冷えるから。
……そう。
やればできる。
……別に、子ども扱いしてるわけじゃない。
でも、傘を忘れて、タオルも持ってなくて、濡れたまま走って帰ろうとしていた人を、大人扱いしろというほうが難しい。
……むっとした?
事実でしょ。
……でも。
怒ってるわけじゃない。
雨の日は、誰でも少し判断が雑になる。
早く帰りたいとか、濡れる前に走ればいいとか、そういう考えになりがち。
私も、昔はそうだった。
……意外?
そうかな。
私だって、最初から何でも落ち着いていたわけじゃない。
一年のころは、傘を忘れて走って帰ったこともあるし。
靴下まで濡れて、家に着いたころには足が冷えきっていたこともある。
それで学んだ。
雨の日は、急ぐより待ったほうがいいこともある。
……だから、少し待てば。
ここで。
……嫌?
なら、別に無理には止めない。
ただ、今出たら確実に濡れる。
たぶん、五分後にはもっと後悔する。
そして明日、少し鼻声になって登校してくる。
それを見るのは、あまり楽しくない。
……それは心配じゃないのかって?
……。
細かいね。
まあ、多少は。
後輩が体調を崩すのは、普通に心配する。
それだけ。
……なに。
嬉しそうにしないで。
そういう反応をされると、言ったこっちが少し困る。
……雨、強いね。
屋根を叩く音、さっきより大きくなった。
校庭も、もう白っぽく見える。
こういう雨の日の放課後は、人が少なくなるのが早い。
みんな、迎えを待つか、傘を差して急いで帰るから。
廊下も、教室も、少しずつ静かになる。
……私は、この時間が嫌いじゃない。
放課後なのに、まだ学校に閉じ込められている感じ。
雨のせいで外に出られなくて。
でも、その分、少しだけ時間が止まっているように感じる。
……変?
そう。
なら、よかった。
君も少しはそういう感覚、わかるんだ。
……あ。
また肩、濡れてる。
拭き方が雑。
貸して。
……動かないで。
タオル、こっち。
……ん。
これで少しはまし。
……近い?
そうだね。
でも、濡れていたから。
必要な距離。
……顔をそらさない。
拭きにくい。
……はい。
終わり。
そんなに固まらなくてもいい。
別に、何かしたわけじゃない。
ただ、雨に濡れた肩を拭いただけ。
……それだけ。
……なのに、こっちまで少し変な気分になるから困る。
……聞こえた?
聞こえてないならいい。
聞こえていたなら、忘れて。
……忘れられない顔をしているね。
まあ、いい。
雨音が大きいから、今のは雨のせいにしておく。
……ねえ。
君は、雨の日に無理をする癖があるの?
今日だけじゃなくて。
なんとなく、そう見える。
濡れても平気そうな顔をして。
少しくらい大丈夫だって言って。
自分のことを後回しにする。
……違う?
少しは当たってると思う。
自分では気づいてないかもしれないけど。
君、困っているときほど、平気な顔をするから。
……それ、あまり上手じゃないよ。
少なくとも、私にはわかる。
……なぜって?
見てるから。
……先輩だから。
後輩の様子くらい、見る。
……それ以上の意味を勝手に足さない。
でも、見ているのは本当。
雨の日の昇降口で、傘がなくて困ってるのに、誰にも声をかけないところとか。
濡れてるのに「大丈夫です」って言いそうなところとか。
そういうのを見ると、少しだけ放っておけない。
……少しだけ。
本当に、少しだけ。
……また嬉しそうにしてる。
君はわかりやすいね。
そのわかりやすさは、たぶん長所。
たぶん。
……あ。
少し弱くなってきたかな。
でも、まだ出ないほうがいい。
あと少し待てば、もっとましになる。
……そう。
少し待てば。
この「少し」が苦手な人もいるけど。
急いで濡れるより、待って濡れずに済むほうがいい。
……君は、急ぎすぎる。
帰るのも。
答えを出すのも。
平気なふりをするのも。
もう少し、待つことを覚えたほうがいい。
雨が弱くなるまで待つ。
体が温まるまで待つ。
気持ちが落ち着くまで待つ。
待ってもいいことは、意外と多い。
……もちろん、待ちすぎて逃すものもあるけど。
それは、そのとき考えればいい。
今は、雨が弱くなるのを待つ時間。
……それだけ。
……ん?
退屈?
なら、少し話す?
……意外そうな顔。
私が話すのはそんなに珍しい?
……まあ、珍しいか。
普段は必要なことしか言わないし。
雑談も得意じゃない。
でも、雨宿りの時間くらいなら、少しは話してもいい。
……何を話すか?
そうだね。
……君は、雨の日、好き?
……嫌いではない?
曖昧な答え。
でも、少しわかる。
濡れるのは嫌だし、空が暗いのも嫌だけど。
雨音は落ち着く。
人の声が少し静かになる。
街の色が濃くなる。
そういうところは、悪くない。
……私?
私は、嫌いじゃない。
雨の日は、いつもより無理に明るくしなくて済むから。
落ち着いたままでも、空気に紛れられる。
……あ。
今のは、少し個人的すぎたかな。
忘れて。
……忘れない?
そう。
じゃあ、覚えていてもいい。
でも、他の人には言わないこと。
……秘密?
まあ、そういうことにしておく。
雨宿りのあいだだけの秘密。
……そろそろ行けそうだね。
雨、かなり細くなった。
傘は?
……だから、持ってないんだった。
仕方ない。
駅までなら、私の傘に入ればいい。
……なに、その反応。
ここまで待たせておいて、最後だけ雨の中に放り出すわけないでしょう。
それに、タオルまで貸したのに、今さら濡れられたら意味がない。
……入る?
……うん。
ただし、条件。
歩幅を合わせること。
傘の外に出ないこと。
濡れても平気なふりをしないこと。
いい?
……よし。
じゃあ、行こう。
……近い?
傘は一つだから。
仕方ない。
必要な距離。
さっきも言ったでしょ。
……それに。
雨の日くらい、少し近くてもいい。
……今のも、雨のせいにしておいて。
ほら、行くよ。
濡れたまま行くつもりだった後輩くんを、駅まで無事に連れていく。
今日の私の仕事は、それで終わり。
……でも、次からは傘、持ってきなさい。
また忘れたら?
……そのときは。
少し待てば。
私が、また見つけるかもしれないから。




