ジューンブライド番外 第3話 六月の花嫁には、まだ少し遠いね
(お姉さん系/ジューンブライドへの寂しさ/少し年上の親しい女性)
朗読使用者への簡単な設定説明
この台本は、女性VTuberが「落ち着いた年上のお姉さん」として読むシチュエーションボイスです。
6月の雨の日、結婚式帰りの花嫁や参列者を見かけたあと、相手と静かなカフェ、または雨宿りできる場所で話している場面です。
表面上は大人の余裕を見せていますが、内心では「自分もいつか誰かに選ばれるのだろうか」という寂しさと焦りがあります。
重くなりすぎず、優しく微笑みながら、ふとした瞬間だけ本音がこぼれるように読むと自然です。
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……雨、少し強くなってきたね。
もう少し、ここで待っていようか。
無理に出ても濡れてしまうし。
それに、急ぐ用事もないでしょう?
……ふふ。
よかった。
このお店、窓際の席が落ち着くね。
雨の日だと、ガラスに水滴がついて、外の景色が少しぼやけて見える。
さっき通りを歩いていた人たちも、みんな傘の色だけになってしまったみたい。
……あ。
見て。
向こうの歩道。
たぶん、結婚式の帰りかな。
きれいな服の人たちがいる。
花束を持ってる人もいるね。
……六月だものね。
ジューンブライド。
この時期は、街の中にも少しだけ結婚式の気配が増える気がする。
白い花。
リボン。
小さなブーケ。
雨に濡れないように、誰かが誰かのドレスの裾を気にしてあげる仕草。
そういうのを見ると、やっぱり少し……いいなって思う。
……なに?
意外?
ふふ。
そんなに驚かなくてもいいのに。
私だって、そういうものに憧れることくらいあるよ。
普段あまり言わないだけ。
……うん。
結婚式って、いいよね。
もちろん、大変なことも多いと思う。
準備も、段取りも、親戚付き合いも。
現実的に考えたら、きれいなことばかりじゃないんだろうけど。
それでも、誰かが誰かを選んで。
たくさんの人の前で、「この人と歩いていきます」って言う日があるのは、やっぱり特別だと思う。
……選ばれる、って。
不思議な言葉だよね。
誰かに選ばれる。
誰かを選ぶ。
それって、本当はどちらも同じくらい勇気がいるはずなのに。
私は、つい“選ばれる側”のことばかり考えてしまう。
……変かな。
……ありがとう。
そう言ってくれると思った。
あなたは、こういう話をしても笑わないから、つい話してしまうね。
……さっきの花嫁さん、幸せそうだった。
ほんの一瞬しか見えなかったけど。
傘を差してもらって、少し笑っていて。
ドレスの白が、雨の日の灰色の中で、すごく明るく見えた。
雨なのに。
雨だからこそ、かな。
白が、余計にきれいだった。
……私も、いつかああいうふうに笑えるのかな。
……あ。
ごめん。
少し、変なことを言ったね。
今すぐ結婚したいとか、そういう話じゃないの。
そんなに焦っているつもりもないし。
誰かに急かされているわけでもない。
でもね。
六月になると、どうしても考えてしまうの。
街に飾られたウェディングドレスや、結婚式場の広告や、幸せそうな写真。
そういうものが、まるで「あなたはどうするの?」って聞いてくるみたいで。
……普段は、平気なんだけどね。
仕事でも、日常でも、私はちゃんとやれているつもり。
ひとりで過ごす時間も嫌いじゃないし。
誰かに寄りかからないと立てない、なんてこともない。
だけど、こういう日だけは。
少しだけ、胸の奥が静かになる。
自分はまだ、誰かに“この人だ”って思ってもらえていないのかなって。
そういう場所には、まだ届いていないのかなって。
……ふふ。
ちょっと寂しい言い方になってしまった。
でも、泣きたいほどではないよ。
大丈夫。
ただ、少しだけ。
ほんの少しだけ、羨ましかっただけ。
誰かの隣に立てる人が。
白いドレスを着て、祝福されて、まっすぐ前を向ける人が。
その人自身もきれいだったけど、その人を選んだ誰かがいることも、きれいに見えた。
……ねえ。
あなたは、誰かを選ぶって、どういうことだと思う?
……難しい質問をしたね。
すぐ答えなくていいよ。
私も、ちゃんとはわからない。
たぶん、好きだけじゃ足りないのかもしれない。
一緒にいて楽しいとか、安心するとか、そういう気持ちも大切だけど。
それだけじゃなくて、その人の弱いところも、面倒なところも、うまくいかない日も、それでも隣にいると決めること。
……なのかな。
言っていて、少し怖くなるね。
そんなふうに誰かを選ぶのも、誰かに選ばれるのも。
でも、憧れる。
怖いのに、憧れる。
……ふふ。
矛盾しているね。
でも、人の気持ちって、だいたい矛盾してるものかもしれない。
一人でも大丈夫。
でも、誰かに選ばれたい。
まだ自由でいたい。
でも、誰かの特別になりたい。
焦っていないふりをしたい。
でも、置いていかれるのは少し怖い。
……こんなこと、あまり人には言えないけれど。
あなたには、言えてしまう。
それが良いことなのか、少し危ないことなのか、まだわからないけどね。
……あ。
そんな顔をしないで。
困らせたいわけじゃないの。
ただ、今こうして雨宿りをしていて。
六月の花嫁を見かけて。
あなたが隣で、静かに聞いてくれているから。
少しだけ、心の奥にあったものが出てきただけ。
……ねえ。
もし私がいつか、誰かに選ばれる日が来たら。
そのとき、私はちゃんと笑えるかな。
強がらずに。
大人ぶらずに。
「嬉しい」って、ちゃんと言えるかな。
……うん。
あなたなら、言えると思うって?
……ふふ。
ありがとう。
そういうところ、あなたはずるいね。
私が不安な言葉をこぼしたとき、ちょうどいい温度で返してくれる。
熱すぎないし、冷たくもない。
それが、すごく心地いい。
……だからかな。
今、少しだけ思ってしまった。
未来の話をしても笑わない相手がいるのは、救いだなって。
結婚とか、花嫁とか、選ばれるとか。
そういう言葉って、扱い方を間違えると急に重くなるでしょう?
でも、あなたと話していると、不思議と怖くない。
まだ決まっていない未来を、ほんの少しだけ机の上に置いても、あなたは乱暴に触らないでいてくれる。
……それが、嬉しい。
今すぐ何かを決めたいわけじゃない。
そんなことを言いたいわけでもない。
でも、いつかの話をしてもいい相手が、今ここにいる。
それだけで、少しだけ寂しさが薄くなる気がする。
……雨、少し弱くなったね。
外に出ても、もう大丈夫かな。
でも、もう少しだけいてもいい?
このカップの中身がなくなるまで。
それくらいの時間。
……ありがとう。
あなたは本当に、急かさないね。
そういうところ、好きだよ。
……あ。
今の“好き”は、びっくりした?
ふふ。
大丈夫。
今すぐ答えを求めるような好きじゃないから。
でも、嘘でもないよ。
あなたといると、未来の話が少しだけ怖くなくなる。
私が少し弱いことを言っても、そのまま受け止めてくれる。
そういうところが、私は好き。
……今日は、それくらいにしておくね。
これ以上言うと、六月の雨のせいにできなくなるから。
……ねえ。
もしまた、ジューンブライドの広告を見かけたら。
そのときは、今日の話を少しだけ思い出して。
私が、強がりながらも、ほんの少しだけ羨ましがっていたこと。
誰かに選ばれる未来を、怖がりながらも憧れていたこと。
そして、そんな話をあなたにはしてしまったこと。
……忘れなくていいよ。
むしろ、少しだけ覚えていてくれたら嬉しい。
六月の花嫁には、まだ少し遠いね。
でも、遠い未来の話を、あなたとならこうして静かにできる。
それだけで今日は、少し幸せかもしれない。
……ふふ。
じゃあ、雨がもう少し弱くなったら帰ろうか。
急がなくていいよ。
今はまだ、雨宿りの途中だから。




