第3話 今年も桜の下で (幼馴染/桜並木の通学路/昔から一緒に通っている相手)
……あ。
いたいた。
おーい。
こっちこっち。
もう、気づくの遅いって。
さっきから結構ちゃんと手振ってたんだけどな。
ふふ。
おはよう。
……ん?
今日、ちょっと機嫌よさそう?
そう見える?
まあ、そりゃね。
だって、今年もこうして一緒に学校行けるんだもん。
機嫌くらいよくなるでしょ。
ほら、歩こ。
立ち止まってたら遅れちゃうし。
……あ、でもちょっとだけゆっくりでもいいか。
今日は桜、きれいだし。
見て。
道路の向こうまで、ずーっと桜。
毎年見てるのに、やっぱり春になると「うわあ」ってなるよね。
なんだろうね、この感じ。
別に初めて見るわけでもないし、特別珍しいものでもないのに。
咲いてるだけで、ちゃんと春が来たんだなあって思う。
……あー、わかる。
ちょっと花びら散ってるの、いいよね。
満開もきれいだけど、少し風が吹いて、ひらひら落ちるくらいが一番好きかも。
なんかこう……“今しかない”感じがして。
こうして歩いてるとさ、いろいろ思い出すんだよね。
小学校のときも、この道歩いたじゃん。
ランドセル背負ってさ。
あのころはもっと道が広く見えてたし、桜ももっと高くて大きく見えてた気がする。
……え、逆?
わたしが小さかっただけ?
それはそうかもしれないけど。
でもほんとに、景色の感じって変わるよね。
同じ道なのに、年が変わるたび、少しずつ違って見える。
たとえばさ。
昔はただ「きれー」って言って歩いてただけだったけど、今はこのあと学校でどんなクラスになるかな、とか、誰と同じかな、とか、そういうこと考えながら見てるし。
景色は同じでも、見てるこっちが変わってるんだろうなあ。
……うん。
ちょっとだけ緊張してる。
そりゃするよ。
新学期だよ?
クラス替えだよ?
平気な顔してる子ほど、たぶん心の中ばたばたしてると思う。
わたし?
わたしは……どうだろ。
半分楽しみで、半分不安。
いや、六対四くらいで楽しみかな。
たぶん。
……七対三かも。
だって、新しいことって、ちょっと怖いけど、ちょっと面白いじゃん。
知らない人と話すのも、最初は緊張するけど、仲良くなれたら一気に世界広がるし。
それに、行事とか増えると、なんだかんだ楽しいし。
でもさ。
そういう“新しいもの”が増えると、逆に“変わらないもの”ってすごく安心するんだよね。
たとえば……こうして、今年もあなたとこの道を歩いてることとか。
あ。
今ちょっと、変な間があった。
なんか照れたみたいな顔したでしょ。
別に変な意味じゃないよ?
いや、変じゃないっていうか……。
うーん、なんて言えばいいんだろ。
昔から一緒って、それだけでちょっと特別じゃない?
新しいものばっかりの朝に、“あ、ここはいつも通りだ”って思える場所があるのって、すごく安心するっていうか。
……たとえば、ね。
クラスが離れても、朝ここで会えたらそれだけでちょっと落ち着くし。
逆に同じクラスだったら、それはそれで嬉しいし。
どっちにしても、一人じゃない感じがする。
……ん?
そんなの、前からそうじゃんって?
そうだけど。
でも、前からそうだったことが、急にありがたく思える時期ってあるんだよ。
春って、そういう季節じゃない?
少しずつ変わっていくからこそ、“ずっとあるもの”に気づくっていうか。
去年までは当たり前すぎて、ちゃんと考えたことなかったけど。
今年はなんか、そういうの、少し思う。
……あ、見て見て。
今の風、すごい。
花びら、いっぱい。
わあ……。
きれい。
……ねえ。
こういうの見るとさ、写真撮りたくならない?
ほら、ちょっと立って。
桜、後ろに入るようにして。
うん、そのまま。
……あはは。
なにその顔。
そんなに身構えなくてもいいのに。
ただの記念写真だよ、記念写真。
新学期の朝の。
……よし、撮れた。
ん、いい感じ。
桜もちゃんと入ってるし、ちょっと眠そうな顔もそのままで面白い。
消さないよ?
こういうの、あとから見返すと案外楽しいんだから。
「このころこんな顔してたんだ」って笑えるし。
来年また同じ場所で撮ったら、変わったところもわかるかもしれないし。
来年も。
……あ。
いや、その。
別に深い意味はないけど。
でも、来年もこうして撮れたらいいなって、ちょっと思っただけ。
……ふふ。
なんか今日、わたし、思ったことそのまま言いすぎかも。
春のせいかな。
空気がやわらかいと、気持ちまでちょっと緩む。
あ、そういえば。
昔、一回ここで転んだの覚えてる?
小学校の入学したてのころ。
新品の靴が慣れなくて、桜見ながら歩いてたら段差でつまずいて、盛大にころんで。
わたし泣きそうになってたのに、あなたは笑いこらえるの必死で。
……ひどくない?
あれ、結構本気で痛かったんだから。
でもまあ、そのあとちゃんと手貸してくれたし、絆創膏も持ってたし。
あのとき、なんで持ってたの?
小学生なのに。
あ、やっぱり覚えてないんだ。
わたしは覚えてるのに。
そういうの、ずるいよね。
こっちは意外と細かいことまで覚えてるのに。
たぶん、そういう小さい記憶が積み重なって、“幼馴染”って感じになるんだろうな。
大きな事件があるわけじゃなくても、同じ道を歩いたとか、同じ季節を何回も見たとか。
そういうのの集まり。
……だからかな。
こうして桜見ると、ただ春だなあってだけじゃなくて、ちゃんと“あなたと見てきた春だなあ”って思うの。
……うわ。
今の、ちょっと恥ずかしかったかも。
忘れて。
いや、やっぱ忘れないで。
どっちだろ。
あーもう。
なんでそういうときに真面目な顔するの。
こっちまで意識しちゃうじゃん。
……ん。
ありがと。
なんか、その反応で十分。
変に茶化されたらたぶん怒ってた。
ほら、学校見えてきた。
やっぱり歩いてるとあっという間だね。
もっとゆっくりでもよかったのにな。
……なんて。
それ言うと本当に遅刻しそうだからやめとく。
ねえ。
今年も、いろいろあると思う。
楽しいことも、ちょっと面倒なことも、たぶんいっぱい。
クラスがどうなるかもまだわかんないし、去年みたいに毎日同じタイミングで話せるかもわかんない。
でも。
朝、この道で会えたらうれしい。
桜の季節じゃなくなっても、梅雨の日でも、暑い日でも、たまに寝坊した日でも。
こうして並んで歩けたら、たぶんそれだけでちょっと頑張れる。
……だからさ。
今年も、よろしくね。
あ、でも。
もし同じクラスじゃなかったとしても、しょんぼりしないこと。
会えなくなるわけじゃないし。
むしろ、朝のこの時間がもっと大事になるかもしれないし。
……同じクラスだったら?
そのときは、まあ。
うれしい、かな。
少しだけじゃなくて、ちゃんと。
ふふ。
さ、行こ。
今年の春も、始まったばっかりなんだから。




