まだ休み気分? 仕方ないから面倒見てあげる (委員長系/連休ボケの朝/同じクラスの相手)
……おはよう。
……ちょっと待って。
今、そのまま教室に入るつもり?
うん。
入る前に、一回止まって。
まず、鞄。
ファスナー、半分開いてる。
それから、プリント。
端、出てる。
あと、ネクタイ。
いつもより少しだけゆるい。
……なにその顔。
「また始まった」みたいな顔しないでくれる?
始まったんじゃなくて、君が始めさせてるの。
朝からそんな連休明け丸出しの状態で来るから。
ほら、こっち向いて。
ネクタイ、直す。
……じっとして。
動くと結び目がずれる。
……はい。
これでよし。
あとはプリントをしまって。
鞄のファスナーを閉めて。
……うん。
ようやく人前に出しても大丈夫な状態になった。
……別に言い方きつくないでしょ。
かなりやさしく言ってるほうだと思うけど。
本当に連休明けって、みんな少しずつおかしくなるよね。
机に置く教科書を間違える人。
提出物を家に置いてくる人。
曜日の感覚がずれてる人。
朝の挨拶だけ妙に眠そうな人。
そして君は、全部ちょっとずつ混ざってる。
……自覚ないの?
ないなら重症。
でも、まあ……気持ちはわかる。
連休って、終わったあとがいちばん難しいから。
休んだはずなのに、学校に戻ると体が重いし。
いつもの時間に起きたはずなのに、まだ休みの朝みたいな気がするし。
……あ。
今、少しだけ安心した顔した。
なに?
私もそういうのわかるんだ、って?
わかるよ。
私だって人間だし。
今朝だって、目覚ましが鳴った瞬間、少しだけ止めるか迷った。
……ほんの少しだけね。
でも止めたら起きられなくなると思ったから、ちゃんと起きた。
そこが君との違い。
……なに、むっとしてるの。
事実でしょ。
あ、でも。
君もちゃんと学校には来てるんだから、そこはえらいと思う。
連休明けの朝に、制服着て、鞄持って、ここまで来ただけで、まあ合格点はあげてもいい。
ただし、満点ではない。
減点箇所が多い。
……ふふ。
そんな顔しないで。
ちゃんと加点もしてるから。
たとえば、今日は遅刻してない。
これはえらい。
あと、水筒を持ってきてる。
これもえらい。
……え?
中身は昨日のまま?
……。
はい、減点。
いや、飲む前に気づいてよかったね。
もう、ほんとに危なっかしい。
貸して。
今日は私の予備のペットボトルがあるから。
まだ開けてないやつ。
……はい。
いいから持ってて。
この時期、少し暑くなってきてるんだから、水分はちゃんと取ること。
五月って、油断するんだよ。
まだ真夏じゃないから大丈夫って思ってると、案外ぼんやりする。
君の今朝のぼんやりも、半分くらいは水分不足なんじゃない?
……違う?
じゃあ残り半分は連休ボケ。
たぶん合ってる。
……なに笑ってるの。
私は真面目に言ってるんだけど。
でも、少し笑えるくらいには戻ってきたみたいだね。
さっきの顔、ほんとに眠そうだったから。
目元がいつもよりぼんやりしてて。
歩く速度も少し遅くて。
鞄の持ち方も適当で。
……そういうの、わりと出るよ。
……見すぎ?
見えるものは仕方ないでしょ。
同じクラスなんだから。
それに、君はたぶん、自分で思ってるより顔に出る。
四月の最初は緊張してる顔だったけど、最近は少し慣れてきた顔になった。
で、今日は連休明けで完全にだらけた顔。
……あ。
怒った?
でも、悪い意味じゃないよ。
少し気が抜けた顔って、私は嫌いじゃない。
ちゃんと学校に慣れてきた感じもするから。
ずっと緊張してるより、そのくらいのほうが自然でしょ。
ただし、忘れ物と水筒の中身は別問題。
そこはちゃんとして。
……はい、今の返事はよし。
あ、提出物。
今日、あるの覚えてる?
……。
その顔、覚えてないね。
やっぱり。
はい、これ。
昨日の夜、クラスの連絡に出てたでしょ。
連休中の課題確認表。
今日の朝、担任に出すやつ。
……持ってきた?
……持ってきたけど、鞄のどこかわからない?
なにそれ。
いい。
端に寄って。
教室の入口で鞄あさると邪魔になるから。
……ほら、落ち着いて探す。
焦ると余計見つからないから。
そのファイルは?
……違う。
じゃあ、そのクリアファイル。
……それ。
あった。
よかったね。
なかったら朝から大変だったよ。
……うん。
ちゃんと出せば減点取り消し。
だから、そんなにほっとした顔しないの。
まだ朝が始まっただけなんだから。
……でも、まあ。
よかった。
君が教室で「あれ、ない」って青ざめるところ、少し見てみたかった気もするけど。
……冗談。
半分くらい。
困ってるところを見るのが好きなわけじゃないよ。
ただ、君が慌ててると、つい手を出したくなるだけ。
放っておいたら余計に散らかりそうだから。
……なに。
ひどい?
ひどくない。
かなり正確。
でも、そういうところも含めて、君なんだと思う。
ちゃんとしようとしてるのに、どこか抜けてる。
一人で大丈夫って顔をしてるのに、案外見てないと危ない。
だから私は、つい確認したくなる。
……うん。
もう癖みたいなもの。
あ、でも勘違いしないで。
誰にでもここまでするわけじゃないから。
……。
……今の、変な意味じゃなくて。
全員を細かく見てたら、さすがに私が疲れるでしょ。
だから、よく見る相手と、そうじゃない相手がいるだけ。
君は、その……よく見るほう。
……だから、にやにやしない。
連休明けで頭がぼんやりしてるくせに、そういうところだけ反応早いんだから。
……もう。
でも、いいよ。
今日は少しだけ面倒見てあげる。
連休明け初日限定。
忘れ物チェックも、提出物確認も、ネクタイ修正も、水分補給も。
全部まとめて、委員長サービス。
……なにその言い方って顔してる。
いいでしょ、別に。
こっちだって少しは楽しくやらないと、朝から人の世話なんてできないんだから。
はい、もう一回確認。
提出物、持った。
水、持った。
ファスナー閉めた。
ネクタイよし。
顔は……まあ、まだ眠そうだけど、これは仕方ない。
……うん。
これで大丈夫。
教室、入ろうか。
……あ、待って。
最後にひとつだけ。
今日は、無理に完璧に戻ろうとしなくていいと思う。
連休明けって、体も心も少し遅れて戻ってくるから。
最初から全部きっちりしようとすると、午後には疲れちゃうよ。
だから、今日はほどほど。
授業を聞く。
提出物を出す。
眠すぎたらちゃんと休み時間に水を飲む。
それで十分。
……そう。
少しずつ。
ただし、寝ぼけたまま重要な連絡を聞き逃したら、そのときは怒るから。
……ふふ。
そのくらいの緊張感は持ってて。
ねえ。
明日からも、朝、少しだけ確認してあげようか。
……いや、毎日じゃないけど。
君が今日みたいな顔してたら。
……助かる?
……そっか。
じゃあ、仕方ないね。
しばらくは見てあげる。
でも、ちゃんと自分でも頑張ること。
私は全部を代わりにやるわけじゃなくて、君がちゃんと戻るまで横で確認するだけ。
……うん。
それでよし。
じゃあ、行くよ。
まだ休み気分?
……まあ、今日は仕方ない。
その代わり、教室に入ったら少しずつ戻していこう。
私が見てるから。
……大丈夫。
君がまたぼんやりしてたら、ちゃんと声をかける。
だから、安心して。
連休明けの朝くらい、少し面倒を見られておきなさい。




