明日が来るの、少しだけ遅くしてあげる (癒やし系/連休最終夜/よく通話する親しい相手)
……もしもし。
うん、出たよ。
こんばんは。
……ふふ。
声、少しだけ沈んでるね。
もしかして、明日が来るの、ちょっと嫌になってる?
……やっぱり。
大丈夫。
笑ったりしないよ。
連休の最後の夜って、そういうものだと思うから。
楽しかった分だけ、終わるのが少し寂しくなるし。
何もしてなかったとしても、「もう終わっちゃうんだ」って思うと、なんだか損したみたいな気持ちになるし。
明日からまたいつもの毎日だってわかってるのに、心だけがまだ休みの中に残りたがってる。
そういう夜、あるよね。
……うん。
今日は、無理に元気出さなくていいよ。
明日の準備、した?
……半分だけ?
ふふ。
半分できてるなら十分えらい。
全部完璧じゃなくてもいいよ。
鞄に必要なものが入ってて、明日着るものがなんとなく決まってて、朝起きる時間だけわかってるなら、今日はもう合格。
……え?
そんなに甘くていいのかって?
いいの。
連休最終日の夜は、少し甘めに採点してあげないと、心が拗ねちゃうから。
だって、今日の夜って、ただの日曜日の夜よりちょっと重いでしょ。
休みが長かった分だけ、明日との境目が大きく見える。
まるで、あっち側に戻らなきゃいけないみたいで。
でもね。
本当は、そんなに急に切り替えなくてもいいんだよ。
明日になったら、体はちゃんと動き始める。
朝の光を浴びて、顔を洗って、靴を履いて、いつもの道を歩いたら、少しずつ戻っていく。
今この夜に、全部戻そうとしなくていい。
……うん。
今はまだ、休みの余韻の中にいていいよ。
ねえ。
部屋、暗くしてる?
……少しだけ?
じゃあ、そのままでいい。
明るすぎないほうがいいよ。
今日みたいな夜は、まぶしい光より、少し暗い部屋のほうが似合うから。
布団、近くにある?
もしまだ入ってないなら、そろそろ入ろうか。
……うん。
そう。
今日は、スマホ片手にぎりぎりまで起きてるより、先に布団に入っちゃったほうがいい。
寝る準備をしてから、眠くなるのを待てばいいんだよ。
……えらい。
ちゃんと動けた。
今、布団の中?
……そっか。
じゃあ、今日は少しだけ、私の声を置いておくね。
明日が来るのを、少しだけ遅くするみたいに。
本当の時間は止められないけど、心の時計くらいなら、少しゆっくりにできるかもしれないから。
……ふふ。
そういうの、変?
でも、私はそういう夜の過ごし方、好きだよ。
眠る前に、誰かの声を聞いていると、明日が少しやさしく見えることがあるから。
今日は何してたの?
……うん。
うんうん。
そっか。
思ったより、特別なことはしてなかったんだね。
でも、それでいいと思うよ。
連休だからって、必ずどこかへ行かなきゃいけないわけじゃないし。
充実してなきゃいけないわけでもない。
何もしなかった時間だって、ちゃんと休みの一部だよ。
ぼんやりして、少し昼寝して、好きなものを見て、気づいたら夕方になって。
そういう日も、体と心には必要だったんだと思う。
……だから、「もっと何かすればよかった」って責めなくていい。
連休の最後って、どうしても反省会を始めちゃうんだよね。
あれもできなかった。
これも終わらなかった。
もっと出かければよかった。
もっと有意義に過ごせばよかった。
でもね。
休みの日まで全部、有意義じゃなくていいんだよ。
何もしないで過ごせたなら、それはそれで、ちゃんと休んだ証拠。
ぼんやりできたなら、少しは力を抜けたってこと。
それだけでも十分。
……うん。
あなたは、ちゃんと休んだんだよ。
あ。
今、少し呼吸がゆっくりになった。
いい感じ。
じゃあ、少しだけ深呼吸しよっか。
私に合わせなくてもいいから、ゆっくり。
吸って。
……吐いて。
もう一回。
吸って。
……吐いて。
上手。
ちゃんとできてる。
ねえ。
明日のこと、考えると胸のあたりが重くなる?
……そっか。
じゃあ、今夜だけは、明日のことを小さくしよう。
全部まとめて考えると重いから。
明日の朝起きることだけ。
その次に顔を洗うことだけ。
その次に靴を履くことだけ。
一個ずつでいい。
一日全部を、今夜のうちに背負わなくていいんだよ。
明日になったら、明日のあなたが少しずつ持てばいい。
今夜のあなたは、眠るだけでいい。
……そう。
今夜の仕事は、眠ること。
それだけ。
ふふ。
なんだか、すごく簡単に聞こえるでしょ。
でも、こういう夜には、それが一番大事だったりするんだよ。
目を閉じたら、連休が終わってしまう気がして、少しだけ眠りたくない。
でも眠らないと、明日がもっとつらくなる。
だから、眠るのがこわい夜は、誰かにそばで「大丈夫」って言ってもらうのがいい。
……大丈夫。
明日は来るけど、怖いものじゃないよ。
明日になったら、また少し眠たい顔で起きて。
ちょっとだけ文句を言って。
それでもなんとなく支度して。
外に出たら、五月の朝の空気があって。
思ったより、なんとかなる。
完璧じゃなくていい。
元気いっぱいじゃなくていい。
「まあ、行くか」くらいで十分。
……うん。
そのくらいでいい。
ねえ。
今、目、閉じてる?
……閉じてるんだ。
じゃあ、そのまま聞いてて。
今日で連休は終わるけど、楽しかった時間がなくなるわけじゃないよ。
だらだらした時間も、ぼんやりした夕方も、少し寂しい今の気持ちも。
全部ちゃんと、あなたの中に残ってる。
明日からの日々に戻っても、休みのやわらかさを少しだけ持っていっていい。
きっちり切り替えなくてもいい。
少しだけ休みの匂いを残したまま、ゆっくり戻ればいいんだよ。
……ふふ。
今、少し眠そうな返事だった。
いいよ。
眠くなってきたなら、そのまま沈んで。
私はもう少しだけ話してるから。
返事しなくてもいい。
聞こえてても、聞こえてなくてもいい。
あなたが眠りに近づいてくれるなら、それでいい。
明日が来るの、少しだけ遅くしてあげる。
この声が聞こえているあいだだけ、夜を少し長くしてあげる。
だから今は、何も考えなくていい。
連休が終わることも。
明日の予定も。
朝のアラームも。
全部、少しだけ遠くに置いておこう。
……おつかれさま。
ちゃんと休みを過ごしたね。
ちゃんと今日まで来たね。
えらいよ。
明日からまた少しずつ。
ほんとに、少しずつでいいから。
……うん。
その返事、かわいいくらい眠そう。
じゃあ、そろそろおやすみ。
布団、ちゃんとかかってる?
首元、冷やさないでね。
五月の夜って、あたたかいようで油断すると少し冷えるから。
……よし。
いい子。
おやすみ。
明日の朝が、思っているより少しだけやさしくありますように。
そして、もしまた少ししんどくなったら。
そのときは、今日みたいに電話して。
私はまた、あなたの夜を少しだけゆっくりにしてあげるから。
……おやすみ。
明日が来るの、もう少しだけ怖くなくなりますように。




