サンドイッチ、ちょっとだけ崩れちゃった (天然系/ピクニック失敗/仲のいい同級生)
……あ、いたいた。
おーい、こっちこっち。
ごめんね、待った?
……ほんと?
ほんとにそんなに待ってない?
よかったあ。
ちょっとだけ遅れちゃったかと思った。
いや、ちょっとだけっていうか、時計見たらわりとぎりぎりだったから、途中から小走りで来たんだけど。
でも、お弁当持って走るのって、すごく危ないね。
中身がね。
揺れるの。
すごく。
……うん。
その顔、わかるよ。
今、ちょっと嫌な予感したでしょ。
えっとね。
先に言っておくね。
サンドイッチ、ちょっとだけ崩れちゃった。
……ちょっとだけ。
ほんとに、ちょっとだけだよ。
食べられないとかじゃないの。
ちゃんと味はたぶん同じ。
見た目が、少しだけ……自由になっただけ。
……ふふ。
なにそれって顔してる。
ほら、まず座ろ。
せっかく公園まで来たんだし。
この木陰、ちょうどいいね。
五月の公園って、なんかいいなあ。
桜のころより落ち着いてて、でもまだ夏ほど暑くなくて。
緑が濃くなってきて、風もやわらかくて。
あ、芝生、ちゃんと乾いてるかな。
……うん、大丈夫そう。
シート広げるね。
よいしょ。
……あっ。
あ、違う違う。
今のは転んでない。
ちょっと端っこ踏んだだけ。
セーフ。
ちゃんとセーフ。
……笑わないでよ。
まだ何も始まってないのに、もう不安そうな顔しないで。
今日はね、ちゃんと準備してきたの。
サンドイッチでしょ。
小さいおかずでしょ。
あと飲み物もあるし、デザートも少しだけ。
ほんとにピクニックっぽいやつ。
……まあ、サンドイッチはちょっとだけ崩れたけど。
でもね、聞いて。
朝はきれいだったの。
ほんとに。
パンもちゃんと切ったし、具もはみ出さないようにしたし、ラップで包んだときなんて、「私、もしかしてすごく上手では?」ってちょっと思ったくらい。
なのに、家を出る直前にバッグの中で少し斜めになって。
そのあと信号で走って。
さらに公園の入口で鳩が急にこっち来て、びっくりして一回止まって。
たぶん、そのへんで中のサンドイッチたちが会議を始めたんだと思う。
……うん。
「形を保つの、やめよう」って。
だから、開ける前に期待値をちょっとだけ下げてほしいです。
……いい?
開けるよ?
……じゃーん。
……。
……えっと。
思ったより、崩れてるね。
あはは……。
あははは……。
で、でも!
見て。
このへんはまだちゃんとしてる。
ほら、三角形に見える。
ちょっとだけ、角が旅に出てるけど。
こっちは……うん。
これはもう、サンドイッチというより、パンと具材の仲良しセットかな。
……笑ってる。
よかった。
引かれたらどうしようと思ってたから。
でもね、味は大丈夫だと思うの。
たまごと、ハムチーズと、ツナきゅうり。
あと、甘いのも作ってきた。
いちごとクリームのやつ。
……それが一番崩れやすかったんだけど。
あ、待って。
最初はたまごからがいいと思う。
比較的、形が残ってるから。
はい。
どうぞ。
……どう?
味、大丈夫?
……おいしい?
ほんとに?
よかったあ……。
ほんとに、よかったあ。
見た目がちょっと自由すぎたから、どうしようって思ってたの。
でも、おいしいなら勝ちだよね。
ピクニックは、たぶん雰囲気と味が大事だから。
形は……まあ、思い出担当ってことで。
……あ、いま口元に少しついてる。
じっとして。
取るね。
……ん。
取れた。
……え?
近い?
あ、ごめん。
つい。
でも、ついてたから。
たまごが。
そのまま話してたら、ちょっと気になっちゃって。
……あはは。
なんか、こういうのもピクニックっぽいね。
外で食べると、ちょっとこぼしたり、風で紙ナプキン飛びそうになったり、うまくいかないことも多いのに。
それが逆に楽しいっていうか。
ほら、風。
気持ちいい。
木の葉が揺れる音、いいね。
五月の風って、なんでこんなにやさしいんだろう。
眠くなるくらいなのに、ちゃんと外にいたくなる。
春より少し元気で、夏よりまだやわらかい感じ。
……ん。
こういう日、好き。
君とこうしてると、さらに好きかも。
……あ。
今のは、普通に出ちゃった。
でも、いいよね。
だって本当だし。
一人で公園に来てサンドイッチ食べても、たぶんそれはそれで楽しいと思うの。
でも、崩れちゃったサンドイッチを見て一緒に笑ってくれる人がいると、失敗まで楽しくなるんだなって思った。
……うん。
今日、来てくれてありがとう。
あ、ハムチーズも食べて。
これは比較的安全。
たぶん。
……いや、ちょっとチーズが横から出てるけど、まだ大丈夫。
はい。
……おいしい?
ふふ。
その顔、ほんとにおいしいときの顔だ。
よかった。
なんか、食べてもらってるところ見るの、ちょっと照れるね。
自分で作ってきたものを、目の前で食べてもらうのって、思ったよりどきどきする。
「大丈夫かな」って気持ちもあるけど、それだけじゃなくて。
なんていうか、私の朝の時間とか、台所でばたばたしてた感じとか、そういうのまで一緒に渡してる気がするから。
……重い?
……重くない?
よかった。
君、そういうところでちゃんと受け取ってくれるから、話しやすい。
あ。
デザートもあるよ。
問題の、いちごクリーム。
……うん。
問題の。
一応、味見したときはおいしかったの。
ただ、クリームがね。
五月の陽気に少し浮かれてしまったというか。
パンの間から、ちょっとだけ出たがってるというか。
……見る?
じゃあ、開けるね。
……。
これは……。
えっと。
スイーツサンドだったもの、かな。
……あははっ。
もう笑うしかないよね、これ。
でも、食べられるよ。
たぶんすごく食べにくいだけで。
あ、待って。
それは危ない。
クリーム落ちる。
こっち持って。
うん、そう。
下から支えて。
……あ、指についた。
ナプキン、ナプキン。
はい、これ。
……なんか、ごめんね。
私のサンドイッチ、ちょっと手がかかるね。
でも、君が困りながら食べてるの、ちょっとだけ面白い。
……ごめん。
でもかわいい。
あ、怒った?
怒ってない?
よかった。
ねえ。
次はもっとちゃんと作るね。
崩れないように、包み方も調べるし、バッグの中で固定する方法も考えるし。
あと、走らない。
鳩にも驚かない。
……それは無理かも。
鳩、急に来るとびっくりするもん。
でも、次も作ってきてもいい?
……いいの?
ほんと?
やった。
じゃあ、次はもっと上手にする。
でも、今日みたいにちょっと失敗しても、また笑ってくれたらうれしい。
……だってさ。
完璧なお弁当も憧れるけど。
こういう、少し崩れたサンドイッチを一緒に食べて、変な形だねって笑う時間も、私はけっこう好きだから。
ううん。
かなり好き。
五月の風が吹いてて。
木陰が涼しくて。
手に少しクリームがついて。
それを見て君が困った顔をして。
私が笑って。
そういう何でもない時間って、たぶんあとから思い出したとき、いちばんやさしく残る気がする。
……ね。
今日は来てくれてありがとう。
サンドイッチ、ちょっとだけ崩れちゃったけど。
君と食べたら、ちゃんと楽しいピクニックになった。
だから、残りも一緒に食べよ。
大丈夫。
次のは、たぶんまだ形があるから。
……たぶん、だけど。




