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女性VTuber向け 朗読しやすい3分シチュエーションボイス台本集 〜季節イベント対応〜(無料・使用許諾不要)  作者: 常陸之介寛浩 本能寺から始める信長との天下統一
5月に合わせた台本集

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17/29

春が終わる前に、もう少しだけ (幼馴染/初夏の帰り道/長年一緒の相手)

……あっつ。


もう五月っていうより、ちょっと夏の手前って感じしない?

風はまだやわらかいのに、歩いてるとじんわり汗ばむし。

制服も、朝はちょうどいいのに、帰り道になると少しだけ重たい。


……ん。

そっちも暑いよね。

顔、ちょっと赤いし。


ふふ。

大丈夫だよ、変な意味じゃなくて。

ただ、なんか、ちゃんと季節が進んだ顔してるなって思っただけ。

四月の最初みたいな、まだ少し緊張した感じじゃなくて。

ちゃんとこの学校の空気に触れて、ちゃんと五月の夕方を歩いてる顔。


……あ。

今、なんか照れたでしょ。


わかるよ、そのくらい。

だって、昔から見てるし。

そういうちょっとした顔、何回も見てきたもん。


でもさ。

最近、少しだけ違う気がするんだよね。

見慣れてるはずなのに、前みたいに“ただ見慣れてる”だけじゃないっていうか。


……なにその顔。

自分でもうまく言えてないのはわかってる。

でも、ほんとにそうなの。


ほら、四月って、桜とか新学期とかで、全部がふわふわしてたじゃん。

一緒に歩いてても、“今年も春だね”って感じのほうが強かった。

でも五月になると、そういう空気が少し落ち着いてきて。

代わりに、隣にいる相手そのものが、ちょっとずつ気になるようになるっていうか。


……うん。

たぶん、君のせい。


だって、前より距離近くない?

いや、物理的にはそんな変わってないかもしれないけど。

なんか、話し方とか。

沈黙の感じとか。

隣を歩いてても変に気を遣わなくていいくせに、そのくせたまに急に意識させてくるし。


……あー、そういう顔する。

絶対わざとじゃないのが、余計ずるいんだよね。


たとえば今もさ。

歩くたびに、たまに腕が触れそうなくらいの距離でしょ。

昔ならほんとになんとも思わなかったのに、最近はその“触れそうで触れない”のが妙に気になる。


……ねえ。

少しだけ、こっち寄って。


うん、そのくらい。


……ふふ。

やっぱり。

近いほうが落ち着く。


え?

自分で呼んでおいて何言ってるんだって顔してる?


だって、しょうがないじゃん。

今日はなんか、そういう日なんだもん。

風がぬるくて。

制服の中に熱が少し残ってて。

歩いてるだけなのに、肌の近さがいつもより気になる日。


……あ。

待って。

じっとして。


首元。

髪、張りついてる。


……取るね。


……ん。


……ほら。

汗で少しだけくっついてた。

五月ってこのくらいの気温がいちばん困るよね。

暑いって言い切るにはまだ早いのに、身体はちゃんと熱を持つから。


……なに。

そんなに固まらなくてもいいでしょ。

今さら、髪くらい触るの珍しくないじゃん。


……でも。

そうやって黙られると、こっちまで意識するんだけど。


だって、近かったし。

思ったより。

首って、見えてるとこなのに、こうして近くで触ると変に無防備だよね。

髪のあいだから、肌が少し見える感じとか。

夕方の光が当たると、余計に。


……もう。

そういう顔されたら、ほんとに困る。


……あっ。


ごめん。

今、腕、触れた。


……うん。

わざとじゃない。

わざとじゃないけど……離れないね。


なんだろ。

暑いのに。

暑いのに、ちょっと触れたままのほうが変に落ち着く。


……君も?


……そっか。


ふふ。

じゃあ、少しだけ、このまま。


昔ならさ。

こんなの、気にもしなかったと思う。

並んで歩くのも、腕が当たるのも、ただの“幼馴染だから”で終わってた。

でも今は、それだけじゃなくなってきたのが、自分でもわかる。


春が終わるって、こういうことなのかも。

ただ景色が変わるだけじゃなくて。

関係の中の空気まで、少しずつ変わっていく。


桜のころは、まだやわらかく遠かった。

でも今は、もっと近い。

ちゃんと熱があって、ちゃんと隣を意識する近さ。


……ねえ。


君のこと、昔から知ってる。

歩く速さも。

黙るタイミングも。

暑いとき、少しだけ襟元ゆるめる癖も。

そういうの、もうずっと前から知ってるのに。

最近は知ってることが増えるたびに、安心より先に少しどきっとする。


それって、たぶん。

前と同じじゃいられなくなってきたってことだよね。


……あ。

今、風。


……ん。

気持ちいい。


でも、風が抜けても、さっきまでの熱、まだ残ってる。

肌にも。

たぶん、こことかにも。

……心臓のあたり。


……笑わないでよ。

けっこう真面目なんだから。


でも本当。

こうして歩いてるだけなのに、今日は妙に胸の奥が落ち着かない。

君が近いからかな。

五月の夕方だからかな。

それとも、春がちゃんと終わりかけてるからかな。


……ねえ。

もう少しだけ、ゆっくり歩こ。


帰り道、まだ少し長くしていい?

このまま家に着いちゃうの、なんか惜しい。

今のこの空気、まだ終わらせたくない。


……ありがと。


あ、でも。

勘違いしないでよね。

別に、毎日こうしたいとか、そんなこといきなり言うつもりじゃないし。

ただ、今日は少しだけ。

春が終わる前に、ちゃんと感じておきたいだけ。


君と歩く夕方が、前より少し違うこと。

触れた腕が、前より長く残ること。

髪をよけた指先の熱が、いつまでも消えないこと。


そういうの、今ちゃんと知っておきたい。


……あ。

また見てる。


そんなふうにまっすぐ見ないで。

こっちが負けそうになるから。


……うるさい。

なにに負けるのかは、今は言わない。


でも、たぶん、君も少しはわかってるでしょ。

今日のこれが、ただのいつもの帰り道じゃないってこと。


……うん。

その顔なら、たぶん伝わってる。


じゃあ、今日はそれでいい。

全部言葉にしなくても。

隣を歩く距離と、少し触れた熱と、帰りたくないって思った時間だけで、今は十分。


ねえ。

春が終わる前に、もう少しだけ。


……このまま、隣にいて。

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