おはようが少し重たい五月 (清純派/連休明けの朝/同級生)
……おはよう。
あ。
ごめんなさい。
急に声をかけるつもりじゃなかったんですけど、ちょうど目が合ったから。
……ふふ。
でも、ちゃんと返してくれてよかった。
なんだか、少し久しぶりな感じがしますね。
ほんの数日しか空いていないはずなのに。
連休って不思議です。
たったそれだけで、学校に来る足取りまで少し変わってしまうから。
……うん。
わかります。
今日、少しだけ体が重たいですよね。
朝、起きるのも、いつもより少しだけ時間がかかったし。
制服に着替えて、いつもの道を歩いてるはずなのに、なんとなく“戻ってきた”って感じがして。
まだ心だけ、お休みの続きにいたがってるみたいで。
……あ。
やっぱり、あなたもそうなんですね。
よかった。
私だけじゃなくて。
連休明けの朝って、みんなもう少し元気なものかと思っていました。
でも実際は、教室に向かう人たちもどこか静かで。
歩く速さも少しだけゆっくりで。
春のはずなのに、空気が少し重たいというか……。
やわらかいんですけど、軽くはないんですよね。
五月って、こういう季節なのかもしれません。
四月みたいな“始まる勢い”は少し落ち着いて。
その代わりに、「これからずっと続いていくんだな」っていう現実が、静かに近づいてくる感じ。
……変なこと、言っていますか?
……よかった。
少し安心しました。
でも、本当にそう思うんです。
四月は、緊張してるうちに毎日が過ぎていったでしょう?
新しい教室、新しい人、新しい流れ。
それを追いかけているだけで、なんとなく一日が終わってしまって。
でも五月になると、急に“慣れなきゃいけない時間”が始まる気がして。
そのぶん、少しだけ心が重たくなるのかもしれません。
……あ。
そんな顔、するんですね。
いえ。
少しだけ、ほっとした顔。
私が言ったことに、少しだけ「わかる」って思ってくれたみたいな。
そういう顔を見ると、なんだか安心します。
ちゃんと同じ朝を歩いている気がして。
……私ですか?
私は、朝からちょっとだけだめでした。
カーテンを開けたとき、「あ、学校だ」って思って。
嫌なわけじゃないんです。
行きたくない、というほどでは全然ない。
ただ、体が「もう少しだけ休みのままでいたい」って言ってる感じがして。
だから、いつもより少し長く、鏡の前に立ってしまいました。
髪を整えながら、ちゃんと今日の顔になれるかなって思って。
……ふふ。
大げさですよね。
でも、学校に行く顔って、ちゃんとある気がしませんか?
家でぼんやりしている顔とは少し違って。
ちゃんとして見えるようにして。
元気そうに見えるようにして。
少なくとも「大丈夫そう」には見えるようにして。
みんな、そういう顔を少しずつ作ってから教室に向かうんじゃないかなって。
……うん。
今日のあなたも、たぶん少しだけそういう顔をしています。
でも、たぶん、少し重たい。
おはようございます、って言えるくらいにはちゃんとしてるけど。
その奥で、まだ完全には目覚めきってない感じ。
……すみません。
見すぎ、でしょうか。
でも、朝って、そういうの少し出やすいんです。
言葉より先に、その人の今日の温度が見えるというか。
歩き方とか、目の開き方とか、鞄の持ち方とか。
そういう小さいところに、ちゃんと朝の気分が出るから。
あ。
そうだ。
もしよかったら、今日は無理に元気なふり、しなくてもいいと思います。
もちろん、ずっと暗い顔をしていようって意味じゃないですよ。
ただ、連休明けの朝くらい、「ちょっと重たいな」って思いながら歩いてもいいんじゃないかなって。
だって、みんなたぶん少しそうです。
その中で一人だけ完璧に戻ろうとすると、余計に疲れてしまいそうだから。
……うん。
少しずつでいいと思います。
最初の一時間は、ただ教室にいるだけでもいいし。
最初の休み時間は、まだ少しぼんやりしていてもいいし。
今日は“ちゃんと戻る日”じゃなくて、“少しずつ戻り始める日”くらいで、ちょうどいい気がします。
……あ。
今、少しだけ笑いましたね。
ふふ。
よかった。
そのくらいの笑い方、好きです。
無理に明るくした笑顔じゃなくて。
朝の重たさを少しだけ引きずったまま、それでもちゃんとやわらかい感じ。
五月の朝には、そのくらいが似合う気がします。
あ。
見てください。
木、ずいぶん緑が増えましたね。
四月は、もっと桜ばかり見ていたのに。
いつの間にか、こうして新しい葉の色が目に入る。
春のままだと思っていた景色が、少しずつ変わってるんですね。
……そう。
なんだか少しだけ、安心します。
ずっと同じじゃなくていいんだって思えるから。
人の気分も、たぶん同じですよね。
四月みたいにずっと頑張るままじゃなくていいし。
五月みたいに少しだるくても、それもちゃんと季節の中にある。
だから、今日少し重たくても、それは変なことじゃない。
……あの。
もし今日、教室で少ししんどくなったら。
そのときは、「今は五月だから」って、少しだけ思い出してください。
変に自分を責めるより、季節のせいにしてしまうくらいが、ちょうどいい日もあると思うので。
……ふふ。
はい。
私もそうします。
今日はたぶん、シャキッと元気に始める日じゃないです。
少し眠たくて、少し重たくて、それでもちゃんと学校に来た。
そのくらいで十分な朝。
……あ。
校門、見えてきましたね。
やっぱり、ここまで来ると少しだけ気持ち変わります。
まだ完全ではないけど、「行こうかな」って顔になれる。
……え?
私もそう見える?
ほんとうですか。
じゃあ、少しだけ成功かもしれません。
おうちの顔から、学校の顔へ。
ちゃんと半分くらいは移れたのかも。
でも、全部じゃなくていいですよね。
今日は半分くらいで。
残りは、授業が始まってから、ゆっくり置いていけばいい。
……ねえ。
もしよかったら、また明日も、朝どこかで会えたらうれしいです。
今日みたいに少し重たい朝でも。
たぶん、一人で歩くより少しだけ楽なので。
……はい。
ありがとうございます。
では、行きましょうか。
五月の朝は少し重たいけれど。
そのぶん、おはようって言葉が、ちゃんと誰かに届く気がします。
……おはようございます。
今日も、少しずつでいきましょう。




