第14話 春風がうるさいから、近くにいて (クーデレ/教室の窓辺/隣の席)
……あ。
来た。
……別に。
待ってたわけじゃない。
ただ、いつもより少し遅いなって思っただけ。
ほら、座れば。
もうすぐ休み時間終わるし。
……っていうか、その前髪。
ちょっと乱れてる。
風?
……やっぱり。
さっき、窓開けたままだったから。
今日、風強いし。
春って、あったかいくせに、変なところだけ落ち着かないよね。
急に吹いてきて、紙は飛ばすし、髪は乱すし、カーテンはうるさいし。
……うん。
嫌いじゃないけど。
でも、静かな教室にはちょっとだけ似合わない。
落ち着きそうで落ち着かない感じ、するから。
あ。
動かないで。
……そこ。
髪に、なんかついてる。
花びらかも。
……ほんと。
春だね。
……取れた。
なに。
そんな固まらなくてもいいでしょ。
別に、触ったっていうほどでもないし。
ほんの少し、指先がかすっただけ。
……そっちこそ、変な顔してる。
いつもより反応、遅いし。
寝不足?
……違うならいいけど。
でも、そういう顔されると、こっちも少し困る。
……いや。
別に本気で困ってるわけじゃない。
ただ、静かにしてたいときに、変に意識することが増えると面倒ってだけ。
ほら、外。
見て。
桜、まだ残ってる。
だいぶ散ってきたけど。
風が吹くたび、ああいうふうに少しずつ落ちてくの、嫌いじゃない。
満開より、今くらいのほうが好きかも。
終わりかけっていうより、“まだ少し残ってる”感じがして。
……わかる?
……ふうん。
ならよかった。
君って、そういうの、あんまり適当に流さないよね。
ちゃんと一回見て、考えてから返す感じ。
そこ、わりと好き。
……あ。
言い方、ちょっと違った。
話しやすい、のほうが近い。
……なに。
今の、そんなに珍しい?
別に。
君相手なら、少しくらい言うこともある。
毎回じゃないけど。
それに、隣の席って、思ってるよりいろいろ見えるし。
ノートの取り方とか。
先生の話で、どのへんで眉が動くかとか。
考え込んでるとき、ペン先が止まる癖とか。
そういうの、目に入る。
……見てるんだ、って顔しないで。
隣なんだから、視界に入るのは普通でしょ。
でも、たしかに。
見えてるものの中で、君のことは少しだけ覚えてるかもしれない。
たとえば、眠い日ほど机に手をつく時間が長いとか。
わからない問題があると、ほんの少しだけ口元が真面目になるとか。
そういう、たぶん本人は気づいてないやつ。
……うん。
別に、変な意味じゃない。
ただ、静かな教室って、そういう小さいことが目立つから。
特に、今みたいな休み時間の終わりかけとか。
みんなまだ戻りきってなくて、窓の外の音と、教室の空気が半分ずつ混ざってる時間。
そういうとき、君がいると、少しだけ落ち着く。
……あ。
今のは、聞こえなかったことにしてもいい。
……聞こえてた?
……そっか。
別に隠すつもりはないけど。
でも、改めて言うのはちょっと違うから。
そのまま受け取るなら、それでいい。
ねえ。
この席、前はどう思ってた?
……うん。
窓際って、ちょっと特別だよね。
光、入りやすいし。
外、見えるし。
風も来るし。
授業中はたまに眠くなるけど、休み時間はけっこう好き。
ただ、今日みたいに風が強い日は少し困る。
プリント飛ぶし。
カーテンうるさいし。
落ち着こうとしても、外の空気が勝手に入ってくるから。
……でも。
だからかもしれない。
今日、君がここに来るまで、なんか少し静かすぎた。
風だけ入ってきて、話す相手がいない感じ。
それで、余計に落ち着かなかったのかも。
……なに、その顔。
別に重くないでしょ。
ただ、隣が空いてると変な感じだったって話。
いつもあるものがないと、ちょっとだけ調子狂うことってあるし。
机の位置とか。
ペンの重さとか。
休み時間の音とか。
隣の気配とか。
……そう。
気配。
君って、うるさくないから。
必要以上に話しかけてこないし。
でも、いないと少しだけ静かすぎる。
そういう感じ。
……だから。
春風がうるさい日は、君が近くにいたほうがちょうどいい。
あ。
今、ちょっと目、逸らした。
なに。
そういうの、恥ずかしいんだ。
……ふふ。
そういうとこ、わかりやすい。
でも、ちょっと安心した。
君でもそういう顔するんだね。
いつも、もう少し平気そうな顔してるから。
……私?
私は……どうだろう。
たぶん、顔に出にくいだけ。
思ってるより、ちゃんと揺れるよ。
風が急に強い日とか。
隣の席が少し静かすぎる日とか。
花びらが髪についてるのを見つけたときとか。
……なに。
今の、変だった?
……そう。
ならいい。
あ、また風。
……ほら。
カーテン、こっち来た。
邪魔。
……ん。
押さえた。
……ちょっと、近いね。
でもまあ、仕方ない。
風のせいだし。
……ううん。
離れろとは言ってない。
今、窓閉めたら逆に目立つし。
このままでいい。
少しだけなら。
……静か。
……なんか、いいね。
今の感じ。
外では風が鳴ってて。
教室はまだ少しだけ空いてて。
近くに誰かいるのに、無理に話さなくていい感じ。
こういう時間、好き。
たぶん、君も嫌いじゃないでしょ。
……やっぱり。
よかった。
ねえ。
また今度も、こういう時間あったら、ここに来て。
別に毎回話さなくていいし。
窓の外見てるだけでもいい。
でも、君がここにいると、春のうるさい風もちょっとだけ静かになるから。
……あ。
今のは、ちゃんと覚えてていい。
今日はそういう日だから。
ふふ。
もうすぐみんな戻ってくるね。
じゃあ、その前に一つだけ。
……また、ここに来て。
君が隣にいると、私はわりと落ち着く。
……うん。
それで十分。
ほら、前向いて。
次の授業始まる。
でも、春風がまたうるさくなったら。
そのときは、少しくらい近くにいてもいいよ。
私はたぶん、そのほうがちょうどいいから。




