第13話 新学期だし、ちょっと寄ってかない? (ギャル系/春の放課後/同じクラスで最近仲良くなった相手)
……あ、いたいた。
やっぱまだ帰ってなかったじゃん。
ねえ。
今からそのまま帰る感じ?
……ふーん。
まあ、そんな顔してると思った。
なんか君って、放課後になるとちょっとだけ静かになるよね。
朝とか昼は普通にしてるのに、授業終わったあとの顔だけ、少し力が抜けるっていうか。
「あー、やっと終わった」って顔、わりと出てる。
……なに。
そんなにわかりやすい?
わかりやすいよー。
だって私、けっこう人の顔見てるし。
教室ってさ、みんな思ってるよりいろんな顔してるんだよ。
先生に当てられる前の顔とか。
休み時間に誰探してるかの顔とか。
あと、放課後の“もう無理、帰りたい”って顔とか。
君のそれ、今日かなり出てた。
……ふふ。
図星でしょ。
でもさ。
そういうの、別に悪くないと思う。
むしろ、ちょっと好き。
ちゃんと一日がんばった顔って感じするし。
ずっと完璧に余裕ある感じの人より、そういうほうが人っぽくていいじゃん。
……あ、今ちょっと照れた?
かわい。
やば、そういう顔するんだ。
……え、なに。
見んなって?
やだよ、もう見ちゃったし。
ていうか、それより本題。
新学期だし、ちょっと寄ってかない?
……んー、そんな難しい顔しないでよ。
別に変なとこ連れてくわけじゃないし。
駅前のコンビニでもいいし、ちょっとだけ遠回りして帰るのでもいいし。
ていうか今日、風ちょうどよくない?
あったかいけど暑くはなくて、制服の袖ちょっとまくるくらいが気持ちいい感じ。
そういう日に、まっすぐ帰るのもったいなくない?
……あ。
その顔、ちょっと揺れてる。
行くか迷ってる顔だ。
えー、いいじゃん。
五分でも十分。
いや、十分っていうか、十分だからこそいいの。
放課後って、長すぎると予定みたいになるけど、少しだけだと“今しかない”感じするし。
それに、教室の中だとさ、なんか変に話しにくいじゃん。
周りに人いるし。
誰が聞いてるかわかんないし。
なんか、ちょっとしたこと話すだけでも、妙に空気気にしちゃうときあるし。
でも外出たら、急に話しやすくなるんだよね。
同じクラスの人でも、“教室の人”じゃなくて“いま一緒に歩いてる人”になる感じ。
……わかんない?
えー、絶対わかると思うけどな。
あ、でも。
君はそういうの、あんまり自分から行くタイプじゃなさそう。
帰れるなら帰る。
無駄に寄り道しない。
そういう感じ。
……当たった?
ふふ。
やっぱり。
でも今日くらいはいいじゃん。
四月だし。
新学期だし。
まだ、お互い“最近ちょっと話すようになった同級生”くらいの距離でしょ。
そういう時期の放課後って、あとから思い出すと案外よかったりするんだよ。
ほら。
帰り道って、変に顔見なくていいから話しやすいし。
並んで歩くだけで、ちょっと距離縮まるし。
教室じゃ気づかないこと、外だと見えたりするし。
……たとえば?
うーん。
歩く速さとか。
何見て立ち止まるかとか。
風が吹いたとき、前髪押さえるタイプか、そのまま気にしないタイプかとか。
……あ、今笑った。
なにそれって顔してる。
でも、そういうの大事じゃない?
一緒に歩かないとわかんないことって、意外とあるし。
あ。
もしかして、もう前髪ちょっと気になってる?
ふふ。
今、風で少し乱れた。
……じっとして。
取ってあげる。
……ん。
なんかついてた。
花びら、かな。
ちっちゃいの。
……なに、その顔。
そんな固まる?
え、ちょっと。
もしかしてこういうの苦手?
近いの。
……あー。
そっかそっか。
別に嫌じゃないけど、急だとびっくりするやつか。
ごめんって。
でも、ほんとについてたんだよ。
ほら、これ。
……見える?
ふふ。
春だねー。
なんか、こういうのちょっといいじゃん。
制服に花びらついてるの。
……え?
私?
あー、ほんとだ。
肩についてる?
どこ。
え、待って、自分だと見えない。
左? 右?
……あ、そこ?
ん。
ありがと。
……。
……ねえ。
今のさ。
ちょっとだけ、どきっとした。
だって、急に近かったし。
君、普段そんな感じで触れたりしないのに、さっきはすごい自然だったから。
なんか、そういうのずるいんだけど。
……なにその顔。
「そっちが先にやった」みたいな顔してる。
まあ、たしかに。
最初に花びら取ったの私だけど。
でもそれとこれとは話が別じゃない?
あーもう。
やめやめ。
こういうの、話してると余計意識する。
……で。
行くの、行かないの?
……え、いいの?
やった。
じゃ、決まり。
うれし。
……あ、今のは普通に出た。
聞かなかったことにしてもいいけど、もう遅いね。
じゃあ、どこ寄る?
コンビニでアイスでも買う?
それとも、駅前の新しいドリンク屋、行ってみる?
春限定のやつ出てたんだよね。
ピンクっぽいやつ。
味はよくわかんないけど、見た目がもう“春”だった。
……え、付き合ってくれるの?
やった。
じゃあそれにしよ。
あ、でも歩きながらでいい?
今日なんか、座るより歩いてるほうがちょうどいい気分。
風、気持ちいいし。
スカートの裾ちょっと揺れる感じも、なんか春っぽいし。
……ふふ。
今、目そらしたでしょ。
べつに変な意味じゃないしー。
ただ、今日ほんとに風がいいなって話。
それだけ。
でもまあ。
そうやってちょっと反応されると、からかいたくはなる。
君ってわりと顔に出るし。
……うん。
そういうとこ、嫌いじゃないよ。
わかりやすいから。
ほら、並んで。
そんな一歩下がったとこ歩かなくていいって。
クラスメイトなんだし、もっと普通でいいじゃん。
……そう。
そのくらい。
んー、なんかいいね。
放課後って感じする。
教室から解放された空気っていうか。
まだ外は明るいし、部活の音ちょっと遠くで聞こえるし、制服のまま寄り道してる感じ、ちゃんと高校生っぽい。
新学期始まってまだそんな経ってないのに、もうちょっとこういう時間ほしかったかも。
教室だと、どうしても“クラスの中の一人”って感じだけど、今はちゃんと“君”と歩いてる感じするし。
……あ。
これ、ちょっと本音。
別に重くはないよ?
ただ、君ともっと普通に話してみたかったってだけ。
教室の席とか、休み時間の数分だけじゃなくて、こういうふうに。
……え。
君も?
……そっか。
えへへ。
じゃあ、今日寄り道に誘って正解だった。
なんかさ。
四月って、始まりの季節だけど、同時に“まだ名前のついてない関係”がいっぱいある時期だと思うんだよね。
友達って言うにはまだ少し早いとか。
でも、ただのクラスメイトって言うにはちょっと違うとか。
そういう、曖昧でやわらかい感じ。
私はけっこう好き。
ちゃんと形になる前の、いちばん楽しいところって感じがするから。
……君と私も、今はそんな感じかもね。
あ、やば。
なんか今、ちょっといいこと言ったっぽい。
自分で言ってて少し照れる。
でも、本当にそう思う。
だから今日の寄り道、ちゃんと覚えていたい。
春の風の感じとか。
制服のまま歩く帰り道とか。
君の前髪に花びらついてたこととか。
それを取ったとき、ちょっとだけ近かったこととか。
……ふふ。
またそういう顔。
やっぱり、今日誘ってよかった。
ねえ。
これからもたまに、こういうの付き合ってくれる?
毎日とかじゃなくていいし。
大げさな約束じゃなくていい。
ただ、今日みたいに春の風がちょうどいい日とか。
なんとなく、まっすぐ帰るのもったいない日に。
そういうとき、私が「寄ってかない?」って言ったら。
少しだけ考えて、少しだけ笑って、最後には隣に来てくれたらうれしい。
……うん。
ありがと。
じゃあ、今日はその最初ってことで。
春の放課後、ちゃんと楽しも。
あ、でも。
ひとつだけ言っとく。
こうして一緒に歩くの、別に誰でもいいわけじゃないから。
そこはちゃんと覚えといて。
……ふふ。
ほら、また照れた。
じゃ、行こ。
春、まだ始まったばっかりなんだから。
寄り道くらいしたほうが、ぜったい楽しいでしょ?




