42話 決戦01
俺はまず音楽をスピーカーで大音量にして流した。
「これで魔王軍たちがこちらの存在に気づき偵察に来るはずです」
食いついてくれよ、ガガルジア。
「こんな森の中で音楽流したら、流石に驚くな」
「はい、ロックなんて聞いた事ないでしょうし、警戒しながら近づいてくるはずです。和彦、外の様子はモニターで確認できているか?」
「あぁ、バッチリ。大丈夫だ」
オンライン会議用で購入してあったマイク付きカメラをいくつか外に設置しておいたのだ。
これで映像も音声も室内にあるパソコンで確認ができるので、魔物たちの動きが逐一わかる。
「あっ!Aカメに木の陰からこちらを見ている魔物が映ってる」
和彦がモニターを見ながら叫んだ。
「完璧な位置じゃないですか~、全部見えますよ」
「よし」
狙い通りだ。
俺は小さくガッツポーズした。
「音楽のボリューム、少しづつ小さくしてください。小さくした事が気付かれないように慎重にお願いします」
「ふむ、こちらに近づいてくるな」
「あと窓際に立たないように皆さん注意してください」
「あぁ、わかった」
警戒しながら2体の魔物がスタジオに向かってくる。おそらく偵察だろう。
「ここまでは順調です、狙った通りの展開になっています。今後も作戦通り、リハーサル通りにすれば必ず上手くいくはずです。俺が合図をしたら芝居開始でお願いします!」
「おう!」
全員が持ち場についた。
リハーサルをしたとはいえ、やはり緊張は隠せないようだ、皆顔が固い。
(大丈夫。なんだかんだで皆本番には強い。さぁ、やってやるぞ)
× × × ×
「(魔物語)油断するな……ベルドラ」
「(魔物語)はっ」
2体の魔王軍の兵士が警戒しながらスタジオに近づいてくる。
(うん。音声も映像もバッチリだ)
俺はイヤホンをつけ外の声が聞き取りやすいようにしてある。
外の様子もモニターに映っているので表情も読み取れる。
魔物の行動、言動、全て把握できる状態だ。と言っても魔物語を理解できるのは俺だけだが。
魔王軍の兵士がスタジオ内を覗き込んできた。
「(魔物語)何だ、ここは……」
「(魔物語)ガッドさん!あれ見てください。箱に何か映っています、魔術でしょうか」
PCに映る映像をみて動揺を隠せていないようだ、これはいけるぞ。
俺は皆に合図するようにうなずいた。
(さぁ、始めましょうか!)
「将軍、お待たせいたしました!作戦の概要をまとめた映像をご覧ください!」
「うむ、流せ!」
俺と虎之助さんは、ウーリュウ国の軍関係者という設定で演技をしているのだ。
虎之助さんは将軍という設定だ。
このスタジオを軍の特殊な施設と思わせる作戦だ。
俺は一番大きなモニターで、でっちあげた映像を流す。
今まで仕事して、クリーチャーを倒すシーンや派手なシーンなどをまとめた映像だ。
「(魔物語)なんだあれは!どこの部隊がやられたのだ?」
「(魔物語)わかりませんが、かなりの数がやられています!」
「ガガルジアめ、まさか本隊が既に全滅している事も知らないのであろう」
「はっ、この巨人族から新たに授かった『ハイパーメガランチャー』の破壊力は予想以上です!」
「ふはははっ!これなら魔王軍を全滅する事など時間の問題だな」
「(魔物語)馬鹿な!本隊が全滅だと?」
「(魔物語)巨人族の新たな兵器と言っていました!この部屋にある謎の箱といい、これは我々の想定以上に兵器が進化しているという事でしょうか」
(いいぞ、かなり魔物たちが動揺している。このまま決め台詞だ)
「そうですね、さすが巨人族の英知を結集した兵器ですね、将軍!」
「あぁ、まさか今夜ガガルジア本人がいる別動隊が王都を襲う事をこちらが気づいているとは思っていないだろうなぁ……」
「飛んで火にいる夏の虫とはこの事ですね、将軍」
「ガガルジアを返り討ちにしてみせようぞ。奴の悔しがる顔が目に浮かぶぞぉ!ぐははははっ!」
虎之助さんが立ち上がり大笑いする。かなりの熱演だ。
(虎之助さん、なかなか性格の悪そうな将軍役が上手いな。アフレコでの経験が活きている気がする)
やはりアニメーターたる者、役者でなければいけないという事か。
演技のワークショップにでも通ってみたいな。
「(魔物語)馬鹿な!我々の行動が全て筒抜けという事か?」
「(魔物語)これでは勝機はありません……」
「(魔物語)一刻も早くガガルジア様に報告だ」
「(魔物語)はっ!」
そう言って偵察の魔物たちは慌てて森へ逃げていった。
(ここまでは狙った通りの動きをしてくれた)
よし、こちらも動くぞ。
「では作戦通り、すぐに俺が後を追います」
「あぁ、危険を感じたらすぐに逃げろよ、スネタ」
「はい!」
俺はスタジオの窓から飛び出し、偵察の魔物たちの後を追った。
× × × ×
「本隊が全滅の上、こちらの行動が全て筒抜けという事ですか?そんな馬鹿な事があり得るのでしょうか……」
「我々も目を疑いました。ただ人知を超えた技が詰まったとんでもない部屋は、やはり巨人族の力を借りなければ到底できない代物です!」
俺は木陰に隠れながら様子を伺っている。
偵察の魔物がスタジオで起きていた事をガガルジアに報告している所だ。
(ガガルジアが部下の話を信じるか……ここが大きな問題だ)
本人が見て物以外は信用しない、という性格の者もいる。
流石にガガルシアの性格までは俺も把握できていない。さてどう出るか。
「ガッド、ベルドラ、あなたたちの事は信頼しています。ですのでその言葉は信じましょう。奇襲作戦は中止し、国境付近まで撤退し体制を立て直しましょう」
「はっ!」
(流石、やはりただの魔物ではない。怒りに任せるのでなく冷静な判断している)
ガガルジアたちが急いで荷物をまとめ撤退していく。
(やった!作戦大成功だ!)
俺は思わずガッツポースした。
早くこの事を皆に伝えようと俺は急いでスタジオに戻った。
× × × ×
「やった!大成功だな!」
「ふむ!見事な勝利!」
「しゃー!最高っすね!」
「流石スネタちゃーん!僕はやってくれると信じていたよー」
俺の報告に全員が歓喜の声を上げた。
「落ち着てください、念の為今夜は警戒を続けましょう。あくまで今夜はウーリュウ国の軍事関係者のつもりでいてください」
「そうか、スネタがそういうなら……皆、気を緩めないでいてくれ」
(そう油断は禁物だ)
まだハルカたちがどうなっているかの情報も届いていない。
そもそもが。ハルカたちがもし敗れるような事があれば、魔王軍の本隊が王都に攻め込んでくる事になる訳だし。
(ハルカ、無事でいてくれ)
俺たちは浮かれないように、注意しながら一晩過ごした。
× × × ×
「良かった、朝になっても何も変わりないな」
「はい」
俺たちは無事に朝を迎えた。
全員寝てしまうと危険という事もあり後退制で1人は必ず起きて見張りをしていたので、全員クタクタではある。
「後はハルカたちの勝利を願うだけです」
俺は自信たっぷりに話した。
ハルカたちなら大丈夫だ決して負けない。
「ふぁ~、何か安心したらお腹空いてきたじゃないですか~」
「もう魚ないっすよ」
「え?誰です、今日の当番~急いで釣ってきてくださいよ~」
「ふむ。今日哲が釣り当番だね」
「え!あっ、そうか。もう面倒くさいな~でもちょっと行ってきますよ~」
哲さんがだるそうに釣り道具を持って川へ向かった。
「俺はアニメーションの修正作業に入ります」
昨日の遅れを取り戻さないと。
俺は虎之助さんに伝えて自席に戻った。
「あぁ。でも流石に疲れているだろうから無理するなよ。皆もできる範囲でリテイク作業進めておいてくれ」
「うっす」
「ふむ」
哲さん以外の4人はいつも通りアニメーション制作に戻った。
× × × ×
「あれ?哲さん、早いですね」
20分後くらいだろうか、哲さんが釣りから戻ってきた。
窓の外から顔を覗かせている。
いつもならなかなか釣れず1時間は帰ってこないのだが。
「腹減ったっす、朝飯にしましょう」
「ふむ。哲くん、どれくらい釣れたんだい」
和彦と義雄さんも哲さんに気付き声をかける。
「うん。あのねですね~……その、そのぉ……大物が釣れたじゃないですか~。いや~びっくりじゃないですか~」
なんだろう、やけに怯えた声だ。
「どうしたんですか?哲さ……ん……」
窓から入ってくる哲さんを見て俺は驚いた。
一緒に入ってきたのは、魔王軍幹部のガガルジアだ。
「ガガルジア!」
(撤退したはず……しかもスタジオに来るなんて)
「皆様、私の事をご存じのようで嬉しいです。人間たちにも名を知られるようになるとは私も鼻が高いです」
ガガルジアが怪しく微笑む。
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