40話 魔王軍、奇襲
今日は俺が釣り担当なので、朝靄がかかっている早朝から川で釣りをしている。
(早く釣ってスジタオに戻ってアニメーションの修正作業終わらせないと)
ただ焦れば焦るほど、釣れなくなるものだ。
冷静にしっかり魚の動きを読もう。
「ん?」
向こう岸の方から、声が聞こえる。
気のせいだろうか……念の為もう一度耳をすませて確認したが、やはり声が聞こえる。
(狩人だろうか?いや今までにこんな山奥に人が来た事なんて殆どないよな……)
ここで俺は気づいた。
(違う!人じゃない!このノイズが混じった声は……間違いない魔物の声だ)
俺は釣り竿を置き、音を立てないように静かに向こう岸に渡った。
× × × ×
「居た……やっぱり魔王軍だ」
森の中に30人ほどの魔王軍の兵士がいた……こんな所で何をやっているんだろうか。
(まさか、ハルカたち負けたのだろうか……でももしそうなら王都に知らせが来て、もっと街中が慌ただしい雰囲気になっているはずだ)
ただ魔王軍がここにいる事は事実だ。
何の目的で森に潜んでいるのか確認する為、俺は木陰に隠れながら、様子を伺う事にした。
(念の為、スマホで撮影しておこう)
俺は魔王軍に見つからないように、スマホで撮影も始めた。
「(魔物語)王都には大きな動きはありません、やはり我らの動きを人間どもはまだ気づいていないようです」
「(魔物語)全て、私の思惑通りです」
「(魔物語)さすがガガルジア様、まさか総大将が直々に奇襲をかけるなど人間ども思っていないでしょう」
「(魔物語)人間共の王都に残る兵力はおよそ200ほど。やはり殆ど兵力を出撃させているようです」
「(魔物語)フフフフッ。さて、人間の皆さんに本当の地獄というものを見せて差し上げましょうか」
(総大将?ガガルジアって、ハルカが言っていた魔王軍の幹部の一人じゃないか)
思わず声がでそうになり俺は自分の口を手でふさいだ。
「(魔物語)オキーノハ王の夜の行動はわかりましたか?」
「(魔物語)はっ、22時には寝室入るようです」
「(魔物語)よろしい。このまま日が落ちるまでは森に潜伏いたしましょう。そして奇襲をかけオキーノハ王を人質に取り、武装を解除させて……皆殺しにしてさしあげましょう」
「(魔物語)さすがガガルジア!我が軍の損害は軽微でこの戦終われますな。見事な作戦です!」
「(魔物語)フフフフッ。でもお忘れにならないでください。私たちの本当の目的は、地下の巨人との接触。巨人たちとやり取りをしている人間がいるはず、その者たちが誰なのかわかるまでは、決して殺してはなりませんよ」
「(魔物語)はっ!」
「(魔物語)巨人を我らの味方にし、人間共の力を弱体化させが我らに逆らえなくするのです。世界の統治者になるのは我々魔物ですからね」
(これはとんでもない事になった……)
このままではウーリュウ国が滅んでしまう……前線にいるハルカも降伏したと同時に殺されるはずだ。
ガガルジアたちが行動を始める夜までに、何とかしないと。
俺は慌ててスタジオに戻った。
× × × ×
「魔王軍幹部のガガルジア!!って、何ですか~その強そうな奴は!絶対お近づきになりたくないタイプじゃないですか~!」
「ふむ……只事ではないな」
「俺たちでどうこうできるレベルの相手じゃないっすよ」
哲さん、義雄さん、和彦も恐怖に怯えている。
当然だのリアクションだ。
完全武装の魔王軍の幹部が近くにいる、おそらく周りの兵たちも親衛隊だろう。
かなりの恐怖だ。
「うん、最善策は城にこの事を伝える事だ。先手を打って寝首を掻く。ただ問題が……」
「何か不安材料があるのか?スネタ」
「俺たちの言葉を信じてもらえるかわかりません」
「どういう事だ?よくわからないぞ」
虎之助さんが首を傾げる。
そうだった、俺以外は哲さんが王都で起こしたあの事件を知らないんだった。
「哲さんが憲兵に捕まった事があるから、俺たち怪しいと思われている可能性があります」
「なんだと?哲!どういう事だ」
「ふむ……詳しく説明を頼むよ」
「マジっすか?」
虎之助さん、義雄さん、和彦が哲さんに詰め寄る。
「獣人族のメイドさんを目の前にして、黙っているなど変態の名折れじゃないですか~!」
目が泳いでいる哲さんが意味不明な弁解をしている。
「やってくれたのか……哲、日本でもメイド喫茶出禁になった事あったろ?なぜその失敗をちゃんと反省しないんだ」
「反省はしていますけど、後悔はしてないです~」
もう言葉が出ず溜息しか虎之助さんは出ないようだ。
「これはマズイな……ガドルフ傭兵団の人も誰もいないのだろ?」
「全員出陣しているはずです。でももう城に行って説明するかしありません。魔王軍の様子も撮影してありますし、何とか説得してみせます」
「よし、俺も行こう」
と、虎之助さんが外に出ようとする。
「いえ、大人数で動くと魔物たちに気づかれる可能性があります。俺だけで行きます」
「そうか……わかった」
もし何かあったとしても虎之助さんがいてくれたら、サボテンキツネは完成できる。
念の為俺だけで行くのが得策だろう。
「ガガルジアたちは、近い場所にいます。念の為部屋の電気は全て消して、音を立てないようにお願いします」
「あぁ、わかった。スネタ気を付けていけよ」
「はい!」
俺は急いで荷物を用意をして、外に出た。
(ハートルを飛ばしておこう。メッセージを伝えておけば良いって言ってたな)
俺はハルカから預かった伝承バト?のような鳥のハートルをケージから出した。
「ガガルジアが直接指揮を取り王都に奇襲してくるようだ、至急戻ってきてくれ」
(これで大丈夫なのだろうか?)
俺は少し不安になったが、
ハートルは大きく頷き空高く飛び立っていった。
(頼むぞ、ハルカにこちらの危機を伝えてくれよ)
そのまま俺は王都に向かい走った。
(魔王軍が動き出す夜までに、なんとかしないと……)
× × × ×
ウーリュウ城の入口までたどり着いた俺は早速、門番の兵士に事情を説明した。
「あはははっ!魔王軍幹部のガガルジアが山林に潜んでいるって?世迷言を言うな!魔王軍と交戦中の部隊から指揮を取っているガガルジアを見たとの報告も受けている」
(やはり信用してもらえないか)
予想通りではある、慌てる事はない。
「信じてもらえないのは理解できます。でも証拠はあります、これ見てください」
「証拠だと?」
俺はスマホで撮影したガガルジアや魔王軍の映像を見せた。
「何だこの箱は?」
「怪しい術を使う!貴様が魔物ではないのか!」
門番の兵士2人が銃を俺に向けてくる。
(スマホが何かわかならいのだ、このリアクションは当然か……やはり説得は難しいようだ)
「わかりました、信じてもらえないなら仕方がありません。ただこの情報だけは他の人にも伝えください」
俺は頭を下げた。
(あまり期待はできないが、やれる事はやっておかないと)
伝えたい事だけは伝え、俺はその場を後にした。
「せめて面識ある人たちにはこの事実を伝えておいた方がいいな」
俺は、サキモーリィー先生、サムワイズ、ナンシー、キャサリンたちにも魔王軍の奇襲攻撃がある可能性を伝え、スタジオに急ぎ戻った。
× × × ×
「そうか、やはり駄目だったか……」
「はい」
スタジオの会議室に全員集合してもらい俺は状況を説明した。
「ふむ……現在の時刻は14時。時間はあまりないね」
「俺らで戦うっすか?」
「いやいや無理無理どうやって?戦うなんて無理じゃないですか~」
「大丈夫ですよ皆さん。Bプランでいきましょ」
俺は冷静に皆に伝えた。
「Bプラン?って、まだ他に作戦があったのか」
「はい。城で聞き入れてもらえないのは想定済みです。本当の作戦は別に考えてあります」
「さすがスネタちゃん!早く言ってくれればいいじゃないですか~」
「皆、聞こうじゃない」
虎之助さんの言葉を聞き、全員が俺に注目する。
「森に潜んでいるガガルジアは知略に長けた策士と見て間違いありません。ただの荒くれ者じゃないその頭の良さを逆に利用しようと思っています」
× × × ×
俺はホワイトボードに作戦名を書いた。
『巨人族作戦』
「ガガルジアの話だと、ウーリュウ国をただ征服する事が目的でなく、巨人族の力を手に入れる事が最大の狙いのようです」
「巨人族ってガルドフ団長たちが話していた、あの地下に住んでいる巨人族の事か?」
「はい。ハルカたちが使っている剣や銃が魔物を倒すまで強力な武器となったのは地下の巨人族の協力で作られた『ブルークリスタル』のお陰です。それによって魔王軍優勢の戦局が互角に変わった。魔王軍は正面突破でなく被害の最小限に抑える為、根本から潰す戦術を取っています」
「最終的に人類を滅ぼす事が狙いなら巨人族を抑えてしまえって事か」
「魔物って暴力バカって思ってましたけど、俺たちのイメージとは違うっすね」
「それで具体的にどういう作戦なんですか~スネタちゃん」
「城側が魔王軍の作戦を全て把握していて、迎え撃つ準備が整っていると思わせ撤退させます」
「なるほど!頭が良いならわざわざ負け戦はしないって事か、やるじゃないですか~スネタちゃん!」
「巨人族の力は魔王軍にとっても未知のもののようです、いったい何をどこまでできるのかわかっていない。これを利用しようと思います」
「ふむ。確かにそれなら戦闘をせず魔王軍も撤退するだろうね」
「しかしどうやって?」
全員同じ気持ちだろう。
一番大事な部分だ。
「このスタジオを初めてみたハルカのリアクション覚えていますか?」
「あぁ、まるで人知を超えた技を見ているような感じだったな」
「そうです。魔物たちにとってもそれは同じはずです!このスタジオ自体が武器になります。作戦はこうです」
言葉だけでは伝わり辛いと思い、
俺はホワイトボードに図を書きながら説明する事にした。
「まずは魔物たちをこの建物近くまでおびき寄せます。俺たちは魔物たちの存在に気づいていないような芝居を必ず行ってください。このスタジオが巨人の力を集め作られた基地を思わせ、そして今までアニメの仕事で作ってきたCGのカットを上手く編集して、まるで魔王軍の動きを全て察知していて奇襲攻撃に備えている……という予測映像をでっち上げモニターに映します」
「そうか……その映像があれば説得力が増すな。そうなればガガルシアたちは撤退するという事か」
「はい。これは俺たちにしかできない戦い方です」
俺は大きくうなずきながら虎之助さんに答えた。
「よし乗った!」
「ふむ、乗るよ」
「乗るっす」
「乗るしかないじゃないですか~!」
全員一致で俺の作戦に賛同してくれた。
「ありがとうございます!皆さん手分けして過去の映像から使えそうなカットを集めてきてください!」
この作戦絶対に成功させてやる。
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