39話 サキモーリィー先生のチェック
「う~ん、ダメかな」
スタジオの会議室で試写を行った所、原作者のサキモーリィー先生からいきなりのダメ出しが入った。
「どの辺りがダメでしょうか?」
「すぐに対応しますので、具体的にお願いします」
俺と虎之助さんがすかさず言う。
「そうね~。まぁでも映像って面白いわね、編集のやり方で印象が大分違うみたいだよね。台詞後にすぐカット切り替えて、静穏から急に大きな音を出す絵につなげるっていうのは気持ちいいって思うわ」
「わかります!その逆のうるさかった所から、急に静かになる所とか私好きです」
サキモーリィー先生と編集者のローラさんが嬉しい感想を言ってくれた。
「カッティングのタイミングは完全に岡本〇八監督で音のつなぎ方の編集は黒澤〇監督を参考にはしています。俺のオリジナルのやり方ではないんですが……」
虎之助さんは正直にすべて話す人だな。
俺はこういう所も尊敬している。
「それで気になる所なんだけど、まずは音楽が違う」
「音楽ですか?」
「例えば、試練受けているサボテンキツネの前に女の子がパンを置いて村へ帰る所だけど、もっと客観的に見せなきゃね。音楽をサボテンキツネの心情に乗せすぎかな、感動させたいみたいな雰囲気出すぎだよ。状況に乗せるくらいに抑えてほし~かな~」
「なるほど……修正します」
(さすが原作者だ……というか絵本を描いている人は監督であり役者でありカメラマンでもあり、作品全体が見えている人なのだろう、指摘があまりにも的確だ)
俺はサキモーリィー先生の言葉を一言一句聞き逃さないようにメモした。
全体を感動のバランスを取ろうとしているという事だろうか、凄く勉強になる。
「それで一番の問題は、最強の敵になる熊の声ね。迫力がないし一本調子で恐怖を感じない」
「申し訳ないです、それは俺の演技力のなさが問題です」
どうも虎之助さんの演技はお気に召さないようだ。
虎之助さんは頭を下げるしかないといった感じだ。
(やはり声優は難しい。よく実写の役者さんがゲスト声優のような形で作品に参加する時もあるが、大抵評判が悪い、それだけ声優というのは『声を演じる』という特殊な訓練が必要なのだろう)
「今、魔王軍が攻めてくる可能性もあり大人の役者さんを捕まえる事が難しい状態でして……もう一度俺がやってみます。あとは音声にエフェクトかけて声質変えるとかで、雰囲気を出してみます」
申し訳なさそうに虎之助さんが話すと、
「なら、私が熊やるわ」
「え?」
サキモーリィー先生が突然凄い事を言い出した。
「でもサキモーリィー先生は、その女性ですし凶暴な熊を演じるのは難しいのでは?」
流石に俺も心配で声をかける。
「アタシね、結構低い声出るのよ、こう見えても。まぁとりあえず一度、アフレコっていう物をやらせなさいよ」
「私も先生だったら大丈夫だと思いますよ、怒った時の声なんてドスが効いていてそこら辺の魔物より迫力凄いんですよ」
編集者のローラさんがニコニコしながら凄い事を言う。
「わかりました、サキモーリィー先生がそうおっしゃるなら……すぐにアフレコの用意します」
俺と虎之助さんは半信半疑のままアフレコの準備をした。
× × × ×
「貴様まらぁぁぅぅうぁー!!!!食い殺してやるぉぉぅぁぁぁぁー!!!」
(おやおやおや……迫力が桁違いじゃないですか)
サキモーリィー先生のアフレコを見た時の俺の最初の感想だ。
マイクが壊れるんじゃないかと思われるほど声量に、重低音の声、鬼気迫る演技にもう言葉がでない。
(俺が戦ったガーゴイルより迫力がある)
その後もサキモーリィー先生はNGを出す事なく、全ての台詞の収録を終えた。
「わかったかしら?これが自分の食欲を満たす事だけを考えている情なんて一かけらもない熊の演技よ」
「素晴らしいです、何も言う事はないです……全てOKです」
虎之助さんも絶賛のようだ。
(凄い演技だった。しかしこれでまた問題が一つ発生してしまった)
「虎之助さん、サキモーリィー先生の演技に完全に俺の作ったアニメーションが負けています。これだと絵と声が合っていない状態になっていますので、すぐに修正させてください」
「あら、スネタ君流石ね。その事言おうと思っていたのに自分で気づくなんて」
そうか、やはりサキモーリィー先生は気付いていたのか。
虎之助さんも苦笑いを浮かべている。
「そうだな、スネタに任せるよ。やってくれ」
「はい!」
サキモーリィー先生の演技を収録した音声を元に俺はアニメーションの修正に入った。
(今頃ハルカたちも頑張って戦っているんだ。俺も頑張らないと、こんなレベルで満足してはいけない)
俺はハルカたちが向かった方角を見つめながら、そう思った。
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