36話 魔王軍、動き出す
「ねぇねぇ、スネタちゃん。イリーナ様とミジー様がスケジュール守ってあげてくるようになったんだけさ……前みたいにスケジュールを守らない方法ってないかな~」
「哲さん、プロデューサーの人が言う台詞じゃないですよ」
哲さんが、イリーナとミジーが描いてくれた背景の絵をスキャンしながら悲しそうに話している。
スケジュール通りに良い物が上がってきて事に対して、悲しむプロデューサーは世界広しといえども、この人だけだろう。
「背景、凄く良いですよ。絵本の世界観に合っていますし、デジタルにはない雰囲気出ていると思います」
「まぁ、そうだけどさ~。背景は残り、5カットで終わりじゃないですか~、もう罵倒される事もないかと思う憂鬱だよ~、憂鬱過ぎだよこんな状況」
がっくりと肩を落とす哲さん。
「次回作があれば、またその時にイリーナとミジーに美術お願いすればいいんじゃないですか?」
「確かに!確かにそうだね!」
急に元気を戻してくれた。
スキャンの手は止めないでほしいので助かった。
「あっ!という事は次回作を作る為にも、サボテンキツネを大大大大ヒットさせないと駄目じゃないですか~!スネタちゃん、何してんの!早くモーション制作に戻って!」
「スキャンがだるいから手伝ってと言ったのは哲さんじゃないですか」
「大丈夫、ここは僕に任せて。さぁ席に戻った戻った!」
俺は呆気にとられてしまったが、自席に戻ってモーション制作の続きを始めた。
× × × ×
「昨日上げてくれたc12~c15、OKだ」
虎之助さんがチェックバック結果を伝えにきてくれた。
「ありがとうございます。すぐ撮影チームでデータ渡します」
義雄さんと和彦へ渡すデータを俺はすぐに用意した。
「大分モーションは安定してきてる。このままの調子で頼むよ」
「はい!でもギリギリまでブラッシュアップしますので、ダメな所あったらいくらでも言ってください」
「あぁ、遠慮はしないから安心しろ」
「はい」
「撮影の上がりもチェックしてるけど、良い感じだ。かならず良い作品になる、このまま頑張ろう」
「完成楽しみですよね、俺も頑張ります」
スタジオ内が活気に満ち溢れてきているのを感じた。
やはり作品を作っている時は皆輝いている。
(このまま、いやこれ以上の状態を目指して頑張ろう!)
そう思っていた時だ。
「スネタ!!」
完全武装をしたハルカとイリーナとミジーが突然スタジオを訪れた。
ただ事ではない雰囲気だ……。
「どうしたの?そんな恰好して……」
「魔王軍が……魔王軍が王都に向かって進軍を開始したの」
ハルカのその言葉にスタジオにいた全員の手が止まった。
(そうだ、この世界は戦時下にあったんだ)
そんな当たり前の事を俺は忘れてしまっ
× × × ×
「今回の魔王軍の動きを見ると斥候ではなく、大規模な侵攻と見て間違いないわ」
俺たちは会議室に全員集まってハルカから状況を教えてもらっている。
「また籠城戦に?」
「ううん、今回は王都で迎え撃つのではなく、討って出る事になったんだ」
「危険じゃないの?」
「城壁の修復もまだ完璧ではないというのもあるけど、同じ戦い方をすればきっと負ける」
ハルカが心配そうな表情を浮かべる。
「前回の攻撃は恐らくこちらの戦力がどの程度か確認できたと思いますわ。同じ戦略では戦えぬ。次の戦いは厳しい物になりますわね」
「ミジーは孤独の戦士、刺し違える覚悟はできている。きゃつらを城には近づかせぬ」
数々の戦を潜り抜けてきたイリーナとミジーの表情が険しい、緊迫感が伝わってくる。
(これはたただ事じゃないな、何か理由があるのだろうか?)
「でも前回も勝った訳だし……今回は何が違うんだい?」
イリーナが続ける。
「敵軍の総大将はヴェルザス。魔王軍幹部の一人。知略に長けた名将と言われていますの。隣国のロロス王国もヴェルザスによって滅ぼされましたわ」
(幹部?しかも知略に長けた将軍ともなれば、確かに戦上手なのだろう。やはりこの世界の魔物はただ力任せに攻めてくるような単純な生き物ではないのか)
「幹部って、絶対ヤバイ奴じゃないですか~もう絶対終わりじゃないですか~」
「ふむ……これは逃げた方が良いのではないか」
「一応、荷物だけでもまとめておきませんか?」
哲さん、義雄さん、和彦たちが不安がピークに達しているようだ。
当然のリアクションだ、俺たちも戦闘に巻き込まれてしまう可能性がある状況だ。
(これはマズイ。皆の気持ちがアニメーション制作から離れてしまう)
「皆さん、俺たちにはサボテンキツネを完成させるという義務……いや使命があります!ここで逃げ出すなどクリエーターとして名折れです!俺たちにとっての戦場はこのスタジオです、最後までやりきりましょう!」
俺は立ち上がり皆に叫んだ。
「ハルカたちはきっと勝ってくれます、信じましょう」
「皆さん安心してください。魔王軍の幹部が攻めてこようとも私たちは決して負けません」
ハルカも勇気づけようと声を上げてくれた。
「誇りにかけて、王都をそして皆さんを守る。例えこの命に替えても」
「死んでは駄目だよ、ハルカ!必ず生きて帰ってくるんだ」
「え?……スネタ……」
「アニメーションの勉強まだ途中だ、まだまだ教えたい事が沢山あるんだ」
「あっ……うん。そうだね、何だかスネタらしいね。必ず生きて帰ってくるよ。そしたらまたアニメーション教えてね。なによりサボテンキツネ完成を楽しみにしているからね」
ハルカがいつもの優しい笑顔を見せてくれた。
「もし何かあったら、このハートルに全て伝えて。この子が内容を暗記してくれるから。そして飛ばしてくれたら必ず私の所に来てくれるから」
「うん、わかったよ」
ハートルというハト?のような鳥が入ったケージを俺に渡してくれた。
(伝承バトのようなものだろうか?)
「私たちは、背景を描く仕事を一度離れる事になりますわ。スネタ申し訳ありません」
「ミジーは、悔しい」
イリーナとミジーが申し訳なさそうに話す。
「大丈夫、描き終えていないカットの背景については、俺たちでどうするか考えるから。気にしないで」
× × × ×
ハルカたちはドラゴンに乗り、城から出陣しているウーリュウ国の軍隊に合流していった。
ハルカは最後まで笑顔で俺たちに手を振ってくれていた。
眼下に見える城からは『歩兵部隊』『ドラゴン騎兵隊』約5000騎、空を飛ぶ『飛行ドラゴン部隊』も約500騎はいるだろうか。
(どれだけの人が生きて帰って来れるのだろうか)
俺たちは、その様子をただ見ている事しかできない。
「皆、無事に帰ってきてくれるといいな……」
「ふむ……」
「そうっすね……」
アニメーション制作を続けると決めたが、やはり不安はそう簡単に拭えるものではない。
(皆の空気が重い……)
「ハルカたちは必ず無事に帰ってきます。帰ってきた時にサボテンキツネが見れなかったらがっかりされてしまいますよ!とにかく制作を続けましょう!俺たちにできるのはそれだけです」
俺はできる限り前向きに聞こえるように声を上げた。
「そうだな。スネタのいう通りだ、いつも通り作業を進めよう」
「ふむ、やりましょう!」
「うっす!やるぞ!」
気持ちを上げた俺たちはスジタオに戻った。
そして背景スタッフのいない状態でどう制作を進めるかなど、問題点を洗い出す事にした。
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