35話 声優決定
「良かった、親御さんたち理解のある方たちで」
俺と虎之助さんは サムワイズ、ナンシーの兄妹の母親とキャサリンの両親に、アニメーションの説明を行い、そして声優参加の許可をいただけないか話をした。
ハルカのフォローもあった事で、大きなトラブルもなく無事に許可をいただけたのだ。
問題となっていたギャラについては、
「映画の入場料を家族は無料にしてくれたら良いよ」
との事だった。現実的な落としどころで良かった。
(サボテンキツネの知名度と人気は凄いな、【サボテンキツネ】と聞けば喜んで制作に協力してくれる人が多い)
ただその分、こちらのプレッシャーも大きい。
期待以下の作品を作る事などできない。
気を引き締めて制作に当たらないといけないと改めて思った。
× × × ×
諸々説明の為にサムワイズ、ナンシー、キャサリンに一度スタジオに来てもらった。
「これがアニメーションか……すっげーな!」
「動いているキャラクターたちが私の声でしゃべっているようになるの?」
「ななななる?なるなるの?」
今できている映像を見せると3人共感動してくれた。
(動く絵を見た事ない人たちにとってアニメーションの驚きは凄いだろうな)
「これが台本だよ」
会議室に集まってもらい俺は早速3人に台本を渡した。
脚本をハルカに翻訳してもらい、台本を制作した。
当然、Wordなどのこちらの言語が打てる訳がないので、ハルカの手書きだ。
コピー機もインクがある限りは使えるので印刷は楽で助かった。
× × × ×
虎之助さんからの演出意図の説明が始まった。
3人とも初めての芝居だ、すぐにできる訳はないのでリハーサルを何回か行う事した。
(3人とも真面目だ、不器用ながらもしっかりやってくれている)
2時間ほどリハーサルを行った。
「今日はこの辺りにしよう。サムワイズ、ナンシー、キャサリン、慌てる事ない練習をしておいてくれ」
子供たちの疲れが見えた所で虎之助さんは打ち合わせを終える事にした。
何とか良い結果が出るといいな。
「大丈夫だ、何度も台本読んで読み込んで台詞を覚えていけば、きっと心の動きが掴めるよ」
俺からできるアドバイスを少しだけした。
「おいコラ、スネタ」
「なんだい?サムワイズ」
口が悪いな、サムワイズは。
「台詞を覚えるって難しいんだよボケ。なんか一瞬で台詞覚えられる道具、スネタ達の世界にないのか?」
「うーん、そんなSFアニメで出てくるような道具はないな……」
「あのね、台詞結構多いと思うし、私全部覚えるのは無理だよ」
「だよ、だよー」
キャサリンとナンシーも困惑した表情を浮かべている。
「なるほど、何とかした方が良いよね」
俺は少し考えて良い案が浮かんだ。
(ボイスレコーダーが確かあったなはずだ)
TVアニメの作画打ち合わせの時、
演出さんからの指示で聞き漏れがないように、俺はいつもボイスレコーダー持参して録音していた。
「これに台詞を録音しておいて、何度も聞き返せばきっと覚えられるよ」
俺は自席からボイスレコーダーを持ってきて、3人に見せ使い方を教えた。
「おいコラ、スネタ!お前凄いな!スネタは魔法使いなのか?」
「いや文明の利器って奴だよ」
興奮するサムワイズに、俺は苦笑いしながら答えた。
「俺とハルカで台本を読み上げて録音しておくよ。でも棒読みでやるから、そこは真似しないでね」
「棒読み?」
「うん、感情が入っていると演技がそっちに引っ張られてしまう。あくまで演技の参考でなく台詞を覚えるものとして扱えってほしいんだ」
「わかったぜ」
「私も!」
「もももっ!」
3人とも理解してくれたようで安心した。
時間も遅くなってきたので、子供たちには先に帰ってもらう事にした。
翌日、ハルカがアニメーションの練習をする為にスタジオ来たタイミングで、台本の録音を手伝ってもらった。
「自分の声ってこんな感じなんだ、面白いね」
ハルカがボイスレコーダーに興味津々のようだ。
「ハルカって綺麗な声しているよね」
「え?え?あの……本当に?スネタにそんな風に言ってもらえるなんて嬉しい」
「急ぎでやってしまおう、きっとサムワイズたちが待っているはずだ」
「あっ、うん!」
録音を終えると俺は急いでサムワイズたちにボイスレコーダーを届けた。
届けに行ったその時も3人は練習をしていてくれた。
「うっし!任せておけ。スネタをぜってー感動させてやんよ」
「期待しているよ!サムワイズ」
ボイスレコーダーを サムワイズに渡し終えると俺はすぐにアニメーション制作に戻った。
(子供たちがあんなに頑張っているんだ、俺も負けてられないな)
そう感じながら、俺はアニメーション作業を進めた。
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