34話 声優を探して
「そろそろ声優の事も考えないとな」
移動型宿舎『デーバル』でハルカから食料を受け取った帰り道、虎之助さんが俺に話だした。
「ハルカの話だと、一応演劇はあって劇団は存在しているそうです。ただ常に戦時下である状態という事もあり、数が多い訳でないようですが……オーディションの話持ち込んでみますか?」
一応、この世界にもエンターテインメントは存在しているようだ。
「一番の問題なんだが、ギャラが出せないという事だ」
「あぁ……なるほどそれは問題ですよね」
イリーナ、ミジーには金銭とは違う対価を支払う事で、何とかスタッフとして参加してもらった。
それは、二人がどんな人かわかっており、お金とは違う形の物を提供する事で成り立っている稀有な状態だ。
(声優を社内のスタッフでやってしまうという事もできるかもしれないが……クオリティーは下がるよな)
「後、できればサボテンキツネとかの作中に出てくる子供たちは、実際に子供の方が良いと思っている。ただノーギャラで演技のできる子供を見つけるのも大変だろうな」
頭をかきながら虎之助さんが言う。
「確かにそうですね……」
この問題を先送りにしてきたが、そろそろ本格的に動かないといけない状態にはなって来ているな。
(アニメーションが良かったとしても、声優さんがはまっていないと演出意図が伝わらない可能性だってありうる。何とかして良い声優さんを見つけないと)
俺も悩みながら角を曲がると、
「あっ、おじさん!」
(誰だろう?)
三人の子供が声をかけてきた。
俺が首を傾げていると、
「君たちは、サムワイズ、ナンシー、キャサリンじゃないか」
虎之助さんが笑顔で答える。
「えっ虎之助さん、この子たちと面識あるんですか?」
「最初に哲を探しに街に来た時に会った子たちだよ」
「街に来た日……あー、あのボコボコにされた日の事ですか?」
「そうだ。あの日は散々だったな」
虎之助さんが苦笑いを浮かべている。
「私たち助けてもらったんだよ!」
「だよだよ!」
「まぁ、別に助けがなくった俺の力でなんとかできたと思うけどな!」
「サムワイズ!ちゃんとお礼言いなさいよ」
「キャサリンは、うるせーな。保護者気取りか」
「何よ!あの日だって、近道だって言ってサムワイズが裏道なんか通ったから不良にからまれたんでしょ!」
「でしょ!でしょ!」
子供たち3人が喧嘩を始めてしまったので、虎之助さんが仲裁に入る。
「まぁ、3人共落ち着いて」
子供たちが、不良に絡まれていた所を助けてもらった話を俺にしてくれた。
(そうか、それであんなに虎之助さんたちはボコボコになっていたのか)
異世界とはいえ未成年の子供と喧嘩をしないなんて、やはり虎之助さんは恰好良いな。
こういう人になりたいものだ。俺はそう感じていた。
そんな事を考えていた所で、俺はふと気づいた事がある。
(サムワイズとキャサリンのやり取り、何だかサボテンキツネと女の子のやり取りに似ているな……これ二人だったらそのまま素で声優できるんじゃないか?)
俺は直感的にそう思った。
いくつか確認してみよう。
「ねぇ君たち、いくつかな?」
「僕は10歳、妹のナンシーは7歳」
「7さいさい!ナンシー7さいだよ」
「私も10歳、サムワイズとは幼馴染なんだ」
それぞれ年齢を教えてくれた。
ほぼ見た目通りといった所だ。サボテンキツネの年齢設定も10歳となっているのだ、これは何とかなるかもしれない。
「スネタ、急に年齢なんて聞いてどうした?」
俺は思い切って虎之助さんに相談する事にした。
「虎之助さん、どうでしょうか?サムワイズ、ナンシー、キャサリンに声優の出演依頼をしてみませんか?」
「声優をこの子たちにか?」
流石に虎之助さんも驚きの表情を見せる。
「うーん、あぁ、なるほど。サムワイズとキャサリンの関係がサボテンキツネとヒロインを重なる部分あるな。そこが狙いか」
「はい」
やはり虎之助さんも気が付いたようだ。
「まずは3人に話してみましょうよ」
「そうだな、本人たちが興味持ってくれるかが大事だからな」
俺たちは近くの公園のような場所で話をする事にした。
× × × ×
サムワイズ、ナンシー、キャサリンに、サボテンキツネの映画の事や声優について、簡単に説明をした。
「なにそれ面白そうじゃん!つまり俺がサボテンキツネって事かよ!すっげーじゃん!」
やはりサボテンキツネの絵本は皆知っているようだ。
「私たち助けてもらった恩もあるし、できる事あったら手伝うよ」
「だう!だう!手伝う!」
3人とも興味を持ってくれたようだ。
とはいえ、未成年者の出演を保護者の同意なしには決めれる訳にはいかない。
「ありがとう、3人の気持ちは嬉しいよ。俺たちは一度スタジオに戻って資料を持ってくるよ。3人の出演について親御さんに許可をいただけるように説明に伺うね」
「うん!俺たちもアニメーションや声優の事、親に話しておくよ」
「それだと話が早くて助かるよ。お願いするね」
俺と虎之助さんは3人に一旦別れを告げて急いでスタジオに戻った。
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