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33話 己との戦い

「うーん……ここの芝居が全然ダメだな」

俺は担当カットのアニメーション作業を進めているが、苦戦中だ。

変なツボにはまってしまうと、どうやっても上手くできない。修正地獄からなかなか抜け出せなくなるのが俺の悪い所ではある。


問題のシーンはこうだ。

幼馴染のキツネの女の子がクマに襲われようとしている。

だがサボテンキツネは、サボテンになってしまった自分の尻尾の呪いを解く為に、試練に望んでいた。

つまり女の子を助けるには、試練を放棄する……尻尾が一生サボテンのままという選択をする事になる。

激しい心の葛藤があるシーンだ。

サボテンキツネは、女の子の命を救う事を選んだ。

そしてクマを退治して女の子は無事だった。


その後のサボテンキツネと女の子の二人だけの会話のシーン、8カットだが……これが難しい。

サボテンキツネは尻尾がサボテンのままで生きていく事になるのだが、その辛さを見せずに「このサボテンの尻尾気に入ってたんだ」と言う。

「顔で笑って心で泣いて……この演技は本当に難しい」


こんな感じで俺は自主リテイクを繰り返し、テイク数は20を超えていた。


(このまま1人で悩んでいても解決しないな。一旦これを虎之助さんに見てもらおう)

俺は今のベストを尽くしたものを虎之助さんに提出した。


「スネタは2人の関係性について、考えているか?」

8カットを繋いだムービーを見ながら虎之助さんが言った。


「関係性?……助けたのはサボテンキツネで、助けられたのが女の子って事ですよね」

「それはストーリーだな、ドラマじゃない」

「え?」

「それぞれ『助けた人』『助かられた人』の演技をしているけど、そこにドラマがないかな?二人の演技が一つの芝居になるようにする為には、関係性から生まれるドラマを感じられるようにするんだ」

そう言った後、虎之助さんがいくつか実写のDVDを持ってきてくれた。


「巨匠である黒澤監督、溝口監督、岡本監督の作品から学べる事は多い、一度見てみるといい」

「ありがとうございます!早速見てみます」


×   ×   ×   ×

俺はそれから会議室でDVDを見る事にした。

(映画はできる限り大画面で見た方がいい)

俺なりの拘りではある。


「私も一緒に見ていいかな?」

今日もアニメーションの練習に来ていたハルカが声をかけてくれた。


「構わないよ。でも気になった所や、参考になりそうな所があれば見直したりするから映画自体はあまり楽しめないと思うけど大丈夫かな?」

「そういうスネタが仕事をしている所を見たいから、むしろ嬉しいよ」

「そっか、なら大丈夫だね」

と、俺は答え一緒に映画を見る事にした。


何本か観ていると、徐々にだがわかってきた気がする。

「俺に足りないのは役者としてのスキルなんだ……実写でいう役者は、アニメでいうとアニメーターである。この意識が本当に足りなかった」

(わかってはいた事だが、実戦でやってみると全然意識が足りていない事がよくわかった)


とはいえ、わかった所でそう簡単にできる事ではない。

俺は映画の中で似たシーンをピックアップして、参考にする事にした。

(まずは真似からだ、今はそれしかない)


「ハルカ、申し訳ないけどサボテンキツネのこのシーンを一緒に芝居してくれないかな?」

「面白そう!いいよ、やろう」


そしてハルカにも手伝ってもらい、サボテンキツネと女の子のシーンを演じてみた。

(ハルカ、上手いな)

女の子はサボテンキツネに好意を寄せている役だ。

その心の中までが感じ取れるような見事な芝居を見せてくれた。

(俺のような下手な芝居しかできない人にこれだけできるのは、相当レベルが高い)

ハルカがアニメーションが上手い理由はわかった気がした。


そして、2人でやった芝居をスマホで撮影し参考動画にした。


×   ×   ×   ×

「よし、これならいける気がする」

俺は自席で完成したシーンを見て手ごたえを感じた。

「ハルカ、ありがとう!」

「褒められる事なんてしてないよ、むしろ演技する凄く楽しかった」

「いや本当に参考になったよ。片思いをしている女の子の芝居、見事だったよ」

「うん……まぁ、その……芝居なのかどうかね……まぁ、あの……」

「早速、虎之助さんにチェックしてもらうよ」

「あっ、うん。そうだね!そうしてください!」


早速俺は、出来上がったシーンを虎之助さんにチェックしてもらった。

「うん……スネタ」

「はい」

「1週間で見違えたな、ドラマを感じられるシーンになってるよ」

「ありがとうございます!虎之助さんのアドバイスのお陰です」

「このまま最後までよろしく頼むよ」

「はい!」


(やった、この難しいシーンのお陰で少しだがアニメーターとして成長できた気がする)

とはいえ、最後まで油断は禁物だ。


俺は気を引き締めて、自席に戻り作業を続けた。




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