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31話 才能とは

スタジオで虎之助さんがイリーナとミジーに背景の打ち合わせを行った。

背景の打ち合わせは、コンテや資料を見せながら「こういう背景を描いてほしい」という内容を話す事だ。


イリーナとミジーは当然、フォトショップなどのデジタル作業はできない為、全て紙に描いてもらう事になる。

スキャンや、素材訳などは手の空いている人が行う事になった。


「イリーナさんとミジーさんに背景描いてもらう為に、レイアウト出し急ごう」

「はい!50カットなら3日で終わらせます」

「俺もやるから、明日までに終わらせるぞ」

「了解です」

俺と虎之助さんでレイアウト出し作業を進める。

レイアウトとは、背景を描いてもらう為のガイドのようなものだ。


「義雄さん、俺、撮影手伝うっす」

「ふむ、助かるよ」

和彦と義雄さんは撮影のベースコンポ作りを進めてくれている。


スケジュール管理の他、食事の用意や雑用は哲さんがやってくれる。

魚釣りに関して当番制にする事になった。


(アニメーション制作をしているとスタジオ内に活気が出てきていいな)

俺は思わず嬉しくなった。

異世界でもアニメーション制作ができるなんて、本当に幸せな事だ。

全てデジタルでできるという強みが最大限生かせている。


×   ×   ×   ×


「1週間ほど経つけど、どう?」

「パソコンって難しいね。これを扱えるスネタは本当に凄いと思うよ」

俺の言葉にハルカが笑いながら頭をかく。


ハルカは週2回、スタジオに来てアニメーションの勉強する事になったのだ。


俺の隣の席でパソコンを操作しているハルカ。

キーボードには、この世界で使われている文字がシールで貼られており、打ち込む事はできるようにした。


またCGソフトは3dsMaxを使用している。

アニメーターとして使う本当に最小限の機能だけを最初に教える事から始めた。



「本当に最小限の機能さえ覚えられたら大丈夫だよ。楽しいと思えるまでは時間はかかるよね。どんな事でも一緒だと思うけど」

「うん。私も銃で狙った的に当てられるようになるまで何年も訓練詰んだし、その感覚わかるよ」


普段から自分のスキルを上げる事が好きな人は上達が早い。

何より理解力が早く、同じミスを繰り返す事はこのタイプの人はまずないのだ。


ハルカもパソコンの操作さえ慣れてしまえば、きっと腕の良いアニメーターになるだろうな。


×   ×   ×   ×

「バウンスィングボールと呼ばれる練習法から始めてみよう」

ボールを跳ねたり転がらせたりして物理的にどういう動きをするか考えてアニメーションをつけるというものだ。


「実際にボールを跳ねさせたり、転がしてみたりやってみる事が一番大事だよ」

「やってみるよ」

「結構難しいけど、頑張ってね」

「うん、頑張る!」


2時間後。

俺はハルカの作ったボールのアニメーションを見せてもらった。

(上手い……)


「これ初めて作ったんだよね?凄いよ俺が初めて作った時なんてこんなにできなかった」

「本当に?やった!でもアニメーションって楽しいね、ずっとやっていたくなる」

少女のようにハルカが喜んでいる。


(こういう無邪気な所を見ると、ハルカはまだ18歳なんだって思い出す。いつもしっかりし過ぎていて年上に感じ時があるからな)


×   ×   ×   ×

続いて歩きの練習をしてみる事にする。


「歩きがモーションの基本なんだ。全て腰から動かす事をしっかり覚えてね」

俺は実際のデータでやり方を見せながら説明した。

「なるほど、うんうん、こうやるんだ……」

「歩きを極める事がアニメーターとして上手くなる近道だよ。そして実際に自分でやってみる!これが一番大事だね」

「なるほど、頭の中だけだと嘘臭くなるもんね」

「流石わかっているね、その通り。難しいと思うけど頑張ってみてね」

「うん、頑張る!」



2時間後。

「スネタできたよ!」

「どれどれ?うんうん……おー……」

俺はハルカの作った歩きのモーションを見て驚愕した。

(上手い……無茶苦茶上手い)


「凄く上手いね」

「本当に、やったー!」

また少女のように喜ぶハルカ。


俺は驚きを隠しきれなくなっていた。


走り、ジャンプ、荷物を持ち上げるなど、基礎練習になるモーションを教えてみた。

その結果。

全て上手いという感想しかでないくらい、素晴らしいモーションを作り出してしまった。


「アニメーションって楽しいね、スネタ!」

「いや本当に凄いハルカ」


×   ×   ×   ×


(なるほど、そうか。これが才能というヤツなのだ)


今日は俺が釣りを担当する日なので、川で釣りをしながら冷静にこんな事を考えていた。


(ハルカはアニメーションを始めて2週間ほどだが、俺が専門学校に入ってアニメーションを始めて1年後くらいのスキルを身に着けている。つまり再来週には俺は抜かれてしまうかもしれない)


パソコンやソフトの操作方法が詳しい事と、アニメーションの上手いと下手が関係ないと聞いた事はあったが、まさにこの事なのだろう。

技法と技能の違いって奴だ。


(あっ、糸が引いてる)


釣り竿を引くと魚が釣れた。

今日は良く釣れる。

(有難い、これでお腹を空かせる事なく皆、仕事ができるな)


「スネタ、どうだ釣れているか?」

声をかけてきたのは、空のペットボトルを持った虎之助さんだ。

水が少なくなってきたので川へ補充に向かう所のようだ。


「今日は大漁です」

「その割には浮かない顔しているじゃないか」

流石、虎之助さん。

いつもと違う事にすぐ気づいてくれる。

部下の事をよく見ている、俺もこういう上司になりたいな。


「ハルカの上達が凄く速くて驚いているんです。才能ある人ってこういう人をいうんだって思って。俺にはないものですね」

「悔しいか?」

「正直、悔しい気持ちはあると思います」

「じゃあ大丈夫だ」

「え?どういう事です?」

俺は思わず首を傾げた。


「お前みたいな下手くそ見た事ない、辞めてしまえ!って言われたらどうする?」

「見返してやります。絶対に辞めません、逃げません、腕を磨きまくります」

「うんそうだな」

「俺は頭にくるほど強くなるタイプです」

「スネタはそういう奴だよな。何よりアニメーションが好きなんだろう?」

虎之助さんが笑いながら話を続ける。


「人に教える事で、今まで見えなかったものが見えるようになるものだ。今の状態でもっと練習してみろ。もっと上達するぞ」

「なるほど……戻ったら、すぐ練習してみます!」


「あぁ、スネタはできない事を人のせいにも環境のせいにもしない……それにどんなに忙しくても時間を作って毎日努力をしている。そういう人間は必ずもっと上手くなる、信じろ」

「はい!」


虎之助さんはペットボトルに水を入れると先にスタジオに戻っていった。


(そうだ、才能とは努力を続ける人間の事だ)

釣りだって、最初は1匹しか釣れなかったが今は10匹は常に釣れるようになっている。

続ける事で成長しているのだ。


(よし、教える立場としてハルカの為にも、もっと上手くなるぞ!)


俺は釣りを終えると急いでスタジオに戻る事にした。


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