29話 サボテンキツネ 制作中
食料の調達の為、街のガルドフ傭兵団の移動型宿舎『デーバル』の台所に俺と虎之助さんがやってきていた。
「これで大体、1週間分くらいにはなるよ」
「ありがとうハルカ、本当に助かる」
「足りないものあったら言ってね」
「うん」
『デーバル』でハルカが用意してくれた食料を俺と、虎之助さんはバックに入れて運ぶ。
「野菜の天ぷらばっかりだと流石に皆飽きてしまうと思いますし、他の料理方法考えないとですね」
料理のバリエーションの少なさ、これは頭を悩ませる問題だ。
「料理に疎いからな俺は。ググッて調べられたらいいのになって思ってしまうよ」
「俺も天ぷら以外だとカレーくらいしかできないです。あっでもカレーのルーないとできないですね」
「そんなもんだよ」
俺も虎之助さんも苦笑いを浮かべる。
と、台所から玄関に向かう廊下を歩いていると絵が飾られている事に気付く。
(そういえば前に来た時にも飾ってあったな……待てよ)
「あの虎之助さん、この絵どう思います?」
俺は立ち止まり虎之助さんに意見を求めた。
「水彩画だな。適度に省略されているけど絵としての質は落としていないように感じられる」
虎之助さんがじっくりと絵を見ながら話す。
「雲とかアニメの背景っぽい雰囲気ありませんか?」
「確かにセルルックのCGアニメにも合いそうだな……あっ、そうか」
「はい、そうです」
虎之助さんも俺も同じ考えが浮かんだようだ。
そう、この絵を描いた人を美術スタッフとしてスカウトしようという考えだ。
× × × ×
「ハルカ、ちょっといいかな?廊下に飾ってある風景画って描いた人、誰か教えてもらえないかな?」
俺と虎之助さんは、ハルカの元に急いで戻って質問をしてみた。
「知ってるも何も……スネタも面識のあるあの2人だよ」
「え?俺が知ってる人?」
ハルカが見た窓の外を見ると、そこにはイリーナとミジーが剣術の稽古をしていた。
「え?まさかイリーナとミジーがこの絵を描いたの?」
「うん、趣味なんだって絵を描く事。建物の中に飾ってある絵は全部イリーナとミジーが描いたものだよ」
俺は部屋を見回す、あちこちに絵が傘られてある。
これ全部イリーナとミジーが描いたのか。驚きだ。
戦う事以外に興味があるものなんてないと思っていたので、
こんな芸術の才能あったなんて驚きだ。
「ねぇハルカ。2人に美術スタッフとして参加してもらうのは難しいかな?」
「うーんどうだろ、誰かに頼まれて絵を描いたりとかは今まで一度もないと思う。基本的には自分たちが描きたい時に、気軽に描いているって感じなので、難しいかも……」
ハルカが渋い表情を浮かべる。
「そっか……でも聞くだけでもやってみても良いかな。虎之助さんどうですか?」
「構わないぞ。ただ一旦スタジオに戻って、参考資料とか全て用意してからの方がいいな。その方が話もしやすい」
「そうですね、アニメの美術って言っても言葉で伝わるものじゃないですもんね」
俺たちは諸々準備をしてから、また戻ってくる事にした。
「私も説得手伝うよ、話すをする時に同席させて」
「ハルカ、ありがとう。助かるよ」
俺と虎之助さんは食料を持って急いでスタジオに戻った。
× × × ×
「なるほど、ミジー様にはぜひスタッフとして参加してほしいじゃないですか~、どんな手を使ってでも参加してもらいましょう!ねぇ、皆さん!」
イリーナとミジーが背景を描ける人とわかった事を全員に知らせたのだが、
その事を一番喜んでいるのは、哲さんだった。
意地でも美術スタッフとしてイリーナとミジーを誘いたいようだ。
「そこで美術スタッフとして参加してもらう為にどの説得すればよいか、皆からアイデアを募りたいと思っている」
「ふむ、これは大きなチャンス。何とかしたいね」
「一応、考えます」
虎之助さんの言葉に義雄さんと和彦も承諾した。
「なかなか性格キツイ人たちッスよね、確か」
「うん、そうだね。異世界ではもしかして普通の人なのかもしれないけど」
「いや~演技じゃなくてあれだけ、僕の心と体を刺激してくれる人あった事がないからさ~、運命の人じゃないかな~って。だから僕からお願いすればもしかしてあっさりOKもらえうんじゃないかと思います」
「ふむ、運命じゃない人だと思うから厳しいと思うよ」
「哲さん、秒殺で断られると思いますよ」
「あぁ……秒速で断られるようなゴン攻めにあったらそれはそれで……ハイになっちゃう!ハイになっちゃうじゃないですか~」
哲さんが、ハアハアしながらその場でもだえ出す。
俺は哲さんからは良いアイデアは出そうにないので放っておいた方が良いな。
「イリーナさんとミジーさんについて、一番知っているのはスネタだよな。どうしたら引き受けてくれそうか、何か考えあれば聞かせてくれ」
「2人で1人って感じの仲の良い姉妹ですね。趣味とか好きな食べ物とか個人的な趣味趣向はちょっとわからないです」
俺は正直な情報を虎之助さんに伝えた。
「そうか、そうだよな」
「まぁ金を積めばやってくれるかもしれないっすけど……無理っすよね、俺らだと」
「ふむ、20代の女性が好きそうな物は私世代にはわからないな」
和彦、義雄さんも腕を組んで考え出す。
「はいは~い、僕はミジー様派なんで、やっぱりあの長槍で叩かれたいとは思っちゃいますね」
「哲、そろそろ嫌いになりそうだから、黙っていようか」
虎之助さん、口は笑っているけど目が笑っていない。
これはお怒りになってきていると俺ですら感じとったが……ここで俺は一つ思いついた。
(長槍?……そうか長槍か)
「あのミジーって、自分でも『長槍使い』って言っていたくらい、長槍にアイデンティーを持っているようです。長槍に関係する事であれば喜ぶんじゃないでしょうか?」
「長槍か……夏にやった仕事で槍道、槍術について色々調べたよな」
虎之助さんが、ぼそっと呟く。
「それですよ、虎之助さん!俺、動画ってダウンロードしておいた記憶ありますよ。あの動画をミジーに見せてあげる対価として美術スタッフとして参加してもらえないか交渉してみませんか??槍の戦い方、槍術について勉強になるはずですし、効果は期待できます」
俺は立ち上がって思った事を伝えた。
「なるほど、確かに効果がありそうだ。マニアにはマニアックな内容の方が食いつくよな。それでいってみよう!スネタ、すぐに映像をまとめてくれ」
「了解です」
「哲は、資料の印刷頼む」
「もうイリーナ様とミジー様に会えるなら何だってやるに決まってるじゃないですか~!」
虎之助さんの指示を受け、俺と哲さんはすぐに会議室を出た。
(絶対いけるはずだ、俺だってある原画展でレジェンドのアニメーターが書いた原画を見た時、感動して震えた事あった。きっとイリーナも食いついてくれるはずだ)
俺はサーバーに残してある動画や資料を探し出し、タブレットにデータを移した。
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