17話 一方その頃/虎之助たちは
少し時間を遡る。街へ行く前の話だ。
虎之助こと、俺はスタジオで朝を迎えたのだが。
(哲が起きてこない?珍しいな)
制作進行の性なのかスケジュール通り行動するのが哲の良い所だと思っている。
いつもだと一番に起きるのだが。
俺は不思議に思い、哲が寝ていた寝袋を覗いてみた。
中身が……ぬいぐるみになっている!
「皆、哲がいないぞ!」
和彦と義雄さんも目を覚ます。
「これ夜中に抜け出したって事っすよね……つまり逃げた?脱走っすか!」
「ふむ……ただ逃げ場はないと思うが」
首を傾げる和彦に対して、義雄さんがぼそっと呟く。
「街に行ったのかもしれないな。目的は、おそらくメイドだろ」
「あー」
「ふむ」
俺の言葉に納得の表情を浮かべる和彦、義雄さん。
「でもいるんっすか?この世界にメイドって」
「わからん。でも居そうな気はする、ゲームっぽい世界だしな」
「メイドに会えるなら、夜中、真っ暗闇の森を一人でも歩いてでも街へ向かうなんて……ある意味哲さんは勇者っすよ」
ため息交じりで和彦が話す。
まったくだ……俺がうなずく。
「ふむ……変態勇者か」
と、呆れ顔の義雄さん。
「哲が街で何か問題を起こしても厄介だ。しかたがない変態勇者を捜索に行きますか」
「了解っす」
「ふむ……やむを得ないね」
俺たちは渋々街へ向かう事にした。
× × × ×
俺たち3人は、魔物などの襲撃もなく無事に街にたどり着いた。
そして中世ヨーロッパ風の街並みを見て俺たちは感動していた。
「本当にゲームの世界って感じだな」
「俺、背景モデラーじゃないっすけど、興奮しますね」
「ふむ……資料に写真撮っておこう」
「そうっすね!」
街の雰囲気に圧倒されていた和彦がスマホを取り出す撮影を始める。
「でも、これだけ広い街で哲を探すのはなかなか大変だな」
俺もスマホで撮影をしながらつぶやいた。
「そうっすね。メイドさん目当てであれば、行くのは飲食店っすよね」
「ふむ……確かに」
「よしその線で当たってみよう。飲食店が多くありそうな通りに行ってみよう。もう昼前だが、流石に別の場所に行っているかもしれない足取りは掴めるかもしれないな」
俺たちは、街を歩きながら飲食店が多くありそうな通りを探した。
しばらく歩いていると大通りとは違う、裏通りのような場所がある事に俺は気付いた。
いくつか飲食店のような看板が見える。
「裏通りとかの方が小さな店多そうだ、行ってみよう」
「うっす」
「ふむ」
俺たちは細い通りに入っていった。
しばらく歩いていると。
「金出せって言ってんだろ、くそガキが!」
3人の小学生くらい男の子と女の子たちが、4人の高校生くらいのヤンキーに絡まれいるではないか。
「これは見過ごせないな」
「この世界にもカツアゲって文化があるんすね」
「ふむ……絶対に許さない」
一番語彙が強めだったのが、義雄さんだった。
「あの子供たち義雄さんのお嬢さんと同じくらいですよね」
「離婚ってやっぱり色々大変なんすか?」
「それ今聞かなくていいぞ、和彦」
「あっ……すみません」
和彦もちょっと空気読めないタイプだな。
「まぁ、ここは俺と義雄さんで何とかするから和彦は下がっていろ」
俺はそう言いながら前に出ようとすると、和彦が俺の肩を掴んだ。
「いやです」
「え?」
「スネタだったら助けるでしょ?絶対。だから俺もやりますよ、もう逃げないっす」
この世界に来てから和彦のスネタへの見方が変わって気がする。
眼中になかった感じなのに、ライバル?いや尊敬っぽい感じに変わった気がする。
たくましくなったのは良い事だ。
「スネタは魔物の言葉がわかるスキルを付与されていたみたいっす。俺たちも何かあるかもしれないですよ。凄いパワーとか、ちょっと試すには良い機会っすよ」
「なるほど、スキルの付与ならCGの技術アップが良いいけどな」
「ふむ……1カット1分で撮影処理終えれるスキルなら歓迎だよ」
俺たちは笑いながら、ヤンキーたちに近づいた。
「何だ、テメーら?オイコラ、ぶっ殺すぞ?」
1人のヤンキーが俺たちに気付く。
何て汚い且つボキャブラリーのないイキり方だ。
この世界には映画がないのだろうか?
(イキり方、教えてやるか)
「おいふざけるなよ。俺がピザでも頼んでいるってのか?」
俺は80年代~90年代の映画で使われそうな台詞でイキってみた。
「ふむ……面白い奴だな、気に入った。殺すのは最後にしてやる」
義雄さんが、某映画の決め台詞を入れてきた。
流石わかっている。
俺よりも1枚も2枚も上手な台詞で決めてくる。
「俺はもう逃げない、そう決めた。スネタのように勇気のある男になる」
哲もなんとなくそれっぽい事を言った。
うん、成長したな。
やはりスネタの影響がしっかり出ているようだ。
「消えな、ぶっ殺されんうちに」
なかなか言い返しだ。嫌いでないぞ少年。
「ほう、威勢だけは一人前だな」
俺は、指をボキボキ鳴らしながらゆっくり近づいた。
「大人を怒らせるとどうなるか、体で覚えさせてやるよ」
× × × ×
数分後だ。
俺たちはボコボコにされて、地面にぶっ倒れている。
決して負けたのではない。
そう俺たちは一切暴力行為をしなかったのだ。
(仮にも俺たちは社会人だ。異世界とはいえ高校生くらいの子供殴る事などできない。義雄さんも同じ考えだろう。和彦は普通に殴りかかって、普通に殴り返されてやられたように見えたが……まぁきっと演技だろう)
「どうした、坊やたち。もう終わりかな?さぁかかって来きなさい。手以外なら好きなだけ殴れ」
俺はそう言いながらゆっくりと立ち上がった。
手を折られると仕事ができなくなるからな。
それだけはNGという訳だ。
「手以外ってどういう意味だ?」
「何だ、こいつら気持ち悪いぞ」
ただ殴られ続ける俺たちを異様に感じたのだろう。
「いいか、よく聞け。金ってのはな、自分で努力して磨いた技術を使って汗水垂らして稼ぐから価値があるだ。人から奪った金なんか何の価値もないぞ」
俺は軽く説教をしてやった。
「おい、なんかこいつ等ヤバイ奴らだぞ……行こうぜ」
「あぁ、そうだな。これ以上は関わらねー方がいいな」
異世界のヤンキーたちは逃げるようにその場から走り去っていった。
× × × ×
「ありがとうございました……本当にありがとうございました」
3人の子供が頭を下げながらお礼を言っている。
「当然の事をしただけだよ、気にしないで」
2人は兄妹らしい。
兄のサムワイズは10歳、ナンシーは9歳。
そしてもう1人はキャサリン、10歳。サムワイズたちとは幼馴染との事だ。
(こんな小さい子たちがカツアゲに合うなんて……大通りにいる時は煌びやかな世界だと思っていたが、やはり貧富の差はあるんだな)
俺は少し悲しくなった。
子供たちに喜んでもらえるアニメを作りたいな……そんな風に感じた。
(この状況を見たら、スネタも同じことを考えるんじゃないだろうか)
「サムワイズ君、これ俺たちのスタジオ……じゃなくて、俺たちの家?かな。ある場所の地図だ。何か困った事あったらいつでも訪ねて来なさい」
そう言ってサムワイズに手書きの地図を渡した。
今できる事はこれくらいだ、情けない話だが。
「ありがとう、おじさん!」
そう言って走り去っていった。
「サムワイズ君から聞いた話だと、メイド服を着た給仕さんがいる飲食店はこの先だな」
「そうっすね。急ぎましょう」
「ふむ」
俺たちはサムワイズから教えたもらった店に向かって歩き出した。
(何も問題を起こしていなければよいが……いや無理だな。何かしらはやらかしている間違いない)
「スネタが哲のやらかし最小限の被害で回収してくれている事を願おう」
俺は、何とか前向きな気持ちに切り替えて歩き出し、
そしてその途中で偶然にもスネタたちと無事に会う事ができたのであった。
「面白かった」「スネタを応援したい」と思われた方
下にある☆☆☆☆☆を押して、評価いただけたら嬉しいです。
またブックマークもいただけると、とても励みになります
よろしくお願いいたします。




