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16話 その男、ズバ抜けた変態につき

「哲さん……何をやらかしたんだ」

憲兵に連行されている哲さんを見てさすがに俺も驚きを隠せない。


(何かの間違いだろうか、他人の空似かも)

目を擦って、もう一度確認したがやはりどこからどう見ても、弊社、制作進行の哲さんだ。

しっかり両手首を縄で縛られヨタヨタと歩く姿は、何かやらかした犯罪者の姿そのものだ。


「あれ哲さんだよね、なんでこんな所にいるの?」

ハルカも気付いてしまったようで、驚きを隠せない。

「うん、あれは間違いなく哲さんだね……」


「あっ、スネタちゃん!」

しまった……哲さんが、俺に気付いたようで立ち止まり声をかけてきた。


「助けて!だすけてくれよ~、スネタちゃーん!無実ではないんだけど、助けて~!」

号泣しながらこっちを見ている。

(無実ではないとご本人も言っているし、これはろくでもない事をやらかした時の哲さんだ)

まだ1年も一緒に仕事をしていないが、こんな雰囲気の哲さんを何度か見た事があった。

とはいえ同じ会社で働いている仲間だ、何とかしなければ。

俺が今できる事といえば……目を背ける事くらいだ。


「スネタちゃん!ちょっと、ちょっと!先輩だよ、先輩にそんなリアクションしちゃダメダメ!社会人としてダメ!僕が言える立場じゃないけどさ!」


(しまった。確かにそうだ)

会社の先輩に対してなんて失礼な態度を取ってしまったのだ。

いくら哲さんとはいえ、社会人としてこれはマズい態度だ。


俺はまず反省し、そしてどうして哲さんがこうなったのか、冷静に考えてみよう。

「……まさか!」


俺は周りを再度確認したが、虎之助さんたちはいないようだ。

哲さんの単独行動と考えて間違いなさそうだ。


何もわからない異世界で、1人で街まで来たという事か。


まさか!制作進行として異世界の文化を知る事で、今後のアニメ制作に生かそうとしたのかもしれない。

命がけでやり遂げようとしたその覚悟、やはり尊敬できる先輩だ。


(よし結論が出た)


「哲さん。その覚悟、俺は感動しました。ここで死んでもその勇士、みんなに伝えおきます」

俺はサムズアップをした。


「何?何?どういう事かな?違うかな、多分スネタちゃんが出した結論と俺が求めている事は違うんじゃないかなぁー!」

「おい、貴様おとなしく歩け!」

憲兵に注意されて、哲さんがそのまま連行されていく。

「スネタちゃーん!助けて!無実じゃないんだけど!助けて!」

「黙らぬか!」と、憲兵に頭をゴンと哲さんは頭を殴られてしまった。


哲さんが遠ざかっていくのを見ながら俺は考えた。

(あのリアクション、俺が考えた結論は違うようだ。うーん、先輩を放ってはおけないか……)


「どうしたら助けられるかな?」

俺は渋々何とかする為に思わずハルカに訪ねた。

「そうだね……どうしたらいいかな」

困った様子のハルカを見かねてイリーナが口を開ける。

「別に助けなくていいのはないではないのかしら?無実じゃないって、ご自身でも言っているくらいですし。品性のないカス人間は牢屋にぶち込まれた方が良いかと思いますわ」

「ミジーも救いの手は必要はないと考える。あの顔は愚か者の顔だ」

イリーナとミジーは助ける事が反対のようだ。

まぁそうなるとは思う。


「哲さんは、正真正銘の何の役にも立たないズバ抜けた変態だよ。ただ制作進行としては一流だと思ってる。何より良き先輩であり、良き仲間なんだ。何とか助けたい……力を貸してほしい」

俺は頭を下げた。


「スネタは仲間思いだね」

ハルカが優しく微笑む。

「イリーナって、確か憲兵隊長とは昔からの知り合いだったよね」

「まぁ……そうですわね」

「スネタの大事な仲間なの。お願いしてもらえないかな?身元引受人には私がなるから」

「仲間ですか……断れませんわね。でも今回限りですわよ。次はないと思ってくださいまし」

ハルカの説得で渋々、イリーナが同意してくれた。


「かたじけない」

色々申し訳ない気持ちになり、俺は頭を下げた。


×   ×   ×   ×

「スネタちゃん、ハルカちゃん、イリーナちゃん、ミジーちゃん助けていただきあざーしたぁ!」


イリーナのお陰で無事に釈放された哲さんが土下座しながらお礼を言っている。

(しかし哲さんの土下座はいつ見ても本当に美しい……仕事で土下座するアニメーションがあったら参考動画を撮らせてもらおう)


いかん、いかん。

土下座に感動している場合ではない。

しっかり反省してもらわなければ。


「哲さん、メイドさんに声かけて罵倒してくださいって……」

「だって!獣族だよ!リアル猫耳のメイドさんだよ」

「元の世界でも同じ事やって出禁になったって聞いた事ありますよ」

「元の世界でNGでもこっちの世界だったらOKって事もあるじゃないさぁ~」

「どこの世界でも、断られたからって足にしがみついて離さないなんて営業妨害になります、絶対NGですって」

「だって!獣族だよ!リアル猫耳のメイドさんだよ!こんなチャンスないじゃん!」

「しばらくはこの世界で暮らす事になる訳ですから、自重してください」

「無理だよ、俺だよ?絶対無理だよ」

駄目だ。哲さんは、ズバ抜けた変態だ。

俺の考えの斜め上をいく、反省を促すのはなかなか難しいな。


「このイリーナに助けてもらった事を忘れるんじゃありませんわよ、色付けて恩を返しなさい」

「あっ、はい。承知しました」

イリーナがキレ気味に言っているが、いまいち哲さんには響いていないようだ。

メイドさんからの罵倒以外には効果がないらしいな。


「ミジーは、孤独を愛する鋼鉄の戦士。だが不愉快な歌声で太陽を汚すな。次同じ事をすれば、息の根を止める」

「あなたに息の根を止められるなら……こんな幸せな人生ない。メイド服を今度プレゼントさせてもらえませんか?絶対似合うと思います」

あっ……ミジーはストライクゾーンなのか。

確かに小柄だし、ゴスロリっぽいしミジーの方がタイプなのか。


「鬱陶しい、焼き捨てるぞ」

「くはぁ……こんなご褒美初めてだ……でも!でも!どうせ皆にそう言っているんでしょ!僕だけじゃないんでしょ!」


よくわからないツンデレモードになっているけど、イリーナとミジーが剣を抜こうとしている。

「まぁ、ほら皆仲良くね?ね?」

ハルカが何とかイリーナとミジーをなだめている。

「この男に理性など存在しないようですわ。斬り捨てた方が良さそうかしらね」

「ミジーな、1秒で消せる。即排除だ」


これはマズイ。

哲さん殺されるぞ。

これ以上は危険だと判断した俺は、


「哲さん、街での出来事は虎之助さんに報告しますね」

「ちょい、ちょい、ちょい待ちな、スネタちゃん……それは絶対ダメ、もみ消して!」

「もみ消せません」

「もみ消して、夏!って感じで、もみ消してよー」

「なら、これ以上問題起こさないって約束してください。今回だって初犯って事で許してもらえただけですからね」

「するする約束する。メイドに劣情を抱く制作進行、山県哲。神に誓って約束する!」


(まぁもう面倒になってきたし、とりあえず信じよう)


ハルカは困惑中といった所か。

イリーナとミジーはドン引きしている。


「はい。あの哲さんも深く反省しているので今回はこれで許してもらえたらと思います……俺からも十分注意しておくので」

と、3人に説明をしていた時だ。


「スネタ!哲!」

虎之助さんの声が聞こえた。

俺が振り返ると、虎之助さん、義雄さん、和彦がこちらに歩いてきていた。

「あれ、皆さんも街に……って?どうしたんです、その顔?」


3人が明らかにボコボコに殴られた顔になっているではないか。

「何でそんな事になったんです?」

俺は思わず虎之助さんに聞いた。


「何でもないよ、大丈夫だ」

「虎之助さんが、そう言うなら信じます」

「いやいや、僕ほどじゃないにしても何かありましたよね?」

虎之助さんと俺のやり取りに思わず哲さんがツッコミを入れる。


「まぁ、わかった事は俺たちには特殊スキルは付与されていないって事だ」

「ふむ……間違いない」

「俺はまだ何かあるって信じてるっすよ」

顔を抑えながら虎之助さん、義雄さん、和彦が話す。


「とりあえず、立ち話もなんですからどこかで食事をしながら話ましょうか?ハルカこの辺りでどこかお店あるかな?」

「よく行く定食屋さんがあるから、そこに行きましょう」


イリーナとミジーは剣の稽古を行う予定があるので、ここで別行動する事になった。

「イリーナ、ミジー助かったよ、ありがとう」

「しっかり頑張ってください」

「ミジー、応援はしている」


イリーナとミジーに別れを告げ、

ハルカの案内で俺たちは定食屋さんに向かった。



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