14話 一方その頃/スタジオでは
「今頃、スネタちゃん……どうしてるかな」
山の中のスタジオに残っている哲がぼそっと呟く。
「無事に着いているといいがな」
虎之助こと、俺はスタジオに残って仕事を続けながら答えた。
「無事に決まっているじゃないですか~、ハルカちゃんっていう強い戦士が一緒ですよ?そこは心配していないですよ」
「何が心配なんだ」
「一人で街でメイドさんたちとイチャコラしてるかもしれないじゃないですか~。いや絶対してますって」
「ん?何だって?」
「だからスネタちゃんが、異世界のメイドさんたちとイチャコラしてるんじゃないですか!そんな事許されます!許されない!やっぱり僕も行けば良かった!夜を満喫しているに決まってるー!」
「うるさいなー。しょーもない事ばっかり言ってるな」
思わず俺はツッコミを入れてしまった。
哲は、メイド喫茶をこよなく愛する制作進行というのは周知の事実なのだが、こういう感じになると面倒くさい奴だなと思ってしまう。
(仕事は結構できる奴だが、頭がぶっ飛んでいる。まぁこの業界変な奴が多い業種ではあるのだが……その中でもヤバイ奴だな哲は)
「哲さん、マジで静かにしてください。勉強に集中できないっす」
和彦がパソコンに向かいモデル作りの練習をしているのだ。
「いやいや和彦ちゃんどうしたのよ?仕事終わったらマンガ読むかゲーム三昧だったじゃんか」
「本当っすよ。今までの俺は本当にクズでしたよね。もう1分だって無駄にしないっすよ。とにかく練習っすよ」
「へ?」
「俺……仕事だけではスネタに負けたくないんすよ。もう俺がスネタに勝てるのそれくらいなんで」
和彦が昨日から、完全に負け犬みたいになっていて、ちょっとメンヘラ入っているように見える。
(ガーゴイルとの戦いで和彦は逃げたとは聞いたが、それがショックだったのだろう。ただ普通の人間は逃げるだろそんな状況なら。スネタが特別図太い神経を持っていただけだと思うのだが……)
とはいえ、自主的に練習をしてくれるのは上司として嬉しいものだ。
(和彦は元々、センスだけでやって来ているタイプだし、練習をしてもっと論理的にモデル作りができてれば、一流のモデラーになれるだろう)
そしてだ。
魚の焼ける良い匂いがしてくる。
義雄さんが釣ってきた魚をバーナーで炙って食べ始めたのだ。
もちろん皆の分も焼いてある。
義雄さんは納品が終わったら趣味の釣りに行く予定だったらしく、釣り道具一式を会社に置いておいたようだ。
結果的に食料調達の為に役に立つ道具があった事は、俺たちにとってもプラスになったので有難い。
(でもバーナーが何で会社にあったのだろうか)
俺が不思議そうに見ていると、義雄さんがこちらに気付く。
「ふむ……これ気になりますよね」
「まぁそうですね」
「前のが古くなっていて買い換えたんだ。通販で買って受け取りを会社の住所にしていてね」
「納期前は家にいる時間決まってないですもんね……俺も通販で買う時受け取りの住所、会社にしてしまう時ありますよ」
「この世界の魚もなかなか上手いよ」
義雄さんは軽くうなずき、パソコンに向かい撮影の仕事を続ける。
「ていうか~、皆さんなんでまだ仕事してるですか?もう納品データにまでまとめた訳じゃないですかー。もう休みましょうよー」
哲が不思議そうに俺たち見る。
「時間あるなら、直したい所あるんだよ」
「ふむ」
俺と義雄さんがブラッシュアップを続ける。
和彦も自主練を続けている。
制作進行の哲は手持ち無沙汰の為、ダラダラと過ごすしかない。
哲のスマホから3分経過したことを知らせるアラームが鳴る。
お湯を入れていたカップラーメンができたようだ。
「いただきます!きっとスネタちゃんは美味いもの食ってるんじゃないですか~!羨ましい!」
哲が愚痴をこぼしながらズルズルとカップラーメンを食べ始める。
(俺も飯にするか)
俺は立ち上がりカップラーメンを取り給湯室に向かった。
(スネタ、上手くやっていてくれたら良いのだが……)
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